投稿作品集 > お仕事シリーズ 警察官のお仕事 p.01

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



■ 警察官のお仕事 警察庁・長官官房・人事局 小池涼子警視正 ■

(1)

いつもの、捜査会議のように机がレイアウトされています。正面のスクリーンはスクリーンセイバー。

「お疲れ様です!」

元気よく挨拶すると、東京第一中央署の女性職員が資料を渡しています。早朝(6:00)ですが、欠伸一つしてません。背筋を伸ばして、丁寧に挨拶しています。

全国各地から集められた、婦警達が続々と大会議室に集まってきます。制服とスーツは半々くらい。捜査会議なんて、警視庁での捜査実習のとき、男性の仕事を見てただけで、ほとんどお茶くみと、お弁当の手配をしただけです。

指示を出されて捜査のお手伝いをしたことはあっても、自分で指揮をとったことなんて勿論ありません。それどころか、自発的に捜査会議で発言したことすらありません。

物陰からソーっと見ていると、ポンポンと肩を叩かれました。

「小池警視正、今日は痺れるような陣頭指揮お願いしますね(馬鹿にしたように)」

「何で、アンタがここにいるのよ! 捜査二課が来ることないでしょ」

彼女の名前は米倉しのぶ。捜査二課の敏腕刑事。

「私、帝都大学閥じゃないじゃん? もう、ちょっと点数稼いで、早く上に行きたいんだよね」

彼女は京都の名門、『天照武尊大学世界法学部出身』。警察学校時代の同期です。数少ない女性の同期のキャリア組です。ちなみに、訛ってないのは、北海道出身で、生粋の京都人ではないからです。


「大竹も居たよ。アイツこそ、何でいるのか不思議だよね」

大竹一恵というのは、一期下の後輩。捜査実習だけ科捜研にいて、あとは、ずーっと(約10年)公安部一筋だったけど、最近、内閣府情報技術統括局・副局長というよくわからないポジションに出向になった。

人事局の私でさえ、情報技術統括局に関するあらゆる事はノータッチ。ちなみに、階級は私のほうが上だが、立場上は大竹の方が上という微妙な関係。

出世争いの厳しい男性ならともかく、女性でこんな歪なことはありえないんだけど、情報技術精査局が新しく設置された局で、昨今の流れで、若手だけでなく、女性も抜擢せよという上層部の声により、豊富な現場経験があり、かつテクノロジーにも精通した大竹が抜擢された。

現場経験だけなら、この、しのぶも負けてないけど、最新テクノロジー捜査技術の開発もと言われると厳しかったみたい。仕事は、監査とかをさらに監査したり、日々進化するハイテク操作技術を検証しているくらいしかしらない。局員は警察官としては二人。

ちなみに、大竹も帝都大学理工学部卒なので、点数を稼ぐ必要もなく、本来、こんな場所には来なくても良いはずなんだけどね。女性警察官というのは、全体の10%くらい。キャリアともなると、5%以下。

そんなわけで、三人は警察学校時代から仲良かったんだ。でも、やっぱり、30代ともなると、徐々に椅子が減ってくる。上に行くほど、ポストも減ってくる。男性社会なので、同じ条件なら男性が優先される。それどころか、多少劣っていても、男性が優先。

出世欲の高い、しのぶとしては、忸怩たる思いだったみたい。そして、大竹の抜擢で、ギクシャクする羽目に。

「じゃぁ、会議頑張ってね」

フフフと笑いながら、しのぶが会議室に入っていく。


(2)

    スクリーン

   篠原  小池 広報局   署長 副所長
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    米倉  大竹等、警察庁や警視庁のみなさん

『篠原警視監、入られます!』

資料を見ながら雑談をしていた婦警達が、バッと立ち上がります。

『気をつけ!』

制服姿の篠原栄子警視監が会議室に入る。

『礼!』

全員がビシっとお辞儀。私もそーっとすぐ後ろをついていきます。篠原栄子警視監が椅子に座る。流石に慣れてるなぁ。

『着席!』

ザッっと着席します。90%以上が婦警。雰囲気としては、交通課みたいな感じですかね、


「今回のプロジェクトの理事官を紹介する。小池涼子警視正だ。諸君らには、国家安泰のため、警察庁・警視庁・キャリア・ノンキャリア・性別・学閥・年齢の壁を越え、この任務を乗り切ってもらいたい」

もしかして、偉そうと感じてますか? いや、この篠原警視監、実際偉いんですよ。警察庁で言うと、三番目のポジションです。現職女性警察官の中で一番階級が上です。歴代でも一番なんじゃないかなぁ。

これは激励です。民間の会社でも会議前にあるんでしょ?

噂では警察庁の長官ですら、機嫌を損ねると、翌日、交番勤務にするくらいのことは簡単みたいです。もう、20年以上警察庁に居ます。流石にもう現場には出ませんが、昔は刑事局切っての鬼刑事と恐れられたそうです。

実際、飛ばされた職員は私が入庁した10年前から片手では足りません。キャリアだろうが、ノンキャリアだろうが関係なく飛ばされています。

究極の男女平等主義者で、特殊部隊に女性隊員を一人は必ず入れることにしたのも彼女です。毎年、キャリア・ノンキャリア関わらず、全女性職員に一週間のアルティメットレスキューとの合同演習を義務付けたのも彼女。

ちなみに、私は小学校から、大学のゼミまで全て直属の後輩で、入庁式から既に目をつけられていました。ずっと直属の上司です。

とはいっても、戦前だから、旧帝都大学で、向こうの方が比べるまでもなく優秀なんだけどね。昔の法学部は、教養学部の中の一ゼミだったんだって。

今や、警察官僚の80%以上が帝都大学の法学部なのですが、小学校から全部一緒というのは珍しいケースです。


「初めてなんで、よろしくお願いします」

「それでは会議を始める。本日9:00から、東京第一中央署管轄内にある高校にて、警察大学校の説明会が行われる。説明会自体は広報課にて作成済み。

諸君らの任務は終わったあと、速やかに『興味を示した生徒』をピックアップし、任同(任意同行)を掛け、別室にて面談をしてもらう。面談は本庁の職員と、所轄の職員がペアで行うこととする。資料の次のページを見ろ」

一斉にページをペラっと捲る音。基本的に警察というのは階級社会で、上司の命令は絶対です。『次を見ろ』と命じられれば、まだ、理解できていなくても、次に進まないといけません。私語はもちろん、質問すらもNGです。

「全国各地から優秀な婦警をわざわざ集まってもらった理由がこれだ。対象は、この高校の生徒はもちろん、来場する高校から半径30km圏内にある、幼稚園・保育園・小学校・中学校。合計81校、15000人の生徒だ。

諸君らにはこれまで、ターミナル駅での警戒警備等、立番にて、不審者の早期発見に努めてもらったが、その要領で取り組んでもらいたい」

警戒警備っていうのは、駅の改札とかでお立ち台に立って、一日中警察官が、不審者が居ないかチェックしてるあれです。テロリストとか指名手配犯とか、膨大な観光客に紛れてないかチェックしてるあれです。

ちなみに、私も、ここ一ヶ月程、新東京中央駅にて、時間さえあれば立番をさせられました。指揮をとるにはまず現場をしれとのこと。

新東京中央駅は、JR25本、地下鉄18本、リニア15本、新幹線10本、高速バス200本。それ以外に空港や港とも隣接していて、24時間365日観光客であふれています。

文字通り、日本の玄関です。この規模になると、顔認証ではオーバーヒートしてしまうので、人間の目で確認する必要があります。ラッシュ時なんか、司令室で見ましたが、日本野鳥の会でもカウントできないと思いました。


一時間あたりの利用者数はなんと、2万人以上。ラッシュ時ともなると、もう測定するのも無理なくらいです。ちなみに、2万人というのは、『ICカードの利用者のみ』なので、券売機で購入している人を加えるともっといます。

特にきつかったのは、そんな中から『変装した姿で』ふらっと一人で現れる幹部の誰かを見つけないといけない実習。流石に、改札だけでは無理なので、駅からでなきゃOKということだったのですが、全然みつかりませんでした。

もちろん、『これが凶悪なテロリストだったら、警察の威信は地に落ちていた!』と、お叱りを受けるので必死に頑張ったんですけどね。

それなら、捜査一課にでもやってもらえばいいじゃないかと思ったんですが、当然、そういった最前線の捜査官は日々忙しいわけで、必然的に、時間に余裕のある私達後方支援部隊が中心でせざるをえないとのこと。

人事局としては、将来の幹部候補生や、現場を支える警察官の確保のために、一役買おうというわけです。

何故、『女性職員だけ』が有志でこんなに集められたかというと、単純に男性職員は放っておいても毎年増えていくので、協力を拒否されたからです。あと、女性捜査官はなんだかんだで、雑用が多いので、現場経験を積ませる意図もあるみたい。

「諸君らも知っての通り、まだまだ警察は男社会である。しかし、テクノロジーの発達で、我々女性警官も同じように仕事ができるようになってきた。

だが、今日(こんにち)の市民の警察への信頼とは、過去の積み重ねであり、男性陣が血と汗で築き上げてきたことは紛れもない事実である。。

我々女性警察官も、それを積み重ねていくことこそが、将来、警察組織での男女平等に繋がると確信している。それでは、小池理事官が詳しい説明をする」


1000人くらいの視線が私に集中します。羨望・嫉妬・不安など、表情は色々です。いやぁ、そんなに良いもんじゃないよ? なんなら代わってくれないかな。

「我々は警察関係のブースへの勧誘はもちろんのこと、警察官の職務である安全の確保にも当たらなければなりません。具体的には、強引な勧誘の禁止・痴漢行為・スリ・置き引き・喧嘩など、たくさんのトラブルが予想されます。

高校からは、警備用アンドロイド1000体を配置してあるので、問題ないと回答を得ておりますが、臨機応変に対応してください」

スクリーンに警備用アンドロイドの写真が表示されます。

「そっくりな女子生徒がいるそうだが、人間とアンドロイドを間違えるということが無いように。警察の威信に関わると思ってくれ」

「配置は、ブース近辺に配置の警官は全員制服にて応対をしてください。私服警官は巡回やパトロール。さらには、ブース近辺で迷っている学生等に声をかけてください。

制服ですと、相手が逃げてしまう可能性もあるので、もし、対象が発見された場合には、本部に連絡してください」

スクリーンが切り替わり、生徒の顔と名前が表示されます。

「公安部さんや、篠原警視監の同期の教員の協力を得て、有望と思われる生徒を数人ピックアップしました。これから言う生徒を見つけた場合には、速やかに本部に連絡すること。本部からの指示を待ってから任動をかけること」

警察官ですから、データベースとかありますし、保安関係ですから、調べないわけにはいきませんからね。国会議員でも身体検査って立候補のときするじゃないですか。


「まず、3年生から、国見由梨、神木真人。次に2年生、真田優子、源小町、藤原政代、鳴海聖子、木元悠斗、石原咲。1年生、星野奈々、生田雅、橋本結衣、渋沢美希、東上咲月、渡辺詩織、新垣希、黒田勘九郎。

今回のイベントでは女子幹部候補生の発掘が主な目的ですが、優秀な人材は確保しておくに越したことはありません」

全員の顔写真と名前が指名手配犯みたいに表示されます。

「他にも、優秀な生徒は居ると思いますが、彼らの確保が最優先。次に各自の詳細な説明をします。プライバシーの問題などもあるので、メモは一切禁止」

官僚希望だったり、運動部員だったり、ハーバードやMITを出ていたり、お嬢様だったり、政治家希望、現役アイドルまでいます。

警察庁はともかく警視庁の運動部は、世界最高クラスの設備を持ってますからね。オリンピック選手だってたくさんいます。アイドルだって広報に使えば、警察のイメージアップに繋がるかもしれません。一日署長と違ってちゃんと訓練しないといけませんが。


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