嗚呼 青春のトロンボーン > 番外編 小窓からの風景 p.01

「おっ! 今日もやってるねー。好きだなー、お前も。じゃあ、イイモン見られそうだったら、教えてくれよ」

そう言って先輩が部屋から出ていく。俺は、コンピュータルームの隣の準備室の小窓から、文化棟の屋上を眺めていた。

文化棟の屋上では吹奏楽部の面々が練習をしている。うちの学校の吹奏楽部は、そこそこの成績を収めているらしく、学校内でもある種の地位を与えられている。吹奏楽部として三年間過ごせば、そこそこの進学先は確保されているらしい。

しかし、吹奏楽部の練習は厳しいことで有名だ。

ほかの部は掛け持ちする人が多く、どちらかと言えば、レク的な意味合いが強いのに対して、吹奏楽だけは本気で全国大会を目指していて、そこで賞を取ることが目標らしい。そのために、日々努力しているというわけだ。

一方、俺が所属している漫画研究会兼パソコン倶楽部はといえば、もっぱら雑談が日課だ。特にやることもなく、なんとなく集まって、なんとなく解散する。先輩後輩の上下関係なんてあるわけない。


実は、うちの部が活動している、というよりは、たむろしているコンピュータルームから、隣の建物の文化棟の屋上を眺めることができる。

つい先日、コンピュータルームから撮った吹奏楽部の練習風景の写真が、ある画像投稿サイトにアップされ、大問題となった。その写真を撮ったのは俺だったが、投稿したのは俺ではない。

もちろん、先生にはかなり怒られた。コンピュータルームの窓には黒色のフィルムが貼られ、その場所から文化棟の屋上を眺めることはできなくなった。

しかし、コンピュータルームの隣の準備室は死守した。ここは俺の指定席だ。コンピュータルームから眺めるよりもやや角度は悪くなるが、一人でのんびりできるので、俺は気に入っている。

画像投稿の一件以来、吹奏楽部の方も警戒しているらしく、屋上で練習をするにしても、こちらからなるべく死角になるような場所で練習するようになってしまった。



(今日も、イイモンは見られそうにないかな……)

俺は準備室の小窓から文化棟の屋上を眺めながら、数ヶ月前の衝撃的な光景を思い出していた。

その日俺は、文化棟三階にある小ホールの音響室に潜り込んでいた。コンピュータルームからの眺めに飽き、新たな刺激を求めていたのだ。

その日は、吹奏楽部の当時の3年生の卒業記念として、小ホールで演奏会が開かれていた。俺はその様子を覗いていたというわけだ。

それが起こったのは、演奏会が終わってしばらくしてからだった。


舞台の中央で誰かが正座をしている。そして、その周りを当時の3年生、つまり卒業生が取り囲んでいた。俺は気になって音響室の小窓を少しだけ開け、声を聞こうとした。

すべては聞こえなかったが、時おり聞こえる怒鳴り声から察すると、どうやら演奏会で失敗があったらしく、それを咎められているようだった。正座をしているのが、2年生の部長だということも分かった。

(厳しいんだな……。うちの部じゃ考えられないな……)

しばらくすると、正座から解放され、取り囲んでいた3年生は小ホールから出ていった。その直後、周りで不安そうな表情で見ていた1年生部員が、一斉に部長に駆け寄る。すると、全員が頭を下げて、謝っているようだった。

(失敗したのは、1年生だったのかな……)


「1年は舞台の上に並べ!」

突然の大きな声に驚く。音響室にいる俺のところまではっきりと聞こえるほどの大声だ。

その声を発したのは、先ほどまで正座を強いられていた2年生部長。部長の声で、1年生が大急ぎで舞台上に整列する。70人近くいる1年生部員が、ズラッと舞台上に並んだ。

決められた整列順なのだろう。誰一人迷うことなく、瞬時に整列する。しかし背の順というわけではなさそうだ。

音響室から見ると、実にきれいな整列だった。ブルマ姿の1年生部員がビシッと並んでいる。なぜそのような印象を受けたのかといえば、ブルマが左下から右上に、斜めのラインを作っていたからだろう。

背の順ではない。足の長さの順とでもいうのだろうか。おへその上、限界まで引っ張り上げられた1年生部員のブルマが、見事な斜めのラインを引いていた。


しばらく部長のお説教らしきものが続く。それもそうだろう。1年生の失敗のせいで、自分が先輩から叱られたのだ。その間舞台上の1年生部員は、誰一人動くことなく、ジッと気をつけの姿勢を保っていた。

(いい眺めだな……。これだけでも、危険を犯して潜り込んだ甲斐があったわ……)

俺はその光景に満足していた。

しかし、ここからそんな俺の期待を遥に上回る展開をみせてくれた。

舞台上で気をつけのまま硬直したように動かなかった70人近くの1年生部員が、一斉に後ろを向いたかと思うと、これもまた一斉に腰を落として、空気椅子のような格好になった。


舞台の下で仁王立ちをしていた2年生部長が、棒のようなものを手に、舞台上に上がる。

そして、空気椅子状態の1年生部員のブルマに包まれたお尻を、端から順にその棒のようなもので叩きだした。

(うぁ……。きついな……。痛そう……。でも、いい眺めだな……)

特に、舞台中央よりやや左寄りにいた1年生部員の一人は、何回も容赦なく叩かれている。おそらく演奏中、重大な失敗をしてしまった部員なのだろう。

その1年生部員は、一人だけ叩かれ続け、しまいには、倒れこんでしまった。しかし、すぐに立ち上がると、2年生部長に頭を下げ、謝るような仕草をしてから、また空気椅子の姿勢になる。

2年生部長は、さらにその1年生部員のお尻を叩き続けた。


その後、2年生部長が舞台から降りると、さらに驚くべき展開が待っていた。

なんと、舞台上で整列させられていた1年生部員が、一斉に体操服を脱ぎだしたのだ。体操服だけではない。ブルマも、ブラも、そしてパンツさえも脱ぎ去り、なにも身につけない、素っ裸になったのだ。

70人近くの1年生部員が、全員素っ裸になり、舞台上に並ぶ。先ほどまでと同じように、気をつけをし、また2年生部長の話を聞いている。

俺は、下半身の変化を感じながらも、目の前の光景を脳裏に焼き付けることに集中する。

さらに事態は進んだ。

素っ裸の1年生部員が舞台上に仰向けに寝そべる。そして、腰から下を舞台から投げ出し、足上げ腹筋を始めたのだ。


少しだけ開けた音響室の小窓から、聞き覚えのある歌が聞こえてくる。応援歌だ。応援歌を歌いながら、素っ裸の1年生部員は足上げ腹筋をさせられていた。

その足は、高い音では高く上げられ、低い音では低く下げられた。応援歌のリズムに合わせ、70人分近くの足が上下動する。

俺は目を凝らして、すべてを見ようと努力した。

足が高く上げられる。70個近くの無防備なお尻が一斉にあらわになる。よく見るとお尻の穴まで丸見えだ。お尻の割れ目から、前のワレメに続くラインまではっきりと見える。それも一つではない。70個近くだ。

つらいのだろう。恥ずかしくもあるだろう。70個近くのお尻はキュッと引き締まり、太ももはプルプルと震えている。

すべてのお尻は、さっき叩かれた影響からか、ほんのり赤みを帯びている。しかし、その中の一つだけは、真っ赤に腫れ上がり、棒の痕が何本もついている。先ほど何度も繰り返し叩かれていた部員のお尻だ。


2年生部長は舞台の下で仁王立ちをし、腕組みをしてその光景を見ている。監視していると言った方が良いのかもしれない。

足が低く下げられる。舞台から投げ出された足は、舞台の高さより低く押し下げられ、まるで股間を突き出しているかのように、体を『へ』の字型に折り曲げる。

ピッチリと閉じられた、70本近くのワレメが一斉にこちらを向く。70人いれば70人分のワレメがある。顔や体格、髪型や性格が違うように、ワレメの様子もまた、人それぞれ違っていた。

応援歌のリズムに合わせ、上下動を繰り返す素っ裸の1年生部員の両足。

応援歌もクライマックスを向かえ、全員で叫ぶ部分だ。俺も歌ったことがあるが、この部分は力の限り叫んで、音を伸ばす部分だ。


その部分に差し掛かったとき、70組近くの両足が、一斉に左右に広げられた。つい先ほどまでピッチリと閉じられていたワレメは、くぱぁと開かれ、中が見えそうなほどガバっと広げられていた。

(うわぁ……)

俺は思わず声を出してしまいそうになるのをギリギリのところで抑えた。心臓はバクバクし、下半身はギンギンだった。

その後しばらく上下動が続き、応援歌が終わると、全員が立ち上がる。足をガクガクさせ、ひざに手を置き、なんとか立ち上がる。2年生部長が棒を振りかざすのが見えたからだろう。

全裸の1年生部員が再び舞台上に整列する。

何度見てもいい眺めだ。左下から右上に、斜めに高さが揃えられていたブルマは、今は取り払われている。しかし、今度は左下から右上に、70人近くのワレメがきれいに並んでいるのだ。


2年生部長は、その中の一人、先ほどから目をつけられているお尻を真っ赤にさせた1年生部員に再び近づく。そして、その1年生部員を列から外し、全員の前、舞台の中央まで引っ張り出す。

普通だったら、手を掴んだり、やや過激な人なら、首根っこを掴んだり、耳を掴んだり、髪の毛でも掴んで引っ張り出す場面だろう。しかし、この2年生部長は違った。

その1年生部員の、薄いピンク色の乳首をつまみ、それを引っ張って、全員の前、舞台の中央まで誘導する。連行と言った方が適切かもしれない。

乳首を引っ張られている1年生部員の顔が苦痛でゆがむ。ほかの1年生部員の顔も引きつっているのが分かった。

2年生部長は、お尻を真っ赤にしたその1年生部員に、トロンボーンを渡すと、小ホールにその音が響き始める。全裸演奏だ。

その1年生部員は、小ホールの舞台の中央で、全裸のほかの1年生部員をバックに、トロンボーンを吹く。同時に、後ろの1年生部員は、2年生部長の指示でスクワットを始める。

トロンボーンのリズムに合わせ、そのピッチが速くなれば速く、遅くなれば遅く、スクワットを繰り返す。

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