投稿作品集 > お仕事シリーズ ディレクターのお仕事 p.02

このストーリーは、bbs にて、ロッキー 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は ロッキー 氏にあります。



(4)

うーんとちょっと考えこむお嬢様。

「私は『良いアイディア』だと思います。元メイドに、この女性をメイド教育させましょう。メイドして、基礎はあるわけですから、麻由美さんが元メイドに一条家のしきたりを教えてくれれば、負担も減るのでは?

それに、プロチームを我が局で持つというのは良いアイディアかもしれません。傘下の伊藤さんの事務所に所属させ、権利をすべて抑えてしまえば、CMでも莫大な金額が入りますし、グラビア、ドキュメンタリー、ドラマ、小説、ゲームあらゆる二次利用が可能です。

アダルトチャンネルでも使えるんじゃないですか? あの誰々が脱いだとかよく話題になってますから。それに、営業の『接待』などにも、積極的に同行させましょう。

アナウンサー兼プロ選手というのは厳しいかもしれませんが、大学を卒業後、『頃合いを見て商品価値が落ちないよう』に強制的に引退させ、コメンテーターや解説は勿論、新聞や雑誌で解説やコラムを書かせるというのはいかがですか。『そっくりさんとして、本番ありのアダルトビデオに出す』のもありまかもしれません。

そうだ。プロ契約を先にして、『所属はあくまでウチで、チームごと大学にいる』ということにすれば、本丸もそうそう手が出せないですし、大学でふるいに掛け、優秀な者をトップチームにすれば、リーグ戦で一泡吹かせられるかもしれません。トップチームには、他の大学の優秀な選手もいれましょう。

母親は昼間は局で、伊達ディレクターのメイドとして、全チャンネルのAD兼小間使いでもさせましょう。娘の成長もみたいでしょうから、頑張ればどこかで会えるかもしれません。

それに昼夜働いたお給料は全額、自由に使わせましょう。それに丁重に扱って、定期的に娘に顔を見せておけば、お互いに『見えない鎖』にもなりますしね」


藤林のオジ様はご満足いただけたようです。満足どころか、大幅にプランを改良してきました。そして、最後が相変わらずエグい。流石、元敏腕プロデューサーです。

私の経験上言いますが、変に恩を着せられるよりも、奇妙なくらい親切にされた方が不気味で怖いものです。当然、自分にはどれほど期待されているかを、人に聞かされるより、自分の目で見た方がはるかに深く理解するのです。

「あら、ジイヤは賛成なの?」

「ただ、私も最初考えたんですが、娘さんは吉原アナウンサー見習いと一年違うだけです。『本丸を二年連続で』出し抜けるかとか、余計な波風が立つかかとか? 色々な可能性を考慮して、もっと若い娘のいるシングルマザーを選択しました。

しかし、経済効果として、考えると確かに、こちらの方が旨味があるかもしれません。早速、『内密に』一条広告の野村局長にコンタクトし、口の型い者でチームを結成させ、スキームを組ませましょう」

ドヤ顔だよ。ええ、そうですよ。そこまで、考えてませんでしたよ。確かに、二年連続で出し抜いたら、どうなのよと言われますよね。

一条広告の野村さんってのは、今、現場を離れてますが超やり手のプロデューサんさん。どうして、現場を離れたかというと、『娘さんが女優として本格的にデビューされた』から。

ネット社会ですし、あらぬ誤解を産んで、娘さんの足を引っ張りたくないということで、現場を離れ、今や局長として、クリエイターを統括してらっしゃいます。


「あくまで、母親のコネという名目であれば、イケると思ったんですけどね。そうだ! 従来のバレーボールでは無く、なにか目当たりさを……。

そうだ。『ランジェリーバレーボール』リーグとして、まずは傘下の会社で独立リーグを立ち上げてはどうでしょうか。下着の最大面積をルールで制限して、上下の形状や材質は不問。下着モデルや化粧品メーカーの広告塔にもなります。

これなら、いずれ参加外の会社も参入してくるのでは?? 海外での放送権も、これなら高く売れるはず。リーグとしての放映権は、全てウチが一括管理して、それぞれのチームでも自由に契約していい事にしましょう。

スポーツチャンネルで、各チームの一週間を流す番組を作って広報させましょう」

「悪魔的な計画☆」

やった。お嬢様ご満悦のご様子。

「スポンサーは一業種一社制度。顔へのステッカー等は一切禁止。リーグの規約として、『タトゥーはもちろん、プチ整形も一切禁止』『地毛以外の色に染めるの禁止』『21歳過ぎたら、独身者は結婚勧告。25歳で出産勧告。30歳で引退勧告』等など。とにかく躾は厳しくしましょう。

積極的にスポンサー企業独身者を集め、独身選手とパーティーをさせましょう。出産や進学時には、協会と所属チームから報奨金。資格をとるのも協会で奨励しましょう。

最初が肝心ですから、『母親が安心して』競技を勧められるように、スポンサーも色々と制限しましょう。パチンコや風俗店などは論外。

当然、『チーム自体がビジネスとして成立するよう』、ドイツやスペイン等、サッカー先進国を参考に、ルールを作ってしまいましょう。

こういった一般教育は、藤林のオジ様の得意分野ですし、協会のコミッショナーとして指導していただいて、奥様は、オーナー兼リーグの会長に。

ユニフォームは胸までの範囲で、チーム名を必ず入れること。引退後も『プロ契約時に契約したチームが責任をもって』面倒を見ることとしましょう。とにかく、『ランジェリーバレー』に集中できる環境を整えましょう」


「あなたはどう思うのかしら?☆ ええっと21番さん?」

女性がサッと三指をつきます。

「私はどうなっても構いません。バイトもしたことがありませんし、メイドとしても、お仕事でも。きっと、ご迷惑をたくさんかけてしまうと思います。

一生懸命、一人前になれるよう努力いたします。仰るとおりの生活で幸せでございます。24時間働き続けます。お部屋も不要です。

絹江さんは聡明な女性ですし、年下のメイドさんの下でも、きっとうまくやると思います。娘の玲菜は『鳶が鷹を産んだ』と申しますか。必ず奥様のお役に立つ子だと思います。もう帰る家がないことは、娘も知っておりますので。

ただ、もし、看板選手になり、アナウンサーとして活躍した場合、『アダルトビデオだけ』は許していただけませんでしょうか。チャンネルに出ることは業務であれば、娘も頑張れると思うんです。

あの子は何も悪くないんです。家の没落は全ては親の不始末。もし、奥様にお子様がいらっしゃらないのであれば、養子にしていただいても構いません」

「一条家を乗っ取るおつもりではありませんか?」

藤林さんの眼鏡がギランと光ります。ああ、それはあるかもしれませんね。


「滅相もございません。そのような恐れ多い考えは、毛頭ございません。既に、お調べとはございますが、私は旧姓・白川。久我は亡き主人の姓でございます。

血筋的にも、能力的にも決して著しく劣る、などということはないと思います。将来、近親者の方からお婿さんをもらえば、お家もご安泰かと。

ご兄弟がいらっしゃるのであれば、そちらから精子だけいただいて、人工授精という手も。もちろん、ご兄弟の婦人がお許しいただければですが。

もし、ご要望でしたら、奥様の卵子を使って人工授精し、私を代理母に使っていただいても構いません。私はただの器であり、道具としてなんなりとお使いください。

もちろん、教師をされておられて、お忙しい奥様の代わりに出産・育児をすることも可能でございます。既に経験済みでございますので、ナニーとしてなら経験がございます!」

名前は情報として無かったので知りませんでした。お嬢様とオジ様はご存知の『名門の家だった』ようです。ナニーというのは、子育て専門のメイドです。

それにしても、この土壇場でなかなか頭の回転と飲み込みの早い女性です。思わぬ掘り出し物かもしれません。必死に自分を売り込んでいます。


(5)

「残念だけど、ナニーは『さっき』ジイヤが見つけましたの☆ 27歳と、もっと若くて、健康なのが☆ 仮に人工授精するにしても、若くて健康な方が安心ですの☆

それも、親方、日の丸の身辺調査と訓練、さらに血統書付きですの☆ 元総合防衛技術幹部候補生学校の卒業生で、アルティメットレスキューだった方ですの。

その方は交通事故でご主人と死別されて、退職されて、転職しようとして失敗されたんですって。その方は中卒でシングルマザーですの。もっとも娘さんは、『まだ小学1年生』だそうですけど。

あと、御存知の通り、法律が変わって、10年以内に退職されると、七年分の学費、授業料をそれぞれ5倍、さらにお給料も全額返金しなければならないのに、社会的な信用も失いますので、すっかり困ってらっしゃって。

貴女みたいに、ごちゃごちゃ言わず、すぐに二つ返事で、住み込みで奉公に来ることを決めましたのよ★」

総合防衛技術幹部候補生学校というのは、省庁大学校の一つで、保安関係の大学院(三年生制)に相当するところですが、『準じているだけで、大卒や院卒ではない』のです。

学歴とはまた別の世界というのでしょうか。普通の保安系の大学校(四年制)を経て、さらに厳しい実技訓練もあります。厳しい全寮制でも有名です。

中卒の資格があれば、入学出ますし、高校・大学からも試験に合格すれば、成績に応じた学年から編入することが可能です。


学校名通り、防衛関係の超エリート養成のための学校なのですが、『税金からお給料が貰っておいて、卒業後、関連の陸海空のいずれにも所属しないいわゆる『任官拒否』、返還義務のがれの『短期退職』』等が社会問題化。

不景気もあって、『国民の堪忍袋が切れ』卒業シーズンともなると、メディアでは『今年は何人拒否』等大々的に取り上げられ、連日連夜デモやなどが関連施設を取り囲むなど、国会でも、毎年のように、問題視されるほど、大問題になり、急遽、法律が変わり、『過去に遡って』、問答無用の返済義務付けたのです。

しかも、今まで散々野放しだったというガス抜きから、5倍返しという超法規的措置が取られたのです。さらに、誠意を見せると、10年以内の離職者も『自主的に』返済を求めています。

対象者は、年金やその他、『公的なサービスが一切』受けられなくなります。もちろん、医療保険も全額自腹になります。銀行の口座やクレジットカードも作れません。海外旅行もできなくなります。文字通り、『裏切り者』と国が正式に設定してしまったのです。

大学校の四年間だけで、給与を含めてだいたい2億円、さらに上級の幹部候補生学校まで卒業したとなると、ひっくるめると8億円弱くらいが税金で賄われています。

一流私大の医学部並に高く設定されているのは、陸海空の各種実技演習設備はもちろん、サバイバル演習のための島等を保有していて当然、税金で管理されているからです。

当然、関係者は猛反発したんですが、『血税をなんだと思ってるのか』と言われ続けながら、『対策を講じてなかった』ので、国民からは全く理解をされませんでした。


藤林のオジ様が『借金さえ肩代わりしてしまえば、忠実なのではないか』と目をつけたようです。実家との関係も良好で、娘さんは預けているようです。ただ、かなりお年のようで、介護などでとにかくお金が必要。

中卒でお金の掛からない士官学校に入ったのは、両親が彼女を不良仲間から引き離す目的もあったのですが、彼女自身がちゃんと自立したいというのがあったらしいです。

万が一の時、娘さんの方にまで、借金がいかないように、亡き夫の身寄りであるお婆様の養子にしていたという念の入りようからして、立派に更生したと判断したようです。

「年齢以外で貴女が勝ってる点ってあるかしら? さっき見てきたけど、健康的に日焼けしてて、とても快活な方よ」

「だから、貴女には、仕事を覚えたら、今、横にいる奈緒美の公私共のメイドをしていただきますの☆ メイドというよりも、小間使いかも☆

当然、ランジェリバレーの『主婦や保護者への広告塔』として、ママさんバレーボールなどにも『助っ人』として、飛び入りで参加していただきますわ☆

でも、まずは、貴女にはやっていただきたい任務がありますの。物凄く罵声浴びせられて涙を流すだけの簡単なお仕事ですわ☆ 場合によっては、数人男性のお相手させられるかもだけど、そのときは不感症とか、ものすごく下手くそにやってくれますの?☆」

「奥様の仰る通りに致します。生意気な口を聞いて申し訳ございませんでした。二度とこのようなことないように致しますので、お許しいただけませんでしょうか」

正座したままシュンとしました。そして、額を地面に擦り付けました。


「お嬢様もしや……、確かに、九条さんからは指名してこいと言われただけですからね」

「ウチのお屋敷に来る前に、本邸のお母様に所で一働きしてもらいますの☆ 面白い余興になると思わない?☆」

「しかし、怒られますって。メイドは若いのに決まってるって」

「でも、見た目じゃちょっとわからないでしょう? どう見ても20代☆ ネタばらししたときの、お母様の今から楽しみだわ☆」

「確かに、一見若そうに見えます」

私も情報を見ていなければ、20代だと誤解したと思います。まさか、お子さんがいらっしゃるとは思いもよらないはずです。奥様はこういう余興がお好きです。むしろ、このために、九条のオバ様を送り込んだともいえます。

「でしょ?☆ 『お母様に送り返されてくるところまでが任務』ですの。だいたい、本邸には、借金のカタに売られた元女優とかいくらでもいるでしょう☆ 自分でいらっしゃらず、バアヤに丸投げるくらいだから気まぐれですわ☆

でも、もし、お母様以外の途中で家の者に気が付かれたり、ネタばらしの前にバレたら、もう二度と娘さんとは会えないかもしれませんわね☆ 頑張ってね☆」

女性は小さく身体を揺すっています。


「それに、バアヤは人手がほしいだけですし、番組作りに主婦目線があっても困らないでしょう?☆ みんな幸せになりますの☆

メイドの仕事を仕込んであげるわ☆ どうせ、帰国して、同居しても共働きのつもりなんでしょう?☆ なら、若いメイドより、こういう立場を弁えたメイドの方がいいわ☆

ちゃんと、ハウスキーパーの資格も取らせれば良いでしょう。試験勉強に、バレーの練習。さらには協会に手伝い。あらあら文字通り寝る間もなくなっちゃいますけど☆」

隣の先程の女の子が、細い足をガッと開き。股の真ん中の毛の生えている辺りに、焼印を押し付けられています。家によっては、奉公に来るメイドにあーしてマーキングされ、マイクロチップを埋め込み、居所はもちろん健康精神状態も常に管理するのです。

懲罰用に電流を流すことも可能とか。チップと言っても、ナノサイズのものなので、焼き印も見た目じゃわかんないんですけどね。じっくりみると、個体識別のタトゥーであることがわかります。

本邸も確かしています。真理お嬢様のお屋敷ではしてません。お役御免になればチップははずされますが、焼印のあとは消えない思います。もしかしたら、三条家には秘術的なのがあるのかもしれませんが。

「熱かったやろ? よう頑張ったな。ここなら、陰毛で隠れるから、温泉とかも大丈夫や。ほな行こうか。千房の相棒ドラフトで取って、医療従事者にするで。特に看護師は、いくらおっても困らへんから、下の方は好きに指名してええで」

驚いた様子の千房さん。


「名前は違うけど、アンタはもう三条家の一員やから、ご主人言わんでええで。試験中、仲良かった子とかおらんのけぇ? 隔離されてても、なんかで顔見知りとかおるやろ。

産婦人科は政治家の隠し子とか、芸能人の子とかそういうのがぎょーさん来るから儲かるで。もちろん、秘密厳守やし、一生、主治医として連絡あればいつでも飛んでかんといかんから大変やけどな。『医は算術』とは、よういうたもんや」

あちらは、いわゆる逆指名枠(ドラフト指名枠を一人分使って確保)を使用したようです。

「真理ちゃんじゃない~。ウチのもん、ご迷惑かけてまへんか? 藤林さんと奈緒美ちゃんもお元気?」

「はい。ご無沙汰しております。奥様もお元気そうで」

「派遣して頂いてるメディカルチームもみなさんお元気です。タレントさんからも、イケメンドクターや、美人ドクターに会うために、果敢なロケや撮影をみたいな雰囲気がございます」

「旦那の貰い手とか、嫁の貰い手が出てきたら教えてな。五条さんに身体検査してもらうから。東京は怖いどすからな。本来、違法なんですが、親戚の方が『お節介』で調べちゃったとなると、どうしようもないですよね」

「九条さんから聞きましたが、撫子さん。推薦ではなく、一般にされたとか?」

「幼馴染の天羽ちゃんが、二条さんとこの猛坊っちゃん好きみたいでな。東京行けることになったらしくて、一緒にセレクション受けるんやて。なんか、出発前に慌てて出発しとったわ。

真理ちゃん、セレクションの日程教えてくれて助かったわ。女子教育が仁術や算術になるとええな」


「セレクションは理事長直轄ですから、私に出来るのはあのくらいですわ☆ 無事に合格できるといいですわね☆」

「合格したら、真理ちゃんが担任なんやろか?」

「いえ、一条・二条・三条って居たらややこしいんで☆ 私は五人も教育実習生の面倒を見ないといけないので☆」

「研修医の指導みたいに大変そうやね。この子、今度ウチにくんねん。千房ほれ、一条家の御当主様やで」

「大木千房です。よろしくお願いいたします」

「東京にも遊びにいらして☆」

千房さんんと、三条さんの奥様が会釈して去って行きました。

「ウチも逆指名にしますか?」

「必要ありませんわ☆ 逆指名は二人までだし、こんな年増を上位で指名する物好きなんていませんわ。三位でも充分。もっと下位でも良いかも。ジイヤご推薦の早乙女奈保子さんを二位指名にしましょう☆」

まぁ、確かに、お嬢様の莫大な財力をもって、莫大な借金を肩代わりして、帳消しにして、さらに家業を駆使し、莫大な時間とお金をかけて成立するプランですから、他の御当主が指名するとは思えません。

それに、なんだかんだで、お互いに誰を指名するか、観察していますから。


(6)

「貴女はお名前は?」

「万幸です」

「一位はどうなされますか?」

「私のオススメを見てくれないかしら?☆」

お嬢様についていくと、どんどん奥の方へと歩いていきます。美女にも目もくれません。両サイドの女の子がスカウトされているのをみて、悔しそうな顔をしている子もいます。考えてみれば、屈辱的なことですよね。

「この子なんだけど、どうかしら? 15歳らしいんだけど☆」

背中に77と書かれた女の子。黒髪はナチュラルでセミロン。発光するような強い輝き。顔は小さく、目鼻立ちはくっきりとした精巧に作られたお人形さんのよう。どこかで見た顔なんです。

「お立ちになって☆」

長い睫毛と、ふっくらした頬、肉厚なピンクの口唇、実に端正な顔を揺らします。身長は、160cmくらいでしょうか。伸びた足の女っぽさ。すらりとした優美な太腿。足首はキュッと細く締まってます。

胸の膨らみも充分に悩ましい大きさです。ここにいる女性がみんな大きくて形がいいので、小さく見えるだけです。


「ジイヤはともかく、奈緒美がわからないのは、まずいじゃなくて?☆ 何度もお会いになってるはずよ★」

誰かなぁ。どっかで見たことあるんです。でも、仕事がらみなら覚えてるはずなんだけどなぁ。一度、お仕事をした相手を忘れるなんて、ディレクターとして許されない行為です。どんな業界でも『お世話になっております』って枕詞になりますが、テレビ業界だって同じです。

「真咲よ。あなた、道明寺真咲さんですわよね?☆」

「はい……」

数年前に大手事務所から独立し、その後すぐに引退した元清純派お嬢様女優です。ご実家は芦屋の物凄いお屋敷があって、松濤にもお家を持ってらっしゃいました。

理由は、確か、高校生になるんで学業優先だったのですが、週刊誌等では、『両親が友人の連帯保証人になって莫大な借金を背負わされた』とか、『詐欺にあって身ぐるみ剥がされた』だの数週間は賑わせました。

あれほど名声を得ていた女優さんにしては、珍しく控えめで、私のような末端のスタッフに対しても、控えめで常に敬語。抜群にスタッフの受けも良かったです。男性女性問わず、敬意と愛情を持って接していました。とはいえ、もう数年前、すっかり忘れてました。

「随分、お久しぶりよね?☆」

「その節はお世話になりました。おかげで、両親に立派なお葬式をあげてやることが出来ました。まだ小さかった弟はともかく、高校生になる私にくらい相談してくれれば……。あんなことには……。個人事務所なんて口車に乗せられてたなんて」


聞けば週刊誌にあったことは、ほとんど本当で莫大な借金を背負わされたご両親は失意のあまり海に身投げ、残ったのは莫大な借金とその膨大な利子だけ。

しかも、世間知らずだったのか、これまた騙されたのか、質の悪い所から借りて辻褄をあわせようとしていたため、道明寺さんが気付いた時にはどうしようもなくなっていたそうです。

その後はお決まりの、取り立て屋によってキャバクラやソープ、ホステス、愛人業、美人局、枕営業、企画物のアダルトビデオ等で、四年間も、昼夜休みなく情け容赦なく働かされ、つい最近、『一日でも返済が遅れたらどうなるか分かってんな』と脅しぬかれ、人質にされていた弟とともに、ようやく解放されたそうです。

解放されて行く相手もなく、楽しかった思い出のある本丸に来てみると『アナウンサー採用試験』をやっていて、飛び入りで参加するももちろん、バレて強制退場。

帰り際に、この女子メイド試験の事を、親切な黒服の方(たぶん五条さん)が教えてくれて、全寮制の超難関進学校に入れられていた弟に暫く連絡できないが心配せぬよう伝えて、この試験に喜んで参加したそうです。

試験中も、生き残るためには手段を選ばず、持ち前の知性を総動員し、他の受験生を、時には罠にかけ、時には落とし入れ、裏切ったりして、次々と脱落させてきたそうです。

グループディスカッションでも、他のメンバーに語らせるよう巧みに仕向け、ボロを出させて論破していました。


「アナウンサーになりたかったの?」

「いえ、お金が一杯貰える仕事って、私、テレビ局しか知らなかったんで。研修でお伺いして、世の中にはいろいろな会社があるんだなって」

受験生には差し支えないレベルで、一条から九条までの家の歴史をレクチャーし、役割を教える講義があります。もちろん、テストもあります。

「あの清純派女優が逞しくなったと思わない?☆ どう? ウチにメイドとして来ない?☆」

「先程、同じことを言われて、条件を出したら、聞きもせず生意気と言われ、お付きの女性の方に膝蹴りされ、這いつくばった頭をヒールで踏まれ頬に唾を吐きかけられました」

「どこの家ですかね? 察するに八条さんあたりでしょうか?」

三条家の闇医者や、五条機関のように、八条家にも『交渉家』と呼ばれる裏稼業をお持ちです。脅迫・でっちあげ、あらゆる手段を駆使して、あらゆる交渉事を処理します。

恐らく、そのスカウトだったのでしょう。正確にいうと、『裏稼業』があって、それの隠れ蓑に家業ができたのが本来なんですが、時代の流れらしいです。

「条件っていうのは?☆」

「弟の敵討ちを止めていただけませんか? 悪い子じゃないんです。ただ、ちょっと正義感が強すぎるというか。頭が良すぎて、普通じゃないみたいなんです。

上手く言えないんですけど、司法試験受けたり、柔道部や剣道部で体も鍛えたり、なんか取り返しの付かないようなことをしでかしそうな。

出来れば、東京に呼び戻してもらえませんか? 多分、このままだと、高校には行かず、帝都大の法学部に飛び級して、多分、大きな失敗をすると思うんです。そしたら、家の再興どころじゃなくなります。

私は何でもしますから! 借金も自分で必ず払いますから、とにかくお給料のいい仕事をください。誰かと寝てこいと言われれば、喜んで寝ます」

切実そうな表情です。


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