投稿作品集 > 高宮君と芹川さん p.02

このストーリーは、bbs にて、のりぞう 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は のりぞう 氏にあります。



― 1 ―

三学期早々に行われる今年度のマラソン大会の実行委員に選ばれた。なぜ、ボクがマラソン大会の実行委員に選ばれたかと言うと、クラスの女子に無理やり押しつけられたからだ。

実行委員の子はクラスの代表として、マラソン大会の開会式の時にバケツに入った冷水をかぶる事になっているから、誰もやりたがらないのだ。

しかも、水をかぶらないといけないから、実行委員の子は冷水を浴びてビショビショになった水着を着たままで走る事になる。

ボクの住んでいる町は山が近くて、冬になると山から雪雲が流れてきて小雪がチラつくのだ。

小雪混じりの空の下で、水泳パンツ一枚の濡れた格好で走るのはとても辛いことだけど、先生が言うには「社会に出れば、社会の為に誰かが犠牲にならないといけない事もある。実行委員会に選ばれた子は、身を以てそれを経験するんだ。辛い思いをする事によって子供は成長していくんだ」と水をかぶる事の意義について熱く語っていた。

先生がどれだけ水をかぶる事の意味を説明しようと、進んで手を挙げる子は稀で、進んで名乗りを上げる子のいないクラスでは、実行委員の子を選ぶ前に誰を犠牲にするのか生徒同士で目星を付けて無理やり押し付ける事になる。

大抵、クラスの中で大人しい子とか、押しの弱い子、それに頼まれたら嫌と言えない性格の子が選らばれる事になる。ボクは同じ男子からの頼まれごとなら何とか断る事も出来るが、女子からの頼まれごとは断り辛い。

なぜ、女子からの頼まれごとが断りきれないかと言えば、決して、女子に対していい顔をしたいからではない。

男子の場合だと、断り続ければ「しょうがないな」と言って相手の子が諦めてくれる事が多いけど、女子の場合だと集団になって寄って集ってこちらが「うん」と言うまでしつこく迫ってくるし、時には「もう決まった事だから、拒否しないでよ」なんて、ボクが引き受ける事を前提に話を持ちかけてくることもある。

今回、マラソン大会の実行委員を決める時、女子の中で一人だけボクの味方になってくれた子が居た。

芹川彩音さんだ。芹川さんは寄って集ってボクに詰め寄ってくる女子の集団を相手に、「少しはケースケの事を考えたらどうなの」とちっちゃな身体でボクの事を庇ってくれた。

芹川さんはいつもボクの傍に来てはボクにアレコレと話し掛けてくる女の子だ。ボクが話を聞く気が無くてもお構いなしで、一人でベチャクチャと喋っている。

ボクと彼女との出会いは二年前の小学6年生の春に、ボクがこの町に越してすぐの時だった。

最初は芹川さんに付きまとわれて鬱陶しかったけど、それに馴れてくると、今度は彼女の話し声が聞けないとなんだか物足りない感じがしてくるから不思議なものだ。

少し、騒々しい彼女だけど、ボクが困っているとアレコレと手伝ってくれるので、大変助かっている。

そんな芹川さんは、女子グループに詰め寄られて困っているボクの様子を見て一生懸命庇ってくれていたが、女子グループのリーダー格の伴野さんから耳打ちされると、一転、今度は芹川さんの方から「私も実行委員をやるから、ケースケも一緒にやろ」と女子グループの味方になってしまった。

芹川さんが女子グループの手に落ちてしまったので、2年B組のクラス代表として、ボクと芹川さんが実行委員をやる事になった。

あとで、ボクは芹川さんに「あの時、伴野さんから何を耳打ちされたの?」と訊いてみたが、彼女は「エヘヘヘ」と照れ笑をするだけで「何でもないの」と決して、ボクに話してくれる事は無かった。

一体、あの時、伴野さんに何を囁かれたのだろう?


― 2 ―

マラソン大会が始まり、クラスの男子達がジャージを脱いで半袖短パン姿になって行く中、ボクひとりだけが水泳パンツ姿になった。

ボクの通っている学校の男子用の水着は、ブリーフタイプの水泳パンツ。このタイプの水着は水着の上にアソコの形がくっきりと浮かぶから、水着を穿いていて恥ずかしい。

男子達はそんなボクの水泳パンツを見て「恵輔は女子のブルマを見て勃起してるのか? それとも、芹川の水着姿を見て興奮しているのか?」とからかってきた。

「そんなんじゃないし」

ボクは顔を真っ赤にして否定したものの、ボクの事をからかった男子の一言で、スクール水着の上に体操シャツを着ている芹川さんの事が気になってしまったのだ。

ボクが何気に友達と話している芹川さんに視線を送ると、ボクの視線に気づいたのか、彼女はボクの顔をチラリと見て、目を細めてほほ笑んだ。

ボクは、芹川さんの笑みに一瞬、ドキッとした。芹川さんは二重瞼でパッチリとした目元の女の子。目元がパッチリとしているので、自然、瞳が大きく見える。

そんな彼女が目を細めてほほ笑むと、プックリとした頬っぺたに笑窪が出来て、とっても可愛らしいのだ。

クラスの男子達は、芹川さんの笑みに見惚れてしまったボクを見て「やっぱり、芹川の水着姿に興奮しているんじゃね~か」とボクの事をからかったのだ。


― 3 ―

朝礼台の先生の号令で、足元に置かれたバケツを持って、頭から冷水を浴びた。

冷水が頭に掛かった瞬間、心臓が止まるかと思った。バケツの中が空になると、冷たさが肌の上から身体の芯に向かって押し寄せた。

身体の芯から冷えたボクの身体には容赦なく小雪が当たってくる。小雪の降る寒空の下で、上半身裸で水泳パンツ一枚では生きた心地がしない。

ボクがガタガタと震えていると、芹川さんがそっとボクのそばに寄ってきて、ボクの身体に引っ付いてきた。

「男の子なんだから、こんな事で震えない」

芹川さんはボクにそう言いたかったのだろうけど、ビショビショに濡れた水着を着た彼女も寒さで口元がかじかんでいて、ハッキリと発音出来ていなかった。

そういえば、一昨年の暮、芹川さんは地区のお祭りで、大晦日の夜に全裸になって、寒空の下で全身に鞭を浴びていたっけ。あの時、身体中に出来た傷痕は綺麗に治ったのかな?

ボクの身体に引っ付いて、寒さに震えている芹川さんを横目に見ながらボクはそんな事を思っていた。


― 4 ―

冷水を浴びた後、一応、タオルで身体を拭かせてもらえたが、体操着に着替える事もなく、ボクと芹川さんは濡れた水着の上に体操シャツを着て1年生の誘導係をやっていた。

1年生達が走り終わると、次はボク達2年生が走る番だ。まず、男子が先行してスタートを切った後、遅れて女子がスタートをする。

開会式にバケツの水を浴びると言う儀式があったが、スタート前にも気合入れの儀式がある。それは、担任の先生からお尻を叩かれると言うものだ。

ビンタで気合を入れる話は良く聞くが、ボク達の学校ではお尻を叩いて気合を入れている。

ボクと芹川さんは先生がお尻を叩きやすい様に、着ていた体操シャツを脱ぐと、再び水着一枚になった。水に濡れて寒風に洗われていた水着は少し凍り付いていた。

スタート直前、ボクと芹川さんはB組のクラスメイト達が見ている前で腰を屈めてお尻を突き出した。ボクと芹川さんがクラスメイトの方にお尻を向けると、細長い指導棒を持った先生が僕たちの後ろに立った。

「気合入れ、いいか!!」

先生の声に、「気合入れ、お願いします」ボクと芹川さんは声を揃えて大きな声で答えた。

パチ~ン

濡れた水着の上で叩かれる鞭はとても痛い。

ボクと芹川さんのお尻に鞭が襲うと、クラスの皆から拍手が起こった。クラスメイト達の拍手を浴びながら、ボクと芹川さんは痛みのあまりに足を踏み鳴らした。

「気合入れ、ありがとうございます」

でも、どれだけ痛くても先生に気合入れのお礼を述べないといけない。

「痛くない? 大丈夫?」

ボクはお尻を擦りながら同じように水着の上から小っちゃくて丸みの帯びたお尻を擦っている芹川さんに話しかけると、「一昨年の大晦日の事に比べれば、こんなの平気だよ」

寒さと痛みで真っ白な顔をした芹川さんは、目尻に涙を溜めながら答えた。「平気だよ」と強がりながら、目尻に涙を溜めて痛みに耐えている芹川さんは頼もしくて、それでいて可愛らしくみえた。


― 5 ―

脱いだ体操シャツを着る暇もなく、ボクは水泳パンツ一枚でスタートした。水泳パンツ一丁で走っていると流石に目立つこともあって、ボクが走り抜けると、沿道の声援が一段と大きくなる。

こうして、上半身裸で走るのは小学生以来である。ボクが小学校生活の最後の一年を過ごした学校では、毎年冬になると、男子も女子も上半身裸になって体育の授業を受けていた。

あの時は、まだ、芹川さんの胸は膨らんでもいなかったのを思い出す。

水泳パンツが濡れて、ボクの腰回りにピッチリと貼り付いて、アソコの形が余計に強調されている様に、芹川さんの身体も濡れた水着がピッチリと貼り付いて、身体のラインがくっきりと浮かんでいた。

先生からお尻を叩かれる前、水着の上に身体のラインを浮かばせている芹川さんを見て、男子達は「芹川って、背は小っちゃくて胸も小さいけど、最近、身体つきがエロくなってきたよな」と話していたのを耳にした。

小振りながらも控えめながら硬くて形の良いバストラインに、キュッとくびれたウェスト、プリッと丸みを帯びた可愛らしいヒップラインに、水着の裾からスラリと伸びたレッグライン。

2年生になってから、芹川さんは女の子から女性へ身体の変化を見せ始めていた。

芹川さんの水着姿を思い浮かべながら走っていると、冷え切っていた身体の芯が温かくなってきた。ボクは、悶々とし始めた心を振り払おうと、寒空の下を全力で駆け抜けた。


― 6 ―

「今日は、大変だったね」

マラソン大会の後片付けが終わり、芹川さんと一緒に歩く帰り道。

制服姿の芹川さんは、ボクの知っているいつもの芹川さん。

でも、制服の下にはあの時、水着の上から見た大人の身体が隠れていると思うと、ボクのアソコが疼いてきた。

「どうしたの? さっきから私の身体ばっかり見て?」

芹川さんの一言で、ボクはハッとした。

芹川さんに邪な気持ちを気付かれたのではないかと思ったからだ。

でも、芹川さんは不思議そうに首をかしげるだけで

「私の制服、どこか汚れているのかな?」

と、制服を引っ張って、ありもしない汚れを探し始めた。

汚れているのは制服じゃない、ボクの心だよ。

そんな軽口を叩けるわけでもなく、

「汚れだと思ったけど、ボクの見間違いだったみたい」

ボクは焦った心を隠す様に誤魔化した。

「ふ~ん、まぁいいや。そういう事にしておきますか」

彼女はボクの顔を見ると、あの屈託のない笑みを浮かべたが、薄暗い空の下で見る芹川さんのほほ笑みは、どことなくボクの心を見透かしているような悪戯混じりの微笑に見えたのだった。


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