投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 第2.5章 p.18

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



(4)

今回もフライングだったけど、何やら次の企みがあるようで、電光掲示板はスルー。

コーナーでレーンが減っているのに、気がついて、慌てて減速しようとして派手にすっ転ぶクロエ。すぐに起き上がって立ち上がるが、追いつけるはずもなく、3位でフィニッシュ。

ダッシュでスタートラインに戻ってくる。

「このように、走ってもらいます。それじゃぁ、『いつもどおり』下位三名の負け残りということで、まずは男子五人と『女子は年功序列で実習生全員』を先に。最後に残った三人は腕立てと腹筋を100回ずつ。ちゃんと正式なやつね」

島田先生が、顔色一つ変えず言い放つ。元気一杯でも、A組男子に女子が陸上で勝つとか無理だから。

「下位の三人は、戻って次のレースにすぐ参加すること。勝った人はクールダウンを各自して、次の授業へ。今日は実習生がチンタラしてたから中途半端な時間で早く終わるけど、当然、水曜日と金曜日はいつもどおりやりますからね」

しかも、前の人が抜けるまで、女子は入れないから、必然的に、女子の順番は男子が全員終わってからになる。男子を先にするのは、次は多くがリリィ先生の英会話の授業で、女子が着替えに困る事態を引き起こしたいから。

実習生に夢中かと思ったら、そういうわけでもないらしい。マスゲームやら、バトン部やら忙しいもんな。そのうえ、交流戦のハーフタイムショーも丸投げられたとか、そんなに弱いのか二年目の立場って。

リリィ先生も昨日まで、セレクションだったとかで、朝早く帰ってきて機嫌悪そうだったし、クロエもう無理かもね。実習生の着替えは、本館の物置(実習生室)だから、教室までめっちゃ遠いし、遅刻は免れないだろう。


男子は運動部のエース級ばかりを集めたグループ。実習生にはわかるわけないけど、ここは体力温存が正解かな。

また、こいつらが質悪いんだけど、実習生にわざと先頭を走らせ、後ろから物凄いスピードで追い立てるというライオンのような芸当を披露。もしかして、お尻が見たかっただけか?

ゴールした後、満足そう。その後の組も、同じように、実習生にプレッシャーをかけ続ける。

「来年から、教師になろうという実習生が、たかが男子生徒に勝てなくてどうするの? 私も最初の組は無理だけど、そろそろ勝てるわよ?」

『島田先生だから勝てるんだよ。無理だって』とヒソヒソ声で話す女子。

「罰ゲームはなさそうだね」
「先生達には気の毒だけど、私達にはラッキーだよね」

聖子と静江は運動があまり得意ではないので、とてもうれしそう。他にも何人かは、男子に『しっかり』とか『頑張って』とか黄色い声を飛ばしてる。

ちなみに、レース中も『腕のふりが小さい』とか『さっきからタイムが落ちている手を抜いてるんじゃないか』と、島田先生は実習生シゴキに余念がない。

島田先生のことだから、5%くらい本当にそう思ってるんだろうな。最近、トレーニング理論とか勉強し始めたけど、基本、昭和のスポ根とか大好きだから。

結局、男子全員に敗れ、消耗しきった状態で、私達に勝てるわけがなく、実習生は最後まで残され、腕立てと腹筋をやることになったんだけど、疲れきっていて無理ということで、3倍を今夜、寮でやるということで、なんとか勘弁してもらったらしい。

バトン部でもそんなにやらせたことない、過去最高回数じゃないか。


(5)

放課後はミニサッカー部の練習。聖子と遙菜とマイコは、体育祭等も近いのでバトン部の練習をとのこと。由梨先輩と、静江も息抜きにパス回しに参加。

ジョディーとサラと結衣が中に入り、私、小町、奈々、雅、由梨先輩、静江で円をつくる。毛利と結城と黒田と神木さんはランニングしながら、談笑中、多分1年の方の実習生の話だな。

ちなみに、結衣は水泳部のエースなんだけど、オフシーズンは団体競技をやるように、折笠先生に言われてるらしい。一度は団体競技をやっておいた方が良いって、珍しく強く言われて圧倒されたんだと。

私もそんな強引なタイプだと思ってなかったから、ちょっとビックリした。

黒田と静江は来たり来なかったり、新聞も交流戦特集するんだとかで、一応競技を体験しておきたいんだと。悠斗と愛花先輩は、撮影の下見という名目でデート中、後から差し入れ持ってくるんじゃないか。

菜々がパスをカットされ、サラと交代。

「へい、こまーち。教育実習生どうだったね」

サラが小町にパスを出す。黙々とパスをしていてもつまらないので、必然的に教育実習生の話題になる。つうか、寮でも一緒でそのくらいしか改めて話すことがないし。

「フランス人の実習生を、政代ちゃんが気に入っただけ。ローターとか入れられて一日過ごしたみたいだよ」
「フランス人形みたいだったね。名前なんだっけ?」
「エミリーだっけ?」
「いや、それはアメリカ人っしょ」
「エミリーはこっちに居たから違うよ。ソフィアはどんな人? ママと仲良くやってた?」
「今日は見学だけだったから、後ろで気をつけしてた」
「え? ずっと立ちっぱなし?」

「前の授業で、奈津子にがっつりしごかれて、遅刻したからな。そのペナルティー。その代わり懲罰ポイントは無しだってさ。他の二人はどうだったよ? あの後、一緒だったでしょ?」

静江はあんまり運動得意じゃないから、パスをトラップして、すぐ横の雅に出すだけで必死。


「ところで、普段着って言ってたあの囚人服みたいな、ツギハギだらけのオレンジ色のワンピースって誰のアイデアなの? やっぱりママ? 一年間で二着しかないってきついよね。持ってきてた下着も自分の手で全部裁断させたらしいよ」

リリィ先生って新任だからか、初期の奈津子と同じような感じで張り切ってるよな。新任の先生ってみんなこういうもんなのか。

「パンツとか、ブラどうすんの? だって、クレカとか全部シュレッダーしてたじゃん? 教育実習ってお給料でないんでしょ?」

「下は、いつもピンクブルマらしいっすよ。オレンジのツナギに、ピンクのブルマの直穿き。ブルマは三枚しか支給されてないんですって。ブラはどうなんすかね?

洗濯やっぱウチラがするんすかね? まぁ、別にそんな手間は変わらないんで良いんですけど」

「ゴシゴシこすって、ボロボロにしてやれば? カッターで切れ目入れるとか?」

サラと雅は物騒な話をしてる。なんか鼻についたのがいたんだと。

「乾きませんでしたとか、今日はやけに真っ黒でしたね、とかコメント添えてあげたら?」

「ピンクのブルマって、一日の実習報告書出すとき、添付資料として一条先生や他の先生に確認されるらしいっす。報告書には重さとか、色とか書く項目もあるみたい」

「実習生のブルマって、名前刺繍してないけど、混ざっちゃったら、どうやって見分けるんだろうね。オーダーだから厳密には違うんだろうけど、穿けない範囲じゃ無いじゃん? 物凄い食い込んでて、股下のゴムきつそうだけど」

3年生は受験なんで、当然、教育実習生は担当しない。由梨先輩は静江とトレーナーに組んでもらった別メニューを、よく一緒に空き時間を利用して、体育の授業を横目にちょくちょくやってる。

別メニューってかっこよく聞こえるけど、二人でキャッチボールしたり、サッカーボール蹴ったり、まったり、運動してるだけだからな。


「今週って実習生って誰の部屋泊まるんですか?」

由梨先輩と、私と小町のとこ、吉原んとこはクラス委員で決定って一条先生言ってたな。私の部屋は当然、クロエ。吉原んとこは山科いずみ。由梨先輩んとこは羽林千春。後の二人は多分、毛利と黒田んとこか神木先輩のとこ。

吉原んとこは渡辺詩織いるし、由梨先輩とこはシングルルームで、結構遅くまで勉強してて寝れないし、男子の部屋は、結構みんな遊びに行き来してるみたいだし、どこもデンジャラスな要素一杯。

「ウチラの部屋は、いつくるんすかね?」

「ローテションで回ってくるんじゃないか。今夜、雑用早く終わらせて泊まりに来いよ。産卵ショーとか、特出しショーとか、剃毛ショーとか見れると思うから」

「マジっすか? あのフランス人、お高くとまってスマシてたんで、ヒイヒイいうの見たいって、二人で話してたんですよね」

「まーさーよ、私達も行って良い? そのショーみてみたーい。お菓子とジュース持ってくね」

「お菓子は今日は良いから、寮の売店でなんか使ってみたいアダルトグッズ買ってこいよ。効果の知りたいクリームとかでも良いから。ぶっといペニスバンドは絶対買ってこいよな。前に見せた鹿ノ倉先輩んときに、使ったときに使ったのより、太いやつな。

一晩中交代で遊んで、一睡もさせないで、お風呂やシャワーもさせず、そのまま明日の実習に行かせよう」

私達はもちろん交代で休むし、朝シャワー浴びて登校するよ。今日、月曜だし。明日はプールもあるし、さぁ大変だぁ。もちろん私達はレズっけはないよ。ただ、面白そうってだけ。


「あれって結局どうしたんすか? 『捨てにくい』からって、ウチラの入部記念で押し付けようとしましたよね」

「プレゼントな。そういやぁ、小町あれどこにやったっけ? まだ、研究棟の部室だっけ?」

「部室もたまに理事長とか、ふらっと色んな先生達が来るから、寮のトイレのタンクの中に隠してあるけど、あんな不衛生なの使ったら病気になるから駄目だよ。

でも、一度レズを知ると、男性とはしたくなくなるっていうじゃない? 鹿ノ倉さんだけなのか、みんなそうなのか気にはなるんだよなぁ。

でも、どこでするの? 政代ちゃんのベット? あと、口以外からアルコール摂取すると、本当に吸収が早いのか検証したい!」

小町は相変わらずサラッとエグいことをいう。もう、みんな慣れたけどね。

「クロエが持ってくる寝袋だか布団の上でいいんじゃない? 酒かぁ。さすがに、ウチラじゃ買えないし、お酢とか、ミリンで代用できないかな?」

「ママが晩酌にウイスキーとか、ウォッカとか呑むの、ちょっと貰って、水筒に入れて持っていこうか? 今日、夜勤だからバレないし」

「リリィ先生にばれたら、一発アウトで力尽きるまで組手させられよ」

「芋焼酎だったかな。漢字が読めなかったけど、厨房に粗品があったのね。割ったことにして貰っちゃう?」

「あれ、焼酎じゃなくて、日本酒っすよ。アルコール度数90くらいあるめっちゃ強いやつって、松任先生が言ってましたよ。教科書の業者がお中元送ってきたらしいんですけど、先生も理事長も、ビールの匂いも駄目なくらい弱いから困ってるって。

箱だけ残しておけば気がつかないっすよ。仮にバレたら、クロエさんが強要したことにすればよくないすか?」

「偽装工作ってやつっすね。名探偵の孫とか、体は子供でも頭脳は大人みたいなのA組にいませんよね?」

それに近い人や、そいつらに捕まえられた人とか、すぐ下の保安室に一杯いるけどな。科学捜査のプロも研究棟にいっぱいいるぞ。それにしても、さすが、1年生は無駄に、全員分の食事を作ってないな。


「あ、監督来ましたよ。教育実習生って部活もブルマなんですね」

「あれ、名前誰だっけ? 何やってる人だっけ?」

「エミリー博士だよ。スポーツ看護を専攻してるって言ってたじゃない。あの自己紹介最初にやった人」

そっか、静江はトレーナー志望だから興味があるんだな。

「国見さん、エクササイズコースの私達も挨拶行って良いんですかね?」

「行きたいんでしょ? 付き合うよ」

男子達が走るのをやめて、倉内先生の前に集まってる。赤毛のセミロングをゴムで一つに結んだエミリーがペコリとお辞儀してる。

「なんすか。男目当てなんすかね? どいつもこいつも碌な実習生いないっすね。男と見れば色目使いやがって」

いや、普通に、毛利と神木先輩は初対面だから挨拶しただけじゃね? 一応あれでもキャプテンだし。ちなみに、私は女子キャプテンな。背番号だって10番だからな。毛利は1番。

ちゃんと全員名前もプリントしてあるんだよ。みんな格好から入るタイプだったから、お揃いのジャージとか。それで、始動がだいぶん遅れたけどな。本家のサッカー部みたいに、ゴリゴリやるわけじゃないから、番号も適当に上から割り振るだけだけど。


「それでは、今日から新スタッフというか、教育実習生のエミリーさんが、一年間ウチの部に参加することになりました。

ラクロス部を希望されたようですが、ウチの部はエクササイズ部員も多いですし、色々と参考になるかなと思い、こちらに来てもらいました」

ラクロス部のくだりは、言わなくても良い気がするけどな。エクササイズってようは気分で来るから、幽霊部員みたいなもん。

「主には女子の指導を中心に、今までどおり、和気藹々とやってくれれば良いなと。朝、自己紹介をされたそうですが、盛大に失敗してしまったらしいので、気を取り直してやってもらいましょう」

なんだよ。また、自己紹介かよ。しかも、今度は立ったまま。赤毛の頭がペコリとお辞儀する。

「エミリーです。朝は緊張していました。頭が真っ白でした。スポーツ看護というのは、医学のように怪我を治すわけではなくて、怪我をしないような体づくりをしたり、サポートをすることです。

この高校には、多くの優秀なトレーナーや、元プロチームのスタッフがいると聞いて来ました。ブルマは資料では見たことがあったけど、初めてなので、まだ恥ずかしいけど早く慣れたいです。冬は寒くないのですか?

日本の部活動にも興味があったので、ラクロス部でなくても、運動部であれば良かったので、気を悪くしないでください。エクササイズ部員のみんなが明日も部活に来ようと思えるようにしていきたいです。よろしくお願いします」

よく考えたら、初っ端だったもんな。そりゃぁ、どの程度やるとか、塩梅わかんないよな。パチパチと拍手してやる。


「レディーファーストってことで、藤原から順番に自己紹介しておこうか。寮でも歓迎会とかやるんでしょ? 手短にね。俺の時みたいに、平安時代とかから紹介しなくて大丈夫だから。自分の紹介だけで良いから。

エミリー先生は、質問はそれぞれにしてくださいね」

いきなり、私かよ! どのくらいすりゃぁ良いんだ。手短にってどのくらいだよ。

「藤原政代です。本当は科学部なんですけど、男女混合競技なんで、科学部ごと助っ人で参加したら、女子の人数の方が多くなってしまいました。

ハーバードの経済学部を既に卒業したんですが、高校を卒業したらスタンフォードで地政学を勉強しようと思ってます。

将来の夢は、具体的には、まだ決めてません。科学部のみんなと設立したロボットの会社や、父の会社に関われると良いなぁと思ってます。

趣味はドラマとか、映画で、美人が困っているのを見てスカッとすることとか、みんなとおしゃべりすることです。よろしくお願いします」

「政代からみると、この高校で一番の美人の先生は誰? 正直、職員室を見て一番驚いたのがそれ。私は東洋人の顔の区別がまだつかないけど、私の目から見ても美人でスタイルの素晴らしい先生ばかりです」

いきなり、変な質問してきやがった。

「美人が難しかったら、素敵な人でもいいから教えて、目標とする人でもいいわ」

「目標? 居ないなぁ。しいて言うなら、一条先生とか? 私も帝国を作って女王様のように振るまいたい。島田先生みたいな部下は欲しい。理由は自分で考えて、行動して、失敗して見てて飽きないから」

「島田先生?」

「もう一人の体育担当です。エミリー先生と山科先生の体育指導教官が私の担当なので、実習としてお会いすることはないと思いますが、寮ですぐ会うと思いますよ」

笑った顔が結構チャーミング。


「エミリーさんは笑った顔の方が素敵だと思います」

「政代からみて私は美人? 日本の男性は私の事好きになると思う?」

答えにくい質問するなぁ。そういうことは男子に聞いたほうが良いんじゃないか。まさか全員に聞くつもりか。だとしたら、みんなどう応えるんだろう。

「美人だと思います。教育実習生が今回のメンバーでなければ、男子はもっとちやほやしたと思います」

「確かに、実習メンバーはかなりの美女揃いですね。私が美人かどうかは別として、政代は正しいと思います。私は教育実習生オリエンテーションのとき、彼女達に会いましたが、どこかの映画のオーディション会場と間違えたかと思いました。

ちなみに、実習生では誰が一番先生として向いてると思いますか?」

もしかして、エミリーって、結構、周りの評価とか気にするタイプなのかな。そもそも、まだ会って一日も経っていないわけで、まともに話したこともないわけだ。誰が向いてるかなんて正直わかんない、

「それは、毛利君とか男性に聞いた方がわかると思います」

「違うわ、同じ女性目線で聞きたいのよ。どこの国でも高校生の男子は、バストが大きいかとか、ヒップがどうとかそういうのが評価基準でしょ? 弟がいるからだいたいわかるわ。

日本の女性から見て、自分がどう見えて、どこを直せば受け入れてもらえるのかが知りたいのよ」

なんか真面目だなぁ。不器用な感じが島田先生とちょっと重なる気がする。

「まだ、よくわからないけど、自己紹介だけなら、ソフィアさんか、羽林さんの話し方が先生っぽかったと思います」

「千春は確かに先生ぽかった。ドクターだしね。うん、話し方を習ってみる。ありがとう」

十人十色の自己紹介に、それぞれ質問をして、時に掘り下げ、時に話を展開し、なんだ意外と頭の回転はやいじゃないか。

全員の自己紹介が終えると、いよいよ練習。

「今日は交流戦、特に五高のラフプレイというか、フィジカルプレイ対策として、ブラジル等南米の秘技『マリーシア』を伝授する。

なーに、当たってないのに、大袈裟に痛がったりとか、PKを取る上手な転け方とかだから、柔道の受け身の練習だと思って気楽にやろう」

また、へんてこな練習するんだな。戦術練習とかしなくていいのか? サッカー部みたいにしなくていいのか?


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