投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 夜のレッスン p.01

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



■ 夜のレッスン 2年A組 野村愛花 ■

(1)

真っ暗な部屋、ムクッと起き上がります。

目覚まし時計がセットされている10分前に起きることが出来ました。隣で寝ている同棲中の彼氏は、練習で疲れていてグッスリ眠っています。

野球部エースの彼氏は夏の甲子園予選真っ最中です。本来なら、私が最前列で応援してあげたいのですが、私は女優をしていて日焼けができません。

完全武装していこうかとも思ったのですが、目立って騒ぎになったら申し訳ないです、もし、付き合っていることが世間にバレてしまったら、寮での同棲に協力してくれているみんなにも迷惑を掛けてしまいます。

もちろん、野球部は毎日練習もありますし、体力を激しく消耗するエッチなんてできません。こうやって、ちょっと恋人っぽい雰囲気を出すのが精一杯。あと、怪我している肘を、マッサージしてあげたりするくらいです。

『この夏が最後になる』と言ってました。そんな大事な場に居られないような私に、彼女としての資格があるのでしょうか。もちろん、彼がもし学校を辞めるような事態になってしまったら、私が養う覚悟でした。

幸いなことに、彼は特待生などの免除特権などは受けていないので、野球部を退部=退学ということにはなりません。

私は留年が決まった時、一条先生や真桑理事長と何度も面談して、高校を卒業したら、『南カルフォルニア大学かUCLAの映画学部に進学しよう』と思っていました。

彼も将来メジャーリーガーになると言っていたので、一緒に行けるかもしれないと喜んでいました。彼の学業の成績は、特別良くはありませんが、英語と物理と科学だけは抜群です。物理は、源さんの次くらいに成績が良いそうです。

しかし、野球が続けられないとわかった今、それは現実性の乏しい夢物語になってしまいました。

『帝国芸術大学の映画学部に志望を変えようと思う。それなら、一緒に居られる』

この一言が拙かったらしいんです。どこが拙かったのかさっぱりわからないのですが、食堂で聞いてた三井先生や折笠先生もアチャーという顔をされていたので、大人になるとわかるんだと思います。

そんなわけでちょっと喧嘩中なわけです。だから、いつもなら『頑張ってな』くらい言ってくれるのに。


さて、私がどうして、夜中にこっそり部屋を抜けだしているかを話す前に、私のお仕事をもう少し詳しくお話しておこうと思います。

私は秋田生まれの東京育ちです。父が転勤で秋田に来ていた時、母と知り合ったそうです。詳しい馴れ初めは教えてもらっていません。多分、合コンかナンパで出会ったんだと思います。

母は、秋田でタレントをしていましたから。タレントって言うほど、立派なものじゃありませんでしたけど。父が高校代理店に勤めていることもあり、私は物心つくと、芸能の仕事に興味を持つようになりました。

「俳優の誰々さんと映画のプロモーションでしばらく、全国めぐり」「海外の映画祭に出展するお手伝い」などなど。夕飯のとき、実に楽しそうに話してくれました。

私の誕生日には、好きなアイドルだったり、女優さんからと電話で話をさせてくれたこともありました。恐らく、一条先生は覚えてらっしゃらないとおもうのですが、このとき、私と一条先生はお話をしています。

さて、そんな環境になったので、オーディションに応募できる年齢になると、すぐに応募を始めました。そして、劇団に合格しました。

劇団とはいっても、子供ですから、そんなに本格的なレッスンがあるわけでもなく、当然大勢の子供が居る中で、少ない席を奪い合うわけです。その頃から、母は私のマネージャーのようなことをしていました。世に言うステージママです。

出演したドラマがシリーズ化されたこともあり、今の大手事務所にスカウトされました。伊藤社長(私のマネージャーです)の直々にお誘いがありました。

まだ、中学生だったこともあり、母は自分でプロデュースをしたいようではありましたが、相手は業界ナンバ1の超凄腕事務所の社長です。対応を間違えれば、『私のタレント生命はそこで終了』でした。

それから、伊藤さん(マネージャーのときはこう呼ぶ。現場に社長がいるのは変なので)のもとで、女優としてのキャリアを本格的にスタートさせました。

母は何かと口は挟んできましたが、一線を超えるような指示はしてませんでした。『餅は餅屋』というのでしょうか。同じことを言っても、素人の母よりとでは、周りに与える説得力が違うのです。

さて、めまぐるしく月日は流れ中3になりました。周りの友達は、『高校受験』『将来の夢』などを話し始めるようになりました。

女優というのは、人気商売です。来年どうなっているのかわかりません。『10年後の自分へ』などの卒業文集を書くうちに、10年後どころか、五年後すらどうなっているかわからないことに私は言い知れぬ不安感を覚えました。

私は仕事が好調だったことがあり、最低限の勉強しかしてきませんでした。このままで行くと、高校も同じような状況になる。女優を辞めた時、何も無くなってしまうんじゃないだろか?

そもそも、私は女優とはいえ、ほとんどまともなレッスンを受けること無く、ここまで来てしまいました。若い女優は星の数ほどいます。いつ取って代わられても、不思議ではないのです。そこで、『辞める』『続ける』のすったもんだが起きたのです。


(2)

色々あって、留年して、当然、母は激怒。

父はずっとこういう業界にいるので、なんとなくいつかこういう日がくるとは思っていたそうです。母をなだめ、子離れの時だと説得してくれました。そして、母と引き離すために、寮にいれてくれました。

彼氏のことも、なんとなく、最近出来たんだろうなぁくらいには思ってたそうです。『夢を売る仕事をしているんだから、絶対にそれを外の世界で知られてはいけない』と厳しく言われました。

『その代わり、寮の中でなら自由にしていい。むしろ、温室培養とか、後で心配だし、でも協力してくれている人に感謝は忘れずに』とも言われました。

ちょうど、A組専用の寮が出来たので、留年生である私もそこに入ることになり、現在に至ります。

朝の連ドラが終わると、八ヶ月間ほぼ毎日の撮影だったし、さすがにちょっと休ませようということになり、比較的自由な時間が多くなりました。

『本来なら3年生で、受験勉強をしているはず』だったんです。敏腕マネージャーだと思いません? そこまで、計算に入れてくれていたんです。

とはいえ、もう留年はしてしまったわけで、数学の授業(足りなかったのは出席日数だけ)と、あと工業コースや、商業コースの授業をとっても、まだ時間があり余っています。

「話題になってから発表する次の作品が勝負だ!」と伊藤さんは、作品選びに入念です。もちろん、長くブランクが空くと忘れられてしまうので、ちょこちょこ低予算で芸術性の高い監督の作品等には出演していました。

これらは、朝ドラが話題になる前に決まっていたお仕事です。大作映画やドラマは数年がかりで計画されてますし、割り込むことも可能ですが、その割りにメリットが少ないですし。

『清純派からの脱却。演技派女優へ』をキーワードに、今までやらなかった、生放送のラジオ番組にもチャレンジしています。

『演技派』と一言に言っても、それって何が基準なの? と言われる私にもわかりません。そこで、私と伊藤さん、一条先生は、『アクションを吹替無しでデキる女優』という第一段階を設定しました。

『ヒロイン(清純派)<終了>』→『アクション女優(肉体派)』→『普通の人が演じられる人(名脇役)』→『大人の司令官的のポジション(演技派)』的な構図を描いたのです。

これなら、年齢に応じたお芝居ができるんじゃないかと思いました。アクションは若い頃しか出来ませんし。時代劇の殺陣等も高校のうちに体験しておこうということになりました。

とはいえ、『そんな都合の良いオファー』が、そう来るはずがないわけで……。『自分で撮った方が早いんじゃない?』という一条先生のアドバイスもあり、文化祭で公開する自主制作映画の、主演、脚本、監督、演出をすることになりました。


女優にはやってはいけないことがあります。

・外見を変える。ニキビもダメ。

だって、数秒前に無かったシーンにニキビがあったら、変だから。『メイクがいるんでしょ』といわれても、メイクさんはメイクさんで、常に同じ顔にしないといけないという重責があるわけで。できるだけ負担を減らさないと、仕事をしたくないリストに入ってしまいます。

・口が軽い。

プライベートがよぎると、お芝居に集中できないから。

・訛りやイントネーションがある。

標準語が基本です。

・汗がかけない。

真冬に冷たいラーメンを温かそうに食べることもある。海に飛び込むことだってあります。

ラーメンは別に『意図的に冷たいのではなく』、収録が押して冷めてしまうんです。別に、スタッフによる陰湿な新人女優しごきとかではありません。予算がたくさんある場合でも、もっと他のところにお金を使いたいもの。

海に飛び込むのは、実際、朝ドラのときありました。春から夏に公開なんで、冬に撮影せざるを得なかったんです。飛び込む前は、震えることすら許されません。だって、設定が『夏』なんですから。冬なのに半袖です。

もちろん、浮き上がって『超きもちいい』的な演技が求められます。当然、少しでも震えたら『やり直し』です。何度もNGを出すと、当然、顔が紫になってくるので翌日になり、みんな迷惑というわけです。

涙と違って、汗はごまかしがききません。涙は最悪、目薬でなんとなることもあります。

・固有のイメージがつく。

例えば、『空手が好き』は良いのですが、『空手が好きで、二段の黒帯をとりました』は駄目なんです。役が限られてしまうから。もちろん、役作りで一生懸命取り組むのは当たり前です。

でも、その結果を自分から人に言っちゃいけないんです。取材の人が調べて、記事にしちゃうのは仕方ないです。そこら辺の加減は、もう私にはどうしようもありません。伊藤さんに全てお任せしています。

などなど、色々な制約があります。どうして夜な夜なこっそり部屋を抜け出しているか、もうお分かりですね。日焼けなんてもちろん駄目ですし、お仕事の方で『写真と違うなぁ』みたいなことは困るわけです。

私は高校に入ってから、普段からスカートの下にはジャージ、夏なのに長袖のブラウス。水泳の授業もすべて、スキューバダイビングダイビングのような完全武装。体育もブルマの上に完全防備というスタイルです。

ええ、一部女子から『大物気取り』とか言われてるのは知ってます。だから、一応、生徒会に入ったり、新体操部をインターハイに導いたり、頑張ったりしたんですけどねぇ。


(3)

私の主な一日を紹介しようと思います。

5:50 起床。

6:00 ラジオ体操と彼氏のストレッチを手伝う。

6:30 正門を中心に校舎の周りや近隣の家の前の掃除。ゴミ出しなど。通勤通学の近隣住民から頑張っての励ましの声あり。

7:00 1年A組女子の作った朝食を食べる。

7:30 A棟の食器を全部ピカピカに洗って食器洗い乾燥機。(非番の守衛さんの分もあるから100人分くらい)

8:30~11:00 寮(A棟は20階建てくらいの超大型ビジネスビル)の掃除。トイレットペーパーの交換や蛍光灯の交換。昼ご飯の下準備。全ての窓拭きや床の雑巾拭き、お風呂掃除、非常階段を一段一段掃除。小学生の通学路(スクールゾーン)にて、横断歩道や道路の立ち番あり。

共有洗濯物(トイレマットとかエプロンとか)を洗濯乾燥機にぶっこむなど、ほぼ掃除だけで午前中は終わり。寮の人工知能(サヨシオ)とラジオをずっと聞いている。途中、1年生の後輩への市場からの荷物が届くので、それを受け取り、業務用冷蔵庫と食堂に持っていく。(来たら、サヨシオが教えてくれる)

11:00 寮の食堂で、守衛さんや研究棟の職員達(40人分くらい)の昼食を作る。そのとき、おやつもなんか作っとく。

12:00 総合芸術部のラジオ番組放送のため学校へ。

13:00 終わったらダッシュで帰って、ニュースを見ながら、一気にご飯を食べる。全員分の食器をピカピカにしてから、食器洗い乾燥機へ。

14:00 守衛さん達からの演技レッスン。お礼代わりにおやつの差し入れ。うちの寮の守衛さんは、極めて特殊で元スパイや天才ハッカー、元軍人など幅広い人種や国籍で構成されてます。退職して民間軍事企業などで教官をしていた人達です。元ハッカーや詐欺師などの犯罪者の方も大勢います。

でも先入観をなくしてみると、私と何が違うんでしょうか。私はそれを合法的にしようとしているだけです。安全さえ確保されていれば、彼らはみんな優れた脚本家であり演出家です。

洞察力も優れています。朝、ラジオ体操の時、チラッと見ただけで、『授業をサボること、体調が悪いこと、悩みがあることなどすぐに見破ります』。別に画面を見なくても、歩き方、かばんの膨らみ、食事の量などでわかるそうです。高校生の言動なんてモニターを見る必要もないそうなのですが、仕事なので見てるそうです。

島田先生と真桑理事長が偽装結婚であることは、一条先生やこの先生達にすぐにわかったので、春休みに、島田先生も演技レッスンを受けさせられました。夫婦の演技は真桑理事長だけじゃできないんです。五感すべてを駆使しないといけないんです。私はまだまだお遊戯会です。ちなみに内緒である彼氏の怪我についても聞かれました。

語学も堪能、臨機応変さもあります。私の大切な先生達です。短時間で濃いレッスン(歩き方、発声、役作りなど)をうけます。たまにA棟の道場で組み手をします。

15:00 美術室にいる一条先生、体育教員室か職員室にいる折笠先生と島田先生、専門校舎にいる三井先生と松任先生、理事長室にいる真桑理事長におやつの差し入れ。このとき、撮影の場所などを探しておいて、後で相談する。

15:30 守衛さん達に英会話や色々な国の言葉や習慣を習う。法律とかの話も聞く。ついでに、『噂に聞いた昔話(体験談)』をしてもらう。

16:30 寮全体の備品の発注作業、夕飯の準備開始(一般寮の含め150人分くらいのお米を研ぎ、20個くらいある大きなかまどに片っ端からのせていく(火は弱火で)。重い!

17:30 バラバラと帰宅する1年A組女子とバトンタッチ。睡眠学習を部屋のサヨシオにセットしてもらって仮眠。

19:00 彼氏帰宅。気分は白雪姫。起こしてもらって、一緒に夕飯を食べる。

19:40 食後の練習をジムで手伝いながら、横でトレーナー指導による運動。プールのこともあるよ。屋内だからスクール水着だよ。地下射撃練習場や、専用弓道場にいくこともある。

20:40 2年A組や3年A組のみんなと談話室で談笑し、お風呂に入る。週に一回は彼氏と入るので、1年A組女子と一緒になる。あんな奉仕は絶対しない。背中流すくらい。

21:30 部屋で彼氏に勉強を教えながら、復習と受験勉強する。一応これでも留年生。

22:00 リビングでみんなとドラマを見る。もちろん、私の出演ドラマが最優先。1年A組女子消灯時間で部屋に閉じ込められる。ドラマ終了後、松任先生(寮監)から、明日はもっと要領よくというお説教タイム。ほとんど居ないじゃんとかは言わない。

23:00 彼氏とベットへ(疲れてるので、二人共すぐ寝る)。ちっともイチャイチャできない、

01:30 夜間レッスンor撮影スタート<今、ここ>。週一のラジオの放送日は、ここらへんで伊藤さんが迎えに来る。ラジオは二時間生放送。

04:00 就寝。


清純派卒業という革命のための、犠牲としては充分でしょう?

土日祝祭日は、1年生が掃除・洗濯・炊事をしてくれるので、ちょっと楽ですが、武道・弓道・書道・茶道・華道・着付けのレッスン(松任先生のマンツーマン)、科学部の作ったよくわからない料理の実験台、殆ど体重が同じ島田先生の自主トレのための、実践的な乱取り(分類不能な格闘技)の相手、受験勉強、総合芸術部の活動。彼氏の練習試合の応援に行くためのカモフラージュで、他の運動部の練習試合への応援など、いろいろハードなメニュー。

試合の無い日や、夜は夜で、水泳教室(ガチで泳ぐ方)、ヨガ&ピラティス教室、エアロビクス教室、バレエ教室、料理教室、スカッシュ・ゴルフ教室、ピアノなどの楽器教室、ダンス教室(激しく踊る方)、英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語・ヘブライ語(各15~30分づつマンツーマン)会話教室、映画鑑賞会、読書発表会や談話会(一週間の事を円になって話す会)・その他資格試験の勉強などがあります。

午前中は比較的自由なので、金曜日の夜、夜行列車で青森までマグロを釣りに行って、日帰りで帰ってくる超人的な1年生もいます。目玉は3年生の由梨(元クラスメイトで親友です)が食べてました。なんでも、DHAで記憶力が良くなるそうで、ペアの男子はもちろんのこと、由梨のために釣りに行ったそうです。

でも、由梨は生魚というか、『魚の顔』が苦手だそうです。修学旅行で行った北海道ですら、ウニとか刺身定食とかそういうの食べてました。普段の食堂でも、焼き魚定食だけはたべません。後輩はそのことを知らなかったようで、由梨は目をつぶって食べてましたが、『意外と美味しかった』と言ってました。

レッスン関係は、1年A組女子と2年A組女子もみんなやってます。男子や運動部の人も合流次第やってます。男子や由梨も談話会は必ず出てます。他は気分次第です。

2年生や男子は別に義務じゃないのですが、なんか楽しそうという理由でやっています。源さんと藤原さんにペースに合わせたら、終わった後、男女ともヘトヘトです。

野球部の彼氏とサッカー部の毛利君は平気みたいです。さすが、我が校が誇る運動部の二大巨塔ですね。島田先生は授業の準備以外の時間は、全ての教室に参加してます。体育ですから、準備はそんなにありません。1年A組女子や私と同じ生活です。

でも、生徒の前で力尽きるなどプライドが許さないのか、『まぁ、今日はこのくらいで、体育大学ならこのくらいウォーミングアップだからね』といって、部屋に引っ込みます。『将来的には、全部のレッスンを島田先生が教える事になる』そうです。


映画の脚本も私が守衛さんの話を聴きながら書いて、一条先生に修正してもらいました。

ストーリーは、『凄腕エリート諜報員の私が、謎の最先端ハイテク研究所に潜入。博士役(源さん)の発明品(サングラス)をゲットするも、天才くノ一(藤原さん)に奪われ、非常ボタンを押されてしまう。すると、あっという間に、脱出不可能なまるで要塞と化した。

実は、源さんは特別潜入捜査官で、本物の博士と入れ替わっていた(一人二役)。この研究所は軍事施設。私は依頼人に騙されていた。サングラスは偽物とすり替えており、発覚すると、博士の身が危険であると源さんから知らされる。

警備主任(島田先生)率いるアンドロイド警備隊(エキストラ)の目を掻い潜り、逃げる藤原さんから発明品を盗みかえして脱出出来るか。そして、依頼人(西郷校長)の本当の目的とは』みたいな感じです。

A棟の保安室と、研究棟のみでほぼ撮影します。潜入演習と称して、お色気シーンを入れようとしたら、伊藤さんにバッサリNGで切られました。そういうのは、もっと大きな舞台までとっておくとのこと。はい。仰るとおりに致します。

なので、撮影と同時進行で、凄腕になる必要があるんです。なので、後ろから撮影するという変則態勢です。順番通り撮影することの方が珍しいですけどね。

主演・脚本・演出・監督、全て自分です。お金は、私のお給料とバイト代(寮の雑用全部のこと)です。

どうせ、全学年のA組は、諸経費全額免除、寮費もタダ(その代わり、スポンサー企業の製品モニターと、就職の際には優先してスポンサー企業を選ぶ)なので使う機会ないですし、音楽は高杉先生やオーケストラ部のみんなに制作費を払い、衣装は一条先生の着なくなった服を買い取ってリメイク。

カメラは総合芸術部や新聞部のモノをレンタルで使用。最新機器がそろっています。CGは出来るだけ使わないつもりですす。

自分が演技をしたあと、自分の演技を確認して、共演者のみんなに伝えるんです。「ここが駄目だったので、もう一回お願いします」というのは辛いです。


エキストラの皆さんは、バトン部の後輩達です。主に科学部や一般クラスの子で、あんまり勉強が好きじゃない子達に、これを認めてもらえると、美術とか関連する授業の単位になると、悪魔のささやきをしてみました。

私自身、これが認められれば、来年の単位はほとんどもらえます。源さんや藤原さんは、もう大学を出ていて、趣味で高校に通っているので、暇つぶし&実験台になることを条件に、とても積極的に協力してくれています。

特に、源さんは凝り性で、細かな小道具まで気を使います。脚本を読み込み、『これは不自然では?』『人物に感情移入できない』『こんな事は科学者はしない』など、科学監修もしくは、大物女優さながらです。

大道具もほとんど科学部で作りなおしました。費用はガッツリ請求され、『分割と実験追加で』とお願いしましたが、源さんとはほとんど寮でも接点がなかったので、ちょっと変わった人なのかなぁと思っていましたが、こういうお仕事向いていると思いました。

そして発想がなんとなく、守衛ゾーンの先生達に似ている気がしました。一線を越えないことを願います。

ヤンチャなイメージがある藤原さんが、実は常識人で、発言と行動が一致していないツンデレブレーキ役だというのは、寮のみんなや一条先生からそれとなく聞いていました。

藤原さんは、殺陣や格闘アクションが面白いらしく、よく『ああ、ミスった!』と言って、島田先生とじゃれあったり、後輩達に「一発殴らせてあげる」と言って、殴らせておいて護身術を披露しています。


二人共、小さい頃から古武術等をやっているそうで、『撮影開始当初、真剣に』二人のコンビアクション物に変更したほうが良いんじゃないかと思いました。でも、そうすると、盛り上がる敵役がいないので、そのままにしました。

「迫力ある作品にするために、結果、野村先輩の顔がパンダみたいになっても、仕方ないですよね? 良い作品をつくるためです」という源さんの不吉な言葉に、一生懸命練習しようと思いました。

「前々から、留年の癖に何でジャージなんだ、スクール水着じゃないのかよって思ってました。失敗したらすみません」

藤原さんはそう言いながら、入念に実験台で角度などを今も研究しています。

一瞬殴ってるのかと思ったので、1年生に聞いたら、『最初は物凄いゆっくりやって、徐々にスピード上げているので、反応だけならギリギリ出来る。ただ、本番はこの三倍の速さが目標らしい。自分の反応速度では、わかっててもたぶん無理。撮影終了まで、無事に生き残ってください』とお守りを渡されました。

最初と最後以外はほぼ屋内撮影なので、天気もあまり関係ありません。結構、考えるの大変でした。

脚本の書き方は本を読みながら勉強しました。おそらく、正式な書き方ではないと思うのですが、ようは伝わればいいのです。大学に入ったら、ちゃんと勉強しようと思います。

伊藤さんもノリノリです。この映画の著作権の管理や、監督などに資料用にDVDに焼けるのかなど、入念に確認していました。


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