投稿作品集 > バレー部の躾 revenge p.02

このストーリーは、bbs にて、KRE 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は KRE 氏にあります。



(3)

結論から言うと、3,000回の腹筋は10分の1もしなくて済んだ。

その後10回もしないうちにご指導を賜った俺は素っ裸に剥かれてしまい、身体中泥だらけになるまで蹴り倒されて、地面の上を這い回ることになったからだ。

そして今、俺は男子なら誰もが夢見る伝説の桃源郷『女子更衣室』の中で座っている。

…………泥のついた全裸のままで、空気椅子に。だけれども。

多くの場合、理想と現実は異なっている。伝説の桃源郷も踏み入れてみればひどいありさまだった。

男子の部室以上にゴチャゴチャと物が散乱している。それに独特の異様な匂い。香水なのか制汗剤なのかわからないが、様々なフレグランスが混じり合って鼻腔を強烈に刺激する。

(女ってよく平然とこんなところにいられるよな)

そして、恥じらいのなさ。男子の前ではあれだけきゃあきゃあ言うくせに、同性同士の空間では平気でパンツ一枚で歩き回っている。

俺の姿を見つけても、ほとんどの部員は平気だ。なんだか男として見られていないようで、筋トレ以上のダメージを俺の心に与える。


「なにあれ?」
「あー、アレ。『気合い入れ』だって。真衣が引きずってきたのよ」
「えー。すっごい迷惑なんですけど」

「で、なに。あたしたちの裸見て勃起してるわけ?」
「さあ。気になるんなら見てきたら?」
「いやよ。変態汚物に近づくのなんて」

「だいたい『気合い入れ』って普通は逆でしょ」
「うーん。真衣たちレギュラーはこの前やらされたから仕返しでしょ。でも正直、男の裸見ても気持ち悪いだけだよね。男はあたしたちの裸見られたら喜ぶんだろうけど」

「真衣はあんなのが好みなの?」
「知らない」
「だいたい、どこ行ったのよ?」
「シャワーじゃないかな。いいじゃん、アレは同じ1年の奉仕でもさせとけば。それより聞いてよ。聖央付属、今年はシード落ちたって……」

別の意味でリアルで生々しい。桃色のほわーっとした雰囲気や女の子同士でじゃれ合う光景など、なにひとつ見つけられない。

『勃起』だの『汚物』だの『気持ち悪い』だの、言葉の暴力の応酬で、これはこれで確かにきつい懲罰のようにも思える。

男子の部室に女子部員が入った時には周囲を取り囲まれるのに、女子の部室に俺がいても誰も見に来ない。見てくれもそこまで悪くはないと思うのだが、性的関心の違いなのだろうか。


特に監視されているわけでもなく放置プレイを続ける俺だったが、ズルをすると桜木先輩が戻ってきた時に何をされるかわからなかったので、踏ん張って空気椅子を続けていた。

さすがに腹筋は壊れる寸前だったので、背中を付けている小汚い壁が相棒のように頼もしい。後ろに身体を押しつけているだけでも、いくらか楽を出来るからだ。

しばらくすると、最後まで片付けをさせられていた1年の女子が部室に戻って来た。

ざわざわとこちらに向かってくる足音が大きくなって、並んだロッカーの角から見知った子が何人かひょこっと顔を覗かせる。目が合ってしまった。相手の視線がすっと真下に下がる。

「きゃあ。変態!!」
「なにこれ」
「公然わいせつで逮捕、逮捕だよ!」

口々に騒ぎ立てているが、混乱にはならない。冷静に俺の裸を見て、呆れたような表情を浮かべてから、自分のロッカーを開けて着替えと必要な物を取り出す。

「最低。ここで着替えられないじゃない」

捨て台詞を残して場所を移動していく。やがて俺の周囲にはやっぱり人がいない状況に戻るのだ。


(なんだろうな。このものすごいコレじゃない感は……)

痛めつけられたのが腹筋だったせいで、足にはまだ若干の余裕を残していた俺は、孤独な空気椅子を続けながら考え込んでしまった。

俺は『気合い入れ』を勘違いしていたのかもしれない。何か陰湿でリンチのようなものだと思っていたが、異性の部室にひとりで連れ込まれたからと言って何かあるんだろうか。

女子が男子部室に送り込まれた場合には、間違いが起こる可能性があるのかもしれない。しかし、現実にはそれ以上に部の規律があり、罰の一環として送り込まれるのだから、そういう行為とは少し違うような気がする。

桜木先輩の時にも、彼女を襲うとか、そういうことを考えていた奴はいないと思う。

まあ、確かに目の保養もしたし、楽しませてももらった。けれど、それはさっき腹いせに俺をシゴキまくっている時の先輩と何も変わらないようにも思う。

一方で男子が女子部室に送り込まれたら、この状態だ。確かに精神鍛錬にはなるのかもしれない。


ひょこ。

真面目に考察していた俺の前に、ひとりの少女が現れた。ロッカーの端に手をかけて顔だけ出してこちらを伺っているのは、同じ1年の柳瀬菜那香だった。

愛らしい顔が俺をじとっと見つめている。

ぷるん。

俺が空気椅子をしている真正面の通路に出てくると、シャツに隠された大きな胸が揺れた。右を向いて、何か手を振ったり、口をぱくぱくさせている。どうやら向こうにいる仲間とやりとりしているようだ。

一通りコミュニケーションが済むと、恐る恐るこちらへ近づいてくる。その手には丸められた美容雑誌が握られていた。

距離にして1メートルほどか。少し離れたところで立ち止まって、上から下までマジマジと俺の肉体を眺める。さらけ出されている伝家の宝刀を目にしても、たいしてはにかむ様子も見せない。

全体に丸みを帯びた柳瀬の身体がすっと低くなって、雑誌を持った手が下手に投げ出された。


「回転、レシーーーブ」

スローモーションを自分で再現するようなアニメっぽい動きで、低い体勢からくるりと回りながら、雑誌を突き出す。美容雑誌のタイトルに描かれたやけに大きい「P」の文字が、俺のピーを下から持ち上げるようにして弾き返す。

てろん。

股間の先端が情けなく揺れた。

「きゃあははははーーーーっ!」

柳瀬は箸が転んでもおかしい年頃だった。何がそんなに楽しいのか理解できないが、今度は一目散にロッカーの角を曲がって走り去ってしまう。

「小さい、小さいっ! この「P」の縦棒にも届かないよー!」

俺はひっくり返りそうになった。途端に何列か向こうのロッカーから、女子たちのきゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえてくる。

「えーっ、それって極小!?」
「うちの1年なんて、そんなもんだろ」
「ねーねー。今度、罰あったら、全員並べて比べさせようよ」
「せいぜい、どんぐりのせいくらべだろ」


ひどい。なんだこいつら。女性に対する幻想が次々と打ち砕かれていく。少年はこうして大人になるのかもしれない。

「でね、シワシワで皮かぶってるの。汚そう!」

柳瀬の忌憚のない評価が聞こえてくる。

「短小でホーケイかあ。重症だな」
「あ、なんか面白いね、それ。短小ホーケイ重症。タホジュウ? これからあいつのことタホジュウでよくない?」
「きゃははは……っ!!」

違う。これは猛烈に疲れていているからだ。泥も付いているし。いつもの俺はもっと輝いている。そして偉大でデカイ。反論の場を与えて欲しかったが、女子たちは俺の見えないところで一方的に評価を下げ続けている。

そう言えば、柳瀬のことを気に入っていた奴がいたことを思い出した。

(やめとけ。バレー部の美人は性格悪いのばっかりだ)

明日、さっそく教えてやろう。その前に、女子の間で俺のサイズとあだ名が決まってしまいそうだけどな。

(そう言えば、柳瀬もうまいんだよな。性格悪くないと上達しないのかよ)



(4)

騒いでいた女子の声も、いつの間にかかなり小さくなっていた。もう部室にはほとんど誰も残っていないようにも思う。本当に朝までこのままなのかという不安が頭をよぎった時だった。

ロッカーの陰から、四人のレギュラーが満を持して登場した。

桜木先輩を筆頭に、加賀キャプテン、セッターの板橋先輩、そして松尾先輩だ。全員すっかり身だしなみを整えてジャージ姿。シャワーも浴び終えて、洗った髪も乾かしてまとめている。

桜木先輩がすっと前に出て、俺の顔の真横の壁に手を付く。ああ、これが噂の壁ドンってやつだ。女子はされるとときめくという憧れのシチュエーションだが、いまは男女逆で、俺はまったくときめきもしない。

「先日はどうも。お世話になりました、1年の先輩?」

皮肉たっぷりな口調に、美し過ぎる笑顔。

(こ、こ……怖えぇぇ…………!)


「当然、覚えてるよね。懇切丁寧なご指導、ありがとうございました」

「は……はい。い、いえ、いいえ!?」

俺の声は上ずっていた。その反応に桜木先輩は一定の満足げな表情を浮かべる。

「バレー部では伝統としてよくあることだから。私たちも、いろいろな部員から指導してもらったし、それはいいんだけど……」

桜木先輩は言いながら、顔を近づける。リンスなのかボディソープなのか、とても良い匂いが俺を包み込んで、心臓が急速にペースを上げた。

「キミはさ、特に念入りにしてくれたでしょう? 部に関係のない人目もある校舎の廊下で、下着も膝まで降ろしてくれて、レイダウンで開脚したりとか? おかげでクラスの男子にも見られて、よく反省できました」

不必要に小声でしゃべられると余計に怖い。見ている三人の顔が無表情なのも、さらに拍車をかけている。

「なに、私に恨みでもあるの? 下っ端のことなんて覚えないけど、そんなに気にくわないシゴキとかした?」

「い、いえ……」


迫力に押される俺の頬が鳴った。

パン。

「はきはき答えろ!」

先輩が大声で怒鳴る。

「はいっ。恨みなんて、ありません!!」

ほとんど脊椎反射のような返事を返す。柳瀬たちのことで少し緩んでいたが、身体が思い出した。そうだ。先輩たちは3年でレギュラーなのだ。神様のような存在なのだ。

「こいつ、真衣のことタイプとか、好きなんじゃない。ガキだからいたずらしたいとか」

板橋先輩が冷め切った目で俺を見る。完全に見抜かれていた。

「そうなんだ? まあ、私のファンなのはありがとう」

自信満々に真正面から受け止める言葉。

(うっわー、すっげーカッコイイ……!)


女子にありがちなキモいとか最悪と言った罵りの言葉はない。

自分が美人でエースであることを自覚している。人気があり、好きになられても当然という反応。そのうえで、俺のことなんて鼻にもかけなていないという態度。

本当の意味で身分の違いを思い知らされる言葉だった。まさに天上の女性。穢れなき凜々しい女神。

(やっぱり桜木先輩って……すごいわ。これが、うちの女子の……エース……!)

俺は0年の先輩を躾ることで、女神を地上に堕としたつもりだったが、それが勘違いであったことに気がついた。神様は神様で、たまたま地上に降りていただけ。穢れることなく天に帰り、神罰が俺の身にくだされようとしている。

そして、目の前の神様は、常人には理解できない行為を実行に移された。

ジーーーッ。

桜木先輩はジャージの上着のジッパーを下ろして前をはだける。下にはTシャツを着ているが、その裾をズボンから引きずり出すと、両手でお腹を見せるようにして一気に捲り上げたのだ。


ズリッ。

見えたのは、くびれたお腹だけではない。Tシャツの下に着けているスポーツブラまで一緒に、首の下まで捲ってしまったせいで、桜色の可憐な蕾を頂点とした、ふたつの真っ白い膨らみが、ぷるりと露わになる。

「うわわわわああぁぁぁーーーーーーーー!!」

素っ頓狂な悲鳴を上げて腰を抜かした俺を、加賀キャプテンと板橋先輩が両腕を引きずり上げて無理矢理起こさせる。

「どうしたの。この前までは平気で見ていたでしょう。ああ、見るだけじゃなかったよね。揉むとか、そんな可愛い触り方だけではなかったように思うけど……?」

「えっ……!? あ、あの……それは………………す、すみませんでしたあッ!!」

とにかく謝ろうとする俺は、堂々とした桜木先輩の態度に、おっぱいをまともに見ることが出来ない。横を向く頭を、加賀キャプテンがぐっと押さえつけて、力尽くで正面に固定する。

「ステイ!」

「ほら、好きなんだろ。ちゃんと見ろよ!」

目に飛び込んでくる美乳。世界で一番美しいと思われるそれを至近距離で見てしまった俺は、下半身に強い衝撃を感じる。


(ま、まずい! それは絶対にまずいッ!!)

とにかく気を静めないと大変なことになってしまう。

般若心経を唱えてみた。最初の数文字しか知らなかった。百人一首を暗記しようと思った。下腹部が衣も干せそうな山のようになっていることが記憶された。宇宙の成り立ちを考えようとした。股間のビッグバンがより身近に感じられた。

俺は必死でもっと他のことを考えようとした。しかし、目の前にぶら下がっている果実は甘美すぎて、すべてを排除してしまう。桜木先輩は、あろうことか、それをさらに揺らして見せた。

ふるんっ。
ぷるるっ。

(だめだあっ!!)

俺はもう知ってしまっている。桜木先輩の乳房がどれだけ柔らかいのかを。どれだけ気持ち良いのかを。想像ではなく二週間前の経験が、それを明確なイメージとして作り上げ、行動を欲する。

身体中の血がたぎる。興奮の衝動がこみ上げてくる。性欲の地震が発生し、最初のP波が俺のピーに押し寄せてきて、ついにPの縦棒の長さを超越した。


むくむくと目覚める。起ち上がる!!

「まだそれだけ元気があれば、余裕で鍛えられるだろ」
「そうだね」

加賀キャプテンと松尾先輩が勝手に決めつけている。

「スクワット300回から始めよっか?」

板橋先輩が俺を強引に立たせた。丸出しの尻をピシャリと叩きつけて言う。

「本気だから。あんたには私たちの卒業までに少なくとも二軍にはなってもらう。いや、ならせる。真衣のことずいぶん指導してくれたみたいだけど、その罪、成果で返してもらうから、そのつもりで!」

「レギュラー直々で指導受けることができるなんて、恵まれすぎだよ。それ相応の立場にはなってもらうよ。血尿出てもさせるから」

俺の顔から血の気が引いていく。よってたかってしごかれるとか、そういうことよりも質が悪い。一日や二日で終わるような内容ではない。

二軍と言っても1年ではごくわずかしかなれないし、そいつらは中学の時からのエリートだ。俺とは育ちが違う。


「半年で二軍になるよな?」

桜木先輩が笑いながら確認する。上級生に対して、1年生が言える回答はただひとつだけ。

「…………はい」

そう言うしかなかった。

「声が小さい!」

「はいッ!!」

腹の底から声を出した。だが、さらにその腹の下に違和感を感じる。

むにゅり。

恐る恐る視線を下げた。桜木先輩の手が、すっかり皺も取れてコートを脱ぎ捨てたそれを、しっかりと握っていた。


「スクワットの補助をしてあげるわ。はい、一回」

ぎゅいっ。

軽い力で下に引っ張られた。しかし、いまやシワシワのPから変貌を遂げて、輝きを取り戻した宝刀はすっかり上を向いてしまっており、逆方向への力は激痛になって跳ね返ってくる。

「うぎゃあああーーーーーーーーッ!」

引っ張られるままに膝を曲げる。息つく間もなく、次は皮が伸びきるほど上に吊り上げられた。

「ぐあっ……うぐッ!」

男の象徴を失ってしまわないように脚を伸ばす。ぼろぼろの筋肉でもう出来ないと思われていたスクワットも、男の尊厳がかかった状況ではやるしかない。

「くすっ。女の子があそこ摘ままれた時よりも、大きな声が出ちゃうんだ……?」

美女の目が愉悦に細められる。

「がんばってくださいね。1年の先輩!」

女子の部室に、俺の切ない叫び声が繰り返し響いた。


inserted by FC2 system