一人ぼっちの陸上部 > 外伝 雨のち晴れ p.01

(あっめ あっめ ふっれ ふっれ かーあさーんが~♪)

数学の先生のお説教から解放された私は、歌を口ずさみながら、部室まで小走りで移動中です。やっと長いお説教が終わったという嬉しさのあまり、スキップをしていたかもしれません。

最近、雨の日が多いです。雨の日の部活は、ちょっと特殊です。体育館などでの屋内競技の部はいつも通りなのですが、普段グラウンドで練習する屋外競技の部のほとんどは、校舎内の階段や廊下で筋トレを中心とした練習に変更されます。

東側の階段を野球部などの男子が使い、西側の階段をソフトボール部などの女子が使います。そして、中央階段をテニス部などの男女混成の部が使っています。特に決まりはないのですが、なんとなく納まる場所に納まるのが不思議で面白いです。

部室に移動する途中、既に始まっている練習を眺めていると、みんな結構辛そうです。ズラッと廊下に並んで足上げ腹筋している部や、逆立ちしている部もあります。

長い廊下を手押し車で進んでいる部もありました。ブルマのお尻をプリプリさせながら必死に進んでいる姿はなかなかかわいらしいです。私の場合は、先生に足を持たれるので、あんな風に見えているのかと思うと、ちょっと恥ずかしいです。

階段の上り下りって、実は上りよりも下りの方が辛いんですよね。私の場合は、神社の階段を何往復もさせられたことがあります。もちろん辛くて休むたびに、先生の鞭がお尻に飛んできたことは言うまでもありません。

ほとんどの部が校舎内で練習しているのですが、ほとんど、と言ったのは全ての部ではないからです。

例えばサッカー部です。サッカーの場合は雨の日でも試合をやるので、雨の日の練習というのは、ドロドロのグラウンドや水たまりのあるピッチ、雨を含んだ重いボールやスパイクで練習できる貴重な機会なのだそうです。

渡り廊下を通って部室に向かう途中、グラウンドの方を見ると、やはりサッカー部がびしょ濡れになって練習をしていました。練習といっても、なんだかみんな楽しそうです。雨に打たれながら、奇声を上げてボールを追っています。

私も幼稚園に通っていた頃、雨なのに傘も差さずにレインコートも着ずに、わざと濡れながら外で遊んでいた記憶があります。ああいうのって、なんだか楽しいんですよね。


サッカー部の場合は楽しそうなのですが、そうではない部もあります。それが女子ソフトテニス部です。

女子ソフトテニス部は、上下関係が厳しく、1年生は先輩たちから毎日のようにしごかれます。それは雨の日も例外ではありません。2年生以上は校内で練習するのに対し、1年生は校内に入れてもらえず、雨の降るテニス場で練習させられるのです。

テニス場の方を見ると、やはり1年生たちがいました。傘を差しているのはおそらく、監視係の2年生でしょう。

雨でぬかるんだ地面に寝そべって、足上げ腹筋をしていました。あんなんじゃあ、体操服はビチャビチャだろうし、ブルマも泥だらけでしょう。もしかしたら、下着まで濡れてしまっているかもしれません。

顔も雨に打たれて、髪もグチャグチャです。それでも、傘を差している監視係の人は、容赦なく次の指示を与えているようでした。

たしか、前回雨が降った日は、女子ソフトテニス部の1年生は、校門の前で正座させられていました。雨だからって、サボった部員がいたらしく、連帯責任で全員雨の中、正座だったらしいです。

足は泥だらけだし、体操服は雨に濡れてブラが透けてしまっていて、ちょっとかわいそうでした。

私が練習を終えて帰ろうとしていたときに、ちょうどサボった部員が連れ戻されてきたようで、その人は同じクラスの子だったのですが、先輩の前で雨の降る中、土下座して謝っていました。

その先輩はわざと水たまりの近くに立って、その子を水たまりの中に正座させていたのです。土下座をすると、水たまりの中に顔をつける格好になっていて……。

私もたくさんつらいことをさせられていますけど、さすがの私も、あれはかわいそうだと思いました。

(ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんらんらんっ~♪)

さて、私の所属する陸上部の集合場所は部室です。集合と言っても、私一人しかいないのですが……。

私一人なので、狭い部室でも練習が出来てしまうわけですね。部室は四畳半ほどの広さで、コンクリート打ちっぱなしの、窓もなければ換気扇もなく、鉄製のドアがあるだけで、環境としては最悪です。

最悪の環境だからこそ、厳しい練習にはうってつけと言えるのかもしれません。ちなみに、古い建物で、屋根にひびが入っているのはご愛嬌です。雨の日はその下にバケツを置いて、雨水を溜めるのが日課です。これをしないと、水浸しになってしまいます。

多くの部では、部室を使えるのは3年生なので、1年生の私が部室を使えるというのは、ちょっとした優越感です。それも独り占めですからね。ちょっと寂しいですけれど……。


私は部室に入ると、雨漏り用のバケツを確認します。まだ少しだけ余裕があるのでそのままにし、天井にむき出しになった鉄のパイプにかけた昨日の洗濯物を回収しました。少し湿っていますが我慢。

半袖体操服とブルマに着替えて、練習開始です。

「陸上部1年、伊東渚! 今日もよろしくおねがいしますっ!」

私は、いつも通り大声で挨拶をします。これはグラウンドであろうと、部室であろうと同じです。誰も見ていなくても、大きな声できちんと挨拶します。サボったら大変な目に合いますので……。

「くっし~ん! いち、に、さん、し! に、に、さん、し! ……」
「しんきゃ~く! いち、に、さん、し! に、に、さん、し! ……」
「ふか~く! いち、に、さん、し! に、に、さん、し! ……」

広いグラウンドで一人大声を出すのも恥ずかしいですが、狭い部室で大声を出すのもなんだか虚しいです。自分の声がこだましているのが分かります。もし、隣の部室に誰かがいたらと思うと恥ずかしいですが、雨なのでどうせ誰もいません。

「あきれすけんのば~し! いち、に、さん、し! に、に、さん、し! ……」

ガチャ。

準備体操をしている途中、ドアが開きました。ここに来るのは私以外には一人しかいません。私はすぐに体操を止め、ドアの方を向いて姿勢を正しました。

「こんにちはっ!」

私は大きな声で挨拶をし、頭を下げます。頭を上げると、顧問の先生が目の前に迫ってきました。狭い空間のためか、外で見る先生より威圧感があります。

(え!?)

先生は私の前に立つと、いきなり私のあごをつかみました。そして、ビシッバシッっと私の頬を往復ビンタしました。

頬に痛みが走ります。私は懸命に考えました。先生は、意味もなく私のことをビンタすることなどしません。私になにか至らない点があったのです。必死で考えました。

「もう一発欲しいのか?」

先生が言います。叩かれるのなんて嫌です。でも、私は理由を導き出せません。答えを出せない私は、頬を差し出しました。

「ビンタおねがいしますっ!」

私は首を右側に少し傾けて、左頬を先生の方へ向けます。両手を体の後ろで組んで、構えました。以前、右側の頬を差し出したら、先生が右利きなのに叩きづらい方を出すとはなにごとか、と叱られたことを思い出します。

バシッ。

先生の大きな右手が、私の左頬を打ちました。

「すみませんっ。ありがとうございますっ」

「数学の先生は優しいからな。説教も言葉だけだろう」

先生は知っていたのです。私が数学の宿題を忘れてしまったことも、そのお説教を受けていたことも、そのせいで練習に少し遅れてしまったことも。そして、言葉だけでのお説教では、私には効果がないことも。

宿題を忘れてお説教を受けているにもかかわらず、解放されればすぐに歌を歌うくらいそのことを忘れてしまい、部活が始まって先生にビンタをされても思い出せない。本当に私はダメな子です……。先生のビンタがなければ、また同じ過ちを繰り返していたことでしょう。


先生は、よしっ、と言って、パンッ、と手を叩きました。これは、先生が話題を変えるときの合図です。先生はものすごく怖いけれど、長々と無駄なお説教はしません。

「今日は、これまでの成果を見る。その上で、足りない部分を重点的に鍛える。雨だからこそ出来る練習をしよう」

「はいっ」

私は元気良く返事をしましたが、雨だからこそ出来る練習、という言葉に少しだけ不安を感じました。

「まずは体のチェックだ。足を肩幅に開いて。上半身は楽にしてみろ」

言われた通り足を広げ、腕をダランと垂らし力を抜きます。先生は私の足元にしゃがみ込むと、足の裏、足の甲、アキレス腱、ふくらはぎと下から順に触りながら、筋力の付き具合を確認していきました。

先生の触診は、太ももまで上がってきています。先生は両手で私の太ももを揉みほぐすように触っています。

「よし。ちょっと中腰になってみろ」

私はスクワットをするときのように、中腰になります。先生は太ももを触り続けたまま、筋肉の動きを見ているようでした。

何度かスクワットのように上下すると、先生は言いました。

「なかなか良いじゃないか。きつい練習に耐えてきただけのことはあるぞ」

先生が褒めてくれます。いつも厳しくて怖い先生ですが、たまに、本当にたまにですが、こうして褒めてくれるのです。そのときの先生はいつもの鬼のような表情ではなく、目じりを垂らしてまるで自分のことのように喜んで褒めてくれるのです。

「よし。次は腰まわりだ。ちょっとお尻を触るけど、セクハラだなんて言わないでくれよ」

先生がおどけて言います。こんなことでセクハラだなんて言う訳がありません。必要な体のチェックですし、なによりも、先生にはそれ以上に恥ずかしいことをさせられていますし……。

お尻を叩かれたこともあれば、ブルマを脱いだことも、パンツだって脱いだこともあります。そして、恥ずかしい部分を鞭で打たれたことだってあります。先生は私の全てを知っているのです。

今さら、ブルマの上からお尻を触るくらい、なんてことはありません。しかもこれは、正真正銘、体のチェックなのです。

先生は、私のお尻をギュッと鷲づかみにすると、揉みほぐすように手を開いたり閉じたりしています。

「スクワットしてみろ」

お尻をつかまれながするスクワットは、なんか変な感じがしました。

「なかなか立派なお尻になってきてるぞ。腰まわりは重要だからな。下半身を鍛え、上半身を鍛える。でも、それだけじゃダメだ。上と下をつなぐ、腰こそ重要な部分だぞ。この調子だ」

「はいっ。ありがとうございます」

また褒めてくれます。そのあとも、両腕、手のひら、首、背中というようにあらゆる場所を触ってチェックしていきました。

「よし。最後は腹だな。裾めくって、腹筋見せてみろ」

「は、はいっ」

私はブルマから体操服の裾を引っ張り出し、お腹が見えるようにまくり上げました。

ちなみに、私はブラをまだ着けていませんでした。やっと膨らみかけたばかりといった私の胸は、スポブラの必要もないくらいぺったんこでした。

先生が言うには、陸上するにおいては大きな胸など邪魔なだけだ、ということらしいのですが、このまま膨らんでこないのかと思うと、ちょっと不安です。

たまに、胸を揉んでみたり、背中の方から肉を引き寄せたりと頑張ってみているのですが、今のところ全く効果はありません。

そんな訳で、私は乳房が見えないように注意しながら、体操服の裾をまくり、胸の辺りで手を止めました。

先生は、私のお腹をプニプニと押しながら触ると、言いました。

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