嗚呼 青春のトロンボーン > 1年生部員 保奈の場合 p.07

「そうだなー。じゃあ、全員に気合い入れてもらってこい。三人とも、全員からビンタもらってくる。それがクリアできたら、あんたたちのやる気と気合いを認めてやるよ。練習に付き合ってやる」

「全員? 全員って、200人以上……」

「そう。全員。1年も含めてね。200発以上ビンタ食らってこい。口だけじゃなくて、本当にやる気と気合いがあるなら、それくらい耐えられるでしょ」

「……はい」

それから三人は、200人以上いる部員全員からビンタをもらった。

1年生は、本当に形だけ。頬っぺたに手を当てる程度のビンタがほとんどだった。

2年生も半分以上は形だけのビンタ。しかし、もう半分は本気のビンタ。頬っぺたに手形が付き、赤く染まっていく。

3年生のビンタも本気。その中には、本当に気合いを入れてあげようとするビンタもあり、ただのストレスのはけ口のようなビンタもあり。

いじわるな先輩部員は、保奈たち三人がビンタをお願いしても、なかなか実行してくれず、何度も何度も頭を下げてお願いして、やっとビンタをしてくれる先輩もいた。

(ビンタなんて嫌……。嫌なのに、お願いするなんて……。私、なにしてんだろう……。でも、ちゃんとやらないと、また口だけって言われちゃうし……)


保奈たち三人は、200発以上のビンタを受け、頬っぺたを真っ赤にはらし、依子部長のもとに戻った。

「終わりました……。私たち本気です。一生懸命やります。だから、練習指導してください」

「まだ、終わってないでしょ」

「え? もう全員……」

「まだ、私の分が残ってるはず」

「あっ……。依子部長、ビンタお願いします」

「……嫌」

「ビンタお願いします。一生懸命やります。部長の言うことをよく聞いて、真剣に取り組みます。ビンタお願いします」


「言うことをよく聞くって、あんた反抗するじゃない。髪型は演奏に関係ないとか言って、みんなの前で私に反抗したのは誰だっけ? 叱られるからだとかじゃなく、自分のため、みんなのため、って気持ちでないと身にならないよ」

「すみません……。あのときは……。でも、今は違います。部長の言うことに従って練習します。させてください」

「そう。私の言うことに従うのね。じゃあ、今から下着一枚になって、グラウンド10周走ってきな。三人とも。戻ってきたらビンタしてやるよ」

「下着……」

「どうした? 言うこと聞くんだろ。早く脱いで、下着になりなよ。グラウンド10周」

三人は顔を見合わせ、決心したように、行動を始めた。

体操服を脱いで、ブルマを下げる。ブラとパンツ姿になる。そして、ブラを外すと、パンツ一枚に、靴下と上履きという姿になる。

三人は胸に手をやり、足は自然と内股になる。

(こんなのって……。ひどすぎる……。でも、やらないと認めてもらえない。やれば認めてもらえる……)

「ほら、外だよ。グラウンド10周。行っていらっしゃい」

渋々と階段に向かう三人。


しかし、先頭を歩く保奈が階段を一段降りたところで、依子部長が声をかけた。

「OK。いいよ。そこまで。戻ってきな」

救われたような表情で戻る三人。

「分ったよ。分った。あんたらが本気でやろうとしてることは分かった。じゃあ、ビンタしてやるから、手を後ろで組んで、歯をくいしばんな」

保奈たちは、胸を押さえていた手を解き、後ろで組む。歯を食いしばると、依子部長の強烈なビンタを受けた。その一発は、200発以上受けたどのビンタよりも強烈だった。

それは、頬っぺたの痛みと同時に、心の痛みだったのかもしれない。

「じゃあ、これで本当に最後だな」

「え? まだ、なにか……」

「あんたたち、お互いに叩き合った? まだでしょ。私は、全員って言ったんだよ。

ほら、見といてやるから、お互いにビンタ。弱いのは認めないよ。ちゃんとやるまで何回もやり直しさせるからね」

パンツ一枚の三人は、依子部長の見ている前で、お互いにビンタをしあう。お互いの気持ちが分かる者どうし、最後は涙を流しながら、叩き合っていた。



それから一週間、依子部長の監視の下、三人への徹底した指導が行われた。

70人いれば監視の目もゆるくなるが、たった三人ではそうはいかない。

バチの束でお尻を叩かれる回数も格段と増え、練習が終わる頃には、足やうでがパンパンになるのとともに、お尻もヒリヒリと痛むのだった。

特に保奈は、歩幅を合わせることはほぼできるようになったものの、メトロノームのリズムに乗り切れないことがあり、そのたびに、バチでお尻にリズムを刻まれた。

「保奈! あんた、メトロノームの音聞こえてる? 一人だけタイミング違うよ。三人で合わせられないで、どうやって200人以上が合わせられると思うの?

人とタイミングを合わせるのも大事だけど、人に頼るんじゃなくて、ちゃんと自分でリズムを取る。あんたは、人の見てやってるからリズムが遅れてんだよ。責任持って自分でタイミング取る。いい?」

「はいっ」


「耳で聞こえないんなら、体で教えてやるよ。お尻にリズム刻んでやるから、『片』の字!」

「はいっ」

保奈が空気椅子の体勢になると、依子部長は保奈のブルマに包まれたお尻に、メトロノームのリズムに合わせて、何度も何度もバチの束を叩きつけていった。

しかし、それでもリズムを合わせられない保奈に、依子部長の指導は続く。

「あんたさー。もう、お尻叩かれすぎて、感覚なくなっちゃってんじゃないの? もっと、敏感なところで教えてやるよ。敏感なところ叩けば、感じ取りやすいでしょ」

(敏感なところ……。確かにお尻は痛い。もう、何度も叩かれてマヒしちゃってるかも……。敏感って……)

「保奈、ブリッジ!」

(ブリッジって……。まさか……)


依子部長は、保奈の嫌な予感通りに、保奈の敏感な部分、ブリッジで突き出された股間の部分にバチの束を与えていった。

「どう? これなら分かるでしょ。このタイミングだよ。はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、……」

「あっ、あっ、うっ、うっ、あっ、うっ、……。わ、分りました……」

(痛いし……。恥ずかしいし……。情けないし……。でも、できてなかった自分がいけないんだから……。部長は私のためにやってくれてるんだよね……。頑張らないと……。できるようにならないと、みんなに迷惑かけちゃうし……。頑張ろうっ)

一週間後。依子部長の猛特訓の成果もあり、三人は無事に試験をパスした。

一ヶ月以上に及ぶ依子部長の新入生に対する指導はこれで終わり、多くの1年生部員は依子部長から解放され、パート別練習に入っていったが、保奈だけはそういうわけにはいかなかった。

それは、依子部長の担当が、保奈と同じトロンボーンだったから。保奈は依子部長の呪縛から逃れることができないでいた。

依子部長の厳しい指導は、パート別練習でも行われていたのだった。

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