投稿作品集 > 恥ずかしい男子 p.03

このストーリーは、bbs にて、KRE 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は KRE 氏にあります。



(さすがに見ちゃ悪いよな)

そう思って反対を向くと、今度は白井先輩だ。腿からお尻まで一体となった急曲線を横から眺めるようにして見つめてしまった。

同じ白でも色合いが全く異なっていた。こちらは血管はあまり透けていない。産毛も量が多く、櫛で梳かしたように綺麗になびいている。早瀬先輩と比べて肉付きも良いせいか、呼吸に合わせてぷるぷるとゼリーのように振動していた。

(ゆ、揺らさないでよ。生々しすぎるって……)

左隣の女子が腕で視界を遮るようにして床を見つめているのが見える。白井先輩の妄想の声も聞こえてきた。

「あら、もっと顔を上げてちゃんと見ていいのよ。別に同じ女の子なんだし。それにこの学校に入学したからには、明日からあなたたち女子はみんなこの体操服を着る決まりなのよ。こうして生足とお尻を出していれば、男の子たちの視線は独り占めよ」


俺は慌ててまた向きを変えた。再び早瀬先輩の生尻が眼前に迫る。

「特にここは注意して書いて……」

何か重要なポイントがあったのか、早瀬先輩が紙を指し示して一段と身を乗り出した。

きゅんッ。

さらに深く前屈することになったせいで、レッグホールがさらにずり上げられてしまう。かろうじて性器を隠している生地が細長く引っ張られて、クレバスの皺が伸ばされる。限界まで幅が狭くなった帯。その縫製の端からはピンク色の可愛い縁取りがちらりと顔を覗かせた。

ふたりのお姉様に挟まれて、天国なのか、地獄なのか。

手が出せないので、こちらも拷問されているような気分になる。その生殺しのような状況と、理不尽な校則に従わされているような先輩たちを見ているうちに、興奮や吐き気や憤りや期待や、いろいろな感情が交じってしまって、俺はもう何が何だかわからなくなってしまった。


その後も先輩たちは一時間くらいずっと、資料を配ったり記入の手伝いをさせられていた。前向きで、後ろ向きで、何度も俺たちの間を往復しては肌を晒す。あの強烈な『前屈生尻晒しの刑』でさえ、その後数回は執行された。

白井さやか。早瀬美玖。

俺はこの二人の先輩の腰から下を、夜うなされる夢を見るくらいに覚えさせられてしまった。それ以来、俺は特にこのブルマというものに良い印象を持っていない。避けて通るようになっていたのだ。

あとからわかったことだが、この作業は前年の最後のテストか何かで、一番成績が悪かったクラスが担当するらしいのだ。やっぱり罰ゲームだったのだ。この罰ゲームは「新入生接待」と呼ばれていて、特に女子生徒から嫌がられているということも後で知った。

というか、ひょんなことから早瀬先輩本人が教えてくれたのだ。

「見た人の記憶から消して欲しいわね。男性陣には目の保養かもしれないけどやっぱり恥ずかしいわ、ブルマって。あれがなければ結構いい学校だと思うんだけどね、この学校は」


早瀬先輩は俺に見られたということを認識していなかったのだと思う。まさかたまたま話の場にいた1年生が、あの時自分が担当した列にいたなんて思っていないのだろう。

こらちは名前まで見てしまっているけど、先輩からしたら大勢の新入生のことなんて覚えていなくて当然だ。それにわざわざそのことを知らせる必要もない。

(でも、先輩の綺麗な足のこと、俺はたぶん一生記憶に残りますよ)

というわけで、早瀬先輩を見る度に、脊椎反射的に彼女のあまりに艶めかしいお尻を思い出してしまい、気になってしまうのだ。

……

これが俺が委員長に気があると勘違いされた理由なのだけれど、まあ、本郷にも説明はできない。

「はい。これで全部。あとはよろしくね!」

虫干しする本を全部出したところで、本郷は手をひらひらと振りながら脚立を降りてくる。


彼女は部活があるので作業はここまでだ。この後は、俺がひとりで時間まで本を干したら棚に戻すのだが、別にそれは嫌ではない。干している間は好きな本を読んでいられるし、棚に戻すのもそんなに重労働ではない。

「お疲れさま……」

本郷に声をかけようとして振り向いた俺のすぐ目の前に、本人がいた。

「……って、なに!??」

ドン。

軽く音を立てて、彼女の両手が背後の書棚にある本に押しつけられる。俺の頭は本郷の両手と後ろの本棚に挟まれて、完全にロックされてしまう。

(な、なんだよ。この不良がリンチする時のような体勢は!)

どこか知らないうちに、彼女の気に触るようなことをしたのだろうか。そんなに見てないし、怒ったりもしてないし……と、あれこれ考えているうち、にたりと笑った本郷の顔がぐっと近づく。息がかかりそうな距離。


(そ、そそそ、そんなに近づいたら……!)

本郷の瞳の中に俺のだらしない顔が映り込んでいる。

「ふーん、君、やっぱり鈍感だよね」

「な、なに……が?」

殴られるか何かされるかなと思った瞬間、本郷はふっと離れていく。

「本が大好きな草食くんだからね。まあ、今日は許してあげるわ」

じゃあと挨拶をすると、彼女はスタスタと歩いて出て行ってしまった。俺はがっくりと膝をついた。


作業が終わったのでひとりで下校する。

校舎から出て体育館の角を曲がると、チアリーディング部が練習をしていた。1年生だけが整列して、体育館の方に頭を揃えて寝そべったままで、両脚だけを垂直に上げている。

状況からすると特訓か罰練習といったところだろう。

ジャージを着た先輩がひとりだけ立っているが、寝ている1年生はチアのコスチュームのままだ。腰から直角に曲がった両足だけが、シンクロナイズドスイミングのように綺麗に揃って上げられていた。

足をこちらに向けているため、コスチュームのミニスカートの中は丸見えで、ふくらはぎから太腿の裏、そしてお尻まで全部露わになってしまっている。女の子がするにはかなり恥ずかしい姿勢だ。

下校する生徒以外にも、たくさんの部活をしている生徒が男女問わずチラチラと見ている。


(また、そういう見せしめみたいなことをする。目のやり場に困るよ……)

俺と数人の下校する生徒がその前を横切っていく。先輩が俺たちを見つけると、大きな声で指示を飛ばした。

「160度!」

女の子たちの足の角度が一斉に変化した。

ぐいっとお尻全体を見せつけるようにして両脚が体育館の方へ倒される。中に穿いているコスパンすらも捲れて白い素肌が見える面積が広がった。見てはいけない気持ちになって、俺は足を速める。背後からは健全な男子が「おおっ」と喜ぶ声が聞こえた。

「開脚!」

その声に反応するように、いじわるな先輩が怒鳴った。ぱっと花が咲いたように、女子高生の両脚が真っ直ぐに伸ばされたままで開かれた。


(ああっ、もう!)

ストリッパーが舞台の上でするように、足を開いて股間を見せつける卑猥な動作。

並んだ同級生のチアたちのドキリとする仕草に、そっぽを向こうとした時だった。ひとりの股の間から、手がひらひらと振られていることに気がついた。本郷心美だった。

(なんなんだよ、あいつは。からかいやがって)

お茶目に冗談っぽく目配せをしながら、エッチなバイバイをする彼女を無視して校門に向かう。

「こら、本郷。あんた何してんの?」

やがて俺の背中の方から先輩の怒鳴り声が響いてきた。

「外20周。連帯責任で他の部員も10周。行け!」


学校を出た直後に後ろから足音が近づいてくる。すぐ背後まで迫ると、いきなり肩を叩かれた。わかってはいるが本郷だ。

「怒られちゃった。でも、心美さんのサービスが見られて良かったでしょ」

茶目っ気のある笑顔からは反省の色は全く見えない。この性格は確かにチアリーダーに向いているとは思う。

「ちょっと心美。あんたのせいで罰走になったのに、なにラブラブしてんのよ!」

チームメイトも口では怒っているが、目は笑っている。先輩のシゴキよりも走る方がいいのかもしれない。チアはチームの種目だからか、みんな仲がいいのかな。

「ごめんごめん。ばれてないつもりだったんだけど」

本郷が顔の前で両手を合わせている。その隙を突いて、ひとりのチアがすっと彼女の背後に回り込む。そして、本郷の横にいたチームメイトに目配せをする。

「あー、この人かあ……」

合図を受けたチアが、すっとぼけた声を出して俺の顔を覗き込む。


つられて本郷の注意が俺に引き寄せられた時だった。後ろのチアが、本郷の短いスカートを両手で思い切り捲り上げた。

ばっ。

火山が噴火したみたいになって、胸の方まで裏地を見せたスカート。捲られた下半身には、鮮やかなブルーのコスチュームパンツがお臍の方まで丸見えになっていた。

「きゃあッ!」

本郷が甲高い悲鳴を上げた。慌ててスカートを全力で押さえ込む。

「こら、見るなスケベ!」

……怒られた。

「は? それ見せてもいいパンツだろ。ブルマと同じで……」


ドスッ。

素早いモーションから繰り出されたリアルなストレートが、今度は俺の鳩尾に決まる。

「うぐっ……。お、お前……なあ」

俺の反論を許さず、ストレートを食らわせた手が制服の胸ぐらを掴む。頬をぷくっと膨らませた本郷が言い放った。

「あのね。コスパンは『見えてもいい』けど、『見せてもいい』ものじゃないのよ。チアのスカート捲るなんて最低。今度やったらコロスわよ」

いや、俺が捲ったわけじゃないんだけど。

「んもう、また怒られるから。じゃあね!」

本郷はあっさり俺を無視して走り出す。仲間たちも一緒にカモシカのような速さでどんどん走っていく。超ミニのスカートが揺れて、チラチラと悩ましくブルーの『見えてもいいもの』が揺れ動くので、何人かの通行人が振り返る。

そんなことを気にも留めずに走っていく本郷たちの姿は、すぐに学校の角を曲がって見えなくなった。

時々今でも心美にからかわれるが、この頃の俺は全然気がついていなかったのだ。彼女が自分から図書委員に立候補した理由にも、ブルマで俺にちょっかいを出す理由にも。


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