投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 それぞれのお正月 p.02

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



(2)

初めてお会いするときに招かれた京都の本宅に比べれば狭いですが、この別宅もなかなか立派なお屋敷。門をくぐると、モニカさん(クラウディーナのお姉さん)ともう一人背の低い女の子が手を繋いで立っています。

美玲様じゃありません。というか、日本人じゃありません。160cmくらいかなぁ。小柄な女の子。

「姉さん!」

「元気にしてた? ちゃんと食べてる?」

クラウディーナ姉妹が抱き合います。あれ、横でバイエンビッチもスレンダーな女性と抱き合ってます。

「イバナビッチ生きてたの? どうして、ここに?」

「姉さんがセルビアを離れてから、母さんがほうぼうに手をつくして探してくださったの。今はミナモトアカデミーの中等部の寮で生活してるの、学校が楽しくて手紙も書く暇なくて。

母さんが来年から、姉さんの高校に通えるようにしてくれたの。ずっと一緒にいられるのよ。美玲様に勧められて、サッカーを始めたの。私、才能あるんだって! マラドーナみたいなんだって。

勉強は五中のドベなのに、サッカー部では一高で9番貰ったの。ランジェリーサッカーっていうのやるのよ。去年、姉さんの高校とも戦ったのよ! セルビア語が話せる人は居なかったみたいだけど」

そういえば、よくわかんない東欧系の女子に、因縁つけられたって陽子と菜々先輩が言ってた。よりにもよって、語学力が絶望的な二人に話しかけてしまったみたい。

特殊なカリキュラムで、運動能力と、学業成績でクラスが違うんだっけ? ん? 一高の9番って凄いことなんじゃ?

ランジェリサッカー……。そういえば、美玲様は政代と仲良いんだっけ。


「良いのよ。好きなことをやりなさい」

クールビューティなバイエンビッチが泣いてる。内戦で生き別れた妹さんか……。そういえば、そんな話してたなぁ。妹を探すために、バレーで有名になろうと思ってスカウトに乗ったんだもんね。

でなきゃ今頃、セルビア代表ユースとして、普通のバレーでオリンピック予選を戦ってたはず。レギュラーかどうかは知らないけど。

「立ち話もあれだし、そろそろ御主人様達にご挨拶してきなさい。新年を京都で迎えられて、さっきまで美玲様のご実家に行って、お疲れだから程々にね」

「うん。わかった」

お姉さんに案内されて屋敷の中へ。入口の前には、寮の門に貼ってある正月飾りや大きな門松がありました。寮のはクリスマスツリーと兼用だったけど、こっちは流石だなぁ。あとで写真をとっておこう。

「旦那様、奥様、クラウディーナ達が新年のご挨拶をしたいと申しておりますが……」

リビングの黒いドアを優しくノックすると中から大丈夫よという美玲様の透き通るような声。

部屋に入ると、お餅やお酒、それにおせち料理がテーブルに並んでいます。

「ごめんなさいね。来客が多いから、出しっぱなしにしてるの。主人はデパートに福袋を買いに行きましたわ。初売りで欲しいものがあるんですって」

初売りっていうのは、バーゲンみたいなもの。福袋っていうのにも並ぶらしい。売れ残りじゃないの? と聞いたら、『これだから、外国人は……』と言われてしまった。

中身が見れることもあるんだって。服はサイズも選べるらしい。寮にも歩美や、聖子先輩が頼んだのがいくつか宅急便で届いてた。『煩悩108福袋は地雷。鬱袋!』と黒田先輩が言っていた。意味がよくわからなかった、


「旦那様はお一人で行かれたんですか?」

「いいえ、まさかぁ。石田とマイケルも一緒ですよ。正月早々可哀想に。お手当出してあげないと。みなさんはその後お元気? マリアはモデルのお仕事は順調?

もし、また現場で打ち合わせにないカットを要求されたりしたら『その場ですぐに』報告しなさい。そのカメラマン業界から抹殺してあげるから。八条家を舐めるようなことしたら、どんなことになるか今一度思い知らせてやるわ。

あと、小町なんて放っておいて、いつでもウチにいらっしゃい。自分の家だと思っていいのよ。部屋もたくさんあるから」

好戦的なタイプなんだよねぇ。小町とは性格が間逆だから、合わないんだろうなぁ。

「あのイバナビッチのことですが……」

「ごめんなさいね。驚かせるつもりは無かったのよ。でも、家族とはいえプライベートなことだし、直接伝えようと思ったら、今日になっちゃって」

「日本で会えるなんて……。この御恩は忘れません。必ずご期待に応えてみせます。学校にまで通わせていただいてるようで……」

「当然よ! 私達は家族じゃないの。最初にも言いましたが、もしバレーで成功できなくても、放り出すなんてことはしませんから。

もちろん、バレーだけ出来ても駄目。この家をでるときは、一人の成熟した女性として、ちゃんとやっていけると私が判断したときです。他のメイド達となんら変えるつもりはありません」

その後はおせち料理をつつきながら、学校や部活やモデル仕事の裏話やらをしました。


「ねぇ、母さん、これは、なんという食べ物ですか?」

「イバナビッチ! すみません美玲様。イバナビッチはたぶん母の顔を覚えてなくて。私もあんまり覚えてないんですけど」

「良いのよ。あなた達も呼びやすいように呼びなさい」

イバナビッチを膝の上にのせてじゃれあってる。

「これはカマボコというものよ。紅と白が縁起がいいの」

「31日にテレビで歌番組を一緒にみたね」

「そうね。楽しかったわねぇ」

よく見ると、がっしりした体格。太ってるわけじゃない。バイエンビッチより体格よくない? 胸も大きいと思う。脚も長い。出るべきとこは出て、引っ込むべきとこは引っ込んでる。

そういえば、ミナモトアカデミーの中等部の寮は、エステとか美容関連の設備も高等部と共用で使えるってキャプテンが言ってたなぁ。

「いけない。母さん、アタシ、そろそろ、出発の時間だわ。待ち合わせに遅れちゃう」

「あら、もうそんな時間?」

「駅からのバスが、お正月ダイヤで少ないのよ。お母様や姉さんに会えて本当に嬉しかったわ。卒業式には来てくれるのよね?」

「もちろんよ。練習も勉強も頑張ってね」

「本当は、練習よりも、ろくに学校にも通って無かったのに、編入してすぐ外部に出るから補習が大変なの。勉強って大変ね。アルファベットも書けなかったのよ。日本語もやっと覚えたんだから」

「知ってるわよ~。だから、専門コースなんですもんね。でも、入学して恥ずかしい思いを、『少しでも』しないようにするために、ちょっとでもがんばりなさーい」

「姉さんと今度会うのは入学式ね! 一緒に入学する家族のみんなもそのとき紹介するわ。みんなモデルみたいなのよ! スタイルもバレーも凄いんだから。姉さんでも見劣りしちゃうかも」

美玲様の頬にイバナビッチがキスをしてハグをする。ついでにバイエンビッチとモニカさんにも。ほんとに親子みたい。


イバナビッチが慌ただしく出て行くと、絶妙なタイミングでお茶が出てきた。ちょうど、お喋りして喉が渇いてた。モニカさんは気が利く人。

「ところで、バレーの話だけど……」

ああ、この話題になりますよねぇ。

「私だけ、レギュラーになれませんでした。ごめんなさい」

一人だっけってのがちょっとバツが悪い。次回はいい報告が出来るように頑張らなきゃ。

「ポジションが変わったんでしょ? しょうがないわ。来年もバレー部に、二人送り込もうと思ってるんだけど、もうちょっとペースアップしたいわねぇ。部活で見所がある子がいたら教えてくれないかしら? みんな、どこかに所属予定なのかしら?」

「バレーわからないけど、佳子と美紀はどうなの? ナタリアもあれで結構スタイル良いわよね。あの三人普通に入学したって言ってたわ。3年の平手先輩はドラフトで指名されたとか聞いたけど結局どうなったの?」

マリアは、ブリのお刺身がお気に入りのようで、さっきからガッツリ食べてる。昨日も結構食べてた。生魚をロシアでは食べたことがなかったらしい。

ヘルシーだから食べまくって良いってもんじゃないと思うけど。体型管理には気を使ってるから大丈夫か。マリアは意外と社交的、私達はバレー漬けの生活だけど、歩美や政代を経由して寮でも色々な人と話してます。

「ミキティーはどうなんだろうね。将来のこととか、話したことない」

私もあんまり話したこと無い。一般クラスだし、練習の時くらい。

「平手先輩は無理だよー。先輩はヴィーナスでプレーして、日本代表になるって公言してるバリバリのキャリア志向だから、新規独立リーグではプレーしないわよ」

部内では有名な話だからみんな知ってる。

「佳子は帝都大学行くって言ってた」

「帝都大学のバレー部って強いの?」

日本のバレー勢力図を全く知らないという致命的な問題点が浮き彫りになり、美玲様も苦笑い。

美玲様はバレーについては、ほとんどご存知ない(学生時代はサッカー部)ので、まずはそういうのを詳しい人を探そうということになった。

さらに欲を言えば、やっぱり広告塔になれるような人材だと好ましいという難解な宿題を与えられ、その日は屋敷に泊めてもらった。


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