投稿作品集 > 運動嫌いな女の子 新指導要綱編 p.01

このストーリーは、bbs にて、のりぞう 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は のりぞう 氏にあります。



■ 序 ■

私には少し、困ったことがある。

その困った事との理由と言うのは、私の通っている学校が今年の春から体力増進のモデル校として指定された事に原因がある。

近年の子供たちの体力の低下と青少年の犯罪率の増加と比例している点に着目した文科省は、体育教育の強化を図る事により子供たちの精神育成の向上を図る事を目的とした、『青少年の体力の向上と心身の増進を図る為の指導要綱』を発表すると、私の通っている学校が指導要綱に基づく体育教育の実施校として指定されたのだ。

実を言うとこの指定校と言うのが実に厄介なモノで、昨年度までの体育の授業と言うと、座学の間の息抜きと言う感じで行われていましたが、モデル校に指定されたこの春からは、それまでのユルイものからハードなモノへと変更されただけではなく、始業前にも“体力づくり駆け足”なんて事もやらされる様になった。

体育教育の強化は、運動音痴の私にとっては地獄と言っても過言ではない。

変わったのは体育の授業内容だけではなく、それ以外にも大きく変更されたものがありますが、その話をするには、私たち生徒がモデル校に指定された事を初めて知らされた日の事を話さなくてはならないでしょう。



■ 01 ■

それは、1年生としての一年間が終った終業式の日、式を終えて教室に戻った私たちに、担任の先生は一枚のプリントを配りました。

私たちに配られたプリントの3分の2ぐらいのスペースを使って、来年度から私たちの学校が文部科学省が推進する、『青少年の体力の向上と心身の増進を図る為の指導要綱』とやらに基づく体育教育増進のモデル校に指定された事が書かれていて、モデル校として相応しい服装として、今まで使っていた体操着が変更される旨が記されていていました。

そして、残り3分の1のスペースは切り取り線で分けられていて、新しい体操着の注文票になっていた。

注文票には、

男子 ショートパンツ(紺)
女子 ブルマ(紺)

と記されていました。


今、私たちは男子も女子も紺色のハーフパンツを使っています。注文票に書かれている男子用のショートパンツは解りますが、分らないのは私たち女子が来年度から穿く事になる“ブルマ”と言う着衣についてです。

私たちが、「ブルマってなんだろう?」と、女子同士でブルマの話をしていると、当然ながら誰もブルマについて知っている子など居ませんでした。

そこで、一人の女子が手を上げて、「ここに書かれているブルマってなんですか?」と発言すると、担任の先生は、

「ブルマと言うのは昔、女子生徒が使っていた体操着です。多分、あなた達のお母さんならブルマを身に着けて体育の授業を受けた覚えがあるはずですから、分らなければお母さんに訊いて下さい」

と言って、ブルマについて詳しく教えてはくれなかったのです。結局、私がブルマについて詳しく知ったのは、この日の夜になってからの事でした。



■ 2-1 ■

「お母さん、新学期から体操服が変わるみたい」

夜、お母さんが仕事から帰ってくると、私はそう言いながらお母さんに注文票のプリントを渡しました。

「春から体操着が変わるんだ。でも、去年、買ったばかりのハーフパンツはまだ穿けるのに、何だかもったいない話ね……」

お母さんはプリントを見ながら無駄な買い物をした時みたいに困った顔をしたので、

「体操着が変わるのは学校の都合だから、今使っているハーフパンツ一枚につき、ブルマ二着と交換してくれるみたいだよ」

と、私はプリントを配った時に先生が言っていた言葉を伝えると、

「ハルちゃんハーフパンツを二着持っているから、ブルマ四着と交換できるんだ。何だか、得した気分ね」

お母さんは納得した様子でした。お母さんが言うにはハーフパンツは一枚3000円ぐらいするそうです。

注文票に書かれているブルマの値段は一枚1500円と書かれているので、今回の体操着の変更で余分な出費をしなくて済むようにと、不公平感を無くすためにハーフパンツ一枚につきブルマ二枚と交換してくれると言う訳です。


お母さんは注文票の枚数のところに『4』と書き込むと、注文票をハサミで切って私に渡してくれました。後は、この注文票を持って学校の制服を取り扱っているお店へ持っていくと、お店でサイズを測って新しいブルマと交換してくれると言う仕組みです。

「大事な紙だから、無くさない様にね」

と、お母さんから渡された注文票をお財布の中に大切に仕舞うと、

「そういえば、ブルマってどんな服なの?」

私はお母さんにクラスの皆が知らなかったブルマについて尋ねてみました。

「ハルちゃんはブルマを知らないんだ。ちょっと、待っててね、ブルマを見せてあげるから」

ブルマについて訊かれたお母さんは、少し恥ずかしそうな顔をしながら私にそういうと、“平成2年 ○○高校 体育祭”と表紙に可愛らしい丸っこい文字で書かれたフォトブックを持ってきました。

お母さんの持ってきたフォトブックの写真には、今の私よりも少しだけお姉さんだった頃のお母さんの姿が写っているはずです。私は、自分よりも少しだけお姉さんだった頃のお母さんの姿が見られると思うと、ワクワクした気持ちでフォトブックを開いたのでした。



■ 2-2 ■

入場行進で、一番先頭を行進しているお母さん。友達同士と肩を組んでピースサインをしているお母さん。お互いの足首を布で縛って、クラスの男の子と二人三脚をしているお母さん。

鉢巻きを締めて、法被を羽織って、皆の前で脚を高く蹴り上げて、応援をしているお母さん。友達同士と笑顔でお弁当を食べているお母さん。バレー選手の格好をして、短く切り揃えた髪を振り乱しながら全力で走っているお母さん。

1位の旗にもたれ掛かって、誇らしげな顔をしながらピースサインをしているお母さん。男の子と腕を組んで嬉しそうにダンスを踊っているお母さん。そして、優勝旗を前にして、友達同士と抱き合って涙を流しているお母さん。

写真に写っているどのお母さんも、とても若くて、可愛くて、何よりも格好良くて、そんな私の知らないお母さんの姿に、思わず私は自分の身体と見比べてしまいました。

写真のお母さんは、髪を短く切り揃えていて、男の子のように凛々しい顔つきをしていましたし、スラリとした身体つきに、女の子の中でもちょっと高めの身長が、運動好きの女の子って言った雰囲気を漂わせていました。

お母さんは中学、高校時代とバレー部のエースとして活躍していたのです。


そんなお母さんに比べて私の運動音痴だし、頬っぺたはポッテリとした丸っこいホッペをしていて、余り可愛い顔をしているとは思えないし、背丈だってそんなに高くなければ身体つきだってメリハリがありません。

なんだか、私、本当にお母さんの子供なのかなと写真を見ながら心配してしまいました。すると、お母さんは、

「お父さんのお母さんに似たかも」

と言って、心配する私の事を笑っていました。お母さんの言う様に、私のお祖母ちゃんは背がい低いです。

なんでも、これを難しい言葉で、『隔世遺伝』と言うみたいですが、もし、私がそうなら、私が結婚して、私のお腹から生まれてくる赤ちゃんは、将来、お母さんみたいに背が高くてスタイルのいい子に育つはずです。

私はそんな事を考えながら自分のお腹を擦っていると、私の思っている事が判ったのか、

「ハルちゃんにはまだまだ先の話ですよ」

お母さんは私の頭を撫でてくれました。私は将来産まれてくる自分の子供の姿を想像しながら、お母さんの写真を見ていたのでした。



■ 2-3 ■

それにしても、写真を見て思ったのですが、写真に写っている女の子は、皆、紺色のパンツの様なモノを穿いています。

(皆、こんな恰好をして恥ずかしくないのかな……。なんだか、こんな変な格好をさせられて、可哀想……)

私は、パンツの様なモノを穿かされて、運動している女の子達の姿に同情するのと同時に、女の子たちが穿いているこの逆三角形をした着衣がブルマじゃないかと想像がつくと、春から私もこんな恰好をして体育の授業に出ないといけないかと思い、恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまいました。

「ブルマを穿いて恥ずかしくなかったの?」

きっと、お母さんもブルマを穿いて恥ずかしかったに違いありません。私はお母さんにブルマを穿いていた時の気持ちを訊いてみたら、

「そうね、ブルマを穿いていると男子達はジロジロとお尻や太ももを見てくるし、身体を動かしているとね、ブルマに皺が寄って下着が見える事もあるのよ。それを“ハミパン”なんて言うんだけど、ハミパンをしたり、男子達からは嫌らしい目で見られたりして本当に恥ずかしかったけど、でも、ブルマを穿いて運動している先輩たちの姿に憧れの眼差しで見ていた想い出があるの。

お母さんがバレー部に入ったのも、そんなブルマ姿で頑張る先輩の姿に憧れたからなのよ。だから、私も同性の後輩たちに憧れの眼差しで見られるように、部活や運動を頑張っていたの……」

お母さんは懐かしそうな目をしながら私に話してくれました。

今の私もブルマを恥ずかしく思う反面、お母さんが先輩のお姉さんたちに憧れを感じたように、私もブルマ姿で頑張っているお母さんの姿がキラキラと輝いて見えたのです。

(私も、お母さんみたいに格好良く見えるのかな……)

私は自分のブルマ姿を想像してみました。でも、想像の中の私のブルマ姿はやっぱり、格好良くはありませんでした。


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