投稿作品集 > お仕事シリーズ 広告代理店のお仕事 p.02

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



(2)

私達プランナーのお仕事は、実に多様です。国家的プロジェクトや、芸能人の売り出し等の華やかなのから、街のお花屋さんの母の日のキャンペーンのお知らせまで顧客のストーリーを具現化するのが仕事です。

あそこまで、最初から具体的になっていれば、もう後はストーリーを実行に移すだけですね。

休日の昼間に、野村局長から直電をいただいて、馳せ参じた甲斐がありました。急に打ち合わせってのはよくあるんですが、こんな大掛かりなプロジェクトとは……。急に思いつくレベルなんですかね。こんな具体的な青写真みたことないですよ。

いくら業界経験がある方とはいえ、ありえないレベルですよ。いや、ウチの会社に転職しませんか? 伊達さん、失礼ですけどお給料今おいくら?

ちなみに、契約の解除凄い落とし穴があるんですよ。仮に、選手を獲得しまくった場合、当然、能力の高い選手ですから数値は上がりますから、必然的に戦力外の基準が上がるんですね。

いやぁ、他人事ながら凄い条項入れたなぁと思いました。大人って怖い。

「流石、専門家はやっぱり違いますねぇ」

ドラえもんの、のび太君のような眼鏡を掛けた藤林さんが腕組みをして関心します。

「ご満足いただけましたか?」

「鬼教官って私だけ悪者になるのかしら?」

「いえいえ、若い女性がちやほやされると、女性は不快感を抱くものなんです。ですから、九条さんには、世の代弁者になっていただくんですよ」

「真理お嬢様辞任は構いませんが、一条家の名前に傷がつかないように頼みますよ」

「もちろんです。そこはぬかりなく、この戸田君がプロジェクトが臨機応変に対応してくれます。

やはり、男性が作ったルールよりも、女性が作ったという方が印象が良いと思うので。特に若い女性にチャンスを与えるということで、イメージアップにもなりますし」

皆さんが仰ることを、ホワイトボードに書いて、わかりやすくしただけですけどね。


「あら、皆さんどんな感じ?☆」

パッと皆さんが立ち上がるので、私も慌てて立ち上がります。この業界に限らず最近は、年配イコール偉い人ってわけじゃないですからね。

多分、この方が一条家の当主の方で、伊達さんの主人の方で、局長の娘さんの先生で真理さんと仰る方なんですね。思っていた以上に若かったです。

というか、私(30)より若いですよね。なんか産まれた段階から、ステージが違う感じがして戦意すら抱けないですよ。

「ドラフト会議は無事終わりましたか? 例の人物は?」

「九位でちゃんと指名しましたわ☆」

「真理お嬢様。残ってるだろうから後回しにしたでしょ?」

何人中なんでしょうか。なんか今日、一条家のメイドさん会議みたいなのがあるってさっき藤林さんが仰ってましたが。

「そんなことより、敦子ちゃんが、チームの応援歌とか、番組の主題歌とか。そういうのを請け負ってくれるそうです☆」

「まだ、請け負うとは言ってないわよ。ただ、ウチにいる女性の好感度が高いミュージシャンならお手伝いできるかもってだけ」


「立ち話はあれですから、お座りになってください」

私と同年代くらいの女性と、その後ろに年配の女性も入ってきます。年配の女性は椅子には座らず、同年代くらいに女性の横にピタッと立っています。

「あの~、部外者の方はまずいのでは?(小声で)」

「馬鹿。あの方は、TMEN大株主で、芸能事務所のオーナーの高杉敦子さんだよ。お前、業界から消されるぞ(小声で)」

帰国子女枠で入社して苦節10年、やっとここまで来たのに、路頭に迷いたくないです。

「どうかされたのかしら?☆」

「いえ、ちょっと世間知らずだったもんで。お二人のことを野村からお伺いしておりまして」

「私達、表には滅多に出ないので、お気になさらないで☆ お金ならいくらでもあるから、自由に使ってください☆ 長期的で構わないので、プラスマイナスゼロにしてください☆

結果的に、MGBNCの発展に寄与してくれると嬉しいですわ☆ 詳しくは藤林と九条に任せておりますので」

このぐらい豪快なこと言ってみたいですねぇ。

「大学の方は受け入れ可能なんですか? それが大前提のプランなんですが」

「あ、聞いてみますね☆」

一条さんが手を出すと、九条さんが自分の胸ポケットからスマホを取り出して電話を始めました。


(3)

「九条です。ご無沙汰しております松任さん。真理お嬢様の本業のお仕事に関する緊急のお電話ですが、今、理事長さんよろしいですか?

セレクションの途中、真桑さんは何をされてるのかしら? 純ちゃんに丸投げして、画面を見ながら、高みの見物? 代わっていただけますか」

イラッとした様子で、スマホを一条さんに渡します。社会人が一度やってみたい奴ですね。向こうも代理の方が受けられているようですね。一条さんが耳元にスマホを当て、何かを思いついたように、スピーカーにして机の上に置きます。

「一条でーす。お疲れ様ですー」

「教育実習生の指導教官やっぱり嫌とか無しだよ」

「お疲れ様です。高杉です。理事長違うんでしょ。そっちはまぁ、なんとかなりそうなんですが別件です」

「就職進学フェスがどうのこうのとか、平賀先生が言ってたけど、それのこと? 全部、任せるよ。事前準備とかはいつでもしてもらってよ」

「それでもなくてですね」

「じゃぁなに?(ちょっと怒) 今、脱落者が続出して良いところなんだよね」

「例の大学に、ランジェリーバレーボール部のプロチーム置いてもいいですか?」

「フットボールじゃなくて?」

当然のリアクションですよね。私と局長も同じリアクションをしましたもの。


「就職実績になるなら良いんじゃない? ちなみに、代理店の方に聞いておきたいんですけど、そういう時って大学名って出るもんなんですか?

ジャージに大学名入れようと思ってるんですけど、着せるとまずいんですかね? モザイクとか掛けられるのはちょっと」

「いえいえ、わかりやすく言うと、随意契約のようなもので、こちらから基礎教育等をお願いしている形なので、そちらが許可していただけるのであれば、そういったことは一切ありません」

ドゴンという爆発音。何度か爆発音がしました。セレクションって何をされてるんでしょうか。

「ちょっと、三条さんとこの娘さん大丈夫なんでしょうね」

「え? 知らないですよ。ていうか、推薦蹴って意味不明なんですよ。そういう問題児もういっぱい居るんで。もっと素直な子居なかったんですか?

それにゼッケンで管理してるんでわかんないし、一応、失格者には居ないみたいだから残ってるんじゃないですか? 遭難してなければですけど。お!」

「どうしたんですの?☆」

「一週間掛けて、たくさん掘った落とし穴にシートかぶせて、砂を少し乗せておいたんだけど、面白いように引っかかってさ。頑張った甲斐があったよ」

「月曜日にでもビデオ見せてください☆」

「ちなみに、学費とか授業料は、家庭の所得に応じて変わることにしたじゃない。そういうときってどんな風に請求すればいいの? 好きに決めていいの?」

「お手柔らかにお願いしまーす☆」


「ところで、二チームもウチで引き受けるの?」

ん? 二チーム?

「ウチだけですわ☆ 敦子ちゃんの所は主題歌だけですの☆」

「そうなんだ。元バレー選手を指名したって言ってたから、ベビーフェイスチーム『も』つくるのかと」

「バレエですわ。踊る方です」

「なんで、私達がヒールなのかしら?」

「悪名は無名に勝るって言いますから、興行としてはありだと思ったんですけどね。有力な選手を底引き網で根こそぎ強奪するチーム一条と、コツコツと地道に初心者から育て上げるチーム高杉。真逆のチームカラーだと盛り上がるかなぁって。

大学で一般学生も希望者は入部させても、絶対残れないじゃない。でも、そこを工夫してさ。超巨大戦力に立ち向かう落ちこぼれ集団的な構図で、日本人好きそうだぁって。海外からはチーム一条の方が人気ありそうだけどね。

煩悩108に居ないのかな。ランジェリーバレー出来そうな子。平凡な子程、対比になって良いと思うんだけど。同じ大学のチームだから姉妹チームですじゃダメなんで?」

「しかし、ユース等の構想が……。我々としてはユースからしっかり囲い込みを可能にしたいと思ってたんですけどねぇ」

「ウチの大学の3年までって、遠征なんて行く時間ないですよ。院もセットで、九年間で3500単位履修するんですよ。卒論は別にあるし。国内と海外の中学・高校でそれぞれ教育実習もしないと卒業できません。基礎教育の一環になりませんかね?」

「それはお伺いしました。我々としては、厳しければ厳しいほど、印象が良いと考えております。当然、特別扱いも好ましく無いと思っています」


(4)

私の出番のようです。プランナーのお仕事は、『落としどころ』を探す仕事です。良くて痛み分け。理想を取るか、利を取るかを決めてもらうお仕事です。

「契約外の選手は3年次にドラフト会議みたいにしてみます? そんなに学生自体、多くされないとお伺いしましたが。

協会紹介で、高卒の資格があれば、成績問わず、4月にかぎらず、いつでも入学受け入れ可にしてもらって、休学期間を無制限、連続三年以内までとかにしてもらえば、オフシーズン二ヶ月とか、怪我の治療とかリハビリ期間を使ってうまくいく気がするんですけど。

我々もスポンサー企業を探さないといけないので、そんなにすぐすぐ見つかりませんし、練習場やスタジアムも確保しないといけませんし、引退後の受け入れも、ちゃんと単位をとってる方が、企業も受け入れやすいですし、親御さんも安心だと思うんです。

協会はもちろん、スポンサー企業や、採用を希望する企業からも無償の寄付がかなり入ると思うので、一般学生の給与制についての負担もかなり減ると思いますよ。もちろん、こちらから送り込んだ学生は、球団が払いますので、大学からは不要です」


「あと、全寮制で男子とペアで同居なんですけど問題無いですか? スポンサーとか競技的に。変なことができる体力は残ってないと思いますが。

それにそのお話ですと、女子学生が圧倒的に比率として増えるので、男子学生もおいそれとは出来ないと思いますが。九年間、男子1に女子2とか大変そうですよね。

ちなみに、女子があまりそうなら、サッカーやらせてもいいですか? ミニサッカーっていうちょっと儲かりそうなスポーツを生徒が考えたんですよ」

「ミニサッカー? 確かに女子にはサッカーのコートは広すぎますからいいアイデアカモしれませんね。同時に進めてみましょう。

男子と同居の件は大学に一任しますよ。妊娠とかさえしなければ、逆に遊ばれると困るので適度に異性と触れ合わせたいと思ってました。それに異性と一緒に居た方が綺麗になるって説もありますからね。

寄付の際に、スポンサーには永世中立ってことで、指導方針や成績評価には口を出さないように戸田から説明させますんで」

局長がするんじゃないの? まぁ、確かに女性が説明した方が向こうが反論しにくいのかもしんないけど、同席はしてくださいね。私、プランナーであって、そういう交渉とかほとんどしたことないんですけど?


『チンタラすんな! さっき移動は二列縦隊で駆け足っていったろうが! 同じこと言わせんなバカどもが! ぶちころすぞ! 高校舐めんなよ!』

年配女性の物凄い怒鳴り声。

「今のって純ちゃん? どうしたら、若い頃、指導教官してたころみたいじゃない。そういうのが嫌で、外の世界で先生になったんじゃなかった?」

「なんか、昔の血が騒ぐとか。開始前に言ってました」

「平賀先生に弟さんから伝言があります☆ たまには、京都に旦那さんつれて顔を見せて欲しいとのことです☆」

「東京に帰ってから直接言ってくれない? 僕、今の平賀先生に関わりたくないかも」

「嫌でーす。じゃぁ。月曜日にお土産よろしくおねがいします☆」

一条さんがブチッと電話のボタンを押します。

「あのぉ、平賀先生ってはどんな方なんですか?」

「温厚な人なんですよ。先程、少しお話した五条家の長女で、五条機関の養成施設で、主任指導教官をしてましてね。養成施設とは言っても、普通の諜報機関の訓練施設で会社みたいなもんです。

訓練施設なので、そんな想定はしますけど、実際には任務にはでませんし。学校と一緒です。そういうのが嫌で、外のミナモト系列の学校に転職して、今の学校に流れ着いたはずだったんですけどね」

「ところで、一条先生、その候補生というのは、今、何をしてらっしゃるんですか?」

「あ……、忘れてましたわ★ 別室で待機してそのまま★ 二時間も長話になると思ってなかったので★」

今まで候補者の人は何をしてたんだろう。


「では、そろそろ我々も準備がありますので、戸田さん悪いんだけど、これ全部覚えて帰ってくれる?」

「写真じゃ駄目なんです?」

「まずいでしょ。こんなの万が一、流出したら大問題になるよ。『作られたスーパースター』とか『調査機関』とか。『議事録の存在すらあっちゃいけない打ち合わせ』でしょ。

何で、『イベントホールで打ち合わせした』って聞かれたら、答えられないでしょ。若いんだから全部覚えておいてよ」

「今までの内容を全部覚えておくんですか?」

「うん。あと、企画書月曜日の朝イチで出してね。俺は月曜日までに会社を設立して、スタッフを選定し、移籍のオファーを出し、上層部には仁義を切らなきゃいけない。

どっちが良い? ただ覚えるだけの単純作業と。あ、企画書を選んだ場合は、ミニサッカーとやらのも作ってきてね。スタジアムは併用できように上手くいじってよ。

スタジアムはドーム360度開閉式にして、コートとゴールちょっと狭くして、フットサルのルールいじって、後、女子だから危ないからこっからシュート無効みたいなルールにしといて」

会社立ち上がとか絶対無理だし。覚えるしか無いんだけど、コレどうやって覚えるんでしょう。自信ないです。

「休日出勤、丸二日したことにしといて良いから」

お金じゃ買えないものってあるんです。それは記憶力。

「じゃぁ、後はよろしくお願いしますね☆ 辞任の理由が決まったら早めに教えて下さい。役作りがあるんで☆」

この状況で、さらに容赦なく追加するんですね。ええ、お客様の無理難題を解決するのが私の仕事です。一条さんのメイドさんって超大変そう。


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