投稿作品集 > 万引きの代償 p.05

このストーリーは、bbs にて、鳳仙 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は 鳳仙 氏にあります。



「え!? と、取り調べ中っ!? あの……遥が何かやったんですかっ!?」

間抜けはやっぱり間抜けだ。取り調べ中といったら、万引きに決まってる。そう思いながら、浅川は率直に言った。

「窃盗の現行犯です」

美波は更に驚いた。それは何かの間違いであろう。少なくとも遥は、そのような事をする人間ではない。彼女は、それを捲し立てるように言った。

浅川は苛立ちを覚えた。このような間抜けと、問答する事が自分の沽券に関わるような気がするのだ。

「悪いけど事実よ。私はこの娘らの親が来るまでここを動けないから、確かめたいなら事務所の人に頼みなさい。すぐ隣だから、あなたでも分かるわ」

美波は、浅川の人を小馬鹿にした言い方にムッとした。そして、挨拶もせずに詰所を出ていく。

『ふん、礼儀も何もあったもんじゃないっ』

浅川は心で毒づくと、椅子に腰掛けた。しかし、彼女は一つのミスを犯していた。

上司である田所は、事を内緒にする条件で遥をお仕置きしているのだ。それを確認もせず、独断で美波の訪問を許可したのは、後で咎められても仕方がないであろう。


「すいませーん、私の友達が此方にいると伺いましたが……」

美波は、事務所のドアを開けるなり、そう声を掛けた。

パーティションから、男が顔を出す。最初に、遥が連行された時に取り次いだ男である。

「え? 友達?」

一瞬彼は、女性の闖入者が何を言ってるのか分からなかった。暫くして、万引きの若い女性が脳裏に浮かぶ。

「ああ、引き取りに来たのかな? その友達なら、そこの部屋にいるよ」

彼は、勘違いをしていた。そもそも此所は、一般人立ち入り禁止である。それを入って来たという事は、田所の許可が出たものと解釈したのだ。そして美波を、身請け人と思った為、何の疑いもなく遥の居場所を教えた。

美波はペコリと頭を下げ、教えられた部屋をノックもせずに開けた。その瞬間、中から女性の泣き声と、何か叩く音が聞こえた。美波は慌ててドアを閉める。


『何、今の? ひょっとして……泣いてたの、遥!?』

彼女は辺りを見渡す。幸い、他の人は気付いてないようだ。そこで、耳をドアにつけて、中の様子を窺う。微かに、悲鳴と懲擲音が聞こえる。

『この部屋、防音……?』

美波の中に、好奇心が沸いてきた。

『パッと見、誰も居なかったようだったな……』

彼女は再びドアを開け、中を窺う。パーティションに仕切られた入口側に、人はいない。そこで素早く潜り込むと、丁寧にドアを閉めた。

彼女が部屋に侵入する際、部屋を区切るパーティションの右側に、若い男が立っているのが見えた。が、何かに集中しているようで、此方に気付いた様子は微塵もない。

そこでホッと安堵すると共に、パーティションの向こうで、何が起こっているのか確認する事にした。


ばちぃっ!

「くふうぅっ! さん……じぅさんっ、万引きじて……ずびばぜん……じたっ!」

『遥っ!? やっぱり泣いてるの、遥だっ! しかも、叩かれてる? それに万引きって、マジでっ!?』

美波の好奇心はより強くなる。

『とりあえず、覗いてみよう……』

この大胆さは、見つかっても案内されたと言えば済む、という安心感から来るものだ。最早、彼女に躊躇はない。若い男がいる反対側、つまりパーティションの左側へと、這うように進む。

泣き声がより大きく聞こえる。どうやら、遥の頭は此方を向いてるようだ。そう判断した美波は、恐る恐る少しだけ覗いた。

美波は驚いた。遥は中年に抱えられ、顔を此方に向け、グシャグシャになって泣いている。


『危うく遥と、目が合うとこだったっ』

彼女は、慌ててパーティションの陰に戻ると、たまらないスリルを感じた。

『あの叩く音……。遥って、もしかしてお尻叩かれてるの!?』

あの姿勢、肌を直接叩く音、間違いはないだろう。次に彼女は、遥の打たれているお尻を見たい衝動に駈られた。

そこで、パーティションの右側まで移動する。その陰から、若い男の様子を窺った。一点だけを一心不乱に見詰めている。

美波は更に大胆になった。若い男が此方に気付く気配が無い、と判断し、パーティションの陰から頭だけ覗かせた。

『うわっ、本当にお尻叩かれてるっ!』

美波は、哀れな友達の姿に、心の底から驚いた。

『それも、若い男の目の前で、あんなに足広げちゃって……。大事なとこ、丸見えじゃんっ!』

その光景は、想像以上の衝撃だった。遥の片方の靴は脱げ、下着は片足首にのみ残っている。その状態で、様々に足を泳がせる為に、秘処も肛門も丸見えである。そしてお尻は、満遍なく真紅に染まっていた。


『それにしても、あの遥が……』

美波にとって彼女は、紛れもなく優等生だった。成績がずば抜けて良かった訳では無いが、性格も真面目で、私生活もキチンとしていた。

それが、万引きした挙げ句、中年に抱えられて、下半身裸でお尻を打たれて泣いている。およそ有り得る光景では無かった。

美波は、遥が可哀想という感情より、そのシチュエーション、人前で子供のようにお仕置きされる姿に、異様な興奮を覚えた。よって彼女も、事の成り行きを見守る事にした。

ばちぃっ!

「ひぐぅぅぅっ……! よ、よん……じゅっ、……万引きじてっ……ずびばぜん……ったっ……!」

羞恥を忘れる程に、お尻の痛みを堪えている遥は、まさか友達が自分の情けない姿を見ているとは夢にも思わない。

打たれれば足を開いて股関を晒し、次の懲擲までお尻を捩らせ続ける。それは実に官能的で、卑猥でもあり、滑稽でもある。


「ごべんなざいっ! ごべんなざいっ! えぐっ……も、もうだえぎればぜんっ……。お願いじばずっ……。ゆるじてっ、許じてくらざいぃっ!」

40を終え、遥は声を振り絞って哀願した。しかし、田所は酷薄な返事で応えた。

「うん、まだそれだけ声が出るなら、余裕があるな。終わりは此方で決める、だから遥は、しっかり受けて、しっかり反省する事だ。まだまだ続けるぞっ」

ばちぃっ!

「っいいぃぃぃっ……! 痛いれすっ、痛いれすぅっ! わあああぁぁぁぁぁぁんっ!」

冷酷な言葉と共に、打ち下ろさせた平手。遥は厳しい現実に、為す術なく号泣した。

そして美波は、男の声に聞き覚えがあるとし、首を傾げた。尤も、それは一瞬であり、引き続き友達の無様な恥態を見守った。

遥が激しく泣きじゃくるも、田所は相変わらず手加減をしない。赤いお尻を波打たせては、彼女に無様なダンスを踊らせる。

「おいっ、数と反省はどうしたっ!? 泣いてても、お仕置きは終わらんぞっ」

その声は、遥に届かない。ただひたすら、子供のように泣きじゃくるだけだ。


60近くになって、遥も泣き疲れたのか、さかんにしゃくりあげている。ここで漸く、傍観していた高村が助けに入った。

「田所さんっ、もう許してあげましょうよっ! もう、充分罰になってますよっ!」

そう言いながら、彼は遥を庇うように間に入った。

美波は驚いた。

『えっ? 田所って……』

そして思わず、「お、叔父さんっ!?」と声に出てしまった。突如聞こえた女性の声に、田所も高村も、仰け反らんばかりに驚いた。

「だ、誰だ君はっ!? いつからそこに……」

「美波っ!? 美波じゃないかっ!? 何故、ここにいるっ!?」

美波は、しまった、という顔をしたが、舌を出してパーティションの陰から出てきた。


遥のお仕置きは終わった。彼女は美波に手当を受けるも、万引きを知られた事、お仕置きされているとこを見られた事で、依然として泣いていた。そして高村は、そんな遥を慰め、優しく労っている。

「それにしても、お前の友達だったとはな……。世間は狭いわ」

姪の美波に、とんだ所を見られ、彼は苦笑するしかない。

「叔父さん、それより遥を許してくれるよね? それとあの女……」

「ああ、分かっている。その娘は許すし、浅川君には然るべき罰を与える。……その代わり、姉さんには内緒だぞ?」

「うん、ママには内緒にしといてあげる。……遥、大丈夫? 目、真っ赤だから少し休んでいく?」

遥は頷いた。このまま人前に出られるものではない。そして彼女は、高村へ頭を下げた。

「高村君、本当にごめんなさい……」

「もう、いいんだ。遥、よく頑張ったじゃないか。僕はいつでも店にいるから、気軽に来てくれよ」

彼は慰めついでに、遥を軽く抱き締めた。それに対し、彼女は頬を染めて頷く。


やがて遥と美波、二人は事務所を出て、『サイカ』を後にする。

「遥っ、あの若い人って、どんな関係?」

にやける友達の質問に、遥は顔を赤くした。そしてそれには答えず、彼女へ謝った。

「……美波、迷惑掛けてごめんね……。そして今日の事だけど……」

「分かってるって。叔父さんの約束は、私の約束でもあるもん。誰にも言わないから、安心してっ」

「美波、本当にありがとう……」

遥は心から礼を言った。

「ふふっ、いいのよ遥っ」

美波は笑顔でそう答えた。

『それにしても、お仕置きされている遥、可愛かったな~。秘密は守るから、今度、私にも叩かせてくれるよね? その時、若い彼の事も話してもらうからっ。ね? はーるかっ』

(完)


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