投稿作品集 > 高宮君と芹川さん p.01

このストーリーは、bbs にて、のりぞう 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は のりぞう 氏にあります。



― 1 ―

今日、学校でマラソン大会がありました。今日は朝から小雪がチラつく生憎な天気でしたが、私達は寒さに負けず、小雪が舞う中を元気いっぱいに走りました。

マラソン大会が始まると、私達はジャージを脱いで半袖ブルマになって校庭に集合しました。校庭に集まる時、昇降口から外に出ると、小雪を乗せた北風が私達を襲いました。

「キャー、冷たい」

北風の冷たさに我慢できず、皆、叫び声を上げました。私も皆と一緒に叫んでしまいました。余りの冷たさに息が出来ないぐらいでした。

「こんな事で騒ぐな」

私達が大きな声で悲鳴を上げると、それを見ていた先生に注意されました。

先生は「こんな事で騒ぐな」と簡単に言いましたが、私達は半袖にブルマですが、先生はジャージの上下にベンチコートを着込んで暖かそうな格好をしています。

「先生だけズルい。私達にもジャージを着させてください」

先生だけが暖かそうな格好をしていたので、先生に文句を言うと先生は、「子供は風の子。こんな事で寒がってどうする。気合が足りん」と怒ってしまいました。

先生に怒られた私達はどうすることも出来ずに半袖ブルマのまま薄らと雪の積もる校庭に出ました。


― 2 ―

校庭に出ると、朝礼台を正面にしてクラス順に並びました。

列の先頭には各学級のマラソン大会実行委員の子が立っています。マラソン大会の実行委員は、各クラスから男女それぞれ選出されて、マラソン大会の運営に当たっています。

そのマラソン大会の実行委員の子は、私達とは少し違う格好をしています。どんな格好をしているかと言えば、実行委員会の子は、水着の上に体操シャツを着ています。

なぜ、実行委員会の子が水着を着ているかと言えば、実行委員会の子は、マラソン大会の開会式の時、気合入れの為に、バケツにためた水を被る事になっているからです。

実行委員会の子の隣りには、それぞれ水の溜まったバケツが置かれています。おトイレに行った後、水で手を洗うだけでジンジンと手のひらが痛むと言うのに、冷たい水を全身に被らないといけないのです。

実行委員会の子は少し可哀想な気がします。小雪の舞う中を、冷水を浴びないだけ、まだ、私達はマシかもしれないと思いました。


― 3 ―

マラソン大会の実行員は誰もやりたがりません。走る前にバケツにためた冷水を浴びなければいけないのです。誰だって引き受けたくはありませんよね。

私達のクラスの実行員は、男子は高宮恵輔君で、女子は芹川彩音さんです。

なぜ、高宮君と芹川さんの二人に決まったかと言えば、高宮君は押しに弱いからです。特に、女の子から詰め寄られると「ダメ」とは言えない男の子です。

男子も誰もやりたがらないので、少し可哀想な気もしましたが、男子から私達に「恵輔にやらせようぜ」と話を持ちかけられたので、私達は男子達の話に乗ったのです。

なぜ、男子の申し出に女子が乗ったのかと言えば、高宮君が実行委員を引き受ければ、必然的に芹川さんも実行委員を引き受けざる得ない状況になるからです。

芹川さんは高宮君の事が好きなのです。芹川さん自身はいつも否定していますが、いつも否定している割には、いつも一緒にくっついているのです。

休み時間になるといつも高宮君の傍にやってくる芹川さんに、高宮君は少し迷惑そうにしている事もありますが、女の子に弱い高宮君は、いつも、芹川さんのペースに併せています。

きっと、なんだかんだと言っても、高宮君は芹川さんの事が気になっていると思うのです。

私達の予想通りと言うのか、実行委員を決める前の休み時間の時に、「高宮君がやってよ」と私達が詰め寄ると、高宮君は物凄く困った表情を浮かべ「う、うん」と私達の勢いに押されて渋々引き受けました。

高宮君が実行委員を引き受けた時、女子の中で一人だけ猛反発した子が居ました。猛反発したのは芹川さんです。

「ちょっと、ケースケにやらせる事ないじゃない。皆で寄ってたかって、卑怯だと思わないの」

芹川さんは小柄な体で一生懸命高宮君の事を庇っていましたが、「そこまで言うのなら、芹川さんも実行委員会をやったらどうなの?」と、女子グループのリーダー格である伴野さんが芹川さんに言い返しました。

「なんで、私がそんな事をやらないといけないのよ。そもそもだよ、なんで、そんな話になるのよ」

伴野さんの突拍子もない提案に猛反発する芹川さんでしたが、伴野さんは猛反発する芹川さんの耳元で「だって、実行委員会に入れば、高宮君と一緒になれる時間が増えるんだよ」と囁くと、それまで険しい表情を浮かべていた芹川さんの顔つきが一瞬にして変わりました。

何ていうのか、急にパッと明るくなったと言うのか、とにかく、伴野さんの一言で、芹川さんが落ちたのです。

「ほら、確かに冷たい水をかぶるのは辛いかもしれないけど、高宮君と辛い思いを分かち合う事で、二人の距離が縮まるかもよ」

伴野さんの追い打ちをかける一言で、芹川さんは私達の味方になりました。

それまで私達に反発していた芹川さんはいきなり高宮君の手を取ると、「ケースケ、絶対にやろうよ。ううん、絶対にやるの。私たち以外に誰が引き受けると言うのよ」と、高宮君に実行委員会を引き受ける様に迫ったのです。

態度を一変させた芹川さんに、高宮君はどうなっているのか解からず困惑していました。もしかしたら、今回の件で唯一被害を蒙ったのは高宮君だけかもしれません。


― 4 ―

「各クラス、実行委員、用意!!」

朝礼台の上から先生が号令を掛けると、実行委員の子が体操シャツを脱ぎました。女子はワンピースタイプのスクール水着。男子はビキニタイプのスクール水着です。

ワンピースタイプのスクール水着姿になった芹川さんの横には、上半身裸でビキニタイプのスクール水着姿になった高宮君がいます。水着姿になった高宮君を見た時、私は少し、胸がドキドキしてきました。

と言うのも、高宮君って、気弱な所があって女子からはあまり人気が無かったけれど、よくよく見ると、案外可愛らしい顔をしているし、身体つきだってスポーツ選手程ではないにしろ、ガッチリとした身体つきをしています。

小雪が舞う寒空の下で水泳パンツ一枚の格好でガタガタと震えながら恥ずかしそうにしている高宮君の姿を見ていると、何で、今まで高宮君の良さに気付かなかったのだろうと残念な気持ちになりました。

恥ずかしそうにしている高宮君の隣りで、ウットリとした表情で高宮君を見惚れている芹川さん。

「気合入れ始め」と言う先生の合図とともに、ジャバーンと、頭から冷水を被る高宮君と芹川さん。頭から冷水をかぶった後、「冷たーい」と叫びながら、芹川さんは高宮君の身体にくっつきました。

寒さと冷たさの為か、温もりが欲しくて高宮君も芹川さんの身体を引き寄せました。ビチョビチョになった身体を寄せ合う二人の姿に、うちのクラスから二人を茶化すような声が上がりました。

クラスのみんなに茶化されて、赤い身体をさらに赤くする高宮君と芹川さん。そんな二人の姿を見せつけられた私は、高宮君の事を独り占めしている芹川さんに対する嫉妬の気持ちで、寒さを忘れてしまうほどでした。


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