投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 第3章 p.04

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



(3)

ちょっとメールしてトダカンに聞いてみるか。

『お疲れ様です。今、入学式が終わって、オリエンテーションに向かうバスの中です。オリュンポス十二神と、黄道十二宮の子が留学してるみたいなんですが、環奈さん何か聞いてらっしゃいますか?』

トダカンは上層部からの信頼も厚い使える先輩。きっと、なにか知ってるはず。

『お疲れ。歩美のことだから、最短で自主退学してバラエティーのエピソードづくりとか考えてそうだけど、ちゃんと二人の面倒見るように。

その二人は、アイドルとしてだけでなく、学業もスポーツも優秀で、文部科学省が招待した超優秀な外国人留学生なんで、下手打ったら、アイドルどころかタレント生命終了なんで。

学校の寮でも仲良くやってね。入寮の手続きはもうしてあるから、荷物も送っといた』

はぁぁ? 通いって言ったじゃん! 騙されたぁぁ! 今いる寮から通うと思ってたのに。レッスンとかどうすんだ! レッスンとか! 学業優先なんて絶対嫌だからね! アイドルの高校1年生って稼ぎどきだよ? いつ稼ぐの? 今でしょ! だよ。

『歩美のことだから、サボってレッスン行くとか普通にしそうだから』

全部お見通しってか! 流石は教育係だね!

『勘弁して下さい。この学校は変ですって。スーパーモデルみたいな女子ばっかりなんですって。勉強するどころか、潰されちゃいますって』

『オーナーに直接言ったら? 私も中間管理職みたいなもんだからさぁ。で、この場合、どっちの味方かって歩美ならわかるよね? こういうケースで私が歩美の味方だと思う?

ちなみに、これは内緒なんだけど、その二人と歩美はユニットデビューが決まっているみたいだよ。文部科学省のタイアップ付き。

あと、オーナーの幼馴染の美術の先生がやっている部活の学内ラジオのレギュラーもあるかもって。パーソナリティーは野村愛花と、もう一人は知らない』


※ここから

野村愛花だって! 野村愛花といえば、我らが秋田いや、北陸・東北が(勝手に)世界に誇るスーパースター。

自己紹介のときだって、『秋田県出身です』『へぇ~』なのが、『秋田県で、幼稚園と小学校の先輩に、野村愛花がいます』『マジで?』というくらいリアクションが変化するスターです。高学年で上京しちゃったから、顔を合わせたこともないけどね。

朝の連ドラは当然毎日見てた。レギュラーの深夜のラジオ番組も毎週欠かさず聴いてる。この高校に通ってるのは知ってた。留年したときに、ネットで大騒ぎになって、すぐに特定されてたから。文化祭で自主制作の映画を公開したらしいことも知ってる。

最近は仕事も明らかにセーブしてて、どうしたのかなぁと思ってたけど、一日警察総監とかピンポイントで大きな仕事しててすげぇなぁと思ってた。

アタシはアイドルだし、演技もしたこと無いから、もしやるなら、主役ではなく、脇役で、たくさん出演して稼ぎたい。だって、主役って当然、出番多いし拘束時間が長いから、回転率悪いからね。プロモーションもたくさんしなきゃいけないしね。

そういう意味でも、ここでお近づきになっておけば、何かの縁で呼んでもらえるかもしれない。

計画変更だ! なんかトダカンの思惑通りに動かされるのはシャクだけど、トダカンを敵に回すのはまずい! 何故ならトダカンは、文部科学省のキャリアウーマン。他の官公庁にも知り合いは多い。

もし、『峯岸歩美って良い噂聞かないんだよね』なんてでっち上げられた日には、そういうお仕事は一切アタシに振られなく無っちゃうレベルですよ。そういう悪い噂はスポンサーにも伝わり、ドラマやバラエティーでも敬遠され、負のスパイラルにまっしぐら。

※ここまで0.1秒

『悪いようにはしないから、ちょっと頑張ってみ。実学が多いコースだから歩美に向いてると思う。私的には大学にも進学して欲しいと思ってる』

サラッと大学とか言ってるし、アタシは絶対行かないからね!

「わぁお。ゴーストが出てきそうな建物ね」

「こんな犬小屋で一週間も生活できるの?」

A組の女子が悲鳴を上げてる。口を手で抑えて泣いてる子も……。いやいや、日本にどんな幻想を抱いてきてたのかね? どこもあんなもんだよ? 確かに古いし、ボロいけど、研修に使う施設なら充分だよ?


(4)

バスが研修施設の入口に停車し、荷物をバスのトランクから出していると、ピーというホイッスルの音。

『A組女子集合!』

入学式の担任だって紹介された年配の先生。平賀先生と、アメリカ人のリリィ先生だっけ。

さっき騒いでた関西弁の女子達がダッシュで整列する。四人がビシっと整列する。

「よろしくお願いします」

慌ててA組の女子が横に並ぶ。

「遅い! ピシ! ピシ!」

リリィ先生が右手に持っていた鞭で頬を次々殴っていく。鞭っていうか、竹刀みたいな色してるね。痛そう。

「中学生気分が抜けていないようね。義務教育とは違うの。いつ辞めてもらっても問題ないのよ」

「リリィ先生、いきなり、それは可哀想ですよ」

「これから、三年間、ホイッスルの音が聞こえたら、一秒で整列、番号を点呼の上、報告してください」

まだ何が起こったかわからないので、呆然としているA組女子達。再び竹刀で全員が今度は背中を思いっきり叩かれる。


「返事は一秒以内で。『はい』とだけ応えるように」

「……」

再び全員の背中が叩かれ、数人が悶絶する。

「私が『休め』もしくは『良し』というまで、気をつけの姿勢は何があっても崩さないように」

「はい!!!」

「ええっと、草薙天羽さんに、三条撫子さんに、山崎碧さんと山崎光さん。流石は厳しいセレクション通過者です。物分りがよろしい。山崎さんは、双子ですから、名前の碧さんと光さんと呼ぶことにしましょう。

女子クラス委員は草薙さんを任命しましょう。三年間、A組女子をまとめてください。A組女子は学年の代表です。クラス委員ともなると、各学年のクラス委員と連携を取り、課外活動でも学校を代表することになります。

詳しくは寮に帰って、吉原さんや藤原さんに聞いてください」

「はい!」

「みなさんも、三年間、協力して頑張ってください。私は担任として、どんな優れた人間でも、協調性のない生徒を進級させるつもりはありませんので。

今の気をつけの姿勢を一つ見ても、みなさんまだ、我が校の求めるレベルに全く達していません。みなさんはA組です。超高校級になってもらわないと困ります」

A組女子の顔がみるみるこわばっていく。


「でも、安心してください。そのための、オリエンテーションです。一週間で、A組女子の所作や心構え、過ごし方を全て叩き込みます。そして、来週からは立派なA組女子として、学内外で振る舞えるように、してさしあげます。

ちなみに、三年間みなさんは運命共同体ですから、全て連帯責任です。一人が寝坊すれば、全員がリリィ先生から鞭をお見舞いされますし、ノーガードの状態で、折笠先生のファイナルキックをお見舞いされます。

当然、懲罰ポイントも全員一律で加算されます。クラス委員、書記係等の役職者はさらにボーナスポイントが加算されます。わかりましたね?」

懲罰ポイントってなんだろ? 気になるけど、質問とかできなさそう。

「はい!」

全員が再び鞭で叩かれる。

「声が小さい! もっと大きな声で」

「はい!!!」

「先程言いましたように、みなさんまだ中学レベルですので、伝統ある制服を着用する資格がありません。合格ゴールなどという意識の低い方は、即座に退学していただいて結構。

下着も校則に従って、私か副担任に申請を行い、寮の売店にて購入したもののみ、許可とします。全員脱いでください」

寮にはまだ行ってないわけで、当然、売店なんて行ってないよねぇ。


「先生! 研修センターには男子もいるんですよね?」

お、ブロンドの美女が長い手を挙げる。

「それが何か?」

「あの、恥ずかしいといいますか」

「わかりました。ではみなさんには、これから『最低一週間』野宿していただきます。荷物はこちらで保管しておきますので、全員手ぶらで結構。トイレはスコップがありますので、穴をほってください。

これなら、男子の目には触れませんし完璧でしょ? 皆さんの進捗次第では一ヶ月になるか、もしかしたら、来年の1年生が来てもさらにという可能性もありますので」

「靴も、ソックスも、制服の一部ですので、あと、ストッキングやメイクは戻ってからも一切禁止ですので、そういうのは卒業してから自習してください。

高校生には必要ありません。上級生は『屁理屈』をこねてるようですが、私の場合は、もうお分かりと思いますが、即退学にしますので。

ちなみにみなさんの部屋は、リリィ先生と折笠先生が24時間365日リアルタイムで三年間監視しますので、部屋の男子と不謹慎なことをすることがないように。

もっとも、仮に襲われていたとしても、プライベートな空間ですので、我々はあくまで監視しているだけですから。

先に言っておきますが、逆手に取って自慰行為やレズ行為を見せる等ということのないように、もしそういう挑戦的行為があれば、即座に全世界にその映像を公開しますので。

上級生の中には、監視カメラをハッキングできるスキルを持った生徒が大勢おりますので、ご注意ください。それは制服を脱いでください」

情報多いなぁ。A組じゃなくて、良かったぁ。


生唾を飲みこくような美女達が次々とフルヌードになっていく。ブロンドの子って、下の毛もブロンドなのかと思ってた。

「平賀先生が休めって指示しましたか? いちいち隠したり、クネクネしない」

鞭を右肩に当てながら、A組女子の前を行ったり来たりするリリィ先生。

「そこ、早く脱ぎなさい。自慢のボディーを勿体ぶりたいんでしょうけど、指示に従わなければ、どうなるかまだわからない?」

赤毛の女子が泣きながらスカートのホックを外してる。

「みなさんは優秀なアスリートだったり、科学者だったり、タレントさんだったり、お嬢様だったりするそうですが、私には一切関係ないので、特別扱いはしませんので。

私が『カラスは白い』とお話したら、街中のカラスを『全員で一致団結』して、白に染め上げてください」

「はい!!!」

基本、素直な子ばっかりなんだろうね。育ちも良さそうだし。

「それでは、みなさん。まずはあちらにあるグラウンドを走ってください」

A組女子がバラバラと歩き出す。

「言い忘れました。みなさんは個ではありません。A組女子という『一つの人格』だと思ってください。体育の時間はもちろん、教室間の移動の際も、クラス委員を先頭に、二列縦隊。

手は大きく振って、足の高さ、顔は正面を向いて、全て揃えてください。駆け足の時は、腰に肘が当たるようにきちんと腕を曲げ、当然、腕のふり、膝は胸の高さまで完璧に揃えてください。

掛け声は『12121212121212』と大きな声で全員で声を出すように。行進の時は、クラス委員から順番に『歩調』といって歩くこと」

「はい!!!」

いきなり、情報量多くて、何が何やらもうわかんないんだろうなぁ。

車の音……。

「お待たせしましたぁ」

軍用ジープには、折笠先生が乗っている。

「ちなみに、ゆっくり揃えようなどと思わないように、すぐ後ろに私達が走っておりますので、A組女子は常に『何事も全力投球』です。車は一定の速度ではなく、速くなったり、遅くなったりしますので、隊列を乱さぬよう。それでは走ってください」

ところで、アタシ達は何をどうしたら良いんだろう? 誰も来ないんだけど。


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