投稿作品集 > 静香と香澄 p.20

このストーリーは、bbs にて、鳳仙 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は 鳳仙 氏にあります。



忠実なる執事の言葉に、祐輔は我が意を得たりとばかり頷いた。さすが村岡、と褒め称えたい気持ちであろう、先程の困惑がすっかり消え去り、いつもの自信に溢れた表情となった。

に引き換え、メイド達の不満は嘆きに変わった。確かに、如何に晴美の名で脅されたとはいえ、祐輔の指示を蔑ろにした事は否めない。これは、確かに罰を受けるに値する失態であった。

また、彼女達は村岡の機嫌を損ねる事も怖れた。メイドにすら、『さん付け』と『敬語』で話す腰の低さだが、彼女達からは畏怖の対象とされていた。理由は、代々メイド達に受け継がれる、村岡のある噂である。

「いらっしゃらないようですね? ではこれを、皆さんが反省する意思表示と取りますが、宜しいですね?」

「「「……はいっ、お仕置き、宜しくお願い致しますっ」」」

村岡は主にむかい、一礼をした。

「旦那様、皆異存は無いようで御座います。お後のご指示、宜しくお願い致します」

これこそ、彼が祥一や祐輔に信頼される所以である。僭越行為がなく、主の意思を常に尊重する言動をする辺り、その配慮に怠りはない。当然、自分を立てる彼の言葉に、主は機嫌がよくなった。


「さすが村岡だっ。非常に頭も切れ、慎ましいっ」

彼はメイド達を見渡した。

「お前達も、村岡を範とせよっ。……では四人のお仕置きだが、松尾っ。テーブルを片付け、そこへ椅子を持ってこい」

主の命に、松尾はいつもの緩慢な動作でなく、素早い動きで応えた。

「旦那様、お言いつけ通り致しました」

「うむ、松尾は椅子に座れ。では、佳美、友美、範子、未来っ。その順に松尾の膝でお尻叩きを受けろ。一人10発、いいなっ!」

いい訳ない。等しく、そうメイド達は思ったであろうが、下手に逆らって罰が増やされるのは愚の骨頂である。それに、10発くらいなら何とか耐えられそうに思えた。

「「「はいっ、畏まりました旦那様っ」」」

ただ、何とも不愉快で屈辱的なのは、常日頃から小馬鹿にし、蔑んでいる最下層の男に裸身を預け、生尻を打たれる事にある。よって、返事をしたものの、一番手である佳美は足が前に出ずにいた。


『無理もない……』

そう思ったのは、松尾に屈辱的な仕置きを受けた静香である。彼女は、松尾の入室と共に、その忌まわしい体験を思い出し、ずっと顔色が冴えずにいた。

『それにしても、メイド達ですらあれだけ嫌がるなんて……。私なんか松尾に……』

全裸で直立姿勢をとらされ、謝罪とお仕置きの懇願を強要された。あまつ、お仕置きに至っては、生尻をなぶられ叩かれ、屈辱的な言葉を復唱させられた。

静香は、段々と腹がたってきた。散々に自分を辱しめた松尾は勿論だが、自分に比べれば遥かに軽い罰すら躊躇うメイドにもだ。

佳美が躊躇えば躊躇う程、素直に応じざるを得なかった自分が惨めに思えてくる。また、出来るだけ早く、松尾を視界から消したい。その心理が作用し、彼女は怒気を発した。

「佳美っ、何を愚図愚図しているのっ! たかが10発程度のお尻叩きでしょっ!? 早くなさいっ!」

温和な貴婦人、その呼び名が相応しい静香の、思いがけない声だ。そして、その声は周囲を驚かせ、祐輔も彼女の尻馬に乗った。

「……お義母さんの言う通りだっ。佳美っ、お前は反省してるのかっ? 僕が敢えて少ない数で許してやろうとしてるのが、分からないのかっ?」


静香に叱られ、祐輔に詰め寄られ、佳美はわなわなと震えだした。彼女は、静香の気持ちも分からないし、まして松尾にお仕置きされた事実など知るよしもない。

故に、その『たかが10発程度』という発言に、内心怒りを覚えた。そしてその佳美の一時的な怒りが、祐輔の問いを無視する失態を犯させた。これに、彼の怒りが再燃した。

「佳美っ、返事はどうしたっ! どうやら反省が足りないようだなっ!? ならば連帯責任で一人20発っ! 尚愚図つけば、更に数を増やすぞっ!」

ハッとした佳美だが、時すでに遅しである。それでも、僅かな望みとばかり、土下座で許しを乞うた。

「だ、旦那様っ! 決して反省がない訳では御座いませんっ! どうか……どうか追加罰はお許し下さいませっ! この通りで御座いますっ!」

全裸土下座で床に額を着けての無様な姿となる。この形振り構わぬ謝罪は、自分の保身のみならず、仲間を巻き込んでしまった責任を感じての事だ。


「ぷはっ!」

何が可笑しかったのか、裕美はメイドの哀れな、それでいて必死な懇願に吹き出してしまう。直後、彼女は父の険しい眼差しに慌てて言い訳をした。

「お父様っ、今のはクシャミを堪えたら吹き出しちゃったのっ。私、笑ったりしてないからねっ」

そう言うが、明らかに今のは笑いからきたものだろう。メイド達の表情が険しくなった。

これで二度目となる娘の粗相を、さすがに祐輔も見逃せない。

「裕美、お前の言い訳は後でお前のお尻に聞こう。だから大人しく見てなさい」

『後でお尻に聞こう』というのは、明らかにお仕置きを意味するものだが、幼い裕美には通じなかった。単純に少女は、『後で言い訳を聞こう』と捉えたのだった。

「はいっ、お父様っ」

「よし、いい返事だ」

無邪気な返事を軽く受けとめ、次に彼は佳美の懇願を一蹴した。


「速やかに松尾の膝に乗れ。重ねて遅延するなら、数を増やす。分かったか、佳美っ」

佳美は、涙が止まらない。しゃくりあげるように泣きながら、祐輔達見学者にお尻、い並ぶメイド達に頭を向け、最下層の男に身を委ねた。あからさまに卑下た笑みを浮かべた松尾の膝へだ。

「旦那様、これからメイドの佳美をお仕置き致します」

最下層は、そう勝ち誇ったように告げたばかりか、佳美の無防備なお尻を無遠慮に撫で回した。更には、嗚咽を漏らして暴れだす佳美の裸身を、これまた遠慮なくまさぐり始める。

「佳美っ、旦那様のお前だぞっ! お尻を振るような浅ましい真似は慎めっ! 全く、破廉恥なやつだっ!」

挙げ句、さも佳美のせいとばかりに叱咤した。

彼女も心外であったろう。裸を晒し、お尻を叩かれる事は主の命でやむ無くとしても、松尾からの呼び捨てや罵詈は論外である。佳美は、余りの悔しさに泣きに泣いた。

「佳美っ、叩かれる前から尻を振っておいて何を泣くかっ! よし、性根を入れ換えるよう、厳しく躾てやるからなっ!」


最早松尾に遠慮はない。そして、生け贄を可能な限り辱しめようとする意図は、静香の時と同じ、ありありとその顔に出ていた。

『なるほど……何で親父が松尾だけをお仕置きの場に呼ばなかったか、今よく分かった』

祐輔は、改めて最下層を見た。裸の女性をいたぶる喜びを満面に現したその顔は、まさしく思慮も配慮も無さそうないやらしさを醸している。

つまり松尾の存在自体、本来厳粛な躾の場には、最も相応しくない性的なニュアンスが感じられるのだ。祥一が彼を不参加としたのは、当たり前すぎるくらい当然であった。

『……それに、誰の許可を得て偉そうにものを言ってんだ?』

お仕置きの執行は任せたものの、無用な言葉責めや羞恥プレイは許可した覚えはない。彼は、その不自由であろう最下層の頭でも理解出来るように、率直に言った。

「松尾、お喋りはいいから、速やかに始めろ。そもそも僕は、お前にメイド達の叱責まで命じた覚えはないぞっ」

主に注意を受け、松尾は態度を改めた。


「申し訳ありません、旦那様。てっきり私は、この前の通りでよいかと判断致しました」

『え? この前?』

さすがに選び抜かれたメイド達だけあって、最下層の何気無い一言を聞き漏らしはしなかった。

次いで彼女達は、一斉に怪訝な表情でお互いを見合った。最下層の口振りによると、『この前』誰かがお仕置きされた事実があるからだ。

当然、それに過敏に反応したのは、他ならぬ祐輔と静香である。

『ちっ、バカが何言ってるっ! そんな事言ったら、メイド達が怪しむだろっ!』

祐輔は舌打ちし、静香は蒼白となった。

「松尾、何の話だ? 夢の話か?」

怒りを内心に留め、彼は軽く冗談めかして言った。取り敢えず、メイド達の疑惑を晴らさねばならない。お仕置き後に、彼女達がその誰かを詮索しない為にである。


「いえ、夢の話などでは御座いません。これは最近の……」

言い掛けた彼の言葉を、静香が遮った。

「松尾っ! 祐輔さんの言葉が聞こえなかったのっ! 速やかに無言で執行なさいっ!」

彼女は、怒りと焦りを滲ませながら怒鳴った。そして、今までにないような険しさで松尾を見据えた。

この静香の怒りは、最下層にお仕置きを暴露されるかも知れないというやむを得ないものだが、周囲にはかなり不自然に映った。そして、これが却ってメイド達の好奇心を擽る事になる。

『え? 何? 何かあったのっ!?』

明らかに彼女達の表情が変わった。それを見て祐輔は、まずい、と思いつつも、至って平静を装おい先を促した。

「松尾、お義母さんはこの後所用が控えてる。だから速やかに始めろ」

静香の苛立ちを所用のせいにしたが、彼は我ながら陳腐な言い訳だと思った。時間は夜の8時近くである。自分ならともかく、静香に何の用事があるかと自問した。


松尾は、微かに笑った。ように祐輔には見えた。

「畏まりました、旦那様」

彼はそう言うと、徐に佳美のお尻を叩き始める。

『今、笑わなかったか……?』

祐輔には、それが勘に障ったが、これ以上の問答を避けた。またこの最下層が余計な事を言わない為にも、無礼をスルーしたのである。

一方松尾は、一定の間隔を置き、力任せに佳美のお尻を打っている。なるほど、指示通り無言ではある。が、露骨に笑みを浮かべながらの懲擲は、順番待ちのメイド達の心証を著しく害していた。

笑われながら、或いは楽しむかのように全裸でお尻を打たれる。きっと自分の時も松尾は笑っているだろう、そう理解したメイド達は、嫌悪感を露にした。

バチィッ!

「あぐぅっっ!」

バチィッ!

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」


佳美のお尻は、ほんの数発で瞬く間に朱に染まり、痛みを耐え兼ねたように、無様なダンスを披露した。そして、彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れ出す。

静香は、わなわなと震えながら、その残酷な私刑から目を逸らした。今の佳美の姿は、一ヶ月前の自分の姿である。

屈辱、羞恥、苦痛、それらを必死に堪えていた自分を、松尾が笑っていたぶったかと思うと、今更ながら胸を掻きむしられる無念が湧いたのだ。

「……うっ……おぇっ……」

そして彼女は、嘔吐感にうつ伏した。

「お義母さんっ、どうしましたっ!?」
「お母さんっ、どうしたのっ!?」
「静香様っ、大丈夫に御座いますかっ!? 歩美さんっ、手を貸しなさいっ!」

場は騒然となった。祐輔は主という立場から、村岡と歩美に静香の退出と介抱を指示した。

「お義兄さんっ、私もっ!」

「そうだな、香澄、お前もお義母さんをみてやってくれ」

一団は、慌ただしく部屋を後にした。


騒動で一時お仕置きが中断となるも、その間松尾は、佳美のお尻をこれでもかとまさぐっていた。

「ヒック、……いやぁ……やべて……」

全裸待機のメイド達は、佳美の哀れな助けを見るも、肝心な主達は静香を取り囲んでいて、此方を気にする余裕がない。

いっそ、松尾の変態行為を告げようかと思ったが、下手すると追加罰のおそれがある。全裸組は、最下層にいたぶられる先輩を、見守る事しか出来ずにいた。

騒動が落ち着くと、松尾は佳美のお尻からすかさず手を離した。そして、大人しく待っていましたと云わないばかりに澄ましている。

「松尾っ、再開しろ」

今回に限って、お仕置きがスムーズに進行しない苛立ちからか、祐輔は不機嫌そうに言った。

「畏まりました、旦那様」

再び、佳美の涙まじりの悲鳴があがった。


佳美が終われば、友美、友美が終わり範子、と続く。そしてお仕置きが終った者は、未だ着衣が許されない。全裸のまま、元の位置で直立姿勢をとらされる。

さて、お仕置きは年長メイドから始まっただけに、順を追う毎に若くなる。先輩メイドは、後輩に無様は見せられない、また、松尾ごときに屈したくないという矜持から、許しを乞う発言だけはしなかった。

が、さすがに範子に至っては、そこまでの強さがない。

バチィッ!

「きゃあぁぁぁぁっ! いたいれすっ、いだいれすっ、……おねがいじばすっ、ゆるじてくらざいぃっ!」

彼女は、見苦しい程に泣き喚き、さかんに許しを乞うた。が、その哀願が聞き入れられる筈もなく、無言の主の前、露骨に嘲笑う最下層にお尻を打たれ続けた。

やがて、範子のお仕置きが終わろうとする頃、村岡と歩美、香澄の三人が戻ってきた。


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