同窓会 > 唯一の『お叩き』

先生が私の後ろに来ました。お尻にものさしが当たります。20年ぶりのこの感触。

当時のことが体に染み付いていたのか、私は、お尻のものさしを当てられると、無意識のうちに、お尻をクッと下げて、突き出すようにして構えていました。

そして、一度だけ、下着を脱ぐように言われ、裸のお尻に直接『お叩き』を受けたときのことを思い出しました。あのとき、お尻に直接当てられたものさしの感触は、今でも忘れられません。

あれは、修学旅行の夜。一番楽しい時間を過ごしていたときに起こったことでした。



「女子、お風呂場の前に集合だって!」

修学旅行の二日目の夜、女子の大部屋で自由時間を過ごしていると、学級委員の洋子ちゃんが言いました。

「女子って? 全員?」

「3組だけ。先生が呼んでる。とりあえず急いで行こう」

「なんだろう……。うちらなんかした?」

「わかんない。でも、とりあえず急いだ方がいいよ」

訳も分からず、3組の女子みんなでお風呂場まで急ぎました。お風呂はさっき入ったばかりです。先生が監視していたので、脱衣所もきれいに片付けて出てきたはずです。呼び出される理由が分かりませんでした。


しかし、お風呂場の前まで行くと、その理由が何となく分かりました。それは、お風呂場の前の通路で、うちのクラスの男子が正座をさせられていたからです。それも、全員裸でした。壁の方を向いているので、前の部分は見えませんでしたが、正座して、足の裏の上に乗った裸のお尻のワレメが半分くらい見えていました。

「キャー!」

何人かの女子が叫んで、一瞬、騒がしくなりました。しかし、先生がにらみつけたので、また、静まります。

(なに……。何したの……。男子……)

「学級委員! 女子に説明してあげなさい」

先生にそう言われると、一番端に正座していた龍之介くんが口を開きました。

「あの……。お風呂場で騒いでて……」

「こらっ! ちゃんと立って説明する! 女子の方を見て」

そう言われた龍之介くんは、立ち上がってこちらを向きました。裸の龍之介くんは、顔を真っ赤にして、下を向いて、前の部分を両手で隠しながら言いました。

「あの……。お風呂で騒いでしまっていて、それで、先生から『お叩き』を受けました」

龍之介くんはそう言うと、すぐに後ろを向いて、また正座の姿勢に戻りました。一瞬見えた龍之介くんのお尻は、確かに赤くなっていました。そして、ほかの男子のお尻も、ほんのり赤くなっているようでした。

「そういうこと。これ、何回も言ったよね。学級会のときに。連帯責任だから、女子も『お叩き』。はい、脱衣所に入って!」

先生は言いました。


うちのクラスでは、一部の人が悪いことをした場合でも、連帯責任で『お叩き』を受けることは何度もありました。多分、男子だって全員が騒いでいたわけではなく、一部の人だったのでしょう。でも、連帯責任で全員が『お叩き』を受けて、正座させられているのです。

この連帯責任のせいで、自分は悪くないのにクラス全員で『お叩き』を受けなくてはならないのです。でも、このおかげでクラスの団結力みたいなものが強くなっていった、ということも感じています。少し前にあった、校内の合唱コンクールや運動会のときも、うちのクラスはみんなで協力して、いい結果を残すことができたのです。

今回は、男子のせいで女子が『お叩き』のとばっちりですが、女子のせいで男子が『お叩き』を受けることもあったので、お互いさまです。納得できない部分もありますが、とりあえず、脱衣所に入りました。

「あれ見て分かったと思うけど、男子はお尻に直接『お叩き』したから。あなたたち女子も、同じね。はい、準備してください」

先生は、当然のことのように、サラッと言いました。

(お尻に直接……。うん? パンツも、ってこと……)

「ほら、早く並んで!」

とりあえず、並びます。それほど広くはない脱衣所の壁際に、女子全員が並びます。お互いの肩が当たってしまうくらいの間隔しかありません。並んでから、寝間着のズボンを下ろします。もう寝るつもりだったので、ブルマや紺パンは穿いていません。


(パンツも……。だよね……)

みんな目配せするように、キョロキョロしています。

バシッ!!

脱衣所のロッカーを先生がものさしで打ちます。その乾いた音が、脱衣所に響きます。先生は何も言いません。でもそれは、パンツも下ろせ、という指示に違いありません。

列の真ん中にいた私から離れたところで、動きがありました。見えませんでしたが、多分、学級委員の洋子ちゃんです。それを合図に、みんなパンツを下げ始めました。

さっき、お風呂に入ったときはなんとも思わなかったのに、なぜか今は妙に恥ずかしいです。女子どうしだし、でも、これから『お叩き』を受ける、そのためにパンツを下ろさなくちゃいけないというのは、お風呂に入るために裸になるのとは気持ちが全然違います。

パンツを下ろして、脱衣所の壁に手をつきます。いつものように、腰を少し落としました。

(ふぁあ……。ふぅ……)

お尻の穴が広がったようなヘンな感覚です。私は、意識してお尻の穴をキュッとしめました。

「60cm! 全員揃うまで始めませんよ! ずっと、そうしてることになるよ!」

先生が言います。『60cm』というのはお尻の高さのことです。先生が持っているものさしの長さです。普段はここまで厳しく言いません。以前、冗談で、『お叩き』のときは床からお尻の穴までの高さを60cmにしなさい、と笑いながら言っていたことを思い出しました。

(もしかして、あれ、冗談じゃなかったのかも……)


先生はなかなか動きません。60cmというのが、どれくらいなのか良く分かりませんが、私はいつもよりもお尻の位置を下げて、突き出すようにしていました。

「ほら、全然揃ってない!」

そう言いながら、先生が近づいてきました。列の真ん中にいた私がターゲットにされたのかもしれません。

「ほら、これが60cm! 全員揃える!」

(うゎ……。気持ち悪い……)

先生は、私の足元にものさしを立てると、私の肩を押さえつけて、60cmの高さに合わせました。私は肩を押され、お尻の位置がグッと下がって、お尻の穴に先生のものさしの先が当たりました。

(そんな……。そこまで正確にやらなくても……)

みんな私の方をうかがいながら、隣の人とお尻の高さを合せるように、上下に動きます。そのあと、一番端の学級委員の洋子ちゃんから『お叩き』が始まりました。

裸のお尻に直接当てられたものさしは、冷たくて、いつもよりも恐怖を感じました。そして、お尻をもう一段下げて、突き出すようにすると、先生のものさしが離れます。

その直後、ペチンッという、いつもとは違う痛さ、いつもとは違う音で私のお尻に打ちつけられました。

そのあと、私たちはパンツだけは穿くことを許してもらえて、男子と同じようにお風呂場の前の通路で正座をしました。



同窓会。

久しぶりに先生の『お叩き』を頂きました。それは、私の記憶の中の『お叩き』よりも、ずいぶんと弱々しく、振り返ると先生は目じりを下げ、にっこりと笑いました。

その一発は、時の流れを感じるのに充分な『お叩き』でした。

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