投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 吉原さんの夏休み p.01

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



■ 吉原さんの夏休み ■

(1)

小さなスタジオでは照明などの確認が行われている。

「はい。それじゃぁ、リハーサル行きますんで、よろしくお願いしま~す」

新米女性ディレクター(伊達奈緒美)の大きな声。

「は~い!」という元気な声。

アイツも立派になったもんだ。入社当初から何度か組んでるが、相変わらず元気のイイ女。全部のチャンネルのローテーションを経験し、やっとディレクターになった苦労人。

ローテーションにて適性を慎重に考慮され、入社以来の念願だった総合チャンネルに配属になって初仕事である。

ちなみに、全チャンネルをローテーションすることは、大学院卒の、それも女ではめったにない。だいたい、最初か多くても二つくらいで固定される。

そもそも、帝国芸術大学大学院メディア総合研究学科統合情報メディア工学専攻なんていう幹部候補生が、ADからスタートなんて事、自体が極めて異例だった。

いくら志願したとはいえ、そんな個人の希望なんて聞き入れられない。そもそも、地上波(本丸)や他局でも、充分やっていけるはずなのに、好き好んで、この局に来た変わり者としても有名。

大学院で映像メディア学の博士号まで取ったのに、なんでまだ24歳なんだと思うよな。


伊達奈緒美は元子役あがりの元アイドルで、高校と大学に行ってない。芸能活動を引退後、いきなり大学院に進学した。引退というのも、本人の意志ではなく、所属していたグループが突然解散し、事務所も消滅、いきなり放り出された。

地元に帰る者、芸能界にしがみつく者、それまで稼いだ金で飲食店などの事業を始める者。色々居たらしい。

当時、グループの最年少だった伊達奈緒美は、中学校すらまともに行っていない状態で、中学3年の春にいきなり放流された。マンションも更新できず追い出されれる寸前。

両親が早くに他界して、他に親戚も居らず、居るのは、年老いた母方の祖母だけでその祖母も伊達奈緒美の稼いだ金で老人ホームに入っている。

困り果てていた伊達奈緒美に、救いの手を差し伸べたのが、ウチのオーナー。住み込みのメイドとして雇い、給料を払い、社会人入試で、オーナーの母校である大学院に入学させた。

入学後も、たまに雑用するだけで、その家から二年間大学院に通わせ、博士号を取得し主席で卒業後、誰かにもう振り回されないようにしたいという本人の希望を聞き入れ、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスへ留学への金を負担し、二年間で経済学や経営学の博士号を取るまで援助してくれたらしい。イギリスの他局でバイトもしていたらしい。

きっかけとなった『アイドルの経歴を社会人としてカウントするのか』というのを、どうやって認めさせたのかということについては、伊達奈緒美も知らないらしい。

小論文と面接だけだったので、一度は死すら覚悟した身、必死に勉強し、なんとか合格。もちろん、入ってから地獄だったけど、思った程ではなかったらしい。

元アイドルの話題性、磨かれた美貌、優秀さ、気立ての良さ、そして数奇な運命から、地上波各局はもちろん、世界中のメディアや一流企業からも数多なオファーが届いたが、『恩返しがしたい』という理由で、即座に断りを入れ、当時ほとんど知名度がなかったこの局に就職した。まぁ、今もそんな知名度ないがな。


それから、五年間もの長いローテーションで、大小の海外支局勤務や異業種交流人事も経験し、今回のチームのまとめ役として、抜擢され現在に至るってわけ。

この番組のスタッフは、カメラマンの俺と、プロデューサーを除くとほぼ全員女。ちょっとした女子校気分。全体的に、若目のスタッフが多い。黒人・白人・イタリア系など色々なメンバーがいる。オーナーの旦那さんの会社から出向で来てるのも居る。

伊達奈緒美は、プロデューサーになるためにも、少しでも番組を良くしておきたい。有料放送なので、満足度とか非常にシビア。

俺は別に、崇高な目的でカメラマンやってるわけじゃない。単純に仕事でやってるだけ。うちの局(Mari Grobal Broadcasting Network Corporation)は、一条帝国(超巨大なメディア・コングロマリット)の傘下。名前から分かる通り、オーナー企業である。

でも、傘下とはいっても、有料民放衛星放送局、立派なテレビ局だ。世界中に支局だってある。まぁそれは地上波と共用のところが多いけど。それに従業員自体も500人くらいしか居ない。アナウンサーだって15人未満。

グループには、他にも、ラジオ、出版、地上波(本丸の一条テレビ)、プロダクションなど多数のメディア関連の会社がある。

総合、スクリーン(映画やドラマ)、ミュージック、バラエティー、ステージ(演劇)、スポーツ、ドキュメンタリー、アダルトのチャンネルを柱に良質な番組を提供することで、世界初の有料ケーブル放送として開局し、どこかの研究所のお偉さん(学生時代の家庭教師だったらしい)のアドバイスで、世界初の映像ストリーミング配信事業やオンラインDVDレンタルサービスも行なってる。

契約者専用SNSで視聴者同士が自由に交流できるシステムもある。ストリーミングは、過去の名作だけじゃない。オリジナルドラマやアニメ制作会社や、オリジナル映画制作会社まで単独の傘下にある。


ストリーミングと、DVDレンタルサービスバッティングすると思うだろ? 意外と年配層からは、落ち着いてゆっくり見たいって評判いいらしい。なんで、世界中のDVD扱ってるよ。

もちろん、アダルトビデオの制作も、他の製作会社とは違って、完全にコンプライアンスを重視して、フィクションの作り物としてやってて、意外とこれが受けがいい。

リアル系とは一切ない。完全に映画やドラマのクオリティー。制作費もハリウッド超大作ばりに掛けて、アダルトグッズの開発とかにも協力してる。

実は、地上波の番組を合わせても、世界中で一番DVDが売れてて、ストリーミングの再生回数も多い。ちなみに、20禁。本来、18禁しで良いだけど自主規制。ペアレント保護機能で真っ先にブロックされるチャンネルとして有名。

ちなみに、スタッフに嫌われた女子アナや、新人でも特にミスコン優勝など前評判の高い女子アナは、度胸づけと、視聴者目線を叩きこむという名目で、ここに送り込まれる。

さすがの伊達奈緒美もここはパスだろうと思ってたら、泣き言も言わず研修を全うしたぜ。

世界のエロいニュースを紹介したり、毎日のように発売されるアダルトビデオや、アダルト動画サイトに毎日鬼のようにアップされるのをすべて見てオススメを紹介し、実況する。

世界中の官能小説を朗読するコーナーもある。やられるヒロインは自分の名前や家族や親友の名前に変更して。もちろん、ディレクターやプロデューサーがOKするまで何度もリテイク。エロゲーを自分の名前に変更してプレー実況させられたのも居る。

いわゆるエロ番組しかなく、どんなに鼻っ柱の強いインテリエリートアナウンサーも、三日もすれば、涙をながし跪いて、地面に手をつき、額を擦りつけ許しを請う。


当然、スタッフである伊達奈緒美は、それの下調べや、小道具の手配などをしていたのである。一般女性代表として、被験対象にされたこともある。下着モデル等の汚れ仕事も体験済み。

裏方仕事でも「もっと、太いのが欲しいです」「もっともっっと激しくして」とか、あの美女が真面目に電話越しで問い合わせてたり、会議の時に発言するんだぜ。

もって生まれた清楚さと気品の良さもあって、たまに『一瞬だけ』可愛い顔を赤らめるところとか、たまらんかったね。

ちなみに、送り込まれたアナウンサーが許されるかどうかは、アナウンサー室の女帝の気分次第だな。まず、許してもらえない。最短で三ヶ月。長くて年単位かな。

帰還後はスッカリ従順になり、媚びた様子になる。でも中には、そこで表現力や、アナウンス技術を身につけ、看板である総合ニュースに返り咲くのもいる。

総合ニュースは各チャンネルのニュースはもちろん、世界中の経済・科学・医療・スポーツ・エンタメなどあらゆるニュースを扱っている。有料放送なので、CMも一切ない。

スクリーンやステージでは、インタビューだったり、新作の告知番組や、過去の作品を主演と振り返ったりとかそれなりに仕事はある。全部、スタジオでやる、総合の次に、知的なのやフリーが集まってるね。

ロケのあるのは、ドキュメンタリーとかバラエティーとか。こっちは若手。スポーツは純粋なスポーツ好きが多い。若いやつが特に多いけど、代表戦とか大きな試合に備えてベテランも多い。実は一番厳しいチャンネル。ミュージックは半々。音楽にも種類があるからな。

今では、ストリーミング放送は大当たり、全世界で10億人が契約している。ゲーム機や、スマホからも簡単に見れるからね。テレビにも専用のボタンがついてる。

地上波ではないので、チャンネルはいくらでも増やせるし、放送コードも地上波より緩い。放送禁止用語とかは、もちろん一緒。


んで俺らは、その帝国の創業一族の当主である一条真理オーナーの下僕、教え子だったり、スカウトされたり。伊達奈緒美みたいに、色々と、世話してもらった奴も多い。

ちなみに、まだ、オーナー、若いんだぜ。当主なんだけど、経営に興味がないらしく、両親や三人の兄や義理の姉、親戚達、経営の専門家に任せて高校で美術教師やってる。

自分が社長兼オーナーである、この局にも滅多に顔を出さない。流石に、当主が完全に無関係というわけにはいかないので、こうして、若いスタッフと小さな局を任されてるわけだが、どういうわけか、さっき言ったとおり、打つ手打つ手が全て成功し、本家を凌ぐ勢いで急成長している。

が、当然、オーナーはその気がないので、人は増えない。でも、あれもやりたい、これもやりたいといえば、「良きに計らえ」の方針なので、どんどん仕事は増えていく。完全に趣味でテレビ局やってるね。

俺はオーナーが院生でTAをしてたとき、色々カメラについて教えてもらったり、卒業制作のアドバイスを貰ったり、就職先も世話してもらった。

あ、そうそう、もう一人男が居た。リスクマネジメント局からきた丸いメガネを掛けたダンディーな黒いスーツを着こなした藤林の爺さん。若いスタッフからは、のび太君と裏で言われている。多分、教え子ではないと思う。オーナーが『ジイヤ』と呼んでたから、そういう人間なんだろう。

この番組に限らず、俺達のお目付け役ってところかな。たまに、こんな風にふらっと現れる。ロケにも来るんだぜ。いきなりフラッと。トボけた顔してるが、『ゼネラル・エグゼクティブ・プレミアムプロデューサー』という局全体の番組制作の責任者。

この番組の収録には今日初めて来た。一応、今日が夏休み最後の収録だから、オーナーへの報告もあるんだろう。俺らと共に、開局当初から居る数少ない本丸からの移籍組だ。他にも何百人と居たんだが、呼び戻されたり、フリーになったり色々。


「よろしくお願いします!」

主役のご登場。若いだろ? まだ高校1年生。名前は、クールビューディーと学校では言われてるらしいが、まだまだあどけなさが残ってる。その初々しさが、また、なんとも言えん。これでも、二ヶ月前もっとガチガチだったんだぜ。

形の良い胸の膨らみが、薄い布越しとはいえはっきり分かる。赤い派手な上着は前のボタンがとめられておらず、左右に大きく開いてる。下はシースルーのブラウス。ブラウスは上から四つほどボタンが外されおり、襟元からは胸の一部ががっつり見えてる。

腰から下も凄い。10cmのハイヒールを履いて、スカートの裾はデスクより、高い位置にあり、素足である。ナマ足はスラリと伸びている。外気と女性陣の視線で、薄く桜色の染まってる、

今回のチームは、若手が主体。俺もそうだが、スポーツ部隊など、色々なセクションから集められている。二カメのあの子は、今は、映画とかを中心に撮ってる。

他にも、フリーでやってる奴も、オーナーの頼みであればと、チームに加わった奴も居る。長い付き合いに恐らくなるわけだし、まずは、この夏休みに、どれ程のもんだと、研修を平行して、ほぼ毎日、この番組で練習させてきた。

練習とはいえ、深夜の情報番組。本来、電波調整の時間だった時間に毎日、放送している。ちゃんとしたモノが求められる。そんな時間に、高校生が働けるはずもなく、もちろん、録画放送。

でも、反省会、打ち合わせ、衣装合わせ、マンツーマン研修、先輩の番組見学、学校の勉強とレポート課題、先輩の雑用などなど、吉原自身はほとんど寝る間もない。

なんでも、吉原沙世は特別進学クラスとやらで、1年の夏休みまでで、高校の授業は全部終わるらしい。あとは自由研究みたいな感じらしい。

『夏休みの授業終わってからにすれば良かったんじゃないか』と思ったんだが、そうすると、『あの子は学校に行っていないのか』と面倒なことになる。


というわけで、他のクラスメイトが昼間学校でやっていることと、さらに、出席を認めてもらうためのレポート課題を行い、そして、体育祭の練習も兼ねて、エレベーターを使わず移動は全て非常階段ダッシュにも余念がない。

あと、下の階のラジオ局にも見学に行ってる。なんでも、高校では、放送部っぽい事をしているらしく、ラジオのアナウンサーの仕事ぶりも勉強したいらしい。

ちなみに、1Fから50Fまで全部上がった場合、7000段くらいある。段差がきつく急勾配な階段で、心臓破りと呼ばれている。それを一日に何十回も往復としている。

女の敵は女って言うだろ? 女子アナとか女性スタッフが、雑用をバラバラに言いつけるんだよ。どこどこのお菓子や弁当買ってこいだの。わざと食堂や売店にないやつ。

タレントのお気に入りのお菓子とかもあるけど、大半はスタッフ達の個人的な趣味。資料室でオススメのAVを探してこいってのもあったね。

うちの局自体は、小さいんだが、このビルには、本丸以外の会社の本社が全部入ってる。当然スタジオ等も完備してるから、かなり広い。

しかも、ウチの局は40F~50Fにある。テレビ局ってのは、防犯上、迷路みたいになってて、出来るだけ迷子になりやすいように出来てる。ラジオは公開収録とかもあるので、地下3F~5F。結構な運動量だろう。

当の吉原沙世曰く、運動が好きなので、これくらいがちょうど良いらしい。新しい発見ばかりで、雑用も楽しくてしょうがないとのこと。

そして、クラス委員なので、体育祭等の行事でも、率先して、クラスを引っ張らないといけないんだと。そんなにクラス委員って大変な仕事なのか。


何故、こんなに、吉原沙世の情報に詳しいかというと、寮に帰る時間がもったいないと、初日から椅子を並べて寝ていたので、ドキュメント班で使う寝袋を貸してやったら喜んでいた。

あと、ドキュメンタリーって性質上、話す機会は多いわけだ。向こうも懐いてるのか、二人のときは、タカさんと呼ぶ。高梨貴教だからな。俺も二人のときは沙世って呼んでる。

寝顔が可愛いのでドキッとすることはあるが、これ以上の関係になることはない。ちなみに、ドキュメンタリー班の俺の撮影してるのは、この練習風景。本番は二カメが撮影する。

もちろん、こんなことは異例だが、慢性的な人手不足、少子高齢化、テレビ不況もあって、優秀な人材であるならば、喉から手が出るほど欲しい。

業界に革命を起こせるような人材なら、年齢なんて、このさいどうでもいいらしく、『ドラマに子役とか居るわけだし、アナウンサーが高校生でも問題無いよね? 何か問題でも? ちゃんとお給料は払ってますよ?』的なノリらしい。

アナウンサースクールで手塩にかけて育てて、大卒で入社して21歳、30歳前後でフリーになられるのなら、今から、じっくり手塩を掛けて育てたほうが安くつくよね、という極めて経済的な理由もある。

ウチのような『有料民放衛星放送』なんて、滅多に優秀なアナウンサー志望の応募が来ないしな。仮に入っても、絶対数、人数が少ないから激務になる。、

必要最小限の人数しか居ないから、アナウンサーの募集自体が何年かごとだし、他局みたいに、男女同時に複数採用なんてことはしない。

仕事覚えたと思ったら、芸能事務所(ウチの系列のプロダクション)と契約して、フリー宣言し、好きな仕事、気に入った番組しかやらない。

三年位は仁義ということで、ウチの局の番組しか受けないが、それが過ぎると、本丸はもちろん、他局の仕事等受け始める。中には、フリーが馴染まなかったと頭を下げてくるのもいるが、そういうのは、数年はアダルト送りにされ、まず希望のチャンネルには戻れない。


スタッフもだいたい同じ。つまり、ウチの構成は、数少ない生粋のウチのスタッフ組、本丸から人事交流組、フリーで仕方なくいる組、フリーでこの局が好きでいる組、出戻り組、と実にレパートリーに富んでいる。

『フリーでこの局が好きでいる組』は、『それならフリーになるなよ』と思うんだが、有料放送という方式上、本丸のように、ありえない高給取りにすることもできず、むしろ、若いスタッフが伸び伸び成長できるようにしたいというオーナーの方針で、若い層ほど手当や残業代等ひっくるめると厚遇となる。

名だけ管理職と揶揄される組だから仕方ない面もある。ちなみに、情報漏洩などの観点からバイトという制度がないので、全員が社員である。

定年も無い。学歴も関係ない。高校中退とかのスタッフも居る。年齢・学歴・性別・人種一切考慮せず、入社年次を一歳と定め、全員が横一閃のスタートである。アナウンサーと、一部早々に本丸から出向・転籍してきた社員以外は。

また、製作会社にもコンプライアンスを守らせるためには、それなりにちゃんと待遇をしないとね。ということで、身内以上に優遇しているので、下に行くほど厚遇になっていくので、皺寄せを受けるのは、中堅というわけで、フリーになるというわけだ。

そんなわけで、『これは社運を掛けたプロジェクト』といっても過言ではない。

しかも、この吉原沙世に関しては何もかも異例、単独スポンサーが全て、番組制作費用、研修費用などあらゆる費用を負担。さらに、俺達スタッフには、局から以外にも、特別手当と謝礼が支給される。


そして、最新型のロボットADまでスポンサーが提供。スポンサー企業が造った量産型自己学習型人工知能が搭載されてるらしい。ちなみに、ウチの局のマスコットキャラの姿。

ギリシャ神話の芸術の神のアポローンをモチーフに、オーナーがデザインしたキャラクター。顔は羊と人間を足して、アニメにしたような感じ。

コイツがまたすごい。ロボットだからなんだろうけど、最新のトレンド分析、過去の番組分析、台本のチェック、科学的マーケティングに基づいたキャスティング・交渉などなど、雑務は、ほぼ全部一人で請け負っている。

まぁ、もちろん他のADもいるけど、登場五分で、いつのまにADリーダーになってたね。指示も無駄がない。ちゃんと、未来予測とかそういう逆算して指示を出してるらしい。俺にはちょっと仕組みがよくわからん。

ただ、カメラマンみたいに、ちょっとクリエイティブな仕事は無理らしい。あと、複数の企画は出してくるけど、決定は結局俺らが会議でする。

ちなみに、今はモニター室でチェックしてて、カメラ割りとかはインカム(直通)で、常に指示してくる。カメラからWi-fiが飛んでてロボットがリアルタイムに受信してると思えばいいって説明されたよ。

もはや、伊達奈緒美の右腕だな。本来、プロデューサーなんだが、アイツは基本的にやる気無し。


「吉原~~、声が小いせせぇぇぇぇえんだよ! もう、大物アナウンサー気取りか? え? そんなウィスパーボイスで、この業界でやってけると思ってんのか!!! 一枚脱げ!」

ディレクター伊達奈緒美の怒声がスタジオに響く。

吉原沙世は、伊達奈緒美はもちろん、女性スタッフ全員から、叱責されるたびに、一枚脱がされるのだ。ビンタと腹パンチとどれが良いって聞かれて選んだ。

最初の頃は、おいおいと思ってたけど、見慣れるとあれだな。吉原沙世も特に抵抗しないからつまんねぇ。そういう姿勢が女性陣の嫉妬を煽ることが、まだわかんないんだろうな。

いくら、うちでも、全裸にまでしちゃうと『叱られる吉原さん』じゃ済まないしさ。だから、ドキュメンタリーの編集は超大変。ちなみに、放送予定はまだない。多分、改編期とかに特番で流すんじゃないかなぁ。それは編成のやつに聞いてくれ。

基本的に、女子アナと女性スタッフというのは、あまり折り合いが良くない。高学歴のアイドル扱いの女子アナと、男社会の女性スタッフの関係なんて、想像通りだよな。いくら恩人の頼みとはいえ、なんで寄りにも寄って女子アナだよ。

『長く働くイケメンの男子はいないの?』『もしかして、吉原沙世が諦めれば送り込んでくるの?』と思ってる奴は多い。忙しいから出会いも少ないしな。過去数人、本丸や出版等に送り込んでる模様。

まぁ、俺も最初そうだったし、まぁ長く働くなら、本丸の方が良いよな。モテるし、自己紹介のとき説明も困らないし。

ちなみに、プライベートでもメイクは禁止。髪も黒髪のみ。下はストッキングは禁止(実力もない癖に生意気。10年早いということらしい)。撮影の時だけ、ナチュラルメイクを施されている。


お、今日はブラジャーから外したぞ。この前は下から脱いだら、スースーして落ち着かなかったらしい。上も服着てたら見えないからな。下着だから。

こういうの絵的に嬉しいよな。『実はノーブラです』みたいなの良いじゃないか。まぁ、毎回、収録終わる頃には、全裸になってるんだけどな。もちろん、そこはオンエアーでは全カット。

茶髪の女性ADは乱暴にかっさらうと、乱暴に胸ポチしないように、ガムテープを貼ってから、光沢の黒いブラをひらひらと回しながら、俺のカメラの後ろに立つ。

『キャー』とかヤジでも飛べば、恥ずかしさも少しは和らぐんだろうが、誰、一人眉も動かさないのが余計に屈辱的だよな。

「何遍も言ってるよねぇ? 完璧に原稿読めとはいわないよ。一生懸命やって失敗するのもしょうがないよ。でも挨拶くらいはできるよね? もう高校生なんだから。

なんで、ずっと出来てた事ができなくなるのかなぁ? 今日が一区切りのはずだけど、昨日の収録で最終回だったっけ?」

「はい! すみませんでした!」

「次、腑抜けた声だしたら、年末年始特番では、衣装をハイレグビキニにして、吉原の学校には、特別体験無料放送で流してやるよ。あと、全世界オンデマンドだな!」

「申し訳ありませんでした!」

吉原沙世が90度で俺らに頭を下げる。実際、そんなことしたら、俺らの首だけじゃ足りなくなるけどな。100%パワハラだよ。ちなみに、年末年始特番ってあるの? 今年一年を振り返る的なのをやるの?

多分、首を傾げてるのは俺だけではない。急ごしらえのチームだから、連絡があまり行き届いていないのだ。

「それじゃぁ! リハーサル行きまーす!」

何事も無かったかのように、伊達奈緒美がカンペのタブレットを脇に挟んで、パッと長い手を上げ進行される。


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