投稿作品集 > 体育教師奈津子 見せしめにされた生徒会副会長 p.02

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【二】

ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴ると、皆慌てて席についた。程なくして現れたのは古文の串田であった。

「本日は、島村先生が地域親睦会の打ち合わせで……うぅ~ん午前中いっぱい掛かるのかしらぁ?

兎に角不在となりますので、何か困った事があったら私串田か、生活指導主任の島田先生のところまで来て下さいね。きちんと対応しますので。……という事で、ホームルームも私が代わりに行います」

担任の真田は修学旅行の下見の為出張に出ていた。また副担任の島村は、串田の言う様に近隣住民また商店などとの地域親睦会の企画会議に参加する為、朝から不在となっていたのである。

当校では、より良い地域づくり、また非行防止の観点から地域コミュニティに力を入れており、近隣自治会などの催事に積極的に参加協力し、奉仕活動を深めていたのである。

そこで一時限目を受け持つ古文の串田が、代理でホームルームを勤める事と成った訳であった。

(串田先生はともかく、島田はないよねぇ)
(何か困ったって、誰がナツメロのとこなんて……)

相当な嫌われ様である奈津子だが、こういう場合に於いては教師間フォローを怠らないのであった。


「昨日から始まった風紀強化月間ですがぁ、残念な事に早くも多くの違反者が現れている様です。生活指導部並びに風紀倫理管理部は、その事を非常に良くない事態であると危惧しています…………」

昨日の生徒総会にて、生徒会副会長から風紀強化月間が始まる旨を、そして校則風紀を遵守する様、全校生徒に向け注意喚起が為されたばかりであるというのにであった。

しかし、生徒達は皆、高穂のあのブルマーの事で頭が一杯で、串田の話などろくすっぽ頭に入ってこなかった。

「あ! そうそう。服装違反と言えば下着もよ! どうやら違反の多くが下着に関するものらしいのよっ! その点も、厳重に注意して下さいと生活指導部からお願いされてきました!

皆さんも……そうね特に女子ねっ、気をつけてね。……まぁ生徒会副会長さんの居るこのクラスでは、その心配も無いかしらね。ねぇ鹿ノ倉さん! “大丈夫”よね」

ドキンッ!!!

「えっ! ……と、あ、と、ハイ………………大丈夫……です」

いきなり自分の名を呼ばれた高穂は心臓が止まる思いであった。肯定するでも否定するでもなく、突然の問い掛けに思わず“はい”と答えてしまった。しかし、それは生徒会副会長としてあってはならない事であった。


早々の服装違反者、生活指導部が危惧しているのは、何を隠そう自分自身の事なのであるから。

さっきもそうだった。真実よりも体裁を繕うばかりに、否、生徒会副会長と云う大層な肩書きが邪魔をしてしまうのか、クラスメート達にさえ真実を打ち明ける事が出来なかった。

嘘に嘘を重ね、もはや本当の事など打ち明ける事が出来なく成ってしまった高穂なのである。

『大丈夫です』その声は、生徒総会などで発言するいつもの“鹿ノ倉高穂”のものとは程遠く、自信に満ち、透通る様なあの美声は見る影もなかった。蚊の鳴く様にか細く、消え入りそうな程小さなものであったのだ。

「どうしたの鹿ノ倉さん? いつもの貴女らしくないわねぇ、どこか具合でも悪いんじゃなくて? ……本当に“大丈夫”?」

大丈夫なのかと尋ねたその言葉の裏には、貴女は本当に校則違反を犯してはいないのね? と問質すものと、血の気の引いたその青ざめた表情を案ずるものとの二つの意味合いが込められていたのであった。

高穂は只小さくコクリと頷いた。

「あらっ、そう! なら良いけど。蒸し暑くなる季節だからといって、薄着でもして風邪なんか惹かないで頂戴ね! ……“これからが大事な時なんだから”」

そう言うと、意味有り気な笑み浮かべる串田であったのだ。


高穂は狼狽した。全身の毛穴から、嫌な汗がパァっと吹き出てくるのが分った。串田の言葉が何を云わんとするものなのか、その微笑みが何を意味するものなのか一瞬にして悟ってしまったのである。

(しっ、知っている! ……この人は私の、このブルマーの事を……全て……みんな知っているんだ!)

この教室に来る前に、串田は奈津子から話を聞いていたのであった。高穂が今、当校指定のものとはまるで違うブルマーを穿いている事、そしてそれを穿く事となった経緯まで全て。

驚愕する高穂を他所に、一時限目開始のチャイムが鳴った。

「ハイッ、それではここからっ、気持ちを切り替えて授業を始めましょう。日直さん号令をお願いします」

そう言うと、串田はパンッパンッと手を叩いて促した。日直である男子生徒が席を立った。

「起ぃ立ぃーーーつ!」

ガタガタッ、キィーッガタタ……。皆一斉に椅子を下げ席を立つ。

「気を付けっ。礼ぇ……」

「あ! はいチョット待って日直さん」

日直が挨拶の号令を掛け様としたその時、串田が制した。


「ちょっとぉ、鹿ノ倉さんっ! …………貴女一体どうしたのよその格好っ!」

起立した途端、その異変に串田が気付いた。教室中央の席とはいえ、一人だけ柔肌を晒したブルマー姿なのだ。気付かない方がおかしい。まあ、串田は初めからその事を知っていた訳であるから、飛んだ猿芝居ではあったのだが。

「えっ! 何? ……もしかして貴女っ! スカート穿くのを忘れて学校に来ちゃった訳ぇ?」

態と素っ頓狂な声を上げた。

(とんだ様ねっ! 校則一つ満足に守れない癖に、ブルマーが嫌だとか我侭ばかり言ってるからそんな目にあうのよ。まっ今日一日、精々その惨めな姿を皆に見て貰って、ブルマー廃止なんて馬鹿げた事をした罪を充分反省する事ねっ)

先程の男子と同じ様な事を言い、驚きの表情を浮かべる串田に、生徒達の間からクスクスと失笑が起きた。

(だろうね! 俺達だってビックリしたんだから!)
(ふんっ、下着にしか見えねぇもんな、アレ!)

しかし、驚いたのは串田だけではなかった。

(((わぁぁ! スゴ……イィッ! ……ちょっ、高……穂っ)))
(((おいおいおいっ!!!)))
(ピチピチブルマー! ……来ぅるぅう!)

先程お笑い芸人の真似をしていた男子生徒が、今度は胸横で拳を握りジェスチャーをして物真似をして見せた。

高穂の後ろに位置する生徒達にとっては、失笑どころではない状態であったのだ。高穂の下半身に鎮座する濃紺の小さなブルマー。それは、先程とはまた違った顔を見せていたのである。


【高穂の穿く、その濃紺の小さなブルマー。教室迄全力疾走で辿り着いた時点で既に、柔肌にかなりの食い込みを見せていた。これでは皆の居る前に出る事など出来はしない。

高穂は、廊下に誰も居ない事を確認すると、違反対象となるブルマー直しを行った。リスクを犯してでもやるしかなかったのである。

しかしである……体形に全く合っていないサイズ、それに輪を掛け殆ど伸縮しない生地の為か、ベストなブルマーポジションを出す事など到底不可能なのであった。

恐らくは、ブルマー自体を一度腿か膝辺りまで下ろして穿き直せば事は簡単なのであろう。そう気付くも、誰が何時現れるかも分らないホームルーム前の廊下なのだ、幾ら何でもそれは不可能な事であったのだ。

(これなら……)

そんな状態でも、なんとかこれならばと、そう思えるブルマーセッティングを素早く整えた高穂は、意を決して教室の扉を開いた。それが先程の出来事なのである。

最悪の状況下に於いても、少しでもマシな状態を導き出せたと、そう思った高穂なのであったが、その状態も長くは続かなかった。ブルマーの位置は、高穂が動く度刻々と変化していったのである。

極狭裁断の股布は、歩いては食い込み、起立しては更に食い込むと悪循環を繰り返していった。それは、とても一筋縄ではいかない代物なのだと改めて思い知らされたのである。

もはやブルマーと言う言葉は当て嵌まらないその穿き物、体操服であるが、強いて言うならハイレグ型の競泳用水着の様なシルエット、そう言えばしっくりくる形であろうか。

それとて通常の着用状態とは程遠いものであった。競泳水着のヒップラインの裁断は、U字状を成す様な形とされている為、サイドライン所謂レッグホールの切れ込みが深いものの、極端に食い込む状態が発生する事が起きない様な作りと成っている。

しかし、高穂の穿くこのブルマー。平置きではその様な形に成ってはいるものの、如何せんサイズが小さ過ぎるのだ。また伸縮性が粗皆無な生地を用いられている所為で、食い込みを抑制する為の伸び代が粗ゼロなのであった。

既にそれは、U字状ではなくV字状と化して高穂の臀裂に埋没し始めていたのであった】


「…………」

「聞こえませんでしたか? 鹿ノ倉さん! 先生は貴女に尋ねたのよ。 ……早く答えなさい」

奈津子の様に勢いで圧すタイプではない串田であるが、態とヒステリックに一喝してみせたのであった。普段見た事も無い串田の剣幕に棒立ちとなるだけの高穂。周りの者さえ息を飲む。

俯いて唇を咬むだけの高穂に代わり、仲の良い女子生徒が代弁した。

「あのっ……高穂の……鹿ノ倉さんのそれは、あのっ、体育で使う体操服なんです」
「そっ、そうですフツーの……普通のブルマーです。ねっ、ね高穂っ」

高穂をフォローしようと一生懸命に答える女子生徒であったが、男子は皆可笑しくて堪らなかった。

(何がフツーだよっ! もうムリだって)
(もはやフォローに成ってないっつうの……判決っ、じゃない半ケツ! がもう出てんだから鹿ノ倉はっ!)
(今時AVのコスでもねぇだろ!)

失笑する男子達をキッと睨む女子であった。

「私はスカートを穿いていない理由を尋ねたのだけれど、お友達は態々その下着の様なモノの説明をしてくれた様ねっ!」

…………。

只俯くだけの高穂。串田どころかフォローしてくれたクラスメート達にさえ本当の経緯は話していないのだ。今更訂正する事、釈明する事自体が憚られる。


「そう、答えたく無い様ね。先生は鹿ノ倉さん本人に聞いたんだけど……まあ良いわ。言いたくないなら無理に言わなくてもっ」

(この娘っ、皆に本当の事を話していないのね。良いわっ! 面白く成ってきた)

全てを知る串田の前に於いて、高穂の態度は、最も恥ずべき事態を迎えていると告げている様なものであったのだ。

今、当に自分が晒している格好もそうなのであるが、何より校則風紀を遵守しましょうと昨日宣言したばかりの自分自身が、なのであるから……。その後ろめたさ恥かしさは計り知れないものなのである。

【圧倒的な奈津子の存在からか、串田の厳しさは今迄あまり表面だったものにはならなかった。しかし、女子生徒に対する理不尽な躾けと称する行いは、ある種奈津子以上かもしれない。

というのも、やり口が陰湿なのである。担任するクラスの女子生徒達は皆、その事については閉口してしまう程であった。だからこそ外部の者、他クラスの生徒達には知られる事もなかったのであった】

「ハイッ! では皆席に座って下さい」

ガァ~ガガーガー。椅子を引き全員が着席した。


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