投稿作品集 > 体育教師奈津子 番外編 第1章 p.07

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



■ BEYOND THE しごき-1 1年A組 源 小町 ■

重苦しい雰囲気の懲罰室。池西先生と島田先生が目の前に座っている。

「何かしら話って?」

「私になにか隠し事をしていませんか?」

「意味がわからないわ。私達はソリは合わないけど、うまくやってきたじゃない?」
「何のことだ?」

間違いない。池西先生と、政代ちゃんは別の取引をしている。これは、私の望んでいる普通の学校生活ではない。

最近のしごきは、言いがかりの領域を超えている。誰かが積極的に情報を提供することで、情報を流しているとしか思えない。

と、実験のときに鹿ノ倉高穂が言っていた。言われてみれば、クラスメイトも、何度かよくわからない理由で、特別懲罰を受けさせられていた。

政代ちゃんが放課後、取り巻き達と校内をうろついて作っている可愛い子リストと一致することに気がついたのは今朝のことだ。鹿ノ倉高穂に飽きた政代が、次の獲物を物色しているのではないと思った。

スペシャルな特別懲罰(懲罰ポイントのたまったあとのをこう呼ぶ)を免除する代わりに、臨時部員として科学部に入部させるつもりなのではないか。

しかし、どっちの体育教師と繋がっているのかわからなかったのだ。島田先生が今更、その取引に応じるメリットがなさすぎる。

情報なら定期的に私から入手しているし、私を通じて政代ちゃんに、鹿ノ倉高穂の扱いについて注文するくらいだから、そんなに頻繁には会っていないはずだ。

しかし、池西先生は、男性だし自分でしごきたいタイプ。政代ちゃんにそれをやらせる理由がない。それで質問したわけだ。


夜、真っ暗な職員用駐車場で島田先生を待ち伏せる。発進しようとしている車の前に、パッと飛び出してみた。島田先生は「うわぁぁ」という大きな声をあげて驚いていた。

「危ないから、二度とやっちゃ駄目よ。私が送らなかったら、どうやって帰るつもりだったの? 家の人大丈夫よね? 警察とか連絡いってないわよね?」

服部さんには、ちょっと先生に質問があるので、遅くなることは伝えてある。

「池西先生は嘘をつきました。おそらく政代ちゃんと、池西先生は別の取引をしています。このままのペースでは、いつか大きな問題になるとおもいます」

「どうして、嘘だって思ったの?」

「私はしていないのか? と聞きました。していなければ、先生のように否定するはず。思い当たることがあるから、「何の」という言葉がでてきたんです」

「なるほどね。言われてみると、そう取れなくもないわね。でも、それだけで、先生動くのは嫌」

何の証拠もないですしね。職場でそれやると後が面倒だから、勝ち馬に乗るタイプの先生は動かないと思うと、鹿ノ倉高穂も言ってました。

職場で何が面倒なのかは、私にはよくわかりませんでしたが、証拠がないのは、私もそう思いました。

「私は私のために、行動をしようと思います。このエスカレートの仕方は良い結果をうみません」

「何をするつもりなのかしら?」

「先生には、迷惑をかけないようにするつもりです」

お互いに、共通の話題も無いので、その日はそのまま家に送ってもらいました。屋敷の中は私道なので、自由にスピード出して問題ないと言ったら、毎時150kmくらいだしてとても怖かった。先生はスピード狂らしい。二度と招かないようにしようと思った。


翌日、通学の車の中で、服部さんに恐る恐る、真桑先生と話すことを伝えてみた。怒られるか? と思ったが、服部さんは、私が立派になったと逆に褒めてくれました。

反抗期がなかったので、ちょっと心配をしていたらしい。そんなに、反抗して欲しかったの?? ちなみに、政代ちゃんは、恐らく反抗期真っ盛りで伊賀さんが困っているらしい。

服部さんの許可も得たので、学校につくと職員室にすぐ向かいました。職員室には滅多に行きません。科学室の鍵は、いつも政代ちゃんが取りに行っています。

「先生と父がどんな関係は知りません。で何をしようとしているのかはしりません。その点は別に興味が無いので、とりあえず鹿ノ倉さんの誓約書を破棄してください。もし、してくれなければ、父にあることないこと言いつけます」

真桑先生は眠そうに欠伸をしながら、自分にメリットが何もないと、相手にもしてくれません。

「でも、先生、実験にもこないし、科学室に来たことないですよね? デメリットもなくないですか? プラスマイナスゼロなら、別に破棄して問題なくないですか?」

職員室に居た先生達が、チラチラとこっちを見ている。

「なるほど、考えましたねぇ。確かにそれなら、僕が破棄しない理由を言わなければならない」

腕組みをして、困った様子の真桑先生。

「でも一年に一回しか会えないんじゃなかったでしたっけ?」

「そのルールを破って、わざわざ直訴する娘と、赤の他人の先生。父はどちらを信じると思いますか??」

職員室が騒然とした。

「鹿ノ倉さんには、もう、科学部にはこなくていい。ペンシルテストや入試の健闘を祈ってると伝えて下さい。データも文化祭が終わったら、適切な方法で破棄するので心配しないで欲しいと。今度、廊下で会ったら、ただの1年生と3年生だとお伝え下さい」

「理由を聞かれたらどうしましょう?」

「冷静に考えると、罰が重すぎた。あるいは、私の特訓が職員室で大問題になったと。この前、特訓中にばったり他の先生に会いましたし」

しばらく考えこんでから、真桑先生は机の引き出しから、一枚の紙をだすと私に渡してくれた。



■ BEYOND THE しごき-2 体育科教師 島田 奈津子 ■

今日は少し早く仕事を終えることが出来た。体育祭の準備は大変だが、とてもやりがいのある。出来なかったことが出来るようになった生徒達は、きっと大きく成長してくれるはずだ。

生意気な生徒会の小娘達をしごくのはとても楽しい。アクセルを踏む足がちょっと強く踏みすぎた。メーターが制限速度を大きく超えてしまった。

「スピード違反ですね。左手にある喫茶店に止まってください」

後部座席から声がする。え? パトカー? サイドミラーをみるが、車は走っていない。

「コンプライアンス違反で、懲罰にするぞ」

ドスの効いた声が左耳に聞こえる。ルームミラーを見ると、シート下から数学の真桑先生が出てきた。慌てて急ブレーキを踏む。

「え? え?」

「危ないでしょう。急ブレーキしたら、Nシステムのカメラの画像消して欲しければ、喫茶店に入ってください」

真桑先生とは、4月の懇親会のとき、一度話したっきりだ。体育教師と数学教師で、全く接点がないので、会話も必然的にすることがない。

そもそも、言い方は悪いが、存在感がないので、気がついたら職員室にいて、いなくなっているタイプだ。仕事が終わればすぐに帰ってしまうので、生活のサイクルがちがうのだ。


真桑先生がコーヒーを二つ買ってきてくれた。トレードマークの、大きな丸いメガネ(のび太くん)が湯気で真っ白になる。メガネを外すと、切れ目の鋭い眼光が顔を出す。ちょっとドキッとした。

「天才の人の中で、私を待ち伏せ流行ってるのかしら?」

「なんのことでしょうか?」

共通点といえば、、藤原と源と鹿ノ倉だが繋がってはいないと言っていた。それに鹿ノ倉に対するしごきに対して、異議を言ってくるタイプでもないと思う。

「何で後部座席のシートの下に隠れてたんですか? 軽く犯罪ですよ?」

「スピード違反の常習犯と、お互い様です。お互い胸のうちにしまいましょう」

こんなにハキハキ喋るタイプではなかったはずなのだが。

「既にご想像かと思いますが、僕達のチームは、父とその友人の依頼でこの学校に来ました。単刀直入に言います。僕達と手を組みませんか? 取引ではなく、運命共同体です。僕達は三年で学校を去るわけではありませんから」

話の展開が全く見えない。この聞く者を苛つかせる端的な言い草、源の関係者か? それなら、家に行った時点で、どうとでもできたはず。何者なんだろう? 僕「達」と言っていた。

「私が協力するメリットは?」

「僕の右腕として学校を実質的な運営してもらいます」

真桑先生は何を言っているの? 右腕? 運営?


「まだ、正式発表は先ですが、体育祭終了後、僕は理事長兼任になります」

「ありえない。その若さで?」

「依頼達成のためには、必要と判断し、理事会の承諾を先程得ました」

「なんの依頼なのよ? あなたは何者なの??」

話の展開がサッパリ見えない。確かに幹部候補生なのではないかと噂はされいたが、あまりにも影が薄いので、いつの間にかその噂も消えていった。

「ビジネスと学校教育の完全な両立。大学の株式会社化の話はご存知ですよね?

父や理事会のメンバー達は考えました。少子高齢化、長引く不況。果たして大学までたどり着ける優秀な人材が、どれだけいるのだろうと。優秀な人材の確保は、国際社会での競争力の確保、ひいては国力の維持のために必須ですから」

なんか壮大な話ね。国力とか言われもなんか実感がわかないわ。

「そして、結論にたどり着きました。中学校では早すぎる。私立高校をモデルケースにしようと、この学校の、100年構想はご存知ですよね」

赴任したときに、配布されたけど、目次だけ読んで、机の中で眠っている。


「あなたのお父さんは誰なの?」

「第125代内閣総理大臣。ここまで言えばもうお分かりですね?」

「名前は? どうして名前が違うの?」

「愛人の隠し子なんです。真桑は母の旧姓で、名前は叔父の名前です。僕の本当の名前は、松平総一」

「信じられないわ」と言い終えるよりに先に、胸ポケットから免許を取り出す。松平総一と書いてある。

「でもちょっとまて。なぜ、私に、今、その話をしたの?」

「理由は三つあります。一つ目は先程いったでしょう。父とその友人の依頼だと、島田先生達が水面下で激しく動きすぎてくれたおかげで、現状をソフトランディングさせるには、チームだけでは人が足りなくなったんですよ。二つ目は、今日まで全職員を観察してきて、島田先生なら僕の理想に共感してくれると思ったんですよ」

「あなたの理想?」

「僕は、しごきは社会の縮図だと思っています。もちろん、パワハラや、セクハラや、イジメは論外です。しかし、しごきというのは、平等に誰でも起こり得ることなんです。例えば、生徒から1×0=1の1は、どこに消えるのかと聞かれたらどう答えますか?」

いや、私、体育教員なんでということじゃないわよねぇ。そういう冗談が言える雰囲気じゃないのよねぇ。答えに窮してしまう。


「これだって、ある種のしごきだと思いませんか? もちろん、答えはすぐにはわかりません。会社であれば、それがルールであるで問題ありません。そこが教育と、ビジネスの相入れぬところだと、僕は考えています。

しごきとは寄り添って考えることす。あくまで手段であり、それ自体が目的ではありません。ひとつの対話方法です。別に時間の長短の問題ではありません。生徒達にしごきの先があることを教えたい」

よどみなく話をする真桑先生、いや松平先生? は、鋭い眼光を発している。

「もし、僕のときに、1×0の1の行方を一緒に考えてくれる先生がいれば、僕は別の人生を歩んでいたかもしれません。あるいは、同じ人生だったかもしれません。

世の中は非情です。理不尽があふれています。苦手な人、困った人たくさんいると思います。でも、それとうまく付き合っていかないといけないんだと思います。僕はしごきで、それを知ってもらいと考えています」

確かに、池西先生のセクハラとしごきは、行き過ぎていると職員室でも話題になることがある。私は女性同士ということもあり、周りもあまり多くは語っていないと思う。雰囲気として、線引きが曖昧になっているという思いもある。

「この状況をどうやって丸く収めるのかしら?」

「神木真人君から取引をもとめられていますね。それを受けてください。鹿ノ倉高穂は理事会で、進学と就職までケアします。もう過剰な負荷は許可なくかけないでください。指導は構いません。マスゲームは約束通りにさせてください。池西先生には、予定を早めて、今週末で退職していただくことになりました」

「今週末? えっということは、体育祭が最後なの? そんな急なの? そんなこと出来るのかしら? 組合員でしょ?」

「それが出来るから、今ここに居るんですが?」

背中にゾクッと寒気がした。


「ボロボロになるまで僕と戦うか、ロリコン・変態・体罰教師として、世間からフルボッコにされるか、お金をもらって実家に帰るか、とお伺いしたら現実的選択をされました。

本人がどうしても、ご家族の体調が悪いので退職したを希望されたので、断腸の思いですが組合も承認しました。先生のスピード違反とか、軽くもみ消せちゃうレベルの権力はあるのですが、どうしますか?」

「藤原と源は納得する? しごかれないと思ってるんでしょ? 父の友人達は、彼女達に頭だけでなく、体や心も成熟した女性になることを望んでいます。ようは、しごき方の問題なんですよ。既に理不尽でなければ、問題ないことは確認済みです。

相手に伝わらないしごきに意味はないんです。しごきには、相互の深い理解と、その後のケアだったり、満足感が必要なんです。総理大臣だって、野党や国民から、しごかれるんですよ? 絶対、安全なんて、世の中にはないんですよ。お伽話じゃないんだから」

言っていることじたいは、まともなのに、何故だろうとても怖いと感じたのは何故だろう。しかし、ここでNOといえば、私は恐らく、飲酒運転やスピード違反で、首にされてしまうのかもしれない。

「お手並み拝見といこうじゃない」

私はこの提案に乗ってみることにした。実質的に、取り仕切れるというのはとても魅力的だ。


「交渉は成立ですか?」

真桑先生とガッチリ握手する。

「あ、そうそう三つめの理由なんですが、僕好きなんですよ。働く女性が、難題で困って解決方法を出してきた時の不安そうな表情を見るの。ブルマとか興味なくて」

さっきと言ってること矛盾してない?

「ああ、これは僕個人の嗜好の問題なので。体育祭が終わったら、たっぷりしごいてあげますから、楽しみにしてください。僕だって上からすぐ結果を出せとかいう要求をノラリクラリとかわすんです。これだって、一種のしごきでしょう? 島田先生だって、あれを決めろ、これはどうだとか、理想のために僕をしごいて良いんですよ」

もしかして、私はとんでもない相手と組んでしまったのかもしれない。

「あ、そうそう。来年、年の離れた義理の弟が入学するので、ご指導よろしくお願いしますね」

間違いない。


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