一人ぼっちの陸上部 > 外伝 柔らかい日々 p.04
■ 13 ■
お料理がなくなって、これまた見たこともないようなデザートを食べていると、先生が話し始めました。
「辞やめてもいいんだぞ」
「え?」
「辛いだろう。一人ぼっちだし。鞭で叩かれて。裸にされて。無理する必要はない。辞めてもいいんだぞ」
「…………」
「例えば、そうだな。サッカー部なんてどうだ? あそこは毎日楽しそうにやってるぞ。女子部は出来たばっかりで、部員もまだ少ない。お前の運動能力があれば、すぐにレギュラーになれるんじゃないかな」
「うーん。でも甘えちゃうから。厳しくしてもらわないと……」
「じゃあ、ソフトテニスは? あそこは厳しいぞ。顧問も厳しいが、先輩も厳しい。うちには無いからな、あの手の上下関係は」
「うーん。でも陸上やりたいし……」
「ちょっと遠いが、隣町にある陸上クラブはどうだ? あそこなら実業団の選手も練習に来ているし、専門的な指導を受けられるぞ」
「クラブはお金かかるし……」
「それは心配ない。あそこは特待生ってのがあるから。基準は厳しいが、お前なら大丈夫だろう。知り合いもいるから、俺の方から推薦も出来るぞ」
「うーん……」
(どうしたんだろう……先生。辞めさせたいのかな……陸上部)
先生の真意が分かりません。
(というか、辞めたいのか。考えてみれば、先生は私だけのために休日返上なんだ……)
先生はデザートを食べ終えてお茶を飲んでいます。
(先生にとって私……邪魔者……なのかな……)
■ 14 ■
「食休みしたら夜練始めるぞー」
「え?」
「え、じゃないだろ。昼間練習して風呂入って飯食ってじゃあ、いつもと同じじゃないか。寝る直前まで練習だ」
「はい!」
「寝ずに特訓してもいいんだぞ」
「え」
「じゃあ、寝ながら特訓だ」
「えぇ」
「寝たいんなら、今からの夜練しっかりやれ」
「はい!」
私は立ち上がって、浴衣の帯を締め直します。
夜練のメニューは体幹でした。体幹トレーニングは、走り回るような動きこそありませんが、きつい体勢でのキープなど、じっとりと汗をかくようなものばかりです。
(せっかくお風呂入って、良い気分なのに……)
先生は座椅子に座ったまま、私を監視しています。
「陸上部1年、伊東渚! 夜の体幹トレーニング始めますっ!!」
「ぶわぁははっ。夜の体幹トレーニングって」
(あれ? おかしかったかな……)
先生が笑った意味が分からなかったので、私は気にせず始めることにしました。
まずは、膝をついた四つん這いになります。そして、右腕を前に、左足を後ろに水平に伸ばします。
「ひじ。ひざ。しっかり伸ばす」
「はい」
「楽するなよー。きついっていうのが、効いてるってことだからなー」
「はい」
今度は左腕を前に、右足を後ろに。たいして動いていないのに、じっとりと汗をかき始めました。これが体幹トレーニングなのです。
左右交互にじっくり時間をかけて何セットも繰り返します。
次は、仰向けになって膝を立て、両手を頭の後ろで組みます。腹筋をする時のような体勢です。
普通の腹筋が起き上がるだけなのに対して、今回は体をひねりながら起き上がります。
それも、スピードを上げてはいけません。ゆっくりと体をひねりながら起こします。そして、ひねった体勢で、そのままキープするのです。
私は気が付いて、サッとお股の間に浴衣を挟みました。いまさら恥ずかしがることでもないのですが……。
■ 15 ■
今度は、寝そべってから体を縦にします。体の右側を下に、左側を上に。
右ひじと右足の先で体を支えるように浮かせて、腹筋に力を込めます。自分が棒になったことをイメージして、体の線を真っ直ぐにキープします。
そして、左足を上下にゆっくりと動かします。先生の指示があると、左足を上に開いた状態でキープ。
「パンツ見えてるぞー」
「見ないでください」
「お前が見せてるんだろう」
「先生の指示です」
「馬鹿言うな。先生が生徒にパンツ見せろだなんて言う訳ないだろう」
「同じことです」
「はしたない格好だ」
「先生のせいです」
「腰が落ちてるぞ。体は真っ直ぐ」
「はい」
「左足が低い。もっと高くキープ。楽するな」
「はい。すみません」
「パンツ見えてるぞー」
「ほら。先生の指示じゃないですか!」
「人聞きの悪い」
「見ないでください!」
左右交代です。体の左側を下にして寝そべり、浮かせます。右足を高く上げてキープします。
座椅子に座っていた先生が立ち上がり、いつもの鞭を振りかざして近づいてきました。
「楽するなよー」
先生はそう言いながら、私の体の位置を修正します。腰の位置、足の角度。先生の指定通りに矯正されると、一気に負荷が増したように感じます。
「きついだろう」
「うぅ……はい」
「それが効いてるってことだ。楽な態勢でキープしても何にもならん。形だけやってもダメだ」
「はい」
そう言った先生は、無防備になった私のお尻に、パシッパシッと鞭を入れました。
「うわぁわわ」
不意の鞭に、お尻をキュッとしめます。しかし、先生の鞭はそれだけでは終わりませんでした。
先生は、鞭の先っぽで私の浴衣をペロッとめくり上げます。
(え……)
パンツがむき出しになります。パンツが見えてるとか言っていたさっきまでの先生はなんだったのでしょう……。
鞭の先っぽで、お尻の割れ目をスーとなぞっています。
「キープだぞ」
もう一度お尻をキュッとしめて、耐える体勢に入ります。
(あぁ……)
お尻をしめたときに気が付きました。お尻の割れ目にパンツが食い込んでいるのです。先生の鞭の先っぽは、そのパンツの筋をなぞっているのでしょう。
私は自由な右手で食い込みを直そうとパンツに手を伸ばすと、一歩早く先生の鞭が私の手の甲に飛んできました。そして、パシッパシッとお尻に鞭です。
■ 16 ■
次は、足を伸ばして床に座ります。そして、前屈をするように体を曲げていきます。
ある程度まで曲げたところで、膝の裏を両手でつかんで、体ごと後ろに少しだけ倒します。横から見ると、Vの字になるようにします。
支えているのがお尻だけなので、倒れないように前後左右のバランスをとりながら、腹筋を意識します。
もはや浴衣なんて意味がありません。完全にパンツが見えているのが自分でも分かります。
先生はおもむろに私の正面に座りました。いわゆる特等席というやつです。
「だからパンツ見えてるって」
「だから見ないでください!」
「目に入ってくるんだから、仕方がないじゃないか」
「そんな場所に座らなくたって良いじゃないですか!」
鞭を片手に先生がまた近づいてきます。先生は、鞭の先っぽで浴衣の裾の前の部分を左右に退かします。もうパンツ丸見えです。
この体勢ではお尻を狙えないので、ターゲットを変えたのです。案の定先生は言いました。
「左右開脚」
Vの字体勢のまま、足を左右に広げます。両膝の裏を持った手の力も利用して開こうとしますが、体勢がきついのでなかなか上手くいきません。
「左右開脚」
先生が繰り返します。そして、先生は私の足を持つと、強引に広げました。
思わず後ろに手を付いてしまった私は、すぐに元の体勢に戻りながら先生の方を見ると、すでにターゲットに向かって鞭を振り下ろしていました。
「ぎゃぁぁ」
鞭の痛みに声を上げてしまいます。先生は浴衣がはだけて、むき出しになった私の太ももの内側に鞭を入れたのです。
左右交互に数発の鞭が入ります。昼間のトレーニングでも狙われたその場所は、再び餌食となりました。
「しかっりやれ」
「はい」
「次はココだぞ」
「ひぇぇ……はい。頑張ります」
先生は、大股開きになった私の足の中心、つまり、お股のワレメに鞭の先っぽを突き付けて言いました。
こんなところに鞭を入れられたらひとたまりもありません。自然にお股に力が入って、パンツのその部分がムギュっと動きました。
私は必死になってきつい体勢をキープします。
■ 17 ■
鞭の先っぽをワレメに強く押し付けながら、先生が言いました。
「ずいぶん頑張ってるじゃないか」
「くくぅ……はい」
「えらいぞー」
そう言いながら、グリグリと鞭を動かします。
(くそーぉぉ!)
私にとっては、それが恥ずかしいというよりも、先生のこんな行為に負けたくないという気持ちの方が強いのです。
先生を睨むように見ながら、私はお股を突き出すようにしてやりました。鞭を突き返そうと思ったのです。
むにゅ。
(うわっ。やりすぎた)
鞭の先っぽがワレメの中に入りかけて、思わず先生から目をそらします。その瞬間に、なぜだか急に恥ずかしくなってしまったのです。
「いい根性だ」
「……はい」
「頑張ったお前に、ご褒美をやろう」
「え? ご褒美?」
一旦ワレメから離れた鞭が、再びそこに添えられました。
「ご褒美だ」
「え……遠慮しておきます」
先生の「ご褒美」という言い方がとても怖く思えたのです。
「素直じゃないな」
「いえ……私が頑張るのは……当たり前です……。ご褒美をいただくようなことでは……ありません」
「ほう」
「……当たり前のことをしただけです……。ご褒美はいりません……」
「そうか」
「……はい」
鞭がワレメから離され、先生は座椅子に戻りました。
「せっかく、頑張ったご褒美にスポーツドリンクでも買ってやろうと思ったのに」
「えっ?」
「水分補給は大事だぞ。ご褒美がいらないんなら、便所の水でもすすっておけよ」
「えぇ……」
先生は立ち上がると、部屋から出ていきました。私はその隙に浴衣を整えます。
帰ってきた先生はペットボトルを手にしています。ロビーにあった販売機で買ってきたのでしょう。これ見よがしに半分ほど飲むと、冷蔵庫に入れて布団に入ってしまいました。
「明日は早いからな。夜更かししないで寝ろよ」
私は、冷蔵庫の中から先生のペットボトルを取り出すと、一気に飲み干し、ベッドに潜ります。
「おやすみなさい、先生」
トレーニングで体が熱を持ち、なかなか寝付けないかと思いましたが、布団に入ると瞼が自然に閉じていきました。