投稿作品集 > 審議委員会の風景 p.03
このストーリーは、bbs にて、KRE 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は KRE 氏にあります。
秘書「すみません、部長。部長は良くしてくれただけなのに。営業部の人は成績や面子にはこだわるタイプが多いですから、部長が庇ってくれたことでムキになっているのだと思います。
部長が留守の間に私に懲罰をして、裸にして晒して見世物にしたいんですよ。『お前のところのPAをこんなにしてやったぞ』的な。子供っぽいんです」
部長「とにかく、もう懲罰は終わっているんだろ。君がそんな格好でいる必要はないよ。何か着るものを……」
秘書「だめなんです。秘書課からもPAの規定として、社内では所定の服以外は着てはだめだと。違反した場合には、また懲罰だと言われました」
部長「……だったら。この部屋の中ならいいだろう。君は私のPAだから、ここでは私の指示が絶対だ。今日は帰りまで部屋にいて、他の仕事はしなくていいから」
秘書「はい、ありがとうございます。しかし、今日は午後4時から来客が予定されています。ここにいても、お客様の接客には、この格好でよろしいでしょうか?」
部長「むう……」
秘書「あの……」
部長「うん?」
秘書「私、裸で接客するのは別に構いません。でも、その……」
部長「いや、構わないなんてことはないが。何だ?」
秘書「すみません。部長にご迷惑をかけてしまうのです。実は私……」
秘書はその場でくるりと回って背中を向ける。
部長「……ああ! なんて奴らだ。これは認められているのか?」
秘書のお尻は革ベラで何発も打たれて赤黒い痣になっている。その尻肉の上に極太の油性マジックで文字が書かれている。
左の尻たぶには『第三営業』と『LT専用』。
右の尻たぶには『ダメPA』と『反省中』。
秘書「……はい。私も抗議したんですが、認められていることになります。衣服制限と一種類の指導用具を用いた奉仕活動は、通常懲罰の規定を逸脱してはいません。油性ペンは文字を書くだけなら通常用途なので、指導用具とはカウントされないそうです」
部長「そうか……。そういう理屈か」
ぎゅっ。
部長は秘書を優しく抱きしめる。
秘書「部長……。私、頑張りましたよ。ちゃんと反省できました。もうミスなんてしません。でも、悔しいんです。こんな第三営業専用なんて書かれて。いろんなところを連れ回されて。
私……私は営業企画部のPAですから。だから接客の時にも、部長のPAですから。部長の手で、マジックで塗りつぶしてもらえないでしょうか。お客様に裸を見られるのは構いません。でも、違う部署の名前を付けて、部長の仕事をするのは嫌なんです。
部長のために頑張りますから。もっと頑張りますから。だから、だから……」
部長「……」
秘書「……だめ、ですか?」
部長「いや、だめではない。文字は私が消そう。それから……」
秘書「……」
部長「それから、そうだ。君に懲罰を命じる!」
秘書「……?」
○ 本社・営業本部 営業企画部・部長室(10月 5日 15時00分)
ソファの上に秘書が俯せになっている。そのお尻はマジックで真っ黒に塗られている。
ドアを開けて部長が入ってくる。部長は手に持った懲罰処分命令書を秘書に見せる。期間は10日間と記されている。
部長「俺からの罰は重懲罰だからな。懲罰棟を使用できるということは、研修着の着用も命令できるわけだ」
秘書「研修着……」
部長「ああ、今日はきちんと全部着てもらうぞ。いつものビキニだけでなくて上着もスカートもだ。厳罰だからな」
秘書「あ……っ。あ、ありがとうございます。ありがとうございます。部長!」
部長「さ、早く着なさい」
○ 本社・営業本部 営業企画部・部長室(10月 5日 19時10分)
秘書(うふふ。居心地いいなあ。部長の腕の中……。部長はとても優しい。私のお尻が痛くないように、さっきからずっとお姫様だっこしてくれている)
秘書「……これで三営での懲罰の報告は全部です。詳細まですべてお話ししました」
部長「よく……頑張ったな。では、これで今日の分の懲罰は終わりだ」
秘書(えー、もう終わりか。ここ気持ちいいのに。たまにはこうして部長に甘えてみたい。だめかな。だめでもいいや。よし、言ってみよう)
秘書「……部長。ひとつおねだりをしてもいいですか」
部長「いいよ」
秘書「わあ、ありがとうございます。では、このお尻の反省文字がすべて消えたら、どこか遊びに連れて行ってください」
部長「ああ、たまにはそういうのもいいな。……温泉なんてどうだろうか」
秘書「素敵ですね……!」
秘書(やった! 部長とデートだあ! 温泉に行ったらもっとご奉仕しますよ、私。あれれ、なんか部長の顔が近づいてくるような気がする。気のせいじゃない……かも。本当に、もう息が届きそうなほど。これって……)
部長「ひとつ君に話しておくことがある」
秘書(ガクッ。ちょっと、どうしてここまで接近して真顔になるのよ。せっかくいい雰囲気だったのに、もう!)
秘書「はい。なんでしょうか」
秘書(この期に及んで仕事だったら、温泉でのご奉仕レベル。ちょっと割引ですよ)
部長「管理者研修で言われたんだが、次の異動で昇格することになった」
秘書「えっ……。お、おめでとう……ございます」
秘書(昇格。すごい。部長やりましたね。次は支店長、それとも支社の本部長とかかしら。あ、あれ。私、うれしいのに。喜んでいるはずなのに、どうして。これ……涙!?)
部長「おいおい、泣くことはないだろう」
秘書「はい。だって……くずっ、う、うれしく……」
秘書(うれしくなんてない! 嫌だ。なんで、どうして。部長のままでいいのに。PAは職能に応じてだいたい担当するクラスが決まっている。昇格すれば部長は本部長クラスになる。おそらく私ではもう力不足だ。少なくともいまの私では……。
それにほとんどの場合、異動の時にはPAも合わせて異動になる。部長ともお別れ。せっかくいい雰囲気だったのに。守ってくれたのに。私、私……、部長のこと好きなのに!!)
部長「……」
秘書「……私だって、うれしくて……」
部長「……新しいPAには、君を指名しようと思っている」
秘書「……え。…………そんなこと……」
部長「知らないかもしれないが、私たちの側にもPAを選択する権利はあるんだよ。ただ、希望が必ず通るとは限らない。例えば、他の人と重複したりすれば、秘書課が検討する。もっとも、君の場合には他から指名があるとは思えないけどね」
秘書(はあ? ええ? なに? どういうこと?? 部長、いっぺんにいろいろ言い過ぎ。部長は昇格して、私はうれしくなかったんだけど、PAは続けられてうれしくて。でも、PAとしては難ありっていうことで……)
秘書「失礼ですが、どういう意味でしょうか?」
部長「大事な会議でことごとくドジをするようなPAを、他の要職の者たちが指名するとは思えない……」
秘書「ひっどーい!!」
秘書(なんで、そういう言い方するかな。あれこれ含めてムード台無し!)
秘書「わかんないですよ。意外と人気あるかもしれないじゃないですか。案外、第三営業部あたりが、ただ私の身体目当てで指名するかもしれませんね。毎日、お仕置きしながら働かせるためにっ!」
秘書(事実だけど、本当のことを言われると悔しい。絶対に見返してやるわ。私、ホントに頑張る。もうミスなんてしない!!)
部長「はは。そういう時の対策も考えてある」
秘書「左様でございますか。参考までに、どういう対策かお聞かせ願えますか?」
部長「ま、それは温泉にでも浸かりながら話してあげるよ……」
秘書(ずるい。さっきまで真顔だったのに、またそんな目で私を見て。あ、でも。部長の瞳の中に映っている私は、なんかうれしそう。幸せに見えるな……って、部長!? ちょっと、近い。近いですよ……あっ。
部長の唇……優しい味。噛んじゃ……だめですって……)
秘書「……これも……懲罰、でしょうか?」
部長「いや。なんだ……。そこで、ですから、これは愛情です」
○ 本社・経営戦略本部・取締役室(10月15日 9時15分)
取締役がデスクに座って新聞朝刊に目を通している。その横でPAがデスク回りの清掃と整理を行っている。
取締役「そうか……。あの温泉、つぶれてしまったのか」
取締役(異様な景気に沸き返っていた時代だったからな。上ぶれたままの経営を修正できなかったのだろうか)
秘書「どうされましたか。温泉、行かれる予定だったのですか?」
取締役「いいや、予定はなかったんだが、行っておけば良かったかなと。ああ、そうだ。ひとつ、やってほしいことがある」
秘書「はい。何でしょうか」
取締役「再来週くらいでいいのだが、君たちPAの間で評判が良いようなレストランか、ああ、温泉でもいいんだが、いくつかピックアップして欲しいんだ」
秘書「はい。あの……奥様とご一緒、ということですよね?」
取締役「ああ。そうだが、鋭いな。なんでわかるんだ」
秘書「私、取締役のPAになってもう二年ですよ。この先三ヶ月以内のスケジュールはすべて頭に入っています。二週間先で女性が選ぶような場所で行う打ち合わせや接待など該当するものがございませんし、もうすぐご結婚記念日ではありませんか」
取締役「君は本当に優秀だね。すごいな」
秘書「鍛えられましたから」
秘書「ちなみに。取締役の奥様に、ですよ」
取締役「家内に?」
秘書「はい。おや、取締役はご存じではありませんか。私たちの管理チームリーダーは奥様でいらっしゃいますよ」
取締役「ああ、そうなの。それはさぞ大変でしょう。迷惑をかけてすまないね」
秘書「とんでもございません。素晴らしい方ですよ。重要な局面では必ず何かひとつ大切なものを、私たちを信頼して任せてくれるんです。社長表彰式でも段取りにわざと穴を開けておかれるんですよ。並の胆力でできることではありません。
チームの誰かに必ず気づかせてフォローさせる。そんな指導方針にはチームの誰もが感謝しています」
取締役「……わざと、ね」
秘書「取締役も、少しは奥様のご指導を受けてください」
取締役「なぜだい?」
秘書「忘れ物、よくなさるじゃないですか!」
取締役「ああ。あれは家内がだな……」
秘書「奥様のせいになさらないでください!!」
取締役(うぐ。怒られてしまった……。私が忘れているのではなく、家内が忘れたものを私がよく貸し出しているからなのだが、まあ、いいか。そんなことは)
秘書は埃を払っていた写真立てをデスクに戻す。写真には取締役と並んで、やや恰幅の良いおばさんが写っている。
取締役(君を指名してから15年か。あの時は予想通りあっさり指名が認められたから、すっかり杞憂に終わってしまった私の『対策』だが、その効果だけは今も続いているな。
少なくともこの『対策』に関しては、君はひとつもミスをしていない。心からお礼を言わせてもらうよ。
ありがとう、私だけの完璧なPAさん)
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