投稿作品集 > ある社員のつぶやき p.16

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



■ 会議-1 技術開発局 主任補佐 近藤麗華 ■

(1)

金曜日のアフターファイブということで、日本橋の飲み屋街も賑わってる。

絶対こいつら、就業時間内に飲み始めてないとならない顔の赤さの人もいます。まぁ、営業ですと、そういう常識では考えられないことも多々あります。そこまで、子供じゃございません。

「鹿ノ倉さんは何を食べたい?」

「なんでも良いです!!」

この前の仕返しなの? 結構根に持つタイプ? それとも、アタシをしごいてるのか? しごくつもりなのか? 一番困るんだよね。『なんでも良いです!』って、良かった試しないんだもん!

技術開発局御用達の居酒屋『赤ダルマ』に連れて来ました。

『待てよ。こういう場所に連れて来て良いのか? コンプライアンス的に大丈夫か?』とも、一瞬思ったんですが、このお店は元ミナモトフーズの社員さん(コックさん)がやってる店です。

小さな店ですが、目が行き届いていて私は好きです。ウチの会社みたいで。他にもいくつかあるのですが、先輩達と出くわすと、タダ飯の代わりにホステスとして働かされるので、打ち合わせができません。


「何食べたい? 何飲みたい?」

「オレンジジュースで」

チェ、引っかからなかったか。ここで、『生』とか言ってくれたら『飲んでんのかよ!』って突っ込めたのに。

手を上げると、店員さんがすぐ来てくれました。

「ご注文お決まりでしょうか?」

「オレンジジュースと生ビール。銘柄は両方『ミナモト』で」

「かしこまりました」

「オレンジジュースにも、銘柄ってあるんですか?」

アタシも初めて聞いた時、驚きました。でもそんな様子は顔に出しません。

「フーズの子会社であるからね。会社の飲み会の時とかは、ミナモトがあるときはミナモトでね」

これが『ミナモトスピリッツ』ってやつです。一応、コンビニで買い物するときも、ミナモト系が同じ値段だったら、そっちを買うようにしています。他の方が安い時は、他のを買います。


「ビールは本で読みましたが、オレンジジュースまであるとは」

感心した様子の鹿ノ倉さんです。

「取引先との飲み会の時は、特に注意してね。うっかり『ひょっとこ(他社製品)』で乾杯なんてしたら、コイツ何? っていう目で見られるから。

主任とか一緒にいたら、『ちょっと』ってトイレに連れてかれて腹パンされるから。主任の腹パンっておかしいから、普通ボディーブローって、後からジワジワ来るのに、すぐ効くから。殴り慣れしすぎだから」

今の大爆笑するところなんですけど? 真面目に聞くところじゃないんですけど? 間違っても本人にいうとかヤメてね?

「何か頼もうよ? 何食べたい?」

「お任せします! 何でも大丈夫です!!」

おい、絶対、試されてるよ! 先輩としての器、試されてるよ。

「大人の注文の仕方教えてあげるよ」

手をさっと上げます。

「ご注文お決まりでしょうか」

「今日のおすすめとか、あと二人で食べるので適当にお願いします」

「かしこまりました。メニューの方おさげします~」


持ってちゃった駄目だろう! 値段確認できないじゃん! いくらかかるんだよ! わかるよね? 給料日前(15日締め25日振込)懐具合わかるよね?

長年の客商売の経験から、『何をオススメすればいいか』わかるよね? 信じるよ? ミナモトスピリッツ。元家族の絆。信じてるよ。

「まぁ、大人の女の注文かな? 今日はね。私がごちそうするから、たくさん食べていいよ」

とりあえず、強がっておきます。

「ありがとうございます」

「(お金が)足りるかなぁ……」

「充分です! ありがとうございます!」

メニュー持ってかれたんで、いくら掛かるかわかんなくて、食事が喉に通らないよ。アタシは先輩達から『飲み会ハゲタカファンド』と呼ばれてる女ですよ? 奢られることはあっても、奢ったことなんてないんです。

「ところで、鹿ノ倉さんは飲み会の幹事とかやったことあるの?」

「ないです!(即答)」

ですよねぇ。生徒会で副会長してた子が、飲酒とかしてるわけないですねぇ。

ましてや、大学1年生(行ってないのでイメージ)、新歓(行ってないので知らない)で、もてなされることはあっても、もてなしたことはないですよね。遥(坂本遥)の言ったとおりでした。


「グラス空センサーくらいは、搭載しておいたほうが良いよ」

「グラス空センサーですか?」

いや、上手いこと言ったと思ったけど、全く伝わってなかった。ちょっとドヤ顔だったのに。

「空になったグラス下げたりとか、会話の腰をおらないように、こっそり前と同じのを頼んでおいたりとか」

「はい!! 頑張ります!」

まぁ、これは飲み会の経験がないと無理だから、しばらくはアタシがやることになるだろう。そもそも、お酒を味見できないわけだから、作れるはず無いじゃん!

まぁ、未成年の後輩が一生懸命作ってくれたお酒を、『濃い』とかいう心の狭い先輩は、1Gにはいないと思いますが。

「ところでさぁ。もう、名前全員覚えた? ややこしくない? 陽菜と遥とかさぁ、朝倉と鹿ノ倉とかさぁ、麻衣と美優紀、桜子と麗華も系統近いじゃん? ボスの趣味だと思うんだよね」

「下も覚えないとまずいですか?」

「領収書とか貰う時、名前書かなきゃいけないじゃん? 会計とかするんだよ? 筆跡とかも練習しておかないと」

新入社員で、これに気がつけば大したもんだよ。私もここ一年で知ったからねぇ。


「ところで、どうやって条件を満たせばよろしいんでしょうか?」

「ああ、局長と主任の条件だけクリアしとけばいいんだよ。他は無視だよ。無理無理、王様のレストランじゃないんだから」

『注文の多いレストラン』っていうツッコミは、こないかなぁ。再放送とか見たこと無いのかな。そんなにトシ離れてないよねぇ?

「無視ですか? 良いんですか?」

「だって、多目に払うし、サービス料みたいなもん。優先順位つけなきゃ! 大丈夫、大丈夫。みんな『演出以外』月曜日まで覚えてないから」

「優先順位ですか?」

「将来、営業に同行した時もさぁ。そりゃ、全部お客さんの望み通りにしてあげたいよ。だけど、話し進まないし~。どっかで落とし所を探さないといけないわけだよ」

「お、いたいた。やっぱりここにいた。居なかったら、どうしようかと思った」

入口の方で、柳生さんと、明智さんと、桜子さんがいる。なんだ、その両手に花みたいシチュエーションは? しかも、このタイミングで合流。すごいメンタルだなぁ。男1対女4だよ。

「麗華先輩、あの左の方、お名前なんでしたっけ?」

「柳生さん、30歳、年の話はしないように。あと、主任とライバルだから、比較とかNGで(小声で)」

「はい(小声で)」

「あの人のペース超早いから気をつけて!」

「はい」

注意事項を確認し、店員さんに座敷を移動していいかを聞きに行った。ああ、でもこれで、払わなくて良くなった。


(2)

座敷はそこそこ広い個室です。掘りごたつなので、脚が伸ばせていい。

「何のお話をされていたんですか? 深刻そうでしたが……」

桜子さんは基本的に、外でお酒を一切飲まない。婚約者以外に、はしたない姿をさらして、キズモノになってはいけないかららしい。

アタシも見るのは、明智さんと柳生さんのいるときだけ。いつも、ソフトドリンク(ミナモト製品のみ)。烏龍茶のジンジャエール割とか凄いのを開発している。

「ああ、鹿ノ倉さんに、『妥協は大事よ』って教えてたところです。今度、歓迎会の幹事なんで」

「いきなり妥協しろって教えたの? 久しぶりに美優紀さんのデンプシロール見られるかも」

連打のことね。宙に浮くから。超痛いよ。

「でも、『30歳になったからモデルチェンジするって』って仰ってましたよ?」

「無理!」
「無理でございます」
「無理ね」

「そうなんですか?」


「じゃぁ、こっそり賭けましょうか。どのくらい持つか。次回の飲み会の費用ということで。まずは鹿ノ倉さんから」

「尾形主任はもう殴ったりしないと思います。今日も道具を使われてました」

「じゃぁ、経験豊富な近藤先輩はどうかな?」

「12時前位ですかね。最近、ほんのちょっと我慢強くなりましたから。お腹がすいてイライラする頃です。桜子さんは?」

「どうでしょう、私(わたくし)も、11時半くらいではないかと」

「俺は、10時位だと思うよ。月曜日でリフレッシュしてるから長いと思う。さぁ、そして、『強敵』と書いて『親友』と読む沙織は?」

「金曜どうだった? 何を教えたの? ボコだから、9時5分位ですわ?」

光景が目に浮かびます。

「そういやぁ、朝倉は? あれ、何でメガネ外したの?」

「今日はラジオで、リスナー優先先行予約があるみたいで帰っちゃいました。イメチェンらしいです」

用事があるって言ってたんで、問い詰めたんです。『誰がお金だすんですか!』って聞いたら『アンタよ』って言われちゃいました。


「源三郎様(甘えた感じで)居ない女の子のことより、沙織と楽しい話しましょう(ハート)」

ベッタリと明智さんにくっつく柳生さん。柳生さんは、お酒にも凄く弱く、甘え上戸になる。しかも、普段とはうってかわって、結構大胆になるらしい。

柳生さんの歓迎会の夜、二人はホテルで三次会やったんですと。で、そのあと月曜日の朝まで四次会。お盛んですなぁ。

ああ、誰とでもってわけではないよ。するのは、背が高い明智さんにだけ。本人曰く、『ストレスと欲求不満でお酒が入ってムラムラする』んですって。

それ以来、『昼間は上司、夜は奴隷』の関係みたい。柳生さんは自分で言ってたけどドMらしい。普段、あんまり男性からアプローチされないんだって。

私から見ても、高嶺の花だもんなぁ。そんで、仕事もできて、性格も素直ときたらちょっと戸惑うよね。

完璧すぎて、そして背が女性にしては高い。ウチの会社は女性社員がみんなピンヒールだから、さらに高く見える。


(3)

何で知ってるかって? だって、明智さん。飲み会に呼ばれるたびに、柳生さんを呼んで、わざわざ、みんな(アタシ達)の目の前で言うんだもん。

「一分な」みたいな王様だよ。命令形だもん。髪が性感帯とか。乳首はピンクとか。下の毛は少し薄いとか。髪を撫でながらいうの。どんな責めに弱いとか。昼間の柳生さんなら、厳しく口で注意するけど(主任とは違って)、夜は違う。

目元がみるみる紅くなって、そしたら、もう一度強めに髪を撫でるの。『火照っちゃうから、やめて』って、明智さんの耳元でセクシーに囁く。アタシ達が見てもドキッとする。

これは、桜子さんから聞いたんだけど、就任当初、柳生さんがミスをして以来、明智さんから下着をつけるのいっとき禁止されてたらしい。かわりに、長さ5cm程度の、透明なソフトラバー製のキャップをクリトリスにつけてたんだって。

もちろん、お約束のオーダーメイドだから、スポイト状にガチッとクリトリスの根本に吸い付いてたんだって。根本についてるから、常に刺激された状態なんだって、クリトリスは大きくなるし、感じやすくなるから一石二鳥なんだって。

スポイトのつまみをつまむと、吸い上げられる感じがするらしい。ちなみに、そのサイズ測定は、桜子さんが『2Gには緊張感が足りない。製品に対する理解をグループ全体で深める』ということで、2Gのみんなと測定したんだって。

測り方なんてわからないじゃん(?)だから、剥き出しにしたりとかしてたら、大きくなって途中でサイズが変わっちゃったりして、結構大変だったんだって。キャアキャア言いながらやったらしい。動くから、M時開脚させて、両手は後ろに縛ったらしいよ。


すごい真面目な桜子さんだから、一生懸命測定してる光景が目に浮かんだ。

そして、定期的に体験レポートとして、2Gの前で、昼間に会議室で発表させられてるそうです。もちろん、測定もしてるそうです。2Gは全員女性なので、厳しい質問ばかりのようです。

例えば、『装着・取り外しの時、どんなことに注意しているか』『スポイトを押したときの感触の違いは?』『あそこが大きくなった感覚はあるのか?』『プライベートな時も外していると言ったが、何故外すのか? 会社の商品は恥ずかしいものなのか?』とか。

ちなみに、2Gの五人の女子の中では、桜子さんが社歴も実力も一番上です。だいたい激務なので、社内で結婚して、大体一、二年でやめてしまいます。

もともと、短大とか高卒の女子が多く配属されている中、桜子さんは社会勉強として大学生の時から働いているので、社歴が長いのです。だから、桜子さんが、柳生さんと明智さんをアシスタントしています。

彼女達アラ20からすると、『行き遅れのエリートおばさんが、罰ゲームで変な芸やって私達を楽しませてくる。桜子さんは、勉強もできて、性格も良くて、私達のことも隣の部署みたいに理不尽に叱らないし、イッチー(局長)のセクハラからも守ってくれる。家柄も良くて、美人で、完全無欠だけど、私達と同じなんだなぁ。なんか尊敬しちゃう』という感じらしい。


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