投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 第3章 p.03

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



■ 入学式直後 商・工・農業コース 1年生 峯岸歩美 ■

(1)

他の新入生達が楽しそうに賑わっているバスの車内。前方は進学コースのA組の連中。後方はアタシ達のクラス。前方のいかにも優等生達と違って、後方は金髪だったり、ピアスしてたり、人相の悪いのばっかりだなぁ。

外国人の不良ってのを見たこと無いから、金髪で不良なのか、それとも地毛なのかはわかんないけど、前方の外国人留学生は、みんな黒髪に染めてるから指示を無視してることは間違いないね。

そもそも、ガムをクチャクチャしながら、大きなヘッドフォンして音楽聴いてるのがいる時点でバカンスと勘違いしてるね。ていうか男子少なくね? 70人のクラスで、10人位しかいないぞ。A組はよくわかんない。

まぁ、良いや。高校なんか一秒で辞めてやるよ。

スカウト組のアタシには積み重ねが全くない。少しでもレッスンを増やしたい。やりたいレッスンはいくらでもある。ダンスレッスン、歌唱レッスン、アフレコレッスン、アクションレッスン、演技レッスン、インタビューレッスン、テーブルマナーレッスン、外国語レッスン等など。

最後まで進学を断固拒否した結果、芸能科のある高校の受験を逃してしまいましたとさ。

結局、このクソ辺鄙な場所にある高校に強制的に入学させられた。今は、さらに辺鄙な場所にあるという研修センターとやらに向かうバスの車内。

高杉オーナーが先生やってる高校らしい。暗黒期に手を差し伸べてくれたとかで、プロデューサーですらオーナーの言いなりみたいだから怒らせない方が得策みたいだし、とりあえず入学してすぐ辞めてやるよ。これなら文句あるまい?

『高校には入学したんですけど、なんか合わなくて、一日でやめちゃいました(ドヤ)』

これで、トーク番組一巡はいけるね。こういう地道なエピソードづくりが大事なんですわ。


敷地内を自動運転の電車やバスが走ってたり、建物入るたびに自動的に生体認証されるとか映画みたいな高校だなぁ。なんか変な実験に使われてんじゃないか。まぁ、アタシはどうでも良いけどね。

「ウチらの担任の平賀先生、素でエグいねん! みんな三年間大人しくしよな。リリィ先生は見たまんま鬼やし、折笠先生も大人しそうな感じやったけどハンパない思うで」

「なんで、あなた、そんなことご存知なの?」

「あんなウチらセレクションやねん。二人共やることエグいねん。このバスも油断しとったら、崖から転落とかハリウッド映画みたいなことあるで」

興奮してるのか、はしゃぎ過ぎなのか。早口で関西弁丸出し……。お上りさんか? アタシも半年前まで、秋田の山の中に居たわけで、人のこと言えないけど。

「いや、初めて見る。俺は京都だけど、あんな騒ぐ京都人みたことあらへん。応仁の乱以降に京都に住み着いたなんちゃって京都人やと思うで」

二人がけの反対側の二列に座っている男子の話が聞こえてくる。ていうか、窓際の方でけぇよ。縦にも横にも。柔道部か? アメフト部か? いやいや、相撲部かも?

「二条君だっけ? ボクは道明寺誠一。名前似てるけど、一条真理さんって人の知り合い? 姉がお世話になってて、その縁で普通の生活が出来るようになったんだ」

「一条家の当主はすぐわかる思うで。俺も新年の集まりで、親父の後ろからみとっただけやけど、ぎょうさんおる中でもすぐわかったやさかい」

「二条君って新入生総代だったのに、なんでこっちのコースなの? 推薦でしょ?」

「高校生活っちゅう貴重な青春の一ページを、何が悲しくて、あんなドM生活おくらなあかんねん? カリキュラムみたやろ? 半年で三年分勉強するから夏休みも無しとかアホちゃう?」

その後、どうするんだろう。受験勉強か?


「同感だよ。気が合うね。ボクは在学中に商業系の資格取りまくって、帝都大学理三に進んで弁護士と医師免許取ろうと企んでんだ」

「俺は実家が鍛冶屋だから、工業系の資格とらなあかんねん。医師免許言うたら、あそこで大騒ぎしてんのも多分取るで。黙っとったらモテるのになぁ。

なんやようわからん、横文字の長い名前の大学志望らしいけど、俺、横文字苦手やねん。詳しくは寮で聞いてみ、なんやあの馬鹿二人と同じ部屋らしいから」

「部屋割もう知ってんの?」

「あの背の高い方、草薙いうて、京都より西じゃ知らんもんおらへんお姫様やねん。その親がそういうてたから間違いあらへん」

ふーん。草薙、京都。まさかとは思うけど、草薙武尊大学の関係者かね? ググったら真っ先に出てくるレベルだよ。まぁ、アタシには関係ないや。

本当は入学式の直後に退学届出してやろうと思ったんだけど、入学式が終わったら強制的にバスに乗せられた。最短記録狙ったんだけどなぁ。

外の景色は故郷に近くなっていく。これ、本当に東京か? 脱走してどうやって帰るよ? ヒッチハイクか? アイドルが? 絶対、色んな偉い人に怒られうよ。特に、教育係のトダカン(戸田環奈)に絶対怒られる。

大人しくオリエンテーションは受けることにしよう。帰ったら、すぐ、退学届を出してスパっと芸能活動に専念しよう。

暇だし、配られた部活の勧誘チラシを眺めることにしよう。

「華麗なる帰宅をしませんか」

帰宅部って東京では部活なのか?

「じゃんけんをオリンピック競技にしよう」

この腕組みしてんの、A組の副担じゃね?

何枚かがパラパラと床に落ちて、隣の席の女子の足元へ。女の子はパソコンに夢中で気がついてない。目が血走ってる。ときたまカチカチと鬼クリック。

デイトレーダーかな? でもタイピングもしてるからトレードって感じじゃないんだけどなぁ。まぁ、後で拾えばいいや。帰ったらすぐ辞めるわけだし、部活必須だろうが関係ないし。


(2)

「ねぇ。そこのアンタ」

なんだ? チラシが影で暗くなる。上を向くと、後部座席からブロンドのロングヘアーをなびかせた美女が身を乗り出している。外国人じゃん。英語とか出来ないぞ。ガッツリ日本語で話しかけられたとはいえ、聞き返されたら面倒くさい。

「アイキャントスピークイングリッシュソリー。シーユーアゲイン」

「モスクワから来たの。マリアっていうのよろしくね。ロシアでモデルや女優をやってたんだけど、不景気だから仕事の多い日本に来てみたの。

あなた、同業者でしょ? 日本に来る前にネットで見たわ。ロシアと秋田は友好都市よね? 私達も三年間友好的な関係を築きたいものね」

同業者? しかも、こんなスーパーモデル(イメージ)みたいなのが、一緒に並んでてみろ。誰かがネットにアップしようもんなら『世界的公開処刑』だよ! 絶対関わりたくねぇ~。

「早速なんだけど、誰かエージェントを紹介してくれないかしら? 高校までは両親の財力と、コネでなんとかなったんだけど、ここからは自力でなんとかしないといけないの」

アテもなく日本に来て、芸能活動するつもりなのか! よほどの自信家か、ただの馬鹿だね。まぁ、原宿とか歩いてみれば?

まぁ、確かにルックスは良い。女優を見慣れているアタシが見ても、ひと目でスーパースターになるんだろうなぁって思う。椅子で見えないけど。スタイルも良さそう。ていうか、腕が長い。この分じゃ脚も長そう。

けど、残念だね。生き馬の目を抜く芸能界で生きるアタシにそんなこと言っても意味ないから。しかも、同い年、キャラはよくわかんないけど、被ってるかもしれない。日本には出る杭は早めに打っておけって諺があるんだよ。


「人違いじゃないかな? アタシ、芸能人とかよくわかんないっぺ」

「そうなの? それはごめんなさい。可愛い子だったから、てっきり、同業者かと。お名前は?」

「歩美って呼んで。まぁ、アタシはすぐ辞めるけど」

「え? どうして?」

「え、だって、勉強とかあんま好きじゃないし」

「高校くらいは出ておいた方が良いわ。それに将来、外国で仕事がしたくなったとき、ビザも……」

意識高い系か。やべぇ。変な地雷を踏んじゃったみたい。

「はーい。お二人さん。私はヘレン。オランダから来たのよろしくね」

後ろの隣の席の女子も顔を出す。握手を求める手が大きい。ヘレンも綺麗なブロンド。

「ヘレンはバレーボールの選手なんですって。A組の女子にこっぴどくやられて、そのリベンジにわざわざ、プロチームの誘いを断ってきたそうよ」

「私だけじゃないわよ。前にいるブラジルのマリーナ、ポーランドのアンジェリカ、アメリカのノアバーグとポールマン、後部座席にいるイタリアのディアナもそうよ。

もっとも、バレーだけじゃ食べていけないから、サッカーと掛け持ったり、モデルや女優やってたり、みんな大変みたいだけど」

どういう高校なんだと。アスリート多すぎじゃね。まぁ、アイドルのアタシがいうのもなんだけど。しかも、そんなに同業者多いんだ。


「今年からスポーツ推薦が無くなって、A組の枠は優秀な人を、上から順番にとって、すぐに一杯になっちゃったんですって」

「A組に漏れて、セレクションに落ちて、滑り込みでこのコースってわけ。三度目の正直って言うんだっけ? それによく考えたら、農家だしちょうどいいわ。お嬢様達とは住む世界が違うから、会話があいそうにないもの。

さっき言った女子はみんなIQ200以上の才女ばかりだし、オリンピック候補とか、有名人ばかりよ。改めてメンバーを見て、とても、やってける自信ないわ、漏れてよかったのよ。

三年間、教室の隅で惨めに寂しく過ごすよりも、このクラスで着実にやったほうがマシね」

そんなに凄いメンバーなんだ。容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀、スタイル抜群、家も金持ち。なんなんだよA組って!

「ところで、アタシも実家が農家なんだけど、何を作ってるの? ウチはお米。ライス?」

「父と兄がトマトとパプリカ。母と姉は花が好きだから、チューリップ畑をやってるわ。私はバレーしかやってこなかったから、ここでしっかり勉強しておこうと思ってるの。引退したら私も手伝うことになると思うから。兄と姉はサッカーの選手だったのよ」

反対側に座っていた(男子の後ろ)ちょっと大人びた感じの女子が立ち上がって会話に入ってくる。

「面白そうな話をしてるわね。私も混ぜてくれないかしら? イスラエルの農業研究所から来たアグロンよ。一学年先輩に、『兵役時代の優秀な後輩』が居て、彼女に誘われて留学してきたの。中学を卒業して兵役についてたから、護身術程度ならいつでも教えるわ。

それに、この高校の研究棟は世界でもトップレベルの研究施設でハイテク企業とも合同研究にしてるから、その視察も兼ねて。

私は『19歳』だから、『敬語を使いなさい』と言いたい所だけど、このクラスのみんなは、長い付き合いだし、『特別に』タメ口で許してあげようと思ってるの。卒業したら、祖国に帰って上級研究員を目指すから、三年間だけのお付き合いだけどよろしくね」

また、スーパーモデルみたいなのが出てきたぞ! 処理しきれないよ! しかも、当たり前のようにみんな受け入れてるし、なんなんだこれは!!


「女優とか言ってたわね? 横で寝てるベネズエラのメンドーサも、4歳から10年もジゼル美の大学に通ってたらしいから仲良くしてあげて。

後ろの席で寝てるのは、窓際がギリシャのアテネから来たアダムと、通路側がベラルーシから来たユリアよ。二人共、祖国が不安定だから出稼ぎに来たんですって。

見ての通り美人でグラマラスでしょ? 背も高いし、モデルとか女優とか向いてると思うのよね。

それに、二人共スポーツも得意らしいわ。アクションとか向いてそうよね。アダムはオリュンポス十二神? ユリアは黄道十二宮? っていうのセンターだったらしいわよ」

ふざけんな! ただでさえ、スーパーモデルみたいなのばっかりのクラスで迷惑してんのに、そのうえ、オリュンポス十二神に、黄道十二宮って、

煩悩108のギリシャ版とスペイン(後発のヨーロッパ全土対象)版じゃないの! しかも、美人だし、一緒にフレームに収まりたくねぇ。

このクラスやっぱ変だよ! 全員が全員美女ばっかりだもん。もしかして、どこかに売り飛ばされるんじゃないよね? そんで『ドッキリでした』みたいなパターンじゃないよね? どっかにカメラあるのかね?

キョロキョロしてみたけど、カメラは見当たらない。そもそも、アタシでそこまで画面が持つとは思えない。


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