投稿作品集 > 新入社員営業研修 - 麻子 p.05

このストーリーは、bbs にて、たぐお 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は たぐお 氏にあります。



そして、運命の金曜日の夕礼。

「女子チーム 128枚!」

「おぉぉ」
「やったぁぁ!」

結局、見積は美香が3件も取得し、朋子と麻子は見積依頼を得ることはできなかったが、麻子は名刺を44枚入手し、苦手な営業活動でチームに貢献できたことに満足していた。

(見たか! 内藤! これなら文句の付けようがないでしょ!)

「そして、男子チームは195枚! 男子チームの勝ちです!」

一瞬の間が空く。

「えぇぇぇぇ」
「えぇっ」
「うそーーーー」


男子チームは人数が少ないので、獲得が枚数が1.5倍されるルールだったとは言え、差がつきすぎている。

「3人は予告通り来週、早朝清掃の罰ゲームをやってもらいます。説明しますから、夕礼の後、残りなさい。いいわね!」

「は、はい……」
「はい……」

「それじゃあ、続いて、今週の確認テストを行います」

(そ、そんなぁ、まさか……あんな男子に負けるなんて……)

目の前に配布された確認テストに向かうが、まさかの敗北に動転し、ちっとも集中できない。辛うじて問題を読んでも暗記したはずの答えが思いだせなかった。

(やばい、やばい……これじゃあ、また……)

一週間前の悪夢が蘇ってくる。


結局、冷静さを取り戻せないまま、テストは回収されてしまった。夕礼の最後に止めのように、三人は残るように、と言い残して内藤は出て行った。

研修室内に重苦しい空気が漂う。誰もが、この後、与えられるのであろう屈辱を想像して俯いていた。

ガラッ、ガシャン!

研修室の扉が開き、乱暴に閉じられる。

「お前ら! 覚悟はできるんでしょうね!」

先ほどまでとは口調が全く違う。

「……」

「先週あれだけ懲らしめても、今週もこの体たらく。たっぷりと思い知らせてやるわ! あんたたちの身体にね!」

「……」

三人は悔しそうに下唇を噛むことしかできない。


「声が漏れるといけないから、いつの場所に移動するわよ!」

「は、はい……」

「チャキチャキ動きなさい!」

「は、はいっ!」

バッグを持つとおずおずと立ち上がり、内藤の後に付いて部屋を出て行った。後ろから誰かが付けていることに気付く余裕などある訳もなかった。

三人は想像通り、一週間前と同じ場所。幹部会議室に連れて行かれ、バッグを卓上に置き、ジャケットを脱ぐように命じられた。

そして、円卓の中央に横一列に並ばされる。まるで、先週のプレイバックを見ているようだったが、唯一の違いは、これから何が行わるのか、漠然とだが、想像がつくことだ。


「あんた達、どういうつもりなの!」

内藤の怒声と共に目をつぶりクビをすくめる。

バシッ
バシッ

覚悟していた通り、打擲音が右から近づいて来る。

バシィッ

左の頬を張られ、首がねじ曲がるような衝撃が走る。二度目ということもあり、グッと堪えるが、左頬のジンジンとした感覚が繰り返し響いている。漫画で目にするような虫歯が傷んでいるときはこんな感覚なのだろうかとふと思った。

「どういうつもりなのかって聞いてるのよ!」

「す、すみません……」


「先週言ったわよね! お前らバカなんだから、せめて名刺だけは集めて来いって!」

「は、はい……」

「それなのに、あんな男たちに負けるなんて! そもそも、三つも雁首揃えて、二人に負けてるんじゃ、世話ないわ!」

「……」

(あんなヤツらがそんなに集められる訳ないのに……い、いったい、どうやって……)

釈然としないが、逆らえる訳もなく、黙っているしかなかった。

「それから、このテスト!」

床に投げ捨てたテストを踏みにじりながら内藤は続ける。

「武本 94点! 小内 92点! 宮川 94点! お前ら、本当のバカか? 先週、あれだけやられて、しかも、自分の会社に関するテストで100点を取れないバカがどこにいる! 先週も言ったが、お前らは我社始まって以来の出来損ないだ! 自覚しろ!」


隣の朋子にチラリと目をやると、目に涙を溜めている。真っ赤なリップに彩られ魅力的なふっくらとした唇がワナワナと震えている。

「要は先週の罰が手ぬるかったから、今週も手を抜いてるってことなんだろ!? 二度とそんなことできないようにしていやるからね!」

ガシャン!

内藤が円卓を蹴りつけた。三人の身体がビクッと身体を震わせる。

「さぁ、先週、気合い入れの方法教えたわよね! さっさと動物らしく四つん這いになって、ケツを突き出しなさい!」

「……」

自分からそんな屈辱的なポーズを取るなんて考えられない。と思った瞬間、朋子がクルリと向きを変えた。一瞬ためらったように見えたが、そのまま姿勢を落としていく。少し遅れて美香もそれに倣ったのを見ると、麻子も従うしかなかった。


膝をカーペットに付いて膝立ちになると、ためらいながら、ゆっくりと前傾して両手を床に付く。ふと横を見ると、朋子と美香はすでに四つん這いになっていた。

「宮川! 遅いっ! てめぇ、まだナメてるみたいだな」

「い、いえっ」

慌てて、四つん這いのまま、少しお尻を上げてみせる。入社祝いに両親からプレゼントされたシャネルのパンツスーツのヒップの生地がピンと張ってお尻に張り付き、形を浮き立たせているのが分かる。

屈辱に耐えながら、頭を床に付くほどまで下げ、お尻を突き上げるポーズを取る。それだけでも、頬から火が出るような羞恥を感じた。

(こ、こんなの……研修じゃないわ……絶対、おかしい……)

「先週は最初だからと優しくしてやったらつけあがりやがって! 動物に情けは不要だったわね。今日のラスト五発はこれを使うから覚悟なさい!」

内藤は講義の時に使用する竹の棒で自分の掌をパンパンと叩いて威嚇してくる。


四つ這いの姿勢で顔を上げてそれを見ようとすると、本当にケモノが飼い主を見ている気分になりそうで、すぐに目を逸した。

(でも、あんなものでお尻を叩かれると、どうなるのだろう……細いけど、掌よりも痛いのかしら?)

「三人分を合計して、1人20発! いいわね!」

「はい……」

「声が小さい!」

「は、はい」

「常に大声で返事をしろと言ってるでしょ! 全員二発追加!」

「はい!!」


気配で内藤が持っていた指示棒を机の上に置いたのが分かる。思ったより高いヒールを履いた内藤の脚が麻子の左側の視界に飛び込んできた。

「相変わらず随分小さなお尻ねぇ。これを男に振って世の中上手く渡って来たんだろ? 聞いてるんだ!」

尻をパンと叩かれ、自分に話し掛けられているのだと気付いた。

「えっ?」

「いつも男に尻を振って生きてきたんだろう?」

まさか自分に話し掛けられているとは思えない程、下品な言葉だった。屈辱で顔の体温が上がるのを感じた。

「そ、そんなこと……」

「素直さに掛けるね。全員二発追加!」

「えっ!? そ、そんなっ! おかしいです!」


さすがに黙ってはいられない。内藤の方を向いて抗議をする。ニヤリと笑って、返してきた答えは麻子にとって想像も付かない言葉であった。

「仕事では上司には絶対服従だ! 常識だろうが! 学校で習わなかったのか!」

(そ、そんなバカなことはないわ。今までずっと自分の意見をはっきりと言うように教えられてきたもの)

「そんな……明らかに間違っているのに……う、ウソを付けってことですか!?」

「そうだ、それがどうした? もう一度だけチャンスをやろう。もう一度逆らったら、そうだねぇ、上司に意見するというのは社会人として致命的な欠陥だからね……逆らったら全員50発追加だ。オシャレなパンツが避けて、ケツには二度と消えない傷が付くかもしれないけど、そのくらししないとわからないだろう! 覚悟なさい!」

「……」

返す言葉がなかった。


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