投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 第2章 p.21
このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。
■ 教師が生徒化される日(前編) 科学部 佐伯 遙菜 ■
(1)
「一緒に学校を掃除して、小町先輩と遙菜にも、笑顔になってもらうからね」
スーツ姿のユウキ(結城勇気)君は、赤いネクタイをしています。
「打ち合わせ通りにやれば、大丈夫です」
「小町、がんばってね。私達、傍聴席で見てるから」
小町先輩は表情があまり変わらないので、政代先輩以外に緊張しているのかどうかわかりません。さすが、アイスドール(内緒)です。
まずは、どうしてこんなことになったのかを、少し話してあげよう。あれはオリエンテーションが終わって、しばらく経ってからのことでした。
私(わたし)は、トイレ掃除のやり方を教わっているときに、科学部では高速インターネットが無償で自由に使えることを聞いて入部。
他の部も同じような環境だし、怖い3年の先輩が居ない、むしろ勉強を教えているので、なんでもやってくれるという変わった雰囲気にも惹かれた。
私、上下関係とか実は苦手なの。政代先輩は最初怖かったけど、慣れてくると話しやすいし、ジュースなどを奢ってくれるの。部の伝統行事で自己紹介を命じられた時は、かなり戸惑ったけど、録画はしないってことなので頑張ろうと思います。
でも、裏生徒会に入れば仲間だから、その後はしごかないと言われたので入っちゃいました。ユウキ君とはクラスではあまり話したことが無かったので、名前を呼ばれたときは少し驚いたな。
私と小町先輩が、音楽室に行くまでのゴミ拾いや掲示物を直しているときのこと。
「あれ? 佐伯さん、こんなところで何してるの?」
「部活だよ~。ユウキ君は? サヨ(吉原沙世)と、マイコ(アレクサンドラ・マイコ)は一緒じゃないんだ?」
三人が総合芸術部で一緒なのは、同部屋だし知ってたから。
「佐伯さんって科学部じゃなかった? 黒田(黒田勘九郎)が言ってたような」
「そっか。ブラトンと同じ部屋だから、私の事知ってたんだね」
「ブラトン? 黒田のこと?」
「ブラック(黒)な豚(トン)ってこと」
「あいつ、鍛えてるからなぁ。腕相撲A組で一番強いんじゃないかな?」
常にカメラを持って、ペアの私とサンドラ(ロシアからの留学生)にモデルをさせる。もちろん、ポーズはちょっとHなポーズ。
「それは良いとして、どうしてゴミ拾いしてるの? ええとそちらの一緒にいるのは……」
小町先輩は完全に無視して廊下を雑巾で綺麗にふいていた。
「小町先輩。科学部の部長よ」
「指導員の藤原先輩がいるところ? ごめん、よくわからないんだけど、科学部の部長が廊下拭いてるの??」
もっともな意見だと思う。
「私は、学校を綺麗にしたり、みんなを笑顔にしないといけないの。これは科学部じゃなくて、裏生徒会の活動なの」
「裏生徒会?? みんなを笑顔?? あ、ごめん。ボクも用事頼まれてたんだった!」
「総合芸術部って大変?」
「まぁまぁかな。でも、美人の先輩多いから」
「サヨもマイコもフリーだよ」
「あの二人は好みじゃないから(即答)。それに部内恋愛禁止なんだ。かっこいい先輩も多いから、学校中で抗争が起きちゃうからね」
サヨも似たようなことを言ってた。
「また寮で話そう。あ、そうだ。なんか面白そうなんで、ボクも裏生徒会いれてくれません?」
「科学部じゃないと入れないから」
「臨時部員で科学部に行きます。社会勉強しないといけないんで」
ああ、なんかマイコもなんか言ってたな。サヨは主務で、ラジオやるから免除とか言ってた。
「何で?」
小町さんはやっと興味を示しました。基本的に、非常に人見知りなんだと思う。
「ボクもキレイ好きで、人の笑顔を見たいんです。入部試験ということで、ボクも学校を掃除して、小町先輩をボクと佐伯さんで笑顔にしてみせますよ」
ユウキ君はニコッと微笑んだ。作り笑顔は結構かっこよかった。とはいえ、なんで私が手伝うことになってるのかなとは思った。
「私を笑顔にする?」
小町さんが大きくかしげます。
「『みんな』って仰ってたんで、小町さんも笑顔にならないといけないんじゃないかなと思って」
「そう? 楽しんでるよ? トイレ掃除とかも楽しんでるし」
うん。小町先輩の笑った顔を私も見たことがない。私もちょっと見てみたいと思った。
「せっかくだから、佐伯さんも笑顔にしてあげるよ。オリエンテーションでパンツ交換させられてから、あんまり元気ないでしょ?」
ぶっちゃけ、オリエンテーションであれが一番きつかった。
「あれはちょっと無いと思ったんだ。ボクはまずあーいう人を掃除して、学校をキレイにしようと思う」
「無理だよ~。生徒会の副会長だよ~。寮の指導員でもあるし」
「一理あるかも。確かに、今の生徒会は汚れている気がする」
え、小町先輩まで何を言ってるかと思った。
「この件は三人だけの秘密にしましょう。オリエンテーションの様子では、色々な所に内通者が入るみたいですから」
「政代ちゃんにも内緒? それなら、イヤ。私、貴方のこと知らないし。知らない人の言うこと聞いちゃいけないから」
「藤原先輩? あー、あの人は良いんじゃないですか。ただ、しごきたかっただけみたいです」
「政代ちゃんが良いって言ったらやる。学校を綺麗にして、みんなを笑顔にしないといけないから」
ユウキ君はそれから、同部屋の二人(あと一人は水野っち(水野真司)を、裏生徒会に、スカウトしました。水野っちと小町先輩は、会話はほとんどありませんが、かなり気が合うようです。私も、相部屋の二人(あと一人はしおりん(渡辺詩織))をスカウトしました。
(2)
法廷のような審議会の会場。右側が私達。左側が生徒会。島田先生・平賀先生・西郷先生が裁判官のような服を来て、一段高くなった裁判官席のような場所に座ります。
「審議会を開催する前に、鳴海さんは証人の予定でしたが、本日はインフルエンザの疑いがあるため、出席停止になりました」
聖子先輩は成績は優秀ですが、あいにく当たり年なため、次の副会長になることで推薦を確実にしたいそうです。意外と世渡り上手ですよね。
「それでは開廷します。生徒会側、科学部側双方の主張に変更はありませんか?」
ユウキくんと由梨先輩が頷きます。
「生徒会側は冒頭陳述をどうぞ。科学部は実験器具と称してアダルトなグッズを請求しました。そんな請求は認められません。不見識であると考え、懲罰を申請します」
「弁護側反論はありますか?」
「もちろんです。本審議会で白黒をハッキリとつけようと思います。ボク達は罰することが目的はありませんので、この後、国見副会長や特定の先生が、なんらかの懲罰になっても、署名した人間は二週間しか協力しませんので」
「わかりました。それでは始めてください」
「特定の生徒が優遇された事実はありません」
「それは本当ですか?」
「はい。間違いありません」
「服装検査なども適正に行われているんでしょうか?」
ユウキ君は畳み掛けるように、質問を次々と繰り出していく。
「もちろんです。それに服装検査は島田先生を中心に先生が行うことで、我々生徒会の範疇ではありません」
おっと、いきなり島田先生を切り捨てましたよ。
「島田先生も同意見ですか?」
島田先生、ちょっと驚いた様子ですが、このくらいは予想していたのかも。
「もちろんです。失礼な発言は審議を中止にしますよ」
「わかりました。ではデータを検証してみましょう」
「「データ?」」
島田先生と由梨先輩の声がハモる。
「平賀審議委員長、参考資料として資料1を提出します」
「わかりました」
私が資料を傍聴席と由梨先輩と先生達に配る。結構、探すのが大変だった。『校則遵守強化月間のデータのまとめ』と書かれている。
服装違反数:鹿ノ倉高穂47回、天野洋子44回、38回、37回、国見由梨43回、23回、32回、41回など、名前と回数が書かれている。期間中の違反総数2,736回。うち男子生徒653回、女子生徒2,083回とも書かれている。
「これは島田先生が昨年度一学期の終わりに、生活指導集会で発表されたとき議事録です」
「どこでこんなものを? 生徒会で保管してるはずです。盗んだんですか?」
「違います。本校では、学校の成績や学校の運営に疑問を感じた時は、生徒会に対して開示請求権が、『去年から』認められています。大概は却下もしくは、事実が確認できないされるそうですが。
神木会長が決められたことです。ボクらは規定の書類をオリエンテーションが終わった翌日に提出しました。片っ端から出しましたので、本来の書類とまざってかなりの量だったことでしょう。もし、そんな書類の内容を確認せずにおしえていたのなら、業務怠慢では?」
「生徒会側どうですか?」
「もちろん、把握しておりました。一応確認したまでです。偽造の可能性もありますので、私の判子に間違いありません」
まだまだ余裕がありそうです。
「提示書類の正当性が認められたところで、内容の検証にうつりましょう。先生方は、昨年の生徒会に対して、ずいぶん厳し指導されていたんですね?」
「心の乱れは服装に出ます。僅かな気の緩みが大きな過ちにつながります」
島田先生もまだまだ余裕です。
「ボクらもその意見には賛成です。ですから、A組女子の服装にはかなり厳しいチェックをしています。もし、この指導に悪意があったとしても、もう保管期間が終わっていますので、破棄されていて検証できません。それにボクらは、先輩達が受けた指導をどうこう言うほど、正義感がありません。会ったこともありませんし」
傍聴席が少しざわつく。木槌を叩く平賀先生。
「問題はこのあとです。平賀先生。資料2を提出します。これは、昨年度の年間指導回数と推移をまとめたものです」
昨年度の個人別、指導回数などが細かくまとめられている資料だ。全員分を照合するのは、A組女子だけでは手が足らず、男子はもちろん、科学部の先輩達も手伝ってくれた。もともと勉強は好きな人が多かったで助かったよ。
「さきほどの資料にあった、昨年の生徒会員の方は、その後もある人物達を除いて、基本的には維持もしくは増加しています。特に、鹿ノ倉高穂副会長、司馬美優さん、品川晶さんに至っては、3倍増しています。
ちなみに、昨年の鹿ノ倉高穂副会長と品川晶さんは、推薦入試で大学を受験しておられますから、不良だったとは考えにくいです。国見副会長どう思われますか?」
「生徒会は生徒の模範ですから、寄り厳しい基準で指導頂いているんだと思います」
「先生方はどうですか?」
「同意です」
先生方と聞いても、島田先生が一人で答えている。どうやら島田先生は見捨てられみたい。
「それではグラフを見てください。ある時期を境に、指導数が全員下がっています。先程の三人の先輩達も激減し、ほとんどなくなりました」
「島田先生の指導が伝わったのでは?」
由梨先輩は余裕しゃくしゃく。
「なるほど、そういう捉え方なわけですね。問題はその時期なんです」
「結城くんは、もう少し凡人の私にもわかるように」
「気をつけます! 体育祭翌日をきっかけに、ゆっくりジワジワと数字が下がっていきます。つい、一週間ほど前まで右肩上がりだったのです。そして、神木会長就任で遂に今の状況になります。資料3を提出します」
『指導記録と懲罰ポイントの推移』と書かれた紙。
「これは昨年の体育祭終了後から3月末、始業式から先週末までの指導記録と懲罰ポイントの推移です」
「正常だとおもいます。きちんと指導されていますが?」
ユウキ君の意図が読めず、少し困った様子の由梨先輩。強気な女程、責められると弱いというの本当だね。
「一見そう見えますが、ある法則性がります」
ざわつく傍聴席。平賀先生が木槌をたたく。
「先程ある人物達を除いて増加したとお話しました。もう、おわかりですね。体育祭を境に、生徒会に加わったメンバー以外は例外なく上昇しています。更に天文部などの、神木会長・国見副会長の部活関連、クラスメイト、中学の先輩・後輩などだけが極端に下がっています。これ偶然でしょうか?」
「異議あり! 平賀先生! 科学部は憶測で語っています!」
「異議を認めます。科学部は事実のみで答弁するように」
ああ、ユウキ君怒ってるよ。ここで素直に認めちゃえばよかったのに。
Written by ロッキー.
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