投稿作品集 > 鬼姫 005 もう一つの運命 p.02

このストーリーは、bbs にて、hiro 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は hiro 氏にあります。



あれからどれくらい走っているのだろうか……。

体力も限界に近づき、走っていると言うより歩いていると言った方が正しいのではと思えるほどのスピードだった。たぶん、鬼姫なら“何をチンタラ走っているんだ!!”と怒られることだろう。

でも、もう、無理。そんな時。山下先生の姿があった。

ヤバイ!!

普段なら、自然に身体が反応してスピードがアップするのだが、今の私には体力は残っていなかった。

「止まれ!」

山下先生の指示が飛んだ。私たちは、肩で息をしながら山下先生の前に立った。

「ついて来い」

そう言って、私たちをどこかに連れていこうとした。


怒られる!?

咄嗟に思ったが、もう、私は限界だった。

好きにして。体操服を没収するというなら、裸で走ってやるよ。短パンを没収するというなら、ブリーフ姿で走ってやるよ。

私は、心の中で自暴自棄になっていた。多分、佳奈も同じ気持ちだったと思う。

連れて来られたのは、近所の公園だった。

「パンと牛乳を買ってきた。少し、休憩しろ」

「えっ?」

「すまんな。さっきも言ったように、姫野先生の手前、罰を与えなきゃ仕方がないんだ」

山下先生が、言ってくれた。私は、涙が出そうだった。山下先生は、決して褒められた容姿ではないが、本当に心の優しい先生だった。


私は、山下先生の気持ちに感謝しながら、パンを食べた。

「もう、お前たちに走る体力は残っていないだろう。俺が迎えに来るまで、ここで反省文を書いていろ。走るよりは良いだろう」

そう言うと、山下先生は紙とペンを手渡して帰っていった。

壁に耳あり障子に目あり。私たちは、更なる罰を恐れ、私語をすることも無く反省文を書いていた。

……

「山下先生は、本当に甘いんだから……」

鬼姫の声だ。恐る恐る声の方を見ると……。やはり、鬼姫だ。私は、心の中に緊張が走った。

「お喋りなんかしながら反省文を書いていたなら、楽しいことになるところだったけど、真面目に反省文を書いていたようね。さぁー、戻るわよ」


助かったー。私は、思った。でも、戻ったら、どうなるの? 私たちの運命は??

そう考えると、不安で押しつぶされそうになった。地獄への一本道を歩くかのような気持ちで、鬼姫の後を追った。

生活指導室に入ると……。

「鈴木!!」

まずは、鈴木が呼ばれた。だが、鈴木は返事しない。いや、怖くて返事が出来ないのだろう。

「鈴木!! 貴方には口は無いのかしら?」

「はっ、はい……」

「あるのなら、最初に呼ばれた時に返事をしなさい」

「は、はい……、す、すみません」


いいきみ!!

私は、心の中で思っていた。

「山下先生から、全部、聞きました。貴方には、今から罰を与えます。でも、その前に、貴方が穿いているブルマーを、田中さんに返さなきゃね」

「えっ?」
「えっ?」

私と鈴木の声が重なるように、二人が動揺した。

たぶん、鈴木は、下半身裸にさせられるのではないかという不安。私は、たった今まで鈴木が穿いていたものを、私が穿かされるのではないかという不安によるものだ。

「職員室の前にある手洗い場で、ブルマーを洗ってきなさい」

「先生、その前に僕の短パンを田中さんに返してもらいたんですけど……」


鈴木としては、当然の訴えだ。でも? まさか? ここで、短パンを脱がされる??

私は、不安になった。

「ブルマーを洗って来なさい!!」

鬼姫は、聞く耳を持たずといった感じだった。鈴木は、諦めたのか、生活指導室から出ていった。

「鈴木も出ていったことだし、田中には短パンとブリーフを返して貰いましょうか」

そう言って、鬼姫は何かを手渡してきた。

「先生、これって?」

「そうよ。今日は貴女が私に預けてきたパンティよ。脱ぎたてだから、お股のところにシミがついているでしょう」

下着の汚れを指摘されたのも恥ずかしかったが、今まで鬼姫は“パンツ”や“ショーツ”とは表現していたが、“パンティ”と表現したことは無かったように思う。

確かに“パンティ”と表現することもあるのだが、何だかいつも以上に恥ずかしくなった。


「早く着替えなきゃ、鈴木が戻って来るわよ。鈴木の前で着替えたいのなら、私は構わないけど」

「えっ? あっ!!」

鈴木に私のブルマーを洗いに行かせたのは、鬼姫なりの優しさだったのだ。私は、一気に短パンとブリーフを脱いで、鬼姫から返して貰ったパンツを穿いた。

「貴女は、私が良しというまで、そこで万歳して立っていなさい」

「はい……」

私は、これ以上の罰を恐れ、言われるがままに立った。

「本岡!!」

「はい」

「もとはと言えば、貴女のせいで田中が巻き込まれているのよね」

「はい……」

「分かっていれば良いのよ」

いつもと少し言い方は違うが、鬼姫らしい口調だ。


「姫野先生。私も由真の横に立ちたいので、パンティとブルマーを交換して貰えないでしょうか?」

佳奈が言った。そして、まだ鬼姫からの答えを聞いていないのに、ブルマーを脱いで鬼姫に突き出した。

「あら、そう。いいわよ」

そう言うと、鬼姫は佳奈からブルマーを受け取った。だが、なかなかパンツを渡そうとはしなかった。その間、佳奈は下半身をモジモジさせていた。まるで、小さい子供がおしっこを我慢しているかのような姿だった。

そして、ようやくパンツを返して貰った佳奈は、急いでパンツを穿いた。その瞬間だった。

鈴木が戻って来た。鈴木の姿を見て、佳奈は安堵の表情を浮かべた。

予想通りというべきか、当然というべきか。鈴木は右手にブルマーを持ち、左手で体操服の裾を引っ張り、少しでも下半身を隠そうとしていた。

「遅かったわね」

鬼姫は、そう言うと、なぜか私と佳奈の前に椅子を置いた。


「田中さんのブルマーは、そこの机の上に置きなさい。置いたら、貴方も、ここで万歳をして立っていなさい。但し、貴方は、この椅子の上に立つのよ」

鬼姫は、鈴木を椅子の上に立たせた。そして更に、私たちと向き合うように指示した。

鈴木は、言われるがままに椅子の上に立った。そして、万歳をした。その瞬間、下半身が丸見えになった。私も佳奈も、咄嗟に視線を外した。

「見るのも罰のうち!!」

私たちが視線を外したのに気付いた鬼姫は、私たちに向かって叫んだ。

私は、仕方なく視線を戻した。鈴木を椅子の上に立たせたことで、嫌でも鈴木の下半身が視線に入ってくる。そのことを鬼姫は理解した上で、鈴木を椅子の上に立たせたのだろう。

どこまでも卑劣な奴だ!!

私は、心の中で思っていた。結局この日は、一時間ぐらい立たされて私と佳奈は解放された。私たちは、鈴木を一人残して生活指導室を出た。この後、鈴木は更に罰を受けるのだろうか。

鬼姫!! 手加減などするな!! おもいっきり罰を与えてねぇーー

私は、心の中で鬼姫にエールを送りつつ、帰路に着いた。


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