誠清女子学苑 > 下っ端部員の歓迎会 p.04
■ 清楚な下着 ■
「このパンツは清楚ですか。判定お願いしますっ!」
茎名さんは、泣きそうな声で、しかし、今までで一番の大声で、あわてて言い直しました。
このパンツには、ほぼ全員が手を挙げました。白地でワンポイントのパンツです。これが清楚でなかったら、清楚なパンツは一枚もなくなるでしょう。
「合格です。次のパンツへ」
畠中先輩は、事務的に進行を始めました。茎名さんは、一枚目のパンツを自分の足元に置き、袋に手を入れました。そして、また恥ずかしそうに、腰の辺りにあてがいます。
次のパンツもやはり白のパンツでした。ただ、白の布地がベースでしたが、よく見ると、うっすらと全体にヒマワリのプリントが施されていました。ひっくり返した、お尻の方も、前面と同じです。
意見が割れそうな一枚です。
「判定者は目を瞑ってください」
「このパンツは清楚ですか。判定お願いしますっ!」
一度大声を出したことで吹っ切れたのか、先ほどの部長の言葉が効いたのか、茎名さんの声はかなり大きくなっています。
ぱらぱらと手が挙がり始め、最終的には三人の手が挙がりませんでしたが、合格でした。白地であったことと、ヒマワリのプリントが薄かったことで救われたのだと思いました。
次の一枚を腰に当てます。
真っ白でワンポイントすらない、正真正銘、清楚なパンツでした。ひっくり返してお尻の部分を見せます。
これは……。多分、不合格です……。
ひっくり返した裏側の真ん中部分、ちょうどお尻の割れ目にあたる部分に、大きなかわいい熊の刺繍がついていました。しかも、その熊の周りに、色とりどりの花が咲いていて、かなりカラフルな模様になっています。
「判定者は目を瞑ってください」
「このパンツは清楚ですか。判定お願いしますっ!」
…………。
「不合格」
畠中部長の非情な通告でした。しかし、これではっきりしたことは、「中学生らしいかわいいパンツ」は「中学生らしい清楚な下着」ではないということです。
不合格だとどうなるか、当然の疑問を今まで一度も抱いていなかった自分に私は驚きました。それだけ、この状況にパニックになっていたのかもしれません。
「規則違反者には罰を与えます。顔を上げて、前を向きなさい」
うつむいていた茎名さんに、畠中先輩の指示が飛びます。【1年部屋】でのビンタが頭をよぎります。
「まず確認ですが、あなたは、下着に関する寮規則を知っていましたか?」
「……はい」
「返事は大きく!」
「はい!」
「では、なぜ規則違反の下着を持ち込んだのですか?」
「…………」
「弁解は、ありますか?」
「………………」
「下着に関する寮規則を言ってみなさい」
「……し、した……」
「はやく!」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「もう一度!」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「もう一度!」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「いいと言うまで繰り返しなさい!」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
「下着は、中学生らしい清楚なものとする」
茎名さんは、こらえきれずに、とうとう、泣きながらくり返しています。10回くり返したところで、部長からのお許しがでました。その間、茎名さんの手は、パンツを持って腰の部分にあてがい、かわいい熊の模様を皆に見せたままです。
私は、自分が皆の前に出て、パンツを腰に当てて復唱している姿を想像しました。
……多分、私も泣くと思います。
でも、私にはまだ希望がありました。規則を知っていて、パンツも親と一緒に選びました。この袋の中には、派手な柄のパンツはありません。
隣を見るとすでに泣き出してしまっている人もいます。多分、私のように、茎名さんに自分の姿を重ねてみたのでしょう。茎名さんの熊さんパンツが不合格になった以上、明らかに規則違反のパンツがあることを悟っているのでしょう。
規則違反者は、規則違反のパンツを腰にあてがい、寮規則をお許しが出るまで復唱する。
私は、これが、規則違反者に対する罰だと思っていました。恥ずかしい思いをさせて、反省を促す。恥ずかしい思いをさせて、もう二度と規則違反をしないように誓う。
私の考えが、甘かったことに気づかされたのはこの直後でした。
「それでは罰を与えます」
<えっ、今のは罰じゃなかったの?>
「パンツの規則違反をしたのですから、お尻の部分に罰を与えます。腰を落として、お尻を突き出しなさい!」
茎名さんは、畠中先輩の方を見ながら、首を振って泣きじゃくっています。
「ごめんなさい。ごめんなさい。すみません。許してください……」
「謝っても罰は軽くなりません。おかした規則違反が消えるわけではありません」
茎名さんは、覚悟を決めたのか、ひざに手をついて、チョコンと、お尻を突き出しました。
「それではダメです。みんなの方にお尻を突き出すのです。それからもっと深く! ……奥垣!」
突然2年生の奥垣先輩が呼ばれました。先輩は完全に油断していたようで、あせって部長の横に向かいました。
「見本見せてやれ」
「はい! 2年、奥垣彩、お尻を突き出させていただきます! 失礼します!」
私は唖然としました。そう指示されると、奥垣先輩はためらうことなく、私たちの方にお尻を向け、ブルマで包まれたお尻を突き出しました。
肩幅より少しだけ広く開かれた両足。浅すぎず深すぎず、適度な角度に曲がったひざ。ひざに置かれた両手。背中を落として、お尻を突き出す姿勢。それでいて、下を向かず、まっすぐ前を見つめる視線。
何もかもが、茎名さんのポーズとは違いました。まさに、お尻を叩いてください、と言っているポーズです。
「まねをするんだ。やれ」
畠中先輩は、感情を高ぶらせるわけでもなく、あくまで、冷静に指示をします。茎名さんは見よう見まねでポーズをとります。奥垣さんとは違うものの、先程よりは、お尻を突き出しているようです。
「奥垣、下がっていいぞ」
「はい! ありがとうございました。失礼します!」
奥垣先輩は一度気を付けをしてから、深くお辞儀をして、もといた位置に戻りました。
畠中先輩は、私たちのパンツを入れていた段ボール箱から、古めかしい木の板のようなものを取り出しました。
それを何度か上げ下げし、振り下ろしました。素振りをしているのか、感触を確かめているのか、ビューンとかボゥワァーンというような風を切る音が聞こえます。
初めて見た木の板のようなものでしたが、それでお尻を叩くのだということは明らかでした。畠中先輩は、茎名さんを見下ろしながら言います。
「復唱しろ」
「はい」
「1年、茎名美咲」
「い……1年、茎名美咲」
「規則違反の熊の絵のパンツを持っていました」
「き……規則違反の熊の絵のパンツを持っていました」
「お尻叩きのお仕置き」
「お……お尻叩きのお仕置き」
「お願いします」
「お……お願いします」
「続けて!」
「1年、茎名美咲、規則違反の熊の絵のパンツを持っていました。お尻叩きのお仕置き、お願いします」
「歯を食いしばれ!」
ビューン バシッ! 「うっ!」
部長のが持っている木の板は、正確に茎名さんのお尻をとらえ、息が詰まったような声がして、茎名さんは倒れこみました。
「立って挨拶をしろ。お礼を言うんだ」
茎名さんは、よろめきながらも、どうにか立ち上がります。
「ありがとうございました……」
「なにがだ?」
「お仕置き、ありがとうございました」
「どんなだ?」
「お尻叩きのお仕置き、ありがとうございました」
熊さんパンツでの罰はここで終わりました。しかし、茎名さんのビニール袋には、まだ一枚パンツが残っています。茎名さんはそれを取り出し、腰の辺りにあてがいました。ひっくり返してお尻側も見せます。
それは、まさに、見本のような白いパンツで、ワンポイントもプリントも何もついていませんでした。私は、よかったね、と思うと同時に、なぜこれを先に見せなかったのだろう、と思いました。
普通、一番安全なパンツから選びそうなものです。私もそのつもりでした。緊張で袋の中のパンツを選ぶ余裕などなかったのかもしれません。
茎名さんの最初のお尻叩きが終わったそのときでした。
「ハイ!」
一列目の真ん中、一番パンツに近い位置にいた、3年生の三澤先輩が手を挙げました。
「なに?」
畠中先輩が聞きます。
「パンツにシミが付いていた場合、それは清楚といえるのですか? 少なくても、清潔ではないと思います!」
急に、何を言い出すんだこの先輩は、と思いながら、改めて茎名さんのパンツに目をやろうとすると、茎名さんはパンツを見せるのをやめて、手の中で丸めてしまいました。
「パンツを貸しなさい!」
「い……嫌です」
「先輩に反抗するのですか? 罰を与えますよ。またお仕置きですよ」
そう言われると、茎名さんは、畠中先輩に手の中のパンツを差し出しました。先輩は、顔の前でパンツを広げ、自分にも、そして皆にも見えるようにしました。
更に、先輩はパンツを裏返し、普段、内側でお股やお尻を包み込む部分を表側にしました。確かに、ちょうどお股の部分が、うっすらとですが、シミになっていました。
結局、シミは判定基準には含めない、ということになり、茎名さんの判定会は一旦、終わりました。
畠中先輩は、茎名さんを1年生の列に戻すのではなく、前に立たせたまま、次の人を呼びます。茎名さんは、自分の番が終わりホッとしたのか、お尻をさするしぐさをしました。
しかし、それすら先輩は許しません。
「だれが、お尻をさすっていいと言った? 気を付けのときは手は横だろ! 小学生みたいな注意させるな」
その後、順番に判定会が進み、私の番が来るまでに八回のお尻叩きが行われました。
丸山さんや綿貫さんのように、白パンツだけしか持ってない人はすべて合格になりましたが、岡中さんは、水玉模様やシマシマ模様のパンツを持っていたので、二回のお尻叩きでした。
一番多い人は三回で、安田さんでした。安田さんは、キャラクターものが好きなようで、私としては、中学生らしくかわいくてよいじゃん、と思いましたが、かわいいは清楚でない、ということなので、規則違反と判定されてしまっていました。
今、私の隣には誰もいません。判定会を終えた11人は畠中先輩の少し後ろで、こちらを向いて整列しています。
今までの判定会で、判定基準が分かってきていたので、私は少し安心していました。
<これなら大丈夫、お尻叩きはない。きっと大丈夫。お願い!>
私は祈るような気持ちで判定会に臨みました。
……結果はすべて合格でした。トマトのプリントが入った一枚がギリギリでしたが、何とか合格です。
ただショックだったのが、五枚中三枚にオシッコのシミが付いていたことです。当然それは、寮生活のために新しく買ったパンツではなく、昔から穿いている、お気に入りのパンツでした。お気に入りなので、穿く回数も多くなり、シミが付いていたのだと思います。
私は、ほかの1年生が並んでいる列に加わり次の指示を待ちました。