回帰 > バラエティ番組の子役たち

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バラエティ番組と言ってもジャンルは様々ある。現在主流になっているのはトーク番組であるが、この手の番組に子役が呼ばれることはほぼない。

あるとすれば、超が付くほどの売れっ子子役が映画やドラマの番宣でほかの共演者と共に顔を見せる程度で、藤岡のようにその他大勢に分類されるような子役には縁のない話である。

それでも藤岡はいくつかのバラエティ番組に出演していた。代表的なものがドッキリ企画である。

一つはダマされる側で、水に溶ける加工の施された水着を着て、それと知らずにプールで泳ぐ。プールから出るとあら不思議、素っ裸になって「大成功~」となる。

藤岡はこれに幼稚園の時に出演した。そのときは男女合わせて10人ほどがプールで遊ぶ役をやった。まだ幼いこともあってかそれほど恥ずかしいという思いはなかったが、後日OAを見たときには自分のワレメがはっきりと映っていたことを覚えている。


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もう一つは仕掛け人側である。当時、流行りの一発ギャグで一世を風靡していたお笑い芸人が混浴温泉レポートをするというニセ企画で、混浴と聞いてウキウキ状態のその芸人が浴場に入ってくると、素っ裸の幼い女の子が出迎えるという企画である。

「おいおいおい」と大げさに残念そうなリアクションをとる芸人と、「混浴って嘘じゃないでしょ」というスタジオ司会者のやり取りがあって「大成功~」で締めくくられる。

少しだけ我慢して裸を見せているのに何でガッカリされなくてはいけないのだ、とわずかな疑問を藤岡は感じていたが、大きなお風呂に入れたことと、人気の芸人に会えたのは事実で、その嬉しさの方が上回っていたので気にしないことにしていた。

ちなみにその芸人は現在では一発屋芸人として認知されている。

どちらの企画も定番のドッキリとして番組のたびに行われていた。言わば手垢のついたもので目新しさはない。これはドッキリとしては致命的である。

しかし、そのドッキリは恒例化していた。その理由はやはり、ワレメが視聴率を持っているとしか考えられなかった。


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どちらのドッキリ企画にも当然オーディションがあった。オーディションはテレビ局の大部屋で行われ、そこに50人を超えるほどの、ときには100人近くのスターを夢見る子役たちが集められた。

審査内容は実に簡潔だった。

「では、オーディションを始めます。いまからお洋服を全部脱いでスッポンポンになって下さい」

突然現れたスタッフとおぼしき担当者が声を上げる。挨拶や自己紹介、番組説明もなければ、趣旨説明もない。藤岡たち子役側も自己紹介や自己アピールを練習してきているが、それを披露する場もない。

番組スタッフにとって大事なことは、本番のときにすぐに裸になってくれるかどうかである。その場でグズられたり、泣かれたりされれば、撮影の邪魔となる。

大切なことは誰が脱ぐかではなく、少女のワレメや少年のモノをいかにスムーズにカメラに収めるかなのである。


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藤岡にはクイズ番組の出演経験もあった。もちろん回答者としてではない。出題VTRの中での出演だ。単純に言えば、誰が一番多く服を着ることが出来るのかという問題で、藤岡がその中の一人だった。

藤岡たち子役は素っ裸の状態でコースにつく。スタート地点から10メートルほど走ると、そこにブランド物の服が山積みにされていて、待ち構える母親に次から次へと着せられるのである。一番多い枚数を着た人が優勝である。

一位になれば着ることのできたブランド服をすべて貰えるので母親たちは必死になる。競技性が高まってクイズとして成立するという寸法だった。

山積みの服の中にはブランド物の下着もあるので、藤岡たち子役は素っ裸なのである。もっとも、実際にはどんどん重ね着する訳だし、全員共通でパンツ一枚くらい穿いていてもクイズとしては成立するはずで、そこにはワレメをカメラに収めるという魂胆があるのは明らかだった。


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それは、答え合わせのときにまるで運動会の玉入れのように、「一枚~」「二枚~」と数えながら再び藤岡ら子役たちがブランド服を脱がされていく様子を見ても明らかだった。

特に、優勝者以外の子役は悲惨である。なにしろ、ほかの子のカウントが終わるまでの間、素っ裸のまま終わるのを待たなければいけなかったからだ。その間、随時誰かのワレメがワイプで抜かれていたことは言うまでもない。

それはまるで、敗者に与えられる罰ゲームのような効果を与えていた。

実を言うと、このとき藤岡の母親として競争に参加した女性は本当の母親ではなく、子役事務所のスタッフだった。本当の母親が出演を渋ったからである。しかし、この程度の調整は当時のテレビではよくあることだった。

ちなみに、その回の回答者側の出演者には当時の有名人気子役たちがチームを組んで出演していた。素っ裸になりワレメを晒す自分と、それをスタジオで見ながら笑う人気子役。後日OAを見た藤岡は自分の惨めさを感じざるを得なかった。


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藤岡が子役をしていることは通っていた小学校の中でも話題となっていた。最初は身の回りのごく少数だけの話であったが、その輪は徐々に大きくなり、クラス中に、学年中にと広がっていった。

そして、テレビ番組でワレメを晒したことは学校中に知れ渡っていた。

男子たちは藤岡を正面からからかった。女子たちは表面上は同情しながらも、影では何を言っているか分からない。テレビ局の大人が信じられなくなり、周囲の友人も信じられなくなり。

それでも、子役として仕事をしているときは、なぜかそれ没頭できたし、楽しくもあった。しかし、それも限界に近づいていた。

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