投稿作品集 > 体育教師奈津子 秋のイベント パレード 後編 p.02

このストーリーは、bbs にて、KRE 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は KRE 氏にあります。

(ご案内)
この作品は『嗚呼 青春のトロンボーン 番外編 小窓からの風景』とのコラボ企画となっております。



「それではまず通しで演技を見てもらいます。あなたたち、準備なさい」

「はい」

島田先生の指示で並んでいたメンバーたちが返事をすると、スタート時の配置につくためにくるりと回れ右をした。

「おお!」
「……わっ、すっげ」
「ケツ丸出しじゃん」

その瞬間、俺たちは再び盛り上がった。サイズが小さいレオタードからは、24個のお尻が一人残らずみんなはみ出していたからだ。

これは恥ずかしい。


音楽に合わせてバトンの演技が始まった。

個々のメンバーが十分に可愛いので、見ていて美しい。揺れる胸やどんどん食い込んで丸出しになるお尻にもついつい目が行ってしまう。

華やかできれいだったが、動作はなんとなくぎこちなかった。

足を上げたり回転したりする度に、ズレたりふらつく子がいる。バトンの扱いでは何度も落下させてしまう子もいた。なにより、せっかく可愛い顔をしているのに、笑顔が引きつったようになっている。

(惜しいなぁ。これだけ可愛いのに演技がいまいちかな……)

俺が食い入るように演技を見ていると、隣に座っていた黒田先輩がまた肘でコツコツと突っついてきた。

「……おい、そのまま演技を見ながら、俺の言うことだけ聞いてくれ」

顔もこちらに向けずに前を向いたまま、小声で話をしてくる。


「え……。なんですか」

なぜそんなことをするのかわからなかったが、俺はとりあえず黒田先輩の言う通りに前を向いたまま答えた。

「お前、今日俺のメモリカード持ってきたか?」
「はい、持ってきましたよ」
「中身、コピーしたよな」
「ええ……しましたけど」
「よし。さっきなっちゃん……島田先生から渡された今日使うカードとすり替えろ」
「は?」
「カメラを体の後ろに持っていって、見えないところでカードを入れ替えるんだよ。それで撮れ。そして最後にまたカードを入れ替えれば、画像が残る」
「あ、そうか……!」

まったく先輩はこういうことに関してはよく悪知恵が回る。


今日こちらに来る時にデータを復活させたカードを持ってきてくれとは言われていた。しかし、先輩も今日のカメラ撮影のことは知らなかったと思う。さっき島田先生の説明を聞いて、この作戦を思いついたのだろう。

支給されたカードはそのまま回収されてしまうが、予備の使えるカードを持っている人間がいて、しかもそいつがカードを入れ替えることなんて、おそらく想像できないはずだ。

カードは切手くらいのサイズしかないのでポケットにそのまま入れてあった。

俺はカメラを体の右後ろに移動させると手探りでスロットを開けてカードを交換する。支給されたカードをそのままポケットに戻した。

これで今日の記録はそのまま俺の手元に残る。俺は強烈にドキドキしてきた。

やがて一回目の演技が終了した。



「見苦しい演技ですみませんでした。このように下手なんですが、これは恥ずかしがっているからだと私は考えています。今日はパソコン倶楽部の人たちに手伝ってもらって、精神的に強くなれる特訓をしますから、よろしくお願いします」

島田先生に言葉にバトン部員たちも続けてお辞儀をした。

普通に考えて、まともな練習はここまでだった。この後、まったく想像もしていなかった衝撃的な特訓が俺たちの目の前で展開されることになったのだ。

異常な特訓の世界に最初に足を踏み入れることになったのは俺だった。再び整列したバトントワラーたちを前にして、島田先生が話をはじめる。

「さて、今から特訓を始めますが、今日はパソコン倶楽部のみなさんには、その様子をてぎるだけ間近で見て、できるだけカメラで撮ってもらいます。また必要であれば特訓の補助もしてもらいますし、他にも手伝ってもらいます。いいですね?」

「はい」


嫌な顔をされるかと思ったが、バトン部の女の子たちはやけにあっさりと了承した。

ただ、それは進んでやりたいという意思表示ではなく、はいと答えることを強制されているかのような、体育会系独特のノリが感じられるものではあった。

「では、これから特訓のために彼女たちが用意しているものと、特訓のルールを説明させますから、良く聞いてください」

島田先生がバトン部たちの前に立った。

「いま演技でミスした者の名前を読み上げます」

半分近くのメンバーの名前が読み上げられていく。

「パソコン倶楽部の人にお願いしたいことのひとつは、このようにミスした人をチェックすることです。今日は全員が完璧に出来るようになるまで終わりませんから、些細なことでも見逃さないようにしっかりと見ていてもらいたいのです」


島田先生は続ける。

「ミスをした者にはチームに迷惑をかけた罰を受けてもらいますが、いまからその罰の説明をさせます。佐伯さん、前に出なさい」

言われて前に出たのは、あの佐伯遙菜さんだった。

「今の演技、あなたは珍しくミスをしなかったみたいだけど、どうかしら?」

遙菜さんは一瞬迷ったようだが、しっかりと答えた。

「さっきは普通に出来たと思います」

先生はにっこりと笑った。

「そう、いつもそうできるようにしなさい。では、佐伯さん。ちゃんとできたのだから、もう懲罰レオタードを脱いでいいわよ」

その言葉に遙菜さんが驚いたように島田先生の方を見た。


「え……?」

島田先生は気にも留めないで笑顔のままだ。

「何してるの。きちんとできたのだから、罰を受ける必要はないわ。さっさと懲罰レオタードを脱ぎなさい」

意味がわからないので困惑している俺たちに、島田先生が仕組まれたカラクリの説明を始める。

「実はバトン部メンバーはすでに罰を受けているのです。これまでの練習態度が悪かったですから。今日はノーミスできちんと演技が出来た場合には、その罰を許されます。ミスしたらまた罰になります。全員が罰を許される状態になったら、今日の練習はおしまいです。

さあ、パソコン倶楽部の人たちに、罰の仕組みがわかるように説明しなさい」

促された遙菜さんは明らかに動揺していた。


「……それは……」

困惑している遙菜さん。懲罰レオタードだの罰だの理解できない言葉が次々と出てきて、俺たちも困惑していた。

「ほんと、グズグズしてるわね。あなた、それでもリーダーなの? 仕方ないわね。バトン部の罰がどういうものかを、これから佐伯さんに実演してもらいますが、そうですね……。うん、君。そう黒田君の隣の、そう」

島田先生のきれいな指が、まっすぐ俺の顔に向けられた。

「えっ、お、俺ですか?」

まさか自分が指名されるとは思っていなかったのでびっくりした。

「そう、君。佐伯さんの前に立って彼女の罰を手伝ってください。いいですか。みなさんにはこういう罰の手伝いもお願いしますから、しっかり見ていてくださいね」

俺は言われるままに佐伯さんの前に出て行く。


本当に写真で写っていた先輩だ。近くで見るとますます可愛い。しかもちょっとタイプなのでやばい。美人度という点では他にもきれいな子はいるけど、彼女の場合は愛嬌というか、可愛らしさが魅力的だ。

ひとつ上の先輩に対して失礼だが、子犬のような感じとでも言えばいいのか、上目がちに俺を気にしている様子も頭を撫でたくなるような愛らしさだった。

「じゃあ、君。佐伯さんのレオタードを脱がしてあげて」

まるでちょっとお使いに行ってきて、とでも言うような軽い感じで、島田先生がさらりととんでもないことを言った。

「は?」
「ええっ!?」

俺と遙菜さんはふたりで同時に驚きの声を上げる。しかし、驚きの理由はお互いに180度異なっていた。


(こ、こんな可愛い女の人のレオタードを、俺が脱がせる!?)
(全然知らない男の子に、レオタードを脱がされちゃう!?)

けれども、どちらに対しても、島田先生はいたって平然としたまま、同じセリフを繰り返した。

「びっくりする気持ちもわかるけど、このレオタードを着ていることが罰だからいいのよ。時間がもったいないから早くして。だいたい佐伯さんがさっさとしないのが悪いのよ。

いいですか、他のメンバーもパソコン倶楽部の人に面倒をかけたくなかったら、自主的にテキパキすること。今日は容赦しませんからね!」

残りのメンバーにも警告を発する島田先生の横で、遙菜さんが慌ててレオタードに手をかけて言った。

「わ、わかりました。自分で、脱ぎます」


どうせ脱がなくてはならないのなら、知らない男の手で脱がされるよりは自分で脱いだ方がいい。追い詰められた遙菜さんとしては当然の主張だったと思う。

しかし島田先生は、その彼女の最後の望みもあっさり摘み取ってしまう。

「だめです。今日はそういう甘えは許しません。佐伯さんには一昨日もしっかり言いましたよね。リーダーが反抗した場合には全員懲罰だと。そうしないだけでもありがたいと思いなさい。二度目はないわよ」

その言葉を聞いて、遙菜さんの両手がだらりと垂れた。


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