投稿作品集 > 静香と香澄 p.32

このストーリーは、bbs にて、鳳仙 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は 鳳仙 氏にあります。



「単なる寝坊です」

依然、冷たい表情のまま、範子はそう答えた。そして返事の後、何が可笑しかったのか、口元に笑みを浮かべた。

微笑んだ。という柔らかな感じではない。虚空を睨むような目は、和んではいなかった。

静香は益々不気味に思った。範子の態度が、自分に対する憎悪と知らないだけに、困惑したようでもある。

「そう……ならいいけど……。あまり無理しないようにね」

あくまでも気遣う静香だが、範子にすれば片腹痛いどころじゃない。

『何言ってんだよ、この淫乱がっ。散々嘲笑っておきながら、村岡さんがいなけれゃ善人ぶりやがってっ』

そう毒づく傍ら、お仕置き後の村岡の話とやらも気にかかる。

『ま、いいわ別に辞めても……』

彼女は、そう開き直りつつあった。


村岡が姿を見せたのは、それから間もなくである。

「静香様、裕美お嬢様、そして範子さん、大変失礼しました」

その後ろ、スッキリしたような全裸の未来がいた。

「村岡様、お仕置きありがとう御座いました」

彼女は執事にお礼を述べ、静香と裕美にも軽く御辞儀をした。そして、急ぎ服を着ると、深々と御辞儀をし、退出の挨拶をして部屋を後にした。

「さて、では範子さん、此方へ」

村岡の淡々とした指示に、範子も淡々と従う。表情は変わらないものの、内心、静香の前で浣腸される事に、例えようのない屈辱を感じていた。

『絶対泣くもんかっ』

そう心に誓った。せめてもの意地である。

無様を見せれば見せる程、静香を悦ばせる。そう分かっているつもりだが、肛門を触られると反射的にお尻を捩ってしまう。


「範子さん、参りますぞ」

「……はい」

そして、遂に浣腸器の先端が、挿入された。

「くっ……!」

範子は何とか身動ぎせずに受けた。が、何とも言えぬ刺激的な感触に、呻き声をあげた。

『な、何これ……。お尻が、お尻が変になるぅ……』

徐々に浸入する浣腸液に、彼女は思わぬ反応を見せた。

『おや、範子さん、濡れましたね……。どうやらお尻は性感帯でありましたか……。では、サービスいたしましょう』

村岡はそう気付くと、シリンダーを送る手を止め、それを上下左右に動かした。

「あっ、ああんっ!」

範子は思わず矯声をあげた。身体に電気が疾るような快感を感じたからである。


「範子さん、動いては浣腸出来ませんよ」

村岡はそうたしなめつつ、彼女のお尻を捏ねるように浣腸器を操る。こうなると、範子も動かずにはいられない。

「む、村岡様っ、う、動かさないで下さいませっ!」

「私じゃありません。範子さん、貴女が動いておられますよっ」

これは村岡の下心とか、そういった類いの思惑ではない。範子が過敏に反応した事幸い、彼女に痴態を演じさせ、それを弱味として握る事である。

『範子さんは、静香様が松尾にお仕置きされた事を知っている』

為に、範子が優位な立場にある。そこで、浣腸されて濡らした事実を明確にし、それを盾に話し合いに挑もうと思いついたのである。

ついでながら、範子は新たな快楽を知り、見学者の静香も興じれるだろう。余計な見学者が一人いるが、女性器が濡れるとか、恐らく理解すまい。

村岡は、更に緩急を付けた動きで、範子がより感じるパターンを探した。


「あれれっ? 範子、何かオシッコ漏れてきてるよっ?」

最早誰の目にも、無論本人も自覚が有るほど潤いをました範子の秘処。そこから滴る愛液に、つい沈黙を破り裕美の一言が出た。

『裕美ちゃん、余計な事言わないのっ!』

静香は、顔を紅くしながら、心の中で毒づいた。そして当然それは、執行者である村岡もスルーは出来なくなる。

「お嬢様、これは汗で御座います」

淡々と否定すると、彼はシリンダーを一気に押した。

「あっ、あうぅっ!」

なんでたまろう。大量の浣腸液の急な浸入に、範子の膝はガクリと折れた。

「範子さん、姿勢をお戻しなさい」

彼はそう言うと、浣腸器を抜き、すかさずハンカチを取り出した。そしてそれを範子の秘処へと当てがい、姿勢を戻させながら、蜜を拭い去った。自然に流れるような、見事な動作である。


『ホント、村岡の頭って、どうなってるのかしらっ? 機転が良いとか言うレベルじゃないわよねっ!』

裕美の指摘をあっさり誤魔化したり、今またその証拠を自分の所有物に収めるあたり、つくづくこの頭は回転が早いと思わざるを得ない。

静香はそう感心すると、範子に注目した。何といっても淫らな粗相をしたのだから、どんな顔をしてるか気になるところではある。

「範子さん、ちょっと浣腸のお時間が掛かりすぎましたし、幸い友美さんや未来さんもいません。特別に10分の我慢時での着衣を許可します」

村岡はそう言いながら、先の二人同様、範子の肛門に栓をした。

「どうぞ、服を着られて結構ですよ」

後は、10分我慢すれば終わりである。浣腸されて粗相した、その痴態を人前で晒しただけに、彼女は彼の配慮を素直に喜んだ。

「あ、ありがとうございますっ。村岡様っ……!」

尤も、引け目は村岡にこそ大である。わざと、それも女性として最大級の恥を掻かしたにも拘わらず、範子にお礼を言われたのだ。彼は、微妙な微笑みで返した。


さて、範子が排泄の許可を貰い、トイレへと向かったところで、お仕置きも終了となる。

「静香様、裕美お嬢様、どうも御疲れ様で御座いました。また、メイドのお仕置きをご覧頂き、ありがとう御座いました。では、私も仕事が御座いますので、失礼致します」

ここは村岡の部屋である。持ち主がそう断るのだから、静香と裕美も部屋を出ざるを得ない。

「村岡っ、面白かったよっ」

「お嬢様、お仕置きは面白いものでは御座いませんよ? お嬢様もおいたが過ぎれば、旦那様よりお浣腸のお仕置きを頂くかも知れませんからね?」

執事の軽い脅しであったが、裕美は再び口を両手で覆った。

「左様、この事を言い触らしたり、メイドをからかったりなさいませんようにっ。でなければ、今度はお嬢様がお浣腸なされますからね?」

村岡はそう念を押すと、頷きを繰り返すお嬢様に微笑んだ。


裕美が脱兎の如く部屋を出ていくと、静香と村岡の二人となった。

「村岡、とても興味深く拝見させて貰ったわ。私も……」

静香は言葉を止めた。

「……あんな風に見られて、あんな顔してたのよねっ?」

彼女の一言に、村岡は複雑な表情となった。そして、申し訳なさそうに頭を下げた。

「あらごめんなさいっ。そんなつもりで言ったんじゃないから……」

静香は慌てて訂正すると、気まずそうにしている彼に微笑んだ。

「村岡、実は私寝てないの。部屋で休んでいるから、用があれば起こして構わないから」

返事に窮した彼を気遣ってか、はたまた事実睡魔に見舞われたのか、静香はそう言った。


「一睡もなされてないのですか? まさか旦那様も……?」

「祐輔さんは、仮眠程度はしたかな……。私の膝枕で。うふふっ」

「左様で御座いましたか。いや、御疲れで御座いましょう。ゆっくりお休みなされてくださいませ」

村岡は漸く常に戻り、立ち去る静香へ深々と御辞儀をした。

その後間もなく、排泄を済ました範子が戻ってきた。此方も、先程の村岡みたく、表情は複雑である。

「む、村岡様っ、お仕置き……ありがとう御座いましたっ」

たどたどしい挨拶は、やはり浣腸で濡らした醜態があるからだろう。しかも、それを拭ってくれた相手と、秘密についての話し合いである。範子でなくとも、動揺は隠せない。

「範子さん、お互い朝食がまだですので、出来るだけ手短にいたしましょう」

村岡はそう前置きし、緊張している彼女に座るよう促した。範子は、お仕置き時、主筋が座っていたソファーに腰を下ろす。


「誰からお聞きになりました?」

彼は、単刀直入に聞いた。が、この質問は彼らしからぬ不覚であった。何故なら、範子が今朝の秘密と違う事を問われている、と気付いたからだ。

『え? ええっ? 今朝の事じゃないのっ?』

彼女は安堵もした。誰から聞いたか、という事は、何らかの誤解かも知れない。ならば、上手くかわせる事も可能であろう。

「いえ、誰からも聞いていません」

質問の意味が分からぬ為、取り敢えずそう答えて、彼女は最近の会話を思い並べた。

「聞いてらっしゃらない? すると、貴女の憶測だったのですね?」

村岡の表情には、安堵した感が浮かんだ。

「……は、はい……すみません」

謝ってはみるものの、何の話か分からないだけに範子は困惑している。無論、村岡に何の話なのかと聞ける訳がない。


「……範子さん、困りますね。そういう憶測を無責任に話されては……」

村岡はそう言いつつも、やはり静香の態度が彼女の憶測の一因と思ってはいる。

『そうでしたか……。これは範子さんの憶測でしたか……。まあ、考えてみれば、奥様にしろ松尾にしろ、外部に漏らす事はあり得ませんが』

何はともあれ、彼はホッとした。仮にも先代の伴侶である静香が、最下層の使用人にお仕置きされたなど、間違っても広まっていい話ではない。

「範子さん、昨夜の松尾の戯れ言ですが、貴女程の知的な方が真に受けてはいけませんよ? 彼は少々、虚言癖があるのですから」

気が緩んだ執事の言葉。これで範子は、彼の質問を理解すると共に、もう一つの情報を得た。

『ああっ、昨日の松尾の話っ! そっか、私が静香がお仕置きされたと思ってた事に対してだっ!』

つまり、メイドの控え室での会話を聞かれていたのだ。彼女は納得すると、静香が最下層にお仕置きされた事が事実であると確信した。


村岡は、最初に「ご存じですね?」と訊ねた。これは実際あった出来事を知っていますね? と同じである。

でなければ、わざわざ二人きりで話さずとも、その場で済ませられる話だ。つまり彼は、誰かが自分に秘密をばらしたと疑い、それを確認しにきたと考えられる。範子は、高揚する気分に顔を赤らめた。

『静香が最下層にお仕置きされた……。あの淫乱が松尾に……。私の推測は間違ってなかったっ!』

顔を紅潮させ、俯き震える彼女の様子に、村岡は範子が恥じている、と思った。

「範子さん、そう恥じ入る必要はありませんよ? 利口な人でも勘違いはします。ま、これを話したのは、噂話が独り歩きしないよう注意しただけですから、以後慎まれるように。では、朝食にしましょうか」

「はい、申し訳ございませんでしたっ。以後、気をつけますっ」

深々と頭を下げた範子の顔は、勝ち誇ったような壮気に溢れていた。

村岡と共に朝食を済ませば、仕事が待っている。彼女は今朝のお仕置きで遅れがちな家事を、慌ただしく片付けていった。


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