回帰 > 学校の中の新入部員たち
■ 47 ■
学校へ着くと、顧問の前に五人は整列した。顧問は五人の顔を見渡すと、その視線を下に向けた。舐めまわすように膨らみを持ったスカートを見ているように藤岡は感じた。
「では、測定を始めましょうか」
顧問は言うと、「測定は一人ずつですが、不公平にならないように、この場でおむつを脱いで」と続けた。
「もう一度言いますが、一番量が少なかった人は、追加の練習をしてきてもらいますからね」
改めて顧問が言う。この『度胸付け』と称された電車お漏らしは、部員同士の戦いでもあった。量というのは、この場合、重さのことで、顧問がバネばかりを用いて行う。わざわざ理科室から拝借してきたらしい。
以前は、1年生の部員同士ではかっていたのだが、不正をする者が現れたので、現在のスタイルになった。
一斉におむつ脱ぐのも、不正対策の一つらしい。ほかの人がはかっている間に、追加のお漏らしが出来てしまうと言うのだ。そんなことをする人はいないのではないか、と藤岡は思った。
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腰骨のテープを外しておむつを脱ぐ。ずっしりとした重みを感じ、少しだけ恥ずかしさを覚える。
たまたま列の端にいた畑中が最初に顧問の前に進み出た。
畑中が顧問におむつを手渡す。手渡そうとしたが、受け取らない顧問。
「おねがいします……」
藤岡は、畑中が言ったような気がした。顧問は聞こえないふりをしている。
「測定……おねがいします」
言い直す。幾度目かの言い直しで得られた正解を、部屋中に響き渡るような大声で、畑中は叫んだ。
「中1部員、畑中! おしっこチェック、おねがいしまぁす!」
これも『度胸付け』の一環なのである。
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おむつを受け取った顧問は、それを鼻先に近づけた。これも不正対策の一つで、以前、水を含ませてズルをした部員がいたらしいのだ。
「うん。本物だね」
顧問が言う。畑中の耳が赤くなったことに、藤岡は気が付いた。バネばかりで測定すると、用紙にメモを取る。
「中1部員、藤岡! おしっこチェック、おねがいしまぁす!」
さすがの藤岡も恥ずかしさを覚えたが、それを表に見せることの方が自分を追い詰めることを、経験上分かっていたので、あえて堂々とした風を装った。
藤岡はまだ気が付いていないが、こういったことを顧問は良く思っていない。ほとんどが未経験の状態で演劇部に入ってくる中、子役経験がある藤岡はそれなりに出来てしまうのだ。
決して売れっ子子役ではなかったとは言え、レッスンにも通っていたし、人前で演技をした経験もある。それなりに出来てしまう藤岡は鼻につく存在だった。
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「本物のようではあるけど、あなたのもの?」
「え?」
「この臭いは、あなたのおしっこの臭い?」
顧問は藤岡の前に立つと、続けた。
「スカートをまくって」
言いながら、しゃがみ込んだ顧問は、藤岡のワレメに鼻先を近づけた。おむつを嗅ぎ、ワレメを嗅ぐ。何度か交互に繰り返すと、ようやく測定に取り掛かった。
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五人の測定を終わらせた顧問はたっぷりと間を取ってから言う。
「もう結果は出ています。しかし、ここで逆転のチャンスを上げましょう」
重さをメモした用紙をヒラヒラとさせる顧問。藤岡たちは顔を見合わせる。
「ほら、よくあるでしょう。テレビ番組なんかでも。最後の一発逆転チャンスみたいなのが。そうですよね? 藤岡さん。あなた詳しいでしょう」
「あぁ……。えぇ……はい。その方が番組が盛り上がるので……」
「ね。いまから15分だけ時間をあげます。追加したい方は、どうぞ。もちろん、不正はダメですよ。無用な疑いを掛けられないように、追加したい場合は、この場でどうぞ」
藤岡は下腹部をさする。出るような気配はない。どうしよう。自分はいま何位だろう。頑張って追加すべきだろうか。でもこの場で?
思いは皆同じようだった。最下位になれば追加の度胸付け。内容はすでに伝えられている。あんなことが出来る訳ない。顧問だって本当にはやらせないのではないか。でも目の前の顧問ならやりかねない。
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最初に動いたのは畑中だった。藤岡の視界の端にいた畑中の影がストンと落ちた。そちらを見ると、畑中がしゃがみ込んでいる。両足の間、股の下の部分に紙おむつを敷いていた。
呼応するようにほかの部員もしゃがみ込んだ。藤岡もつられてしゃがむ。ずっしりとした重みを感じる使い古しの紙おむつを股にあてがうように床に敷いた。
とは言え、先ほどしたばかりである。出て欲しいからと言って出せるものでもない。力を入れて、力を抜く。変化はない。気配はない。
なるほど、と藤岡は思う。隣の部員が股に手を伸ばしていたのを見たからだ。
真似してワレメを指先で触れてみる。すりすり。ぷにぷに。変化はない。気配はない。スイッチではないのだ。押したからといってすぐに出てくるというものでもあるまい。
左右を見渡すとみんな手をワレメに当てている。顔を上げて顧問を見ると、薄笑いを浮かべる顧問の顔に気が付いた。
ゾッとした藤岡は意図せず指をワレメの中に埋めてしまった。しかし、幸か不幸かそれが刺激となって、チョロチョロとワレメの中から滴が飛び出してきた。
どれほどの効果があるのかは分からない。一滴、二滴でも無駄にしないように、紙おむつの上に振り落した。
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恐らく自覚があったのだろう。だからこその畑中の行動だったのだ。その甲斐もなく、畑中の最下位が発表された。
藤岡は胸をなでおろした。直後、胸をなでおろした自分が嫌になった。畑中を見ると、足をわなわなと震わせていた。
「さて。畑中さんには予告していた通り、追加メニューに臨んでもらいます」
予告されていた追加の度胸付け。それは、「素っ裸で△△線を一周してくる」というものだった。さすがに無いはずだ。途中で止めるに決まっている。しかし、この顧問ならばはたして……。
顧問はそれ以上口を開かなかったが、畑中がすべき行動は決まっている。無言でそれを待っている。
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畑中はセーラー服のスカーフを外すと、脇腹のファスナーを上げる。上着を脱ぎ捨てると、続けてブラウスも首から外す。小柄な畑中の透き通るような肌に藤岡の目が釘づけになる。
意外にも、と言うのか薄々気が付いてはいたが、畑中の胸はかなりのボリュームを蓄えていた。いまだにスポーツブラを着けている藤岡に対して、大きな胸を包み込むようなブラジャー姿の畑中。
そのブラジャーには、今にもはみ出さんばかりの胸が窮屈そうに収められている。
背中に手をまわし、器用にホックを外す。畑中は左手で胸を押さえながら、右手でブラジャーを腕から抜いていった。
小さな背中がブルブルと小刻みに震えている。人前で服を脱ぐこと。この行為がどれほどのものなのか、経験のある藤岡には痛いほど分かった。
だからこそ申し訳なく思うし、なにも出来ない自分が情けなかった。そしてそれは、罪悪感に変わった。
畑中が助けを求めるように藤岡を見た。藤岡は確かに気が付いた。中学に入って最初に出来た友人が助けを求めている。震える唇が何かを言おうとしている。
しかし……。藤岡は目をそらした。胸の奥が苦しくなった。
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すとんっ。
物音に気が付いて視線を戻すと、畑中の足元にスカートが丸まっている。腰骨のホックが外されたスカートは、ただ重力に従っただけだった。
かわいい。藤岡は素直にそう思った。透き通るようなきれいな肌、小さな体とは不釣り合いな胸のボリューム、小さな体の似合った丸みを帯びたぷっくりとしたお尻。
子役時代に何度もワレメを晒してきた藤岡は、同時に何人もの裸を見てきた。いま目の前にある畑中の裸体は、そのどれよりも愛らしく思えた。
左手で大きな胸を隠し、右手を下半身に添える。やや内股気味に、背中を丸めて身を縮める畑中は、とうとう堪え切れなかった。
「いや~ぁ……」
その場でしゃがんで、お尻を床につけると、大切なものを守るように体を丸めた。
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「ごめんなさい。できません……」
やっとの思いで口にする。何も言わない顧問。なにかを言わなければ。藤岡は唾を飲み込もうとすると、口の中が異様なほど乾いていることに気が付いた。
「もう、これで……」
藤岡が発した。
「もう、これで充分では……」
「充分? いいですか? これは練習ですよ。勘違いしないように。罰でやらせている訳ではないですからね。いま畑中さんが言った『できません』という言葉、これこそがまだ練習が必要だという証拠です。度胸が足りないんです。違いますか?」
「でも……」
藤岡は言うと、縮こまった畑中に覆いかぶさるように抱きついた。ほかの三人も集まる。