投稿作品集 > 体育教師奈津子 革命の代償 【第3章】 p.01

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【第3章】 3年A組 天野洋子

(1)

恥ずかしい罰もこれで終わり。そう思っていた私たちは安堵の胸をなでおろした。

叩かれたお尻をさすったり、手を当てて男の子のいやらしい視線をガードする人が出始める。折れてしまった定規のおかげで、ピリピリした空気が少し緩んだのも束の間。

「こら。まだ姿勢を崩すな」

再び、島田先生の鋭い怒声が飛んだ。

「罰が終わったと思えばすぐにその態度。全然反省していないことがよくわかります」

半分になってしまった定規を両手で掴んだまま、先生は続ける。

「いま受けた普通の罰では反省できないあなたたちのような子のために考えたのが、今回の特別懲罰です。特別懲罰では、普通の罰より恥ずかしくてきつい罰を受けてもらいます。ちょうど良い機会だから、まったく反省の色が見られない生徒会には見本になってもらいます」


疑問の浮かべた表情を浮かべた私たちは、一斉に島田先生に見てしまう。

(え、どういうこと。これで罰は終わりではないの?)

一瞬で暗転した状況の中、壇上の島田先生がネチネチといじわるな質問を投げかけてきた。

「そうそう。女子の言い分は『ブルマを穿きたくない』だったわね。どう、あななたち。嫌いなブルマは脱いでもらったけど、こっちの方がいいのよね?」

さらに座っている生徒に向かって説明をする。

「一応断っておきますが、いま立たされている人が穿いているのはパンツではないから。特に男子は変なこと考えないようにね。これはスポーツ用のサポーターショーツです。運動部なんかでも穿いている子はいるでしょう。つまりブルマと同じく立派な運動用の衣服です。ブルマが嫌ならこれで体育をしてもいいのよ」

私たちがブルマに反対したことをよほど根に持っているようだ。そう言えば、ブルマを導入したのは島田先生だという話を聞いたことがある。

進学率が低かったこの学校を、厳しい校則と規律で建て直したとの噂もあるが、そのせいで私たちが先生に楯突いているように感じているのかもしれない。


「ブルマよりもずっと動きやすいでしょう。これも嫌で、もっと可愛い服が着たいのならレオタードにしてもいいわよ。いずれにしても、制服というのは学校が決めるものです。生徒であるみなさんが、勉学やスポーツに励みやすいように制服はあるのです。言われたことひとつ守れないあなたたちが、制服を自由化したいなんて、100年早すぎます!」

堂々と言い切って仁王立ちになる先生。

「……それで、ブルマとサポーター、どっちの体操服がいいのかしら?」

自分の宣言に陶酔したようにたっぷりと間を取ってから、隣に立っている高穂に問いかける。そんな選択なら答えは決まっている。

「…………ブルマが、いいです」

「天野さんは?」

「ブルマの方がいいです」

私も仕方なく答えた。他にも数人が聞かれたが、誰もパンツが良いなんて言う人はいない。


「なら、どうしてブルマ廃止なんて言い出したのかしら?」

もう一度、高穂が質問される。

「………………」

「なぜ黙るの。反抗期かしら。自分に都合が悪いとだんまり?」

島田先生の目つきが細くなっていく。こうなるともうだめ。体育会系の暴走した勢いは止められない。

「先生は最初にはっきりと言いましたよね。きちんと反省して質問にもはきはき答えないと、その分罪が重くなるって。今日は許しませんよ」

低い声で告げた後、ひどい命令を発した。

「全員、シャツを脱ぎなさい」

(ええっ!?)

さすがに私たちは動揺した。シャツを脱いだらそれこそ下着姿になってしまう。もう十分に恥ずかしいのに、さらに脱げなんて。同じ女性がする指示とは思えない。


「先生……!」

2年生の国見さんが悲痛な声を上げるが、島田先生の声は威圧感があった。

「なぁに……。まだ反抗するの?」

折れた短い定規が、たまたま島田先生のすぐ前にいた私のショーツに押し当てられる。もう十分に屈辱的な罰を受けて萎縮していた私は、それだけで恐怖してしまい、自分でもわけのわからないうちにシャツの裾を捲り上げていた。

「そう、天野さんは少しは素直になってきたようね」

それが合図であったかのように、生徒会メンバーは次々とシャツを捲って頭から抜き取っていく。上もお揃いの白いスポーツブラが露わになった。

「これも下着ではないからね。スポーツ用のトップスだから大丈夫よ」

何が大丈夫なのか理解できない。

「天野さん」

「は、はい……」

背後から名前を呼ばれただけで背筋が凍り付く。


「どうして、ブルマ廃止なんて言ったの?」

「それは……」

私は弱い人間だ。生徒会なんだから理不尽で不条理なことには毅然と立ち向かわなくてはいけない。頭ではわかっているのだけれど、体は言うことを聞かない。

下着姿にされただけで自分がひどく悪いことをした極悪人のように思えてしまう。服を着ている人の前で裸になることが、これほど惨めなことだったなんて。お尻に押しつけられたプラスチックが、喉元に突き付けられた刃物のように感じてしまう。

「投書があったからです。無記名でしたが、嫌な思いをしている人がいるなら改善しようと思って」

先生は定規を離して、一歩下がる。

「バカバカしい。たった一枚の投書で改善ですって。嫌な思いをしている人が一人いただけで改善が必要なの?」

みんなの方を向き直った瞬間、怒号が轟いた。

「甘ったれるな!」

ビリビリと空気を振動させた一喝は、わんわんと館内に共鳴して反響する。


「どれだけ我が儘なの。学校は共同生活の場、社会の縮図です。社会に出れば理不尽なこと、不条理なこと、嫌なことはたくさんあります。それでも生きていけるように勉強することも学生の役目です。たった一人か二人の投書でいちいち反抗していたら、学校全体はどうなるの。

『勉強は嫌いです』と書かれていたら勉強やめるのか。大学入試に反対するのか。『人参は嫌いです』と書かれていたら、世界中の人に人参を食べないようしましょうって言うのか!」

無茶苦茶だった。論理の飛躍だ。でもこれは教師の常套手段でもあった。小学校の時にもそういう先生がいた気がする。『Aさんに誘われてしました』『だったらAさんが盗めと言ったら、お前は万引きするのか』みたいなやりとりを聞いた覚えがある。

島田先生の方が小学生のような理屈だ。

「そんな些細なことで学校中を巻き込む騒動を起こして。関係のない先生方や男子生徒まで迷惑をかけて。身の程を知りなさい!」



(2)

ついに九人の優等生に極刑が下される時が来た。

「おしゃれとか化粧とか色気づいてばっかりでも、中身は本当に子供ばっかりね。やはり特別懲罰は必要だと先生は確信しました。残念ですが、相当痛い思いをしないとわからないようね」

島田先生はいったん舞台から下りると、壁際で先生たちが並んでいるところに行って、何かを取って戻ってきた。折れた定規の代わりに先生の手に握られていたのは、焦げ茶色をした棒のようなものだった。

「これは躾け鞭と言います。ヨーロッパの厳格な学校教育でも用いられたことのある教育用の懲罰具です。つまり、言うことを聞かない悪い生徒にお仕置きするための道具です」

聞きたくもない説明をわざわざしてくれる。厳格な学校教育で『用いられた』っていつの時代のことだろう。民主主義のこの国でこんなものが使われて良いとは思えない。

「革で出来ているから安全だけど、それなりに痛いわよ。どう使うかは説明するまでもないと思うけど、これからあなたたちが実際に罰を受けてみればわかります。あんまり打つと大変なことになるから、今日は一人三回としましょうか」


自分でも顔から血の気が引いていくのがわかる。三回という少ない回数が、かえって躾け鞭と呼ばれる道具の凶悪さを物語っている。あの島田先生が自分に反抗した者に対して、たったの三回で許すということはどれだけ痛いのか、想像するだけで空恐ろしい。

海外にはそれこそ本当に鞭打ちの刑があるらしいが、それがどれほど痛いのかわからない。実際に鞭で打たれるなんてことは初めてだから知らないし、知りたくもない。

「それから、さきほどから先生が聞いても答えをしなかった人がいましたね。それだけでなく、さらに適当なことを言って罰を逃れようとした人もいました。嘘をつくとか、逃げようとする態度は、先生が一番嫌いなことです。卑怯です。特別懲罰ではそういう卑怯な態度には、容赦なく追加罰を与えることになりますから、そのつもりで」

鞭を持った教師は私たちを糾弾する。

「しかし、今日は初めてですから、チャンスをあげます。自分が卑怯者だったと謝罪する人はトップスを取りなさい。他の生徒に見られるのは嫌でしょうから、前を向いたままで良いわよ。恥ずかしい思いをして真摯に反省するのなら、特別に追加罰はなしにします。ただし、反抗的な態度をしたのに名乗り出なかった人は厳罰に処します」


先生は舞台の上をゆっくりと歩き始める。

「恥ずかしい格好になって反省すれば三回で済みます。またはもっと厳しい罰でないと反省できないのなら、それもいいですよ。自分たちで選びなさい、いいわね」

卑劣な選択肢に私は両の掌をきつく握り締めた。ずるいのは先生の方だ。いくら後ろを向いているとは言っても、こんな人前で平気でブラを外す女の子なんていない。

かと言って名乗り出なければ、おそらく全員が厳罰を指摘されることは確実だろう。高穂や私は絶対に厳罰を宣告されるに決まっている。

それに厳罰って具体的になんだろう。まさかとは思うけど、自己申告してもトップレスにならなければいけないということは……、厳罰では下も?

島田先生が背後を通過していく。

(……!)

私のショーツにすっと躾け鞭が当てられた。叩かれることはなかった。何もされない。鞭はそのまま静かに離れていった。しかし、私は血圧が下がって視界が狭くなる。

(まさか。まさか……)

じっとりとした嫌な汗が全身から噴き出す。


(わ、私が……!? 先生はわかっていて警告したんだ。もし脱がなかったら……)

別に悪いことなんてしたつもりはない。さっきの質問にはちゃんと答えた。だけど、やましい気持ちになってしまう。その前に質問された時はどうだっただろう。返事は……しなかった、かも……しれない。

思考が止まっている。何かに取り付かれたように、自分の手がブラを掴む。それがどういう行為なのか、半分理解していて、半分理解できないまま、背中のホックを外してしまっていた。

プチッ。

背を丸めるようにして両腕からブラを抜き取る。二の腕で胸を隠しながら白いカップをスライドさせると、隣で高穂が同じような動作をしていることに気がついた。

(え……。高穂、あなたも……!?)

驚きながら顔を横に向けると、高穂のお尻に躾け鞭が押しつけられているのが目に入った。

(あっ)

慌てて反対側を伺う。2年生の野村さんと国見さん、それから1年の鳴海さんもブラを取っていることがわかった。


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