投稿作品集 > ウイニングメッセージ p.02
このストーリーは、bbs にて、KRE 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は KRE 氏にあります。
生尻。
勢い良くまくり上げられたスカートの下から現れたのは、何ひとつ覆い隠すもののない剥き身のヒップ。若い女性特有の肉がむっちりと張り出した、それでいてスポーツで十分に鍛えられているため整った形の双臀。
真ん中に通った割れ目から下端でカーブを描く尻たぶまで、薄布ひとつ纏っていないつるつるのお尻が、観客たちの前にずらりと晒された。
その数26個。生々しくも圧巻の一言である。聖央のチアリーダーたちはアンダースコート一枚を直穿きしただけで、その下には何も着けていなかったのだ。
「マジ、すっげー!?」
「う、嘘だろ……」
「ツーケー丸出しじゃないかよ!」
男性客の興奮した声と、食い入るような視線。
「ありえない……どういうこと?」
「なによあれ。お尻丸出しじゃない!?」
「ちょっとあなた、なに見てんのよ!」
女性客の蔑むような声と、呆れたような視線。
「なんだ、あれ」
「お尻に、字が……書いてある?」
観客みんなの視線を浴び続けるチアリーダーたちの裸のお尻には、黒色のマジックで肌に直接文字が書かれていた。
右側の尻丘には大きな文字がひとつだけ。『学』や『で』など、ひとりひとり違う文字がデカデカと書き込まれている。
一列に並んだチアリーダーの尻文字を左から順番に読むと、
総南大学野球部の皆様 対抗戦優勝おめでとうございます
という意味のある文章として成り立つようになっていた。マジックの文字は最初からひとりひとりの並ぶ位置を計算して書かれているのだ。
一人だけ列から外れている璃音のお尻には『祝』と書かれている。彼女だけは赤色のマジックペンが使用されていた。
さらに、左の尻肉にも三行に渡って小さめの文字が書き込まれている。
キャプテンである璃音の場合には、
総南大学
WIN
高橋璃音
となっていた。
上の二行は全メンバー共通で同じ表記だが、最後の行はメンバー個別にフルネームが記載されている。
それぞれに異なった個性のあるお尻の陳列だったが、全く見ず知らずの人にさえ、その持ち主のチアリーダーの名前がわかってしまうという、ある意味残酷な趣向であった。
これがハプニングなどではなく予定されていたイベントであることを告げるため、総南チア部長の英理奈がアナウンスする。
「まあ。お堅いイメージのある聖央さんにしては、とてもセクシーで大胆なメッセージですね。どうもありがとうございまーす!」
総南のチアたちからは拍手が沸き起こる。褒めているのではない。聖央チアをより辱めるためのアナウンスだ。
「チアガールと言ってもさすがは体育会だな。身体張ってるじゃん」
「聖央ってお嬢様大学でしょ。もっと品のあるところだと思ってたんだけど、ショック……!」
あまりに破廉恥過ぎる行動をギャグと受け取った男の客と、不快感を露骨に示す女の客の言葉が、ざわめきの中から不意にチアリーダーたちの耳に届いた。
後ろを見なくてもどういう状況になっているか痛いほどわかっている聖央チアの何人かが、微かに反応を見せる。
左手にぎゅっと力が入り捲り上げられたミニスカートに皺を作る者、人目を意識して反射的に手の位置を下げてしまってからおずおずとまた元の位置に戻す者。キャプテンの璃音ですら、肩を震わせて唇を噛んでいる。
その様子を横から楽しそうに眺めていた英理奈が、さらに追い打ちをかけた。
「高橋さん、手の位置が下がっているわよ」
言いがかりだった。璃音は手をまったく動かしていない。もっとスコートを高く捲り上げろと、暗に脅迫しているのだ。
(くッ……調子に乗るな……!)
内心穏やかではない璃音だったが、今は英理奈の言葉には逆らえない。見えない糸で操られるようにして左手をさらに上に移動させる。
完全に捲れているミニスカートをさらに引っ張り上げれば、かろうじて股間を隠している前側の布も引っ張られてずり上がっていく。
璃音はひとりだけ壁から離れて立っているため、もし前が捲れてしまえば、女性にとって決して見せてはいけない部分が顔を覗かせてしまうかもしれない。
腰の方まで何もない素肌が露出してしまっている璃音を見れば、聖央チアリーダーの下半身は本当に裸のままでTバックのショーツすら穿いていないことは明らかだった。
興奮した数人の客が横から回り込んで、より危ないアングルから見物しようと動く。
そのことに気がついた璃音は、前側も腿の付け根ギリギリまでずり上がってしまっているスコートの裾を気にして、ほんの少しだけ前屈みになって女性自身を見せてしまう事故だけは起こさないように必死にガードした。
だが、その仕草はかえってお尻をいっそう突き出すことになってしまう。
前を下げるには後ろを上げるしかないのだから仕方がない。立派なヒップがさらにツンと上向きになり、『祝』の赤文字がせり出すようにして余計に強調された。
チアリーダーの卑猥なアピールに、劣情をかき立てられた観客たちが再び騒ぎ出す。
「やだっ、エッチ!」
「うわ。ヤバいって」
「えぇっ、キワドイ!」
「これ、しゃがんだら見えるんじゃないか?」
そこまでされたら余計に見たくなるのが男の心理だ。腰を低く落としてしゃがみ込む男の姿を視界の端に認めて、璃音は震え上がった。
「あー、だめですよ。下からはやめてください!」
さすがに総南のチアからも注意が飛ぶ。
「聖央大学さんはご厚意で大胆なエールをしてくれているので、どうか気持ちよく演技できるように見てくださーい」
「あまり近づき過ぎないで。はいはい、このラインから後ろでご覧ください」
一定の配慮はしてもらえるのだと安堵したのも束の間、続くセリフはとんでもないものだった。
「その代わりせっかくですから、カメラやビデオをお持ちの方は、記念撮影などはご自由にどうぞ」
どっと歓声が上がった。璃音が抗議をする間もなく、シャッター音とフラッシュが並んだチアたちへ続けざまに浴びせられる。
「きゃあ!」
「やめてよ、やめて!!」
「こら、撮るなぁ」
たまらず悲鳴を上げる聖央のチアリーダーたち。咄嗟にスコートを捲り上げていた左手を下ろしてお尻をガードする。
「キャプテン! こんなこと、やめさせてください!」
チームメイトの一人が思わず璃音に助けを求めた。
「久我。いくらなんでも、これはひどいだろう。撮影は……」
璃音も同じ気持ちだ。ところが、英理奈は全く意に介さない。
「自分たちでお尻見せといてお預けはないでしょ。いいじゃない、見られたって減るもんじゃないし」
「待ってくれ。そういう問題じゃないだろう」
食い下がる璃音。
「そうね。問題はそんなことじゃないわ」
しかし、詰め寄ってきた英理奈にスコートの前裾を摘ままれて言葉を失う。
「あ…………」
「許可もなしにウイニングメッセージを崩している、あなたたちの方が問題よ。規律正しい動作もできない聖央チームなんて、弱くても当たり前よね?」
綺麗な英理奈の顔が、璃音の耳元にすっと近づいた。
「祝勝エールくらい、言われた通りきちんとできないのかしら。でないと……あなたのこれ、捲っちゃうわよ?」
名前の通り璃音々しく男装の麗人のような聖央キャプテンの表情が、見る間に凍り付いていく。
「やめてくれ。しかし、これではあまりにも……」
渋る璃音に英理奈がだめ押しの囁きを告げる。
「ま、私はどっちでもいいけどね。でも、あなた一人だけ壁から離れていて前も見えるから、気をつけた方がいいと思うわよ」
英理奈がさり気なく指で示した先に目を向けた璃音は、わざわざ通路の壁際に張り付いて熱心にカメラやビデオを構える冴えない男性の一団がいることを知った。
「ほら、前からも撮られてるわよ。うふふ」
高そうな大きなレンズは璃音にしっかりとターゲットされている。小さなビデオカメラを持った手はだらりと不自然に下げられていて、膝近くの低いポジションに置かれていた。
普通の長さのスカート内を盗撮するのなら地面ギリギリまでカメラを下ろさないと無理だが、いま璃音が着けている超ミニの丈であれば、膝よりも少し上にあるレンズからでも中身を狙うことは容易に思えた。
まだ距離があるから角度は浅い。見えていないとは思うが、近づいて手を伸ばされたりしたらと思うと不安になる。自慢の華やかなチアリーダーの衣装が、これほど心許なく感じたことはない。
「なんなら、あの人たちの前に連れて行ってあげるから、モデルにでもなってみる?」
見透かされていた。英理奈も同じチアリーダーだから、璃音が考えていることはよくわかるのだ。
大勢の人に見られる経験も多いから、邪な客にいやらしいアングルで狙われることも一度や二度ではないし、対処法も心得ている。
スカートがどの程度翻ったら見えてしまうのか、階段などでどのような位置から覗き込まれたら見えてしまうのかといったことも、感覚的に知っているのだ。
「わ……わかった…………」
璃音は理不尽すぎる要求を受け入れるよりほかになかった。
「あら、そう。じゃあ、ちゃんとやってね。ほら、また手が下がっているわよ」
スカートを持った璃音の左手を掴んでさらに上に動かし、本当に際どい位置まで捲り上げてから、英理奈は離れていった。
「聖央フェアリーズ、整列ッ!」
淫らな視線を強い気持ちで振り払うように、璃音は大きな声を張り上げる。
「総南大学の勝利を祝してーーッ!」
やりたくなどなかったが、お尻をぷりっと突き出した。英理奈に注意されて持ち上がってしまったスカートから中身をガードするには、腰を引くしかなかったのだ。
しかし、逆にあまり引きすぎても後ろから見えてしまう。英理奈が指示した高さはまさに限界点だった。チアリーダー同士だからこそ、ごまかしは通用しない。
(ううっ、撮らないでくれ……!)
背後から多くのレンズに襲われることを自覚しながら、大声を張り上げる。
「ウィン! フォー! 総南!!」
「「「ウィン! フォー! 総南!!」」」
他のチアも唱和する。
カシャ。
カシャ、カシャ。
無数のシャッター音が鳴り響き、可憐な女子学生の生尻が、フラッシュよってよりいっそう白々しく浮かび上がる。令嬢たちのヒップが、どこの馬の骨ともしれない多数の下衆な群集のフィルムに無慈悲に記録されていく。
中でもキャプテンの璃音には砲火が集中し、お尻だけでなく顔までもが露骨に撮られ続けてしまっていた。
*
敗者特訓交流会。
総南大学と聖央大学の両チアリーディング部の間には、いつの頃からかそんな名前で呼ばれる伝統が受け継がれていた。
チアリーディングの頂点を決める夏の全国大会では常にライバル同士の両強豪校。もう15年以上もの間、両校がベスト4以上に名前を連ねなかった大会は一度もない。
かつてはほぼ交互に優勝を競っていた総南と聖央は交流を深め、全国大会の後に、互いに演技を披露したり技術を磨いたりする合同練習を行なうようになっていった。
OGたちが交流を始めた頃は純粋で健全な取り組みだったのだろうが、何年か経つと聖央の勝率が高くなり、やがてほぼ一方的に勝つようになってしまった。
常勝チームとなった聖央チアたちは、いつしかこの特訓が、勝てない総南チームを鍛え上げることを目的としたトレーニングだと認識されるようになり、名前も『敗者特訓』という呼び名に変わってしまう。
ところが、今年の大会では六年ぶりに総南が聖央を下して優勝し、聖央は2位に甘んじる結果となった。
聖央がミスをしたわけではない。地道に底上げをしてきた総南が、ついに実力で頂点に立ったのだ。
聖央に勝利した経験者が皆無の総南チームにとっても、同じく無敗を誇ってきた聖央にとっても、総南が聖央に対して行う初めての『敗者特訓』。
入学してから三年間、毎年のように苦汁を飲まされてきた総南キャプテンの久我英理奈にとっては、自分たちが聖央チームに『敗者特訓』を科すことは当然の雪辱だった。
そして、総南チアが指定した『敗者特訓』の内容が、この大学対抗野球決勝戦の友情応援であった。
*
いつしか中央通路は観客が殺到して、ものすごい人だかりが出来ていた。
「はいはい、並んで」
「あ、近づかないで。ラインより下がってください」
「あー、ローアングルはやめてくださいよ」
総南チアの元気な声が響く。その前で聖央大学のお嬢様たちの破廉恥な姿が、次々と撮影、記録、鑑賞されている。
若くて成熟した臀部はどれもが白桃のように肌が輝いて、はち切れんばかりのボリュームだ。それを下から支える太腿は、チアリーダーならではの肉厚で実に見応えがあった。
どの娘も大切な部分は絶対に見えないように、ぴっちりと内腿をにじり合わせている。中には足をハの字形にクロスさせている者もいる。
露骨な視姦を必死に耐えるライバル校のチアが容赦なくカメラに収められ行く様子を、総南チアたちは満足そうに眺めていた。
「おい、あの押野奈緖って子のケツ。たまんなぇな」
「えー、そうかあ。デカくて垂れてるのに。俺は……島田奈津子がいいな。小尻できゅっとしてスタイル良いし」
「来栖川凛々子ちゃんが、超美人じゃん」
聖央のチアリーダーを最も辱めているのは、自らのお尻にフルネームが書き込まれてしまっていることであった。
遠目には読みにくい小さな文字ではあったが、こうして無抵抗で立たされて読まれると容易に確認出来てしまう。撮影されてしまえば、記録としても残ってしまうのだ。
「お前、どの娘がタイプ?」
「んー、俺は、黒津なみきかな。安産型っていうか、いかにも日本人って感じだし」
「俺はこっちの子。試合中ずっと横で応援していた時から気になってて、パンチラ見られただけでもラッキーと思ってたけど、生ケツ丸出しとはね。えっと、石部……杏奈、っていう名前なのか。覚えとこ」
顔や体が写っていない写真でも、そこにはっきりと誰のお尻なのかが書いてあるのだから誤魔化すことなどできない。
「あのお嬢様大学、聖央チア全員の生尻をゲットできるなんて、もう最高ー!」
そんなことを言いながら、端からひとりずつ順番に全員のヒップにシャッターを切っていく者までいた。
「聖央の可愛いチアが自分でスカート捲ってお尻見せるってすごいよな」
「公然わいせつだろ、これ。聖央チアは痴女なの?」
「いや、罰ゲームなんだってよ。チアの大会で負けたらしいよ。どんだけ羞恥プレイなんだよ」
美女揃いのチアリーダーたちが奴隷の品評会のように辱められていく。チームメイトの並んだお尻に次々とレンズが向けられていくのを、璃音は自分自身も撮影されながら、ただ黙ってひたすら耐え続けるしかなかった。
聖央チアたちが解放されたのは、自らスコートを捲り上げてお尻を見せる「ウイニング・メッセージ」を五回も繰り返しやらされ、のべ30分近くもたっぷりと見世物にされた後だった。
どれだけの数の観客に丸出しのお尻を見られ、カメラに撮られてしまったのか、見当も付かない。
(私たちは、負けたんだな……)
璃音にとっても初めての敗北。大会で優勝できなかったということの実感を、猛烈な恥ずかしさとともに、改めて噛みしめるのだった。
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