市立第五中学校 > 山下先生と太ももの×印 p.01

夏休みが明け、体育の時間は、体育祭の練習に充てられるようになりました。山下先生は、がぜん気合いが入っているようで、毎時間のように、誰かがケツバットを受けています。

入場行進の練習では、まるで、どこかの国の軍隊の行進のように、うでは肩まで振り上げ、ももは地面と平行になる位置まで上げるように、徹底指導を受けました。誰か一人でもタイミングがずれると、連帯責任でクラス全員がケツバットを受けるのです。

また、体育座りの状態から立ち上がるときに、先生の笛の合図で一斉に起立をするのですが、そのタイミングも厳しく指導を受け、全員がきれいに立ち上がれるようになるまで、何回も何回も繰り返し練習させられました。

特に、立ち上がったあとの気をつけの指導が厳しく、ブルマに付いた砂をはらったり、ブルマの食い込みを直すことや、はみパンのチェックも禁止でした。要するに、立ち上がったらすぐに気をつけをして、気をつけのときはブルマを触ってはいけないのです。

私は、つい、はみパンが気になってしまい、ブルマを触ってしまって、一人だけみんなの前に出されて、ケツバットを受けました。


――体育祭、二週間前。

今日から、午後の授業は、すべて体育祭の学年別の合同練習の時間に充てられることになりました。午後の授業は、五限目と六限目の二時間あるのですが、それがすべて体育祭の練習なのです。

午後やるのには意味があり、それは、延長できる、ということでした。つまり、たいていの場合、二時間では終わらずに、しっかりできるようになるまで、延々と練習を続けさせられるのです。

今日、私たちC組は、この合同練習に遅刻してしまいました。

合同練習は、学年別で、校庭と体育館と屋上に分かれて行われ、日によって場所が変わるのです。

集合場所は体育委員に伝えられるのですが、今日は、体育委員の春奈ちゃんのちょっとしたミスで、校庭に集合するはずが、私たちC組だけ、体育館に集合してしまったのです。

私たちは、あわてて校庭に移動しましたが、時すでに遅く、校庭に行くと、1年生全員がすでに整列し終えていました。

すぐに自分たちのところに並ぼうと思い、みんなの方に近づくと、なんと全員、地面に正座をしていました。それは、明らかに、私たちC組の遅刻が原因で、そのとばっちりでした。

「C組は、前に整列!」

山下先生が怒鳴ります。みんなの列に並ぼうとしていた私たちは、あわてて、前に整列します。


1年生全員が、正座をさせられ、こちらを睨むように見ています。それもそのはずです。私たちC組のせいで、正座させられているのですから。

「体育委員は誰だ? 前に出て来い!」

山下先生が言い、体育委員の春奈ちゃんが、先生のそばまで行きました。春奈ちゃんはもう、今にも泣きそうな顔をしています。

「泣くんじゃないっ! 顔を上げろっ!」

パシッ!

山下先生は、いきなり春奈ちゃんをビンタしました。私たちC組はもちろん、1年生全員が見ている中心で、春奈ちゃんはビンタを受けました。春奈ちゃんは、少しよろけて、倒れそうになりますが、何とかこらえました。

「お前たちも、連帯責任だ!」

そう言うと、山下先生は、前で整列しているC組の端から、順にビンタをしていきました。1年生全員が、正座をして見ている前で、私たちC組は、整列ビンタを受けました。

それから、C組全員で、土下座をして、とばっちりを受けた、ほかの1年生に謝罪しました。

「私たちC組のせいで、貴重な練習時間をつぶして、すみませんでした」


合同練習は、ほとんどの時間を組体操の練習に費やしました。

男子は、校庭の中心で、危険を伴う派手で目立つ大技を練習し、女子はその周りで練習しました。

女子は、男子のように危険な技はありません。地味で目立たない、だけどキツイ体勢をずっとキープしなくてはいけないような練習が中心です。

初めに練習したのが、女子全員が整列した状態から、先生の太鼓の合図で、一斉に右手を真上に挙げる練習でした。ただ、太鼓がなったら右手を上げる、これだけのことです。

それでも、女子全員となると、なかなかタイミングが合わずに、そのたびに山下先生の指導が入りました。

初めのうちは、てんでバラバラだったのが、怒鳴られながら練習することで、徐々に合うようになってきました。

それでも、何人かのタイミングが合わず、全員が完璧に揃うまで何度も繰り返し練習させられました。

普段の体育では、できない人がいると、ケツバットを受けるのことが多いのですが、合同練習では、人数が多いこともあり、滅多にケツバットは行われませんでした。

そのかわり、山下先生以外の、ほかの科目の先生が、黒色の太マジックを持っていて、練習でヘマをした人の太もものところに、そのマジックで、『×』印を書いていくのです。

そして、練習の最後に「×が△個以上の者は~」のような発表があり、太ももの『×』印の数によって、居残り練習やケツバットの罰を受けるのです。

inserted by FC2 system