投稿作品集 > 秋月さんの寒中水泳

このストーリーは、bbs にて、のりぞう 氏より投稿していただいた作品です。 この作品の著作権は のりぞう 氏にあります。



コンクリートブロックで四方を固められた更衣室の中はとても冷たくて、制服を脱ぐのに一苦労。

断熱や暖房設備など全くない更衣室の中にあるのは、灰色の壁と銀色のロッカー、それに水色のベンチだけで、そんな更衣室の無機質さが余計に寒々しく感じます。

(話題作りは解からないでもないけれど、わざわざ寒空の下でプールに入らなくてもいいのに……)

今、私と一緒に更衣室の中で水着に着替えているチアバトン部の仲間達は、一様に私と同じことを感じている事ぐらいは皆の表情を見れば良く解かります。

寒中水泳大会とは、毎年三学期の始業式が終わった後、学校の代表としてチアバトン部のメンバーが全校生徒の一年の健康と学校の発展を願って寒空の下でプールに飛び込む行事の事で、今から五年前から行われるようになりました。

寒中水泳大会を始めるきっかけとなったのは、年々生徒数の減りつつある我が校において、話題作りの一環として行われるようになったのが始まりだとか。


以来、スクール水着姿の女子高生達が寒さに震えながら冷たい水の中に飛び込む行事とあってか、寒中水泳大会が行われるようになった翌年から地元のニュースや新聞記事を飾る様になったのです。

歴代チアバトン部員の涙ぐましい努力の甲斐もあり、酷い目に遭うチアバトン部員の姿を見たさに男子生徒の数は増えたようですが、女子生徒の数は軒並み下がり続けているそうです。

当然と言えば当然の結果かもしれません。

話題作りと生徒数の増加と言う点では一定の成果を上げていますが、女子の進学率が下がって共学校から実質の男子校に変わる日もそう遠くないような気がするのですが……。

その時は、競パン姿の男子生徒をプールの中に飛び込ませれば今とは逆に女子生徒の数が増えるかもしれませんが、こんな事は今の私が心配する事ではありません。

今、私が心配しないといけない事は、目前に控えている寒中水泳大会の事だけです。いくら話題作りの為とは言え、学校の都合の為に振り回される私達の身にもなってもらいたいと私は思うのです。


無機質で冷たい更衣室の中で「キャーキャー」と悲鳴を上げながら制服と下着を脱ぐと、両脚に水着を通して胸の辺りまで水着を引っ張り上げて、最後は腕を肩紐に通して着替えは終わり。

更衣室の扉を開けるまでにお尻のお肉を水着の中に入れてイザ、出陣!!

勢いよく更衣室の扉を開けると、肌を切るような冷気が私達の身体を襲います。

「さむ~い」
「冷たいよ」
「お願い、ドアを閉めて」

外気の冷たさに戦意は喪失。その場で飛び跳ねる子も居れば必死になって両腕を擦りだす子、身体を丸める子も居れば仲良し同士で肌を寄せ合ったり抱き合ったりして寒さをしのいでいる子も居ます。

寒さに耐える仕草は三者三様だけど、一つだけ共通して言える事は、どの子の引きつった笑顔に目尻にも涙がたまっている事です。

「やっぱり、真冬にプールで泳ぐなんて間違っているって」
「先生に言って、止めさせてもらおうよ」

寒中水泳なんて誰だってやりたくないに決まっているが、だからと言って、「はい、そうですか」と寒中水泳大会が中止になる筈もなく、「何、甘えているのですか」と先生から叱られるのが関の山。


何せ、プールサイドには応援に駆け付けてくれている生徒に混じって地元のテレビ局や新聞社が取材に訪れている以上、今更「生徒達が嫌がっているから寒中水泳大会は中止です」なんて口が裂けても言えるはずもなく、逆に中止するどころか「気合を見せろ」とか言われて、取材に来た記者たちを喜ばせる様な事をさせられるのが目に見ています。

たとえば、プールに入った後に濡れた身体のままで運動場を走らされたり、構えるカメラに向かって恥ずかしい振り付けのチアダンスを踊らされたり……。

そんな事をさせられるぐらいなら、大人しく冷水を湛えるプールの中に飛び込んだ方がマシと言う物だ。

私達は自分自身を鼓舞したり仲間同士で励まし合ったりしながら更衣室を出ると、寒さに震えながらプールサイドに整列したのでした。

プールサイドに出ると、待ち構えていたカメラのレンズが私達に向けられました。レンズの向こうには、スクール水着姿の私達が映像となって映し出されているはずです。

私達の水着姿がテレビや新聞に出て皆の目に触れると思うと、何だか気恥しい。恥ずかしさの余りに身体中を巡る血液の流れが早くなって、頬や腕や太もも、それに背中と言った水着から露出した肌が紅潮しはじめたのが解かります。

そんな、軽い興奮状態に陥っている私達の身体に冷たい風と足の裏から伝わる冷気が一緒になって襲ってくると、寒さに耐えながら水着一枚でカメラを前に立たされている不安げな自分自身の姿に更なる興奮を覚えてしまい、アソコが少しだけ疼き出しました。


「キミ、寒いの? さっきから太ももを擦り合せている様だけど……」

ひとりのカメラマンから無意識の仕草を指摘された私。寒さと恥ずかしさで軽い興奮を覚えた私は無意識のうちにアソコを擦り合せていたのです。

ハシタナイ乙女の反応をカメラマンに指摘された私は頬を真っ赤に染めて苦笑いをするしかありませんでした。

「先生、これには深い事情と言う物がありまして……」

運が悪いと言うのか間が悪いと言うのか、太ももを擦り合せていたのをカメラマンに指摘されたところを先生に見られた私は怒られてしまいました。

「寒空の下で水着姿にさせる方が悪いじゃないですか」

私は声を大にして言いたかったけれど、当然ながらそのような反抗的な態度がとれるはずもなく、大勢の生徒と記者さん達が見ている前でうな垂れながら叱られるしかなかったのです。

「秋月さん、そんなに恥ずかしい姿を見られたいのなら後でとっておきの罰を受けてもらいます」

先生の一言で私の背筋は寒さとは別の寒気が走りました。先生の一言で思わず身震いした私の姿を見つめている先生の目つきを忘れる事は出来ませんでした。


まるで小学生がする様に、大きな声で号令を掛けあいながら入念な準備体操をさせられました。

入念な準備体操を終えるといよいよその時です。親指の先をプールの水につけただけでも飛び上るぐらいの冷たさの中を泳ぐにはそれ相応の覚悟が要ります。

暖かそうなジャージ姿に身を包み腕組みをして仁王立ちしている先生と、プールサイドに腰を下ろして揺らぐ水面を見つめているだけの水着姿の私達。

「早くプールの中に飛び込みなさい。何を寒がっているのですか、貴女達は若いのよ。溢れる若さを見せつけなさい」

覚悟を決めかねている私達を睨みつける先生は少し苛立ち気味。

(え~い、もうどうにでもなれ!!)

覚悟を決めた私達は一斉にプールの中に飛び込みました。私達が水飛沫を上げながらプールの中に飛び込むと、プールサイドから歓声が上がります。

思い切ってプールの中に飛び込んだ瞬間は何も感じませんでしたが、一拍の間を置いて鋭利な冷気が薄い水着を突き刺して身体全体を襲ってきます。

全身を冷水に浸かった私達は、恥も外聞もかなぐり捨てて、見っとも無いまでの悲鳴を上げ続けました。


時間に直せば10分ぐらいでしょうか?

先生からの許しを得られた私達はプールサイドに上がろうとしましたが、冷え切った身体が言う事を聞かず、プールの中から思うように上がる事が出来ません。

先生やプールサイドで見学していた生徒達に引っ張り上げられながらやっとの思いでプールサイドに上がると、私達は大の字になって冷たいコンクリートの上に倒れ込みました。

いくらコンクリートが冷たいからと言って、水の中よりかは暖かいですが、寒風が濡れた身体を冷やしてしまい、ガタガタと震えるしかありません。

そんな私達を不憫に思ったのか、見学していた生徒達が私達の身体にタオルを掛けてくれました。

プールサイドの上で寒さに凍える私達の身体にタオルが掛けられるとやっとの思いで一息つけましたがそれもつかの間の事で、体育座りでタオルに包んで震える私のもとに先生が来ると「さっき言った罰を受けてもらいます」と一言。

そう、冷たいプールの中で忘れていたのです。先生が話していた罰の事を……。


タオルで軽く水気を取ったと言うものの、濡れた身体に風が当たると皮膚の上に薄い氷が張ったように肌が固くなりました。

カメラの前で腕を腰の後ろに組んで軽く脚を開いて股間を見せつける様に腰を前に突き出した私。

「どうだ、カメラに股間を見られている感想は。明日の紙面はお前の股間で埋め尽くされている事だろうな……」

先生の言葉で私の身体が火がついたように熱くなりました。一生懸命股間を突き出している私の姿を容赦なくカメラが襲います。

カメラに撮られている。私の恥ずかしい姿をテレビや新聞で紹介されてしまう……。きっと、私はエッチな女の子として顔を知られてしまう。

もう、二度と町の中を歩く事が出来ません……。私は泣きたい気持ちを押し殺して腰を突き出した姿のまま、カメラの前で寒風の中を立たされ続けたのでした。

(終わり)


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