投稿作品集 > 静香と香澄 p.40

このストーリーは、bbs にて、鳳仙 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は 鳳仙 氏にあります。



「お義母様、先ずは私が見本をお見せしますわ。この見本より軽い、となれば、やり直しですからね?」

自分に憐れみを乞うような義母にそう言うと、晴美は無言で見本を見せた。

バァンっ!

意外にも、厳しいという程までない。とはいえ、無論軽かろう筈はない。しかも、いきなりの懲擲である。香澄は、驚きと痛みに姿勢を崩した。

「きゃあぁっ! い、痛ぁいっ……!」

思わず膝を着いた彼女に、晴美は冷笑した。

「まあ香澄っ。まだ一発目でそんな大袈裟に崩れるなんてっ。いいこと、お仕置き中は姿勢を崩さないっ。分かったわねっ?」

「……あいっ、ずみばぜんっ!」

羞恥と屈辱にまみれながらも、健気に姿勢を戻す香澄に、晴美は加虐心が高まっていく。


「お義母様、ではこれを」

晴美は静香を手招きし、パドルを手渡した。

「後、88発ですわ」

そして、勝ち誇ったような笑みを浮かべると、村岡やメイド達も座って見物するよう言った。しかも、椅子の配置であるが、香澄のお尻に向かって扇状に並べるよう指示する。まるで、香澄が見せるであろう恥態を、じっくり観察せよと云わんばかりにだ。

何気ない観衆の席の位置だが、香澄は更なる屈辱を覚えた。今までの記憶では、主筋がお仕置きされる場合、メイド達はその対象者の側面に、それも離れた位置で直立である。

これは同性とはいえ、使用人に恥部を見られない為の配慮であった。また、仮にも主筋がお仕置きされるのだから、使用人達は直立姿勢で畏まるのが礼儀である。つまり、主筋の打たれるお尻を座って見学出来るのは主筋だけの特権である。

それがメイド達に与えられたのだから、香澄の立場はより惨めなものとなったのだ。自然、メイド達は意外な指示に戸惑いつつも、一種の優越感に浸った。


『まあ、香澄様ったら、はしたない格好っ』

楽な姿勢で眺める主筋のお尻が、無様で滑稽なものに見えてくる。中でも未来は、笑み崩れんばかりに開幕を楽しんでいた。

「どうなさったの、お義母様っ。早く始めないと、香澄が恥ずかしそうで可哀想ですわっ」

間違いなく一番楽しんでいるであろう晴美は、笑いを隠そうともしなかった。そして彼女は、静香が泣きながら躊躇う様を、心地よさげにからかった。

「香澄……頼りないお母さんでゴメンね……」

静香は娘のお尻を撫でると、そう囁いた。そして、長引けば長引く程、香澄が辛い思いをする事を改めて認識した。

パァンっ!
パァンっ!
パァンっ!

だったら、少しでも早く終わるよう、間を空けず叩いた方がいい。静香は、軽くなりすぎないように注意をしつつ、忙しく右手を振った。


「きゃうっ、ひいぃっ、あうぅっ……!」

とはいえ母のこの気遣いが、必ずしも香澄の為になるとは限らない。軽快な懲擲音と共に、香澄のあげる悲鳴は苦痛である事を表していた。

実際、軽い懲擲であっても、間を空けないとなると、皮膚に耐え難い痛みを発する。まして道具はゴムのパドルで、皮膚表面を痛めつけるには、最適な道具である。

懲擲が20を過ぎると、香澄は思わず姿勢を崩してパドルから逃げた。そしてこれこそが、晴美が待っていたものである。

「香澄っ! お仕置き中は姿勢を崩さないっ。そう教えたわよねっ! しかも逃げまでするなんて、反省が無い証拠よっ!」

再び怒りを露にした晴美。に対して静香は、懲擲を中断せざるを得ない。香澄は、踞って泣くより他ない。

「香澄っ! 返事が無いわよっ!」

この世に魔女がいるとするならば、正しく今の晴美がそうであろう。そして魔女は、少女の返事あるなしに拘わらず、新たな罰を与えるつもりであった。案の定、香澄はお尻を擦りながら泣いているばかりだった。


「香澄っ、もう一度挨拶からやり直しなさいっ! でなきゃ、松尾に叩かせるからねっ!」

松尾、と聞くと、香澄は泣きじゃくりながら立ち上がった。

「ず、ずみばぜんっ。やり直じじますっ」

気力を振り絞った感が、ひしひしと伝わる弱々しい直立姿勢である。その娘の姿に、静香は我を忘れた。

「は、晴美さんっ、待ってくださいっ。……そ、それはつまりお仕置きも最初から……という意味ですかっ!?」

口出し厳禁と言われた事も忘れ、彼女はそう叫んだ。その表情には、冷酷な魔女に対する怒りを滲ませてである。

「あらお義母様、それは当たり前の事ですわ。それに……」

魔女は嘲笑った。

「お口をはさまれましたね? 香澄のお仕置き、松尾にやってもらいたいのかしら?」

「そ、そんな……。私はただ、お仕置きも最初からかと聞いただけですわっ! 異を唱えた訳ではありませんっ」


松尾の名を出されると、静香は項垂れてしまった。そして、不本意ながらも反対の意思を自ら否定してしまった。

「あら、そうですの。だったら先程言った通りですわ。香澄のお仕置きは、挨拶からやり直します」

晴美の事も無げな言葉に、静香母娘は唖然とした。ただでさえ懲擲の回数が多い上に、逃げた罰でやり直しとは過酷に過ぎる。勿論、これには異を唱えたいところであるが、松尾の解禁をちらつかせられては、それも儘ならない。

暫しの沈黙が訪れた。そして、窮した挙げ句であろう、静香は再び晴美に土下座した。

「晴美さんっ、これは意見ではありませんっ。……ただ、先程香澄の姿勢が崩れたのは、私の叩き方が悪かったので、……わ、私の失態としてくださいっ……」

この土下座であるが、静香の立場からすれば、かなりの勇気を要した。何故なら、土下座した相手は晴美一人であるが、右隣に裕美、村岡、左隣はメイド達が並んでいて、見ようによっては、それら全員に平伏した印象があるからだ。

義母の惨めな土下座を見下ろしながら、魔女は更なる優越感に浸った。


「あら、お義母様の失態となさるんですの? だったら……?」

静香の次の台詞は分かっている。分かっていながら、敢えて彼女の口から言わせるつもりでいた。

「香澄のやり直しの分、わ、私が受けますっ。だから香澄へのお仕置きは、このまま続けさせてくださいっ。……お願い致しますっ!」

静香の願いは、聞き入れられた。そして、香澄のお仕置き後に執行される事となった。これには香澄も驚き、母を巻き添えにしたくないとばかり、自身やり直しを希望した。

「香澄、お母さんは貴女が辛い思いをするのが、何より苦しいの……。貴女がやり直しするくらいなら、私が叩かれた方が気が楽だから……。お願い香澄……お母さんの言うこと聞いて……」

母の再三な説得に、香澄は泣きながら承諾した。何とも麗しい母娘の姿であるが、無論魔女には何の憐愍もない。むしろ二人が苦しむ様に、益々加虐心が昂っていく。


「お義母様、叩き方が悪かったのであれば、続きは良い叩き方をなさるのでしょ? なら、香澄が逃げる事、御座いませんよね?」

そもそも、お尻を叩くに良いも悪いもない。香澄が逃げたのは、痛みから逃げる本能的なものであって、叩き方を変えたところで逃げない保証などない。魔女は、義母の苦し紛れの言い訳すら、それを逆手に取って追い詰めていく。

「……は、はい……」

静香もそれが分かっているだけに、返事は頗る頼りない。が、そう返すより他がない。

「では、もし次に香澄が逃げたら、お義母様への追加罰となさって宜しいですわね?」

「……は、はいっ……構いませんわっ」

行き過ぎた晴美の悪意に、静香は幾分開き直ったように応えた。

間もなく、香澄のお仕置きが再開された。彼女は、これ以上母に迷惑を掛けまいと、ヒリつくお尻の痛みに耐える。そして静香は、娘を気遣うよう、間を空けながら叩く。


パァンっ!

「くぅっ……!」

覚悟を決めた香澄に、先程までの涙や悲鳴はない。その代わり、紅く染まったお尻が、叩かれる度に卑猥で滑稽な踊りを魅せる。

「おっほほほほっ。まあ香澄ったら、お仕置きを受けるだけでいいのに、そんな踊りまでやってくれるなんて。ああ可笑しいっ」

晴美は、心から愉しそうに嘲笑った。そしてこの女主人の嘲笑は、村岡の隣で沈黙していた裕美に火をつけた。

「きゃはっ。ホント、香澄お姉さま、笑わさないでよ~っ。きゃはははははっ」

幼女に悪意はない。父の場合と違い、母の場合は、人がお仕置きされるのを笑っていいと解釈したに過ぎない。

が、この無邪気さは、香澄にとって何よりの屈辱である。仮に厳格な風であっても惨めで恥辱であるのに、こう粗か様に、しかも幼女にまで嘲笑れては堪らない。


「ひっ、ヒクッ……。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ」

失意の感情が、彼女をして号泣させた。母静香を思うと、逃げも隠れも出来ないだけに、泣きわめくしか術がないのである。

そして、感情のまま泣きわめく事により、懲擲が厳しさを増した。叩かれる時に、お尻に力を入れるタイミングを逃してしまったからである。故に、香澄の尻振りダンスは更なる躍動を見せ、挙げ句、時折地団駄まで披露し、益々晴美母娘の笑いを醸す事となった。

「おっほほほほほほほ~っ! か、香澄っ、泣きながら踊るなんて、何やってるのっ。ああ、大事なとこ丸出しで、みっともないっ」

無遠慮な笑い声を響かせ、晴美はメイド達を見た。そして笑っていいとばかり、彼女達を誘った。

「きゃははははは~っ。香澄お姉さまっ、お尻の穴がヒクヒクしてる~っ。きゃっははははははははっ」

奥様からの暗黙の指示、そしてお嬢様の指摘に、メイド達も顔を綻ばせた。

くすっ

範子であった。晴美の悪意が誰に向けられたものか、ハッキリと分かった故の追従笑いである。

『静香が土下座したのを、奥様は平然と見ておられた……。おそらく、以前同じような事があって、静香はその時松尾にお仕置きされた。つまり、奥様は静香母娘を虐めたがってるに違いないっ』


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