投稿作品集 > お仕事シリーズ サポートセンターのお仕事 p.01

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



■ サポートセンターのお仕事 エージェント 綾瀬由紀の場合 ■

(1)

20**年、乱立する悪の秘密結社とアンチ・ヒーロー、有象無象のヒーローに嫌気が差した民衆は、真のヒーローを求めた。

そして、銀河連邦政府仲介のもと、それぞれの代表者達は、連邦政府直轄の『銀河スーパーヒーロー連盟』を設立し、ヒーローを免許制段階制にし、正悪問わず組織を認可制とした。そして、最低限のルールとして『ヒーロー協定』を結んだ。

この物語は、その本部である、日本本部の物語である。

オフィスの電話がなる。

「はい。ヒーローサポートセンター。綾瀬です」

元S級アンチ・ヒーローの父(現在はヒーローに転職)、S級正義のヒロイン(宇宙刑事)だった母のもとに長女として生まれた私は、ヒーロー大学大学院アンチ・ヒーロー学部諜報活動学科ヒロイン学専攻在学中に、S級ヒーロー免許第一種、特殊諜報員試験第一種合格、上級銀河連邦公務員第一種合格等資格を多数取得。

卒業論文のテーマは、『これからのアンチ・ヒーロー』。大学と院、両方主席で卒業。子供の頃から憧れていたカッコイイ『アンチ・ヒロイン』になるつもりだった。

当然、母は猛反対。まさかの父や兄、妹(全員S級ヒーロー)の猛反発にあい、なんだったら、権力を駆使して刑務所に一生ぶち込むぞ的な事を言われ、渋々断念。

考えてみれば、当たり前だよね。悪の秘密結社はご存知の通り、毎年山のように生まれては消えているもの。

「そんなに心配なら、大学入る前とか、院に進学する前とか、全寮制とはいえ、いくらでもタイミングあったでしょ!」と口論しながらも就職活動。


こっそり、秘密結社の入団試験も受けてみたんだけど、就職試験中にヒーローに潰されちゃいましたなんてしょちゅう。未認可の秘密結社もたくさんある。まぁ、秘密結社なんだから、馬鹿正直に出すほうが少ないよね。

就職サイトの求人も、未認可のものは、あっという間に消されるから注意。当局が24時間体制にネットを監視してる。噂では、メールすらも監視してると聞いた。

当然、彼らはヒーロー協定なんか無視している。組合もなければ、戦闘員への保証もない。いわゆるブラック秘密結社。

ちなみに、認可されてるところは、一ヶ月36時間以上残業なし、完全週休二日制(年間休日125日)休日出勤手当て&振替休日。改造手術手当、危険手当など、一般企業並に手厚い福利厚生がある。怪人年金基金とか、戦闘員遺族年金とか色々ケアも完璧。まぁ、これは規模によるけど。

目的が世界征服とかだからね。資金は腐るほどあるんだと思うよ。

本来なら、悪質なのは自浄機能として、アンチ・ヒーロー率いる悪の秘密結社が倒してくれないと困るんだけど、所詮悪党は悪党。

そこで、この本部に『未認可や無免許のだけをターゲットにする特殊部隊』が、秘密裏に精鋭を集めて結成されたってわけ。

さて、私の就職活動は、『アンチ(ヒーロー学部)出身なのに、ヒーロー希望なの? 潜入して裏切る系?』など、正義の味方からは相手にされない日々。

アンチ・ヒロインはね。絶世の美女。スラっとしたモデル体型。ちょっとお色気な服。年上系と相場が決まってるわけです。稀に若いヒロインもいるけど、あーいうのは世襲制。

親の手伝いで、秘密結社みたいな例が多い。そういう子はさ、路線変えても面接で説明できるじゃない。正義の心に触れて改心したとか。

まぁ、だいたい、ヒーローのお偉方が、そういうのは手元においておくから、就職活動自体しないみたいだけどね。私も大学の同期にも何人かいたよ。親の敵討ちとかも何人かいたけど、ほとんどヒーロー希望だった。だから、院まで進んで、待ったんだけどなぁ。


特に私はバイトで『週刊アンチ・ヒーロー(業界紙)の専属モデル』とかやってたんから顔が売れてる。

成績も良かったから、『綾瀬君は優秀すぎて、ヒロインとしては無理かな。ちょっと馬鹿っぽいのが望まれるんだよね。ブレーンとしてどう?』等と就職課も役立たず。

『いっそ、自分で立ち上げちゃう? お爺ちゃん(元S級アンチ・ヒーロー)に相談するか』と思っていたら、ある夜、女子寮の部屋に、武装した特殊部隊がなだれ込んできて拉致された。

『まだ、なんにもしてねぇよ!』と思ったけど、目隠しされ、ヘッドホンをつけられ、当然、睡眠薬をたっぷり染み込ませた猿轡。気がついたら、ヘッドホンだけ外されて、椅子に座らされてた。もちろん、手足は椅子に縛ってある。脱出もできない。

「君をスカウトに来た」

はぁ、スカウトっていうのはな。『昼間』、『就職課』もしくは『指導室』、百歩譲って知られちゃまずいときは『教官それぞれの部屋』で、するもんなんだよ!

ちなみに、アンチヒーロー部の教官は、元服役囚だったり、現役受刑者だったり、今は証人保護プラグラムで、名前も顔も変わってたり色々な人がいる。

アンチヒロインはあれ、正義のヒーローとデキちゃったり、一人だけバックレて時効成立、もしくは凄腕弁護士軍団(もちろん悪いやつ)が、無罪にした人達がボランティアで教えに来る。

まぁ、まともに来るわけがなく、だいたい強制的に、お迎えにあがってるみたいだけど。


ちなみに、法律スレスレのグレーゾーンの授業もあるよ。更生して政治家になった元幹部や企業家になった科学者が、『君達はまだ若い。引き返せる』と頻繁に説得にも来る。

『お前らOB・OGじゃねえかよ』『私なら仲間売って生きるなんて、生き恥ありえない!』などブーイングの嵐。

まともなスカウトなんてこないよ。だって、この大学施設、銀河スーパーヒーロー連盟直属特殊部隊(つまり、凄腕関係者)が24時間交代制で警備しているんだよ。

女子寮なんて、一番警備が厳しいよ。ちなみに、学生の間は、ヒロインとアンチヒロインは同じ寮。ほら、因縁とかそこで生まれることも多い。

ちなみに、私は、ヒロイン希望と科学者希望と同じ部屋で八年間過ごした。科学者は良いよね。どっちに転んでも良いから。直前まで悩める。

鞍替えする人も結構多い。それはおいといても、最新装備とか化学兵器とか最新研究施設とか、あらゆる実習設備があるからね。何しろ、エリートを育成するための学校だから。

もし、装備とか奪われたら大変なことになるから、だから警備は超厳重。ちなみに、認可のある悪者はもちろん、未認可の組織は、どっち側も奪いに来るからね。

スカウトなんて来たら、飛んで火に入る夏の虫だよね。つまり、私達は自分から探しに行くしかないの。職業選択の自由は認められてるからね。求人サイトの募集要項はもちろん暗号文。Webはなかなか見つからない。ハッキングしないと見られないこともある。

正義の味方とは扱いが違いすぎる。なんだ。この社会的なしごきは? もっとアンチヒロインに優しくしても良いんじゃないか?

そんな社会情勢、さらに寮の状況などから考えて、果敢に突撃してくるような武闘派の組織なんて、当然レッドランプ。そもそも、拉致る相手を間違ったんじゃないか? どっちかわかんないけど、そんな間抜けな組織、私は絶対やだからな!


(2)

とはいえ、こんなアグレッシブな組織が、「はい、そうですか」と解放してくれるはずがなく、半強制的に、銀河スーパーヒーロー連盟の職員にされることになった。

連邦政府がこんなことして良いのか! と抗議しようにも、この規模でやらかしちゃう団体相手に、どこに訴えても勝てそうにないんだもの。

突入のときに、壊れた窓とか、グシャグシャになった部屋が、綺麗になってるから不思議だよね。何時間監禁、おっと面接されてたかわかんないけど。

ルームメイトも『偶然、就活でしばらくいなくて』誰もいなかったし。もう逆らうだけ無駄だと確信したね。服部隊長(変身後ゴエモン(忍者っぽい))曰く、手荒だったのは、突入されて、咄嗟にどんな行動を見るテストだったらしい。

そして私の配属は、生まれ故郷である地球にある総本部のサポートセンター。仕事は、秘密結社や、スーパーヒーローが作戦を円滑に遂行できるようにサポートする。

秘密結社や、アンチ・ヒーローのためにも、役所に申請。作戦時の交通整理や医療班の手配。資金難のときには、銀行からの融資の手配など。立ち上げ時の拠点の選び方、幹部の面接の手伝い、認可が守られているかの確認など雑用ばっかり。

抜き打ち監査とかもやるよ。ヒーローにも。基地内部はもちろん、近隣住民の個別訪問して、ヒーローとして振る舞えてるかとかチェックしちゃうよ。

『ヒーローを輝かせ、子供達に夢や希望を与えて貰わないといけない』

認可された秘密結社には、『紙一重でやられて貰わないと困るわけで(だって、イジメになっちゃうから)』、『一年に一回くらいは倒して、(たまには、顔も立ててあげないとね)パワーアップしたヒーローにリベンジされてもらう』というミッションを課せられている。

一線を越えた秘密結社や未認可の秘密結社を『闇から闇に葬り抹殺、もしくは更生させる』、未認可ヒーローは『ヒーロー大学に送り込むか、各種資格試験の支援』などをしないといけない。


光があれば、必ず影があるように。私達の仕事に終わりはない。ちなみに、ウチの服部隊長の辞書に更生の文字はない。ルール違反は即デリート。グレーなんてない。白でなければ、黒という考え。

ヒーローだろうがアンチ・ヒーローだろうが超大手秘密結社だろうが、一瞬でも何かあれば、必ず見つけ出して、問答無用、一刀両断、即デリート。地球が安全なわけだよ!!

ちなみに、服部隊長は、銀河連邦警察庁特殊武装部隊組織犯罪課特別捜査チームっていう超お堅いところから新設されたこの部署にトバされてきた。

なんでも、変身解除したヒロインを一発殴っただけで、裁判とか取り調べとかすっ飛ばして巨大秘密結社を単独で全滅させて、一年にも及ぶ内偵捜査を無にしちゃっったんだって。

決して、アンチ・ヒーローなわけじゃなくて、『反省するくらいなら、最初っからやらないはず。白は一度でも黒くなれば、もう白には戻らない。という信念』に基いて行動してるだけ。

あ、ちなみに、転職したい、解散したい、抜けたいなどの相談も我々の仕事。我々ていうか、ほとんど私なんだけどね。服部隊長は基本的に道場で瞑想してるから。それぞれ、どこの課に連絡すれば良いのか、必要によっては、相談員を送り込む事もある。

情報を売りたいとはか、銀河連邦警察の仕事。こういうときは、服部隊長を呼ぶけど、もし情報が間違ってたり、罠だったら、私ごとデリートされちゃうから危険だよね。水際作戦でお引き取り願いたいところだよね。


「あのぉ。すみません。変身システムをハッキングされた状態で、500人位の戦闘員に囲まれてるんですけど、これってありなんですか?」

若い女性の声がする。

「敵組織は、どういった団体でしょうか? お付き合いは長いんですか?」

「もう、一年くらい戦って、あと、大幹部だけです。ええっと、宇宙から地球を支配しにきたみたいです。あいつら、最初から『業界のルール』わかってないんですよ。最初の時、いきなり大ボスから出してきたり、いきなり巨大化して踏み潰そうとしたり」

「そういうのは、その時、言っていただかないと対応できないんですよ」

「マジで。お役所仕事みたいですね」

「ええ、お役所なんで」

電話を切ろうとします。

「お姉さん、ちょっと待って下さいよ。実は、ここだけの話ですよ。相手、未認可なんですよ」

「一年も戦ってて、今更そんな事言われてもねぇ」

「手柄を立てて、昇格したかったんです。反省してます。二度としません。助けてください。うわぁぁあ」

こういうのばっかりなんだよね。やましいことがなきゃ、ここには掛ける必要が無いからね。


「どうしました? 仲間とかはいないんですか?」

「投石とかありなんですか? 酔ってますよ! えっと、怪我をしたときに、助けてくれた怪人さんと、フルボッコにされてボロボロの特別捜査官のアキちゃんがいるだけです」

「それなら、銀河連邦警察の管轄ですね。っていうか、特別捜査官なら、本部に連絡すればいいじゃないですか」

「実は……。その……、あのぉ……」

「もしかして、怪人さんは司法取引をご希望?」

ヒーロー大学で教鞭をとるから、組織が壊滅するまで匿って欲しい的なの。ブーイングの嵐になる理由わかったでしょ。まぁ、これは一番ひどいケース。

「ええ、そうなんです」

「でも、未認可で、もう一年も戦ってて、幹部しか残ってないんじゃぁ。司法取引しなくても、自然消滅するんじゃないですか? 散々好き勝手やっておいて、劣勢になったら、司法取引ってのはどうなんですかね?」

「この怪人さんは騙されてたんです!」

「皆さんそう仰るんですが、詳しく後で調べると、結局嘘だった。刑務所へ。騙されたヒーローの方も、懲戒免職みたいなこと多いんですよね」

当たり前だが、そのあと、もちろん、詳しい取り調べがあり、事実と違った場合には、倍以上の刑罰が科せられる。


「証拠ならあります! 怪人さんが関わった作戦、全部わざと失敗してるんです」

「その怪人さん下っ端なんじゃないですか? 取引する情報持ってます?」

「幹部です、大幹部です!」

後ろで銃撃戦がおこなれてるみたい。戦っていうか、一方的に撃たれてるみたいだけど。

「こちらも税金で運営されてるので、ラーメンの出前みたいに、気軽に呼びだされても困るんですよね」

「すみません。助けていただいたら、ちゃんと、アキちゃんと二人で復学します」

「無免許で一年も戦ってたの?」

おいおい、それはまずいだろう。今、服部隊長が珍しく帰ってきたところだよ。食後の運動で消し飛ばされんぞ!

「いえ、違います。あの、4年生のヒーロー実習が厳しくて、C級の二種免許とれたし、もう良いかって。アキちゃんは訓練学校で同じような感じで」

ヒーロー実習っていうのは、お医者さんのスーパーローテーションみたいに、あらゆる部署を経験させられる。ヒーロー大学は六年制だから、色々なところを回る。


ちなみに、アンチ・ヒーロー学部は、途中で秘密結社が潰れることが多いのと、実習中に巻き添えでやられちゃうことも多いので、卒業できる人はそんなに多くない。

本来、後方支援なんだけど、壊滅寸前の組織にそんな余裕はない! 年に何人受け入れとか、認可の条件に入ってるから拒否できない。

厳しい入学試験(なんと倍率10000倍)、毎年、全学科あわせて300人位入学してて、生きて卒業できるの多くて10人位。私みたいに現役で卒業するのは五人いるかどうか。

寮の裏には、志半ばで旅立っていった候補生達のための大きな石碑があって、全員の名前が刻まれてる。

途中で学部変わっちゃう人も多い。経理とかは共通だから、現場実習とか重複しないのだけやり直せばいい。当然、生存率が高いということは、卒業後の『幹部のポスト』は限られてるわけで、成績争いは熾烈だし、卒業後の出世争いも厳しい。

生き残ってさえいれば、アンチ・ヒーローは前途洋々。なにしろ世界征服などの目的のため以外に、『一切、法律を犯せないので、あらゆる資格・免許』を在学中に取らされる。

嘘発見機の欺き方とか、読心術やプロファイリング、最新機器の使い方。修理方法等なども取得。もちろん、勉強だけじゃなく、格闘術・諜報術の試験も超厳しい。

途中で諦めて、普通の一般企業に就職する人、ヘッドハンティングされる人も多い。なにしろ、まだ何の悪さもしてないわけだからね。

そして、『アンチ』なわけで、変に正義感も強くなく、そして任務に忠実、実に使い勝手がいいらしい。法律や心理学も当然詳しいし、弁護士の資格も持ってる。どこにでも配属できる幹部候補生というわけ。

当然、5年生位になると、熱心なリクルートを受ける。だから両親は『入学そのものには反対しなかった』。諦めると思ってたみたい。ちなみに、単なる構成員で良いんであれば、正義の味方も秘密結社も資格はいらない。あくまで、幹部だけが必要なもの。

入ってから、内部試験である程度までは出世できる。ただ、やっぱり出世の速度も、一番最初の位置もだいぶん違うらしい。正義の味方とかは、強制的に大学に入れる所もあれば、宇宙警察訓練学校みたいに自前で持ってるところもある。どっちでも良いみたいだよ。


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