屈辱の白ブルマ > 石の上で耐える四軍

「遅いっ! うちが呼んだらダッシュで来いよ! ったく」

「はっ、はい! すみません」

私たち二人は審判椅子の下に立つ部長の前に並び、深く頭を下げて謝りました。

(あっ……)

頭を下げた私の目の前に、部長の足。その足元に、あってはならにものが置かれていました。

石。石。石。石。

部長の足元には四つの石が置かれています。本来こういった石は、コート整備のときに取り除いておかなければならないものです。しかし、鉄製ローラーとブラシがけに気を取られるあまり、そこまで気を回す余裕がありませんでした。

明らかに、私たち二人の失態でした。


「なにこれ? あんたらはうちらが怪我してもいいって言うの? 四軍に落とされた恨み? 嫌がらせ?」

「い、いえ。そういうわけじゃ……」

「じゃあ、なんなの? 実力なくて四軍で、コート整備もろくに出来ない。あんたらって何のためにここにいるの? そんな情けない格好して。悔しくないの? 悔しかったら、与えられた仕事ぐらい完璧にこなしなよ」

「……はい」

「返事は大きく!」

「はいっ!」

「デカイ声出して、盛り上げるくらいのことしないでどうすんの? 力がなかったら声ぐらい出そうよ。それくらい出来るでしょ」

「はいっ!」

「そう。その調子でがんばって。でも、とりあえず、この石の落とし前はつけてもらうから」

叱って、褒めて、また落とす。これが部長のやり方です。


「石の上に乗ってスクワット100回。もちろん裸足。分かった? はい、スタート!」

返事をする間もなく、スタートです。分かった? なんて聞いておきながら、こちらの意見を聞く気があるわけありません。私と歩美は、すぐに靴と靴下を脱いで裸足になります。

みんな、テニスシューズを履いているのに、自分たちだけ裸足、これだけで屈辱的な気分です。

私と歩美は四つの石を二つずつ、それぞれの足元に置き、その上に裸足で乗ります。足の裏に食い込むような痛さです。歯を食いしばって、何とか耐えながら、スクワットを始めました。

「一回でーす」
「二回でーす」
「三回でーす」
……


しかし、10回も出来ずに、私は思わずしゃがみ込み、足の裏に手をやります。石でへこんで、足の裏に穴が開いているようになっていました。

「ちょっと! なに止めてんの! 誰が休んでいいって言った!」

部長から注意を受けます。私と歩美はもう一度、石の上に乗ります。

「今のはノーカン。初めからやり直し。それから、一回一回カウントするごとに、みんなに謝ること、分かった?」

「は、はいっ」

やるしかありません。

「一回でーす! すみませんでしたっ」
「二回でーす! すみませんでしたっ」
「三回でーす! すみませんでしたっ」
「四回でーす! すみませんでしたっ」
「五回でーす! すみませんでしたっ」
……


100回のスクワットと100回の謝罪。カウントが増えるごとに足の裏の痛みが増します。足の裏から体の中に石が入ってしまうのではないかと思うほどです。

……
「98回でーす! すみませんでしたっ」
「99回でーす! すみませんでしたっ」
「100回でーす! すみませんでしたっ」

何とか100回を終えた私たちに部長が近づいてきます。

「ギャー」

隣の歩美がものすごい声を発しました。歩美の足元を見ると、部長が歩美の足の甲を踏みつけています。靴の裏で踏まれるだけで痛いのに、今は足の裏に石があるのです。

そして、もちろん部長の足は私の足の甲にも来ました。

「アァー」

私も叫び声を上げます。隣の歩美と手を取り合って、この時が過ぎるのを必死で耐えます。部長は、グリグリグリ、と足をひねり、さらに体重を加えてきます。


「いい? あんたたちはこの石で怪我させようとした。この石がどんなに危険か分かった?」

「は、はいっ。すみません。ごめんなさい。ごめんなさい。アァー ギャー」

怪我させようなんて思ったわけではありません。でも、とにかく素直に返事をして、謝るしかないのです。

「こ、これからは気をつけます。だ、だから、……。ギャー アァー」

「分かったら、とっととここから消えて。練習の邪魔だから」

部長が足を上げてくれました。私と歩美は、靴と靴下、それから四つの石を拾って、その場を離れます。コートに私たち四軍の居場所なんてないのです。


コートを離れ、三軍のみんなが練習している場所まで移動します。ちょうど二人組で、手押し車や馬とびをしているところだったので、急いで加わります。加わると言っても、その輪に入るわけにはいきません。少し離れたところで、三軍のみんなの邪魔にならないところで、歩美と二人で練習します。

しばらくすると、三軍の1年生の一人が、私たちの方に近づいてきます。同学年であっても、四軍の私たちに話しかけると、その人も四軍にされてしまう可能性があるので、私は、やばい来ない方がいいよ、と思いました。

「ゴメン。ライン引いてくれる?」

その子は言いました。どうやら、先輩からの言付けのようです。

うちの部は人数が多いので、本物のコートだけでは全員が練習できません。そこで、場所が開いているときは、グラウンドにラインを引いて手作りのコートを作ります。それを準備するのは下級生の仕事で、今であれば、四軍の私たちの仕事です。


私と歩美は、急いでラインカーを取りに行きます。コートから離れれば離れるほど、白ブルマの惨めさが増します。じろじろと見てくる人がいます。

もたもたするとまた叱られてしまいます。白い粉の入ったラインカーで、急いで白線を引き、急造コートを作ります。

「ちょっと四軍! ライン曲がってんじゃないの!」

私は、先輩の怒鳴り声を聞いて顔を上げます。確かに自分が引いたラインを見直すと、徐々に曲がってしまっていました。

「す、すみません。今、引き直します」

すぐに謝ってから、足でラインを消そうとしました。しかし、ここでも先輩の注意が入ります。


「ちょっと四軍! ラインの消し方忘れたの? 前、教えたでしょ」

ハッとしました。以前、これは三軍だったときですが、ラインを消すときの決まりを教わっていました。

その決まりとは、足で消してはいけない、ということです。では、どこで消せばよいのかというと、お尻で消すのです。自分の穿いているブルマを汚して、反省しながらラインを消す決まりです。

私と歩美は、グラウンドに引いたラインにまたがって、そこにしゃがみます。白い粉にお尻をつけます。そして、手を後ろ側について、後ろ向きにしゃがんだまま進みます。お尻を左右に振りながら、ラインを消して後ろ向きで進んでいきます。

三軍のみんなが、顔を引きつらせながらこちらを見ています。それほど情けなく惨めな格好だったのでしょう。

「ほら、三軍もボーっとしてる場合じゃないよ。四軍がライン引き終わるまで、空気椅子!」

先輩が三軍のみんなにする指示が聞こえました。そちらを見ると、一斉に空気椅子を始めるところでした。

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